プロットはありません。
プロットなんざ放り投げろ(白目)
基本的には原作に沿ってほのぼのを目指して動いていきたいと思います。
更新は恐らく不定期になるかと…。
というわけで、原作では何かと苦労されているモモンガさんに異世界を楽しんで貰いたくて執筆致しました。
正直、何もかも初めてで手探り状態ですが、見守って頂けたら幸いです。
─西暦2138年。
今、ひとつの《世界》が終わろうとしていた。
その《世界》とは発表当時、一世を風靡したDMMO-RPG。
《YGGDRASIL─ユグドラシル─》
世界樹の名を冠するこのゲームは、無課金でも圧倒的な自由度を誇っていた。更には金さえ積めればほぼ何でもありのDMMO-RPGだった。
プレイヤーのキャラメイキング、装備は勿論、他の追随を許さない職業や種族の数。その組み合わせは無限大。拠点専用のNPCの作成、デザイン、能力、果てはゲーム『外』からデータを引っ張ってきてゲーム内で参照も可能…。
当時は話題に尽きなかった。MMORPG史において、それほどまでに自由なゲームは今まで存在しなかったから当然だ。
─しかし、盛者必衰。どのようなものにも衰えとはあるもので、12年続いた偉大な《世界》もついに終わりの刻を迎える…。
「また何処かで、か…どうして皆、そんな簡単にナザリックを…アインズ・ウール・ゴウンを捨てられるんだ…」
豪奢な部屋だ。綺羅びやかなシャンデリアが吊るされ、室内を明るく照らす。円形の大きな、黒檀で出来た漆黒のテーブルがその存在感を醸し出す。ぐるりと囲むシックで鮮やかな装飾がなされた41脚の『空席』がそれを着飾る。
唯一埋まっている席には、華美な装飾がなされた漆黒のアカデミックガウンを羽織る巨大な骸骨が佇んでいた。骸骨は叫ぶ。
「ふざけるな!ここは皆で創ったナザリックだろうが!」
ガン、と色とりどりの指輪が嵌められた真っ白な手骨が漆黒のテーブルに叩き付けられる。ピコン、と表示されたのは『0』という数字。
骸骨はワナワナと尚も震えていたが、やがて落ち着きを取り戻したのか背もたれに身を預け、力なくポツリと零す。
「そうじゃないよな…解ってるさ、捨てた訳じゃないって…」
いかにも魔王然とした風格だが、独り言を呟く哀愁の漂うその姿に当時の覇気はない。
「─あと1時間か…」
骸骨は天井を仰ぎ見る。巨大で豪華なシャンデリアが視界に入った。あれ一つ作るのにすら相当なこだわりを持って時間を割いた人がいた。その人はもうだいぶ昔にユグドラシルを引退してしまったが。
そんなことをぼんやりと考えていた空間に、音も無く気まずそうに扉が開かれた。
「…今晩は」
ピコン、と笑顔のマークが表示されつつ入ってきたのは艶やかな長い黒髪を無造作に伸ばし、一つの完成された驚くほど美しい日本人形…ではなく、額に二本の小さな角が生えた美少女だ。
見事な色彩の服を幾重にも重ね着た─確か十二単と言ったか。それを着崩して鎖骨辺りまで見せているそれは、傍目には花魁─大昔に存在した娼婦だったかな─のようにも見える。しかし、見た目には重そうなそれを、重さを感じない足取りでスルスルと進み椅子に座った。じゃなくて…
「サキさん!?」
「はい、サキです。遅くなりました」
顔に似合わず低くて野太い声を出しているのは、夜想サキ。彼女─彼のアバター名だ。以前はロールプレイのために寡黙を通そうとしていたのだが、不便過ぎたために今ではロール以外では普通に話している。確か、顔を合わせるのは大体3ヶ月振りになるか。
「モモンガさん、お疲れ様です。間に合って良かった。昨日やっと完成しました」
そう言ってでっかい盾を取り出した。何故盾を?と思ったが、よく見ると違う。自分のこのでかいアバターでも一抱えもするような一冊のデカくて分厚いハードカバーの本だ。表紙には我等がギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の紋章と英字が刻まれている。
「それが前から言ってた『アルバム』ですか!見せて頂いても?」
「ええ、勿論です。ただ、残り時間が少ないので、あとでメールでデータ送っときますからちょろっとにしといて下さいね」
