今回シャルロットがスパイな理由とかそんなこんな
シャルロットが可哀想かつ黒い
綺麗なシャルロットさんが出てくるのはもう少し後かな
シャルロットの叫んだ1文、元ネタがわかる人は俺と趣味を同じくされる方だ
side 一夏
実習授業の際に鈴とセシリアさんが強さを見せつけるという一幕があったが、それ以外は概ね何もなく進んだ。
ラウラと名乗った少女が絡んで来るかとも思ったがそんなことも無く、シャルロットも時折俺のISの待機形態に目をやってはいたが、それ以外は何事も無かった。
そして今、俺は部屋の中に極夜の待機形態を残し、風華と楯無さんとでシャルロットが部屋に帰って来るのを待っている。
「しかしまあ、それ程までに困っているのかデュノア社は」
「ラファールは優秀な機体だけど、それでも第二世代だって事ね。今はこぞって第三世代に乗り換えようとしている時期だもの、その中に居続けるには無理があるわ・・・。
来たわよ」
楯無さんの言葉で自室のドアに視線を戻すと、丁度シャルロットが部屋に戻ってきた所だった。
「後はトラップに引っかかるのを待つだけ・・・か」
「そうですね。うまく引っかかってくれるといいんですけど」
「むしろ、引っかかってくれなきゃ困るのだけどね」
そしてシャルロットが部屋に入ってから二分。俺の端末に
「かかった」
その一言で楯無さんと風華が動き、俺の部屋のドアを開ける。やはりと言うかそこにはシャルロットが俺の専用機の待機形態を自身の持つ端末に繋いでいた。その状態のまま、彼女はぎこちなく此方へと向き直る。
「一・・・夏・・・?」
「動くなよシャルル・デュノア。
いや、シャルロット・デュノアと呼んだほうがいいか?」
「な・・・んで・・・」
「何故わかったかって質問に関してなら黙秘させて貰う。生憎と敵にベラベラ機密情報喋ってやるほどお人好しじゃ無いんだ」
油断なくシャルロットを睨みつけながら、俺達は臨戦態勢を取る。
直後。
「動くなっ!」
一瞬、シャルロットが消えたのかと思った。声がした時には俺達の後方、風華の居た位置に出現したかと思うと風華の両腕を拘束し、頭部に拳銃を突きつけていた。
「チッ・・・!」
「悪いけど動かないで。僕だって無闇矢鱈に死体を転がしたい訳じゃ無いんだ」
冷たい、無機質な瞳でシャルロットは喋る。
「・・・目的は?」
探るような声で楯無さんが問う。
「男性操縦者である夜空一夏のDNAサンプル及び搭乗機。人質解放の条件はそれの入手と僕が学園を出るまで見逃す事」
受け入れてくれるよね?と問う彼女は、今日一日の貴公子然とした面影はなく。冷酷な戦う者の顔となっていた。
「・・・一体何がお前をそこまで駆り立てる?」
「・・・一夏、僕は愛人の子なんだ」
確かにシャルロット・デュノアは愛人の子であるとデータにあった。しかし・・・。
「それとこの件となんの関わりが」
「僕は愛人の子ではあっても、愛された子じゃない」
俺の言葉