そういう声色はとても朗らかだ。大仕事をやりきった感がとても出ている。分かります、その気持ち。
「おお…凄い…!」
ページをめくると、中身はアインズ・ウール・ゴウンに関する
─今は辞めてしまった、かつての仲間たちの勇姿からあらゆるデータ、語録と銘打った様々なセリフ、ここナザリック地下大墳墓の各箇所のSS、
「約10年ですか…この一冊に私の持てる全てを籠めましたよ」
ふふん、と画面の向こうでドヤ顔しているのが目に浮かぶ。普段ならイラッとするその仕草も今なら許される。許しちゃう。
「…本当に凄い…他の皆には渡してあるんですか?」
「本当は真っ先にギルド長に見せるべきだったんでしょうけど…驚かせたかったのとユグドラシルが終わる前に、と他のメンバーには分かる範囲で先に送っちゃいました。ごめんなさい」
そう言うとサキさんはペコリとお辞儀した。欲を言えば一緒に添削したかったが、『私の魂を込める、申し訳ないですがこればっかりは一人でやり遂げたいんです』と断られてしまった。
その時はしょうがないと言う気持ちとやるせなさがない混ぜになっていた。でも、それも最早どうでも良い。そう思えるほど素晴らしい一冊だった。
「そんな、全然構いませんよ!顔を上げてください」
これで少しでも他の皆が、我が…─我らがギルド、アインズ・ウール・ゴウンを思い出してくれるならこれほど嬉しいことはない。そう思う横で少しだけ、寂しくもあったが。
「…そう言えば、昨日ってことは今日はどうされてたんですか?朝からいたようですが、最期には間に合わせるから内緒って言ってましたが…」
先程、驚いたのはどこにいるか分からなかったからだ。ログインしていたのはチェック済みだったが…今思うと恥ずかしい事をしていた時は、どこにいるかメンバー表は見ていなかった。
─さっきの聞かれてないよな?
「いや、実はですね。もう一つ報告がございまして…」
画面の向こうでニヤニヤしているのが分かる。どうしよう、落ち着くとやっぱりイラッとする。
「ほう、報告。聞かせて下さい」
思わずイラつきが声に出てしまった。だが、サキさんは余程嬉しいのか全く意に介していない様子で、ひと振りの刀を取り出した。あれは…
「夢だった
中二病満載の刀、炎楼・零式。元々ランクが
かつて『いつかこの刀に
ギルメンに突っ込まれていたが『《世界》の可能性はそんなに小さくないっ!』とクソ運営の迷言を叫んでギルメンにボコられていた。全部避けていたが。
─下手に煽るからウルベルトさんブチ切れてたなぁ…。あのあと落ち着かせるの大変だったんですからね。
それは置いといて、ついに完成したというのか。というか中身おっさんが無表情でぴょんぴょん跳ねないでほしい。地味に怖い。
「ほ、本当に世界級アイテムを素材にしたんですか?」
「ええ。哀しいことですが、ユグドラシル終わっちゃうんで…怒らないで聞いて下さいね?」
何だろう、確かにそれは哀しいがそう言われると凄い嫌な予感がする。
「…内容によります」
「『アルバム』ネタにして
「ファッ!?」
なにやってんだこの
「イヤイヤイヤ…ちょっと待って下さい。え、この『アルバム』ばら撒いたんですか?この
何だか過去の栄光を汚されたようで、凄い嫌だった。それにあまり考えたくないが視点を変えればこの『アルバム』は攻略本になりかねない。目の前の
「モモンガさん、本音が漏れてます…んんっ、少し考えてみて下さい。この9階層以降はメンバー以外見たことないですよね?勿体無いじゃないですか。他の奴らにうちらはこれだけ凄いんだぞって画像付きで自慢できるんですよ。そう考えたら、コピーだしこれネタに夢叶えちゃおってつい…やっぱり駄目でしたか?」
「…因みに反応はどうでした?」
恐る恐る聞いてみるとある意味では予想通り、あるいはそれ以上の言葉が返ってきた。
「上々も上々。秘密にしろって言ったのにどっかから漏れて、凄い人だかりが出来ちゃって…捌けるのにえらい時間掛かっちゃって、気づいたらこんな時間になってました」
「…!」
ヤバい。ちょっと、いやかなり嬉しい。他人が作った『アルバム』なのに、思ってた以上の好評価にまるで自分のことのように嬉しかった。
「すみませんでした。夢も叶うからって、好評価にも浮かれちゃって考えなしに…よく考えたら、細かいギミックは載せてないので攻略本にはならないはずですが、下手するとこれ片手に攻めてくるやつが─」
あ、感動して黙ってたら怒ってると勘違いしてる。面白いからこのまま続けようかと思ったが、ふと時間を見るとあと30分もない。このまま終わってしまってはお互い最悪だ。
コホン、と咳払いを一つ。
「んん…怒ってませんよ。むしろ好評価で誇らしく思います。良かったですね」
「最期なのに、勝手に色々やらかしちゃったのに怒らないんですか?」
「最期だから、ですよ。幸い今日は攻めに来た奴はいません。ほら、あと30分切ってます。早くしないとこのまま終わっちゃいますよ」
そう言って立ち上がり、自然と後ろの壁際に鎮座している豪奢な杖─ナザリックの心臓であるギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』に手を掛けてしまい、思わず手を放した。
これも皆で作り上げた大事なアイテムだ。わざわざ有給を取ってきたり、夫婦喧嘩をしてまで素材集めに奔走したメンバーが居たくらいだ。
そして、その苦労に見合う性能を秘めており神器級にして世界級アイテムに匹敵すると言っても過言ではない。そんな皆の想いがつまったアイテムを勝手に持っていくのは戸惑われた。
「…どうしました?」
「いえ、勝手に持っていくのもどうかな、と思いまして…」
それを聞いたサキさんはフルフルと首を振って否定した。
「確かに多数決を尊重するギルドですが、そもそもそれはギルド長専用の武器です。長い間、ここを護ってきたモモンガさんなら持つ資格は当然あります。誰も文句なんて言いませんし…─言えませんよ」
哀愁を帯びた声色だった。サキさんはここ2年ほど、たまにしか来られなくなったメンバーだったのを思い出す。
よく『出張先にデバイスがない。ユグドラシルに行きたい。発狂しそう』とメールを貰っていたのも今や懐かしい思い出だ。自分もそんな環境だったら発狂していたかもしれないと思うと、自然と笑みが浮かんだ。
「そんな、哀しそうな声を出さないで下さい。最期なんですから、楽しく終わらせましょう」
「─…それもそうですね。私はロールしちゃうと黙るしかなくなるんで最期のロールは玉座の間でやりたいんですけど、良いですか?」
サキさんの問い掛けにしっかりと頷いて返答する。やっぱり、最期の締めはあそこしかないよな。
名の知れた芸術品と言っても過言ではないほどの見事な天使と悪魔の像に出迎えられた。その造詣は今にも動き出しそうなほどリアリティに溢れている。
─…ほんとに動き出さないよな?ここでトラップ発動したらマジで怒りますよ、るし★ふぁーさん。
イタズラばかりしていたギルドきっての問題児が造ったことを思い出し、少し構えてしまう…隣に
「─大丈夫ですよ。ここら辺に無差別に発動するトラップはありませんから」
同じ思いに至ったのだろう。しかし『アルバム』のためにあらゆる部分を網羅した彼女─彼のことだ。そこは信頼していいだろう。
その言に頷いて返答し、細やかな彫り物がなされ荘厳な雰囲気を持つ重厚な扉に近付くと、音も無くゆっくりと開かれる。
後ろに拠点NPCの執事のセバスを始め、通路で出会ったNPCを連れ出していたら結構な大所帯になってしまっていた。
ゾロゾロと連れ動く様子は雰囲気を壊してしまいそうで戸惑われたがしかし、最期くらい出番を持たせようと連れて来たのだ。ここでお預けを喰らうのはNPCとはいえ可哀想だと思い、そのまま中に入れてやる。
中に入れば壮大な光景が視界一杯に映りこむ。久し振りにここに来たが、恐らくメンバーのほぼ全員がこだわりにこだわった場所の一つだ。玉座の間とは名付けているが、もはや一つの空間と言えるほどに広く大きい。柱一つ一つに各ギルメンの紋章が描かれた旗が掲げられ、メインと言える玉座は世界級アイテムだ。
「─おぉ…」
「…やっぱりあの角度じゃなくてこっちのが良かったかなぁ…いやしかし…─」
感動も虚しく、ブツブツと隣の無表情のアバターが顔に似合わない低い声で呟いているのが聞こえてきた。怖い。
「サキさん…気持ちは分かりますが、凄い怖いので申し訳ないのですが独り言は控えて頂けると…」
「あ、失礼しました。いやー、久し振りに来ましたがやはり素晴らしいですね。どの角度が一番映えるか悩みに悩んだのも良い思い出です。まぁ、改めるとまだ悩んでしまいますが…」
同じメンバーとはいえ、やはり褒められると自分のことのように嬉しく感じてしまう。それ程に、自分はこのギルドに誇りと思い出を持っているのだと再認識すると共に彼女─彼の冷めぬ熱意に笑みが漏れた。
「ふふ、それじゃロールの準備をしますか…─あれ、玉座の横にいるのは…」
早速ロールに入ろうかと思って玉座に視線を向こうとしたが、横に立っていたキャラに目が止まった。
あれは確かタブラさんの…
「おや、凄い偶然ですね。彼女はナザリック内をぐるぐる周回しているはずですが、まさかこのタイミングでここにいるとは」
「確か、タブラさんが創った階層守護者統括のアルベド…」
先程『アルバム』をめくった時に偶々目に入ったのが彼女だ。自分の好みにとても近かったので印象深かった。
「流石ですね。そうです、NPCのトップに設定したアルベドですよ」
「ん?あの手に持ってるものって…」
ふと彼女が心なしか大事そうに両手で持っているものが目に留まった。まさか…
「「世界級アイテム?」」
二人して首を傾げる。サキさんも何も知らされていないようだ。一体誰が…?
「…タブラさんが持たせたんですかね?モモンガさんは何かご存知ですか?」
「いや、私も何も聞いてません…あれは『
このギルドはサキさんが言ったように多数決で物事を決めてきた。特に世界級アイテムなんてトップレアに関することなら、まずメンバーに相談するはずだ。しかし、これは…
「…もしかするとタブラさん、アルベドのビルドが専守防衛だから広域範囲攻撃とか持たせたかったんですかね?」
「…」
もしそれが本当なら、いくらタブラさんとはいえ世界級アイテムを勝手に持ち出すなんてそれこそ勝手に過ぎる。苛ついてしまうが、しかし…
「─…もうすぐ、この《世界》も終わりますからね」
サキさんの悲痛ともいえる静かな呟きに、苛立ちが消沈した。考えてみれば自分も、サキさんのお墨付きとはいえ心臓と言えるギルド武器を勝手に持ち出そうとしたのは事実だ。おあいこだと思って『ギンヌンガガプ』はそのままにした。
「…あ、モモンガさん」
「はい、何でしょう?」
「玉座に座る前に待機コマンド入れないと…─大変なことになってますよ?」
振り向くと、確かに凄い光景だった。セバスが片足だけ階段に上がってるとこまで付いて来ていた。その後ろにはメイドたちがズラリ。考え事しててすっかり忘れていた。
「うへぇ…えぇっと、これは位置調整してから待機させるしかないか…─この辺かな、【待機】」
一旦、階段を降りて入口付近まで戻り、良い塩梅のとこで待機コマンドを入れる。すると、セバス以下執事とメイド達が跪く。くっくっ、とサキさんの苦笑する音が響いた。
「ちょ、しょうがないじゃないですか。コマンド入れるなんて何年もしてなかったんですから」
「これは失礼しました。なんか、のほほんとしていたもので、つい」
未だ苦笑が終わらないサキさんを尻目に玉座に座る。ふと、隣に佇む彼女のことが気になった。
「ああ、彼女のことが気になりますか?」
「え、あ。いや、そういうわけでは…」
「ふふ、誤魔化さなくていいですよ。まだ時間に余裕はあります。ギルド武器があれば設定が出来ますから覗いてみては?」
確かにまだ10分ほど時間があった。折角だ、気になるのは確かだし、ここは誘いに乗って見てみよう。
「「…うわ」」
ギルド武器を使ってアルベドの設定を見てみるとズラっと細かい文字が滝のように流れ出てきた。いつの間にかサキさんが隣から覗き見ていた。
「─生で見ると迫力が違うなぁ」
「ああ、そっか。例の『アルバム』にも設定とか書いてたんでしたっけ。あれ、でもこっちで見てないんですか?」
そう言えば、アルベド紹介の右側の『ページ』に黒い何かがびっしりあった気がする。それはつまり、あのでっかい本の1ページ分まるまるアルベドの設定に使われるほどの量ということか。しかも、すごい小さい字で。
アルベドの姿に見惚れ…違う、気になってたからあまり目に入らなかったが。
「実はそうなんですよ。NPCの設定とかはデータだけ吸い出してリアルのPCでしか見てなかったんです…タブラさん、設定魔でしたからね。アルベドは三姉妹って設定なんですが、他の二人も同じくらいの量でして…彼女達だけで何日か潰れました」
「…お疲れ様でした」
意外と几帳面な彼女─彼のことだ。あの文字の羅列を何度も見直したのだろう。その熱意には頭が下がる。ギルドに対する熱意なら自分も負けていないが、NPCの設定だけを何日も見るかと言われると…難しいかもしれない。思わず労いの言葉をかけてしまった。
「いや、思わぬ発見とかもあって意外と楽しかったですよ。─ああ、そうだ。最後の一文、読んでみて下さい」
「はい?…─えぇ…」
勢い良くスクロールさせて飛ばし読みする。すると
【 ちなみにビッチである 】
とだけ、ピッタリ10文字で締められていた。いくら何でもこれは…
「…ああ。タブラさん、ギャップ萌えでしたっけ」
「そうですね。こんだけ長々と書いといて最後はシンプルに締めるっていうのも、もしかすると狙ってやったのかもしれません…流石に意図までは聞けませんでしたが。単に限界まで詰めた結果かもしれませんけどね」
「…」
勝手に書き換えるのはどうかと思うが、流石にビッチはない。少し逡巡して、ある考えに行き着いた。
ピッ
【 モモンガを愛している 】
─…タブラさん。文句があるなら今来て下さい。いつでも受け付けますよ。
「おぉう…モモンガさん、意外と大胆ですね…」
しまった。真剣に考えてたら
「あ、いや、こりは…!」
しかも噛んだ。
「ああ!もう!」
腕を振って表示を消す。時間も無くなってきた。こうなったら勢いで誤魔化すしかない!
「あはははは!も、モモンガさん最期にそれは卑怯ですよ!ロール出来ないじゃないですか!」
「え、ええい!騒々しい!」
いつまでも笑っている『部下』を魔王ボイスで咎める。それを聞いたサキさんは時間が残されてないことに気付いたのか、少しだけ息を整えて静かに階段を降りた。
「…」
一度だけ深々とお辞儀をして、隣にいるセバスに倣って跪いた。もうお互い、完璧になりきっている。あと3分か…。
「…鬼の姫よ、よくぞ舞い戻ってくれた」
「…─」
サキさんが少しだけ頭を下げて返事をする。今の『彼女』は寡黙な鬼の姫だ。因みに寡黙ではあるが喋れないわけではなく綺麗でよく通る声で喋れる、という設定らしい。
「うむ。だが、残念ながらもう間もなく《世界》が閉じてしまう。恐らくは、このナザリック地下大墳墓も消滅してしまうだろう」
「…─!」
言い終えるとサキさんが差し出すように垂らしていた頭をガバリと上げてこちらを見つめる。本当、
「だが、栄光あるアインズ・ウール・ゴウンは永遠に不滅である。何故か?」
「…─」
問い掛ければ『彼女』がコクリ、とゆっくりした動作での頷きを以て返す。ああ、もうすぐ
チラリと残り時間を見れば本当に僅かしか残されていない。立ち上がり、身振り手振りを以て渾身のロールを続ける。
「そうだ。我等の中にアインズ・ウール・ゴウンは在る!我等は不滅であり、よってアインズ・ウール・ゴウンも等しく不滅であることに相違ない!─さぁ、皆の者!我が
決して急がずゆったりとした動作で、しかし間に合うように可能な限り素早く、それでいてあくまで優雅に『彼女』が立ち上がる。ここに来て『彼女』はおよそ完璧なロールを成し遂げた。
そして、大声で叫ぶ心構えをお互いに作る。近所迷惑なんぞ知るか。
「「アインズ・ウール・ゴウン!万歳!」」
『アインズ・ウール・ゴウン!!万歳!!アインズ・ウール・ゴウン!!!万歳!!!』
「「─…えっ?」」
─つづく。
ぶっちゃけタグはどうすれば良いか、よく分かっておりません。差し当たって必須のみ設定しております。
ご感想などお待ちしております。
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シャイタル様
誤字報告ありがとうございます。修正しました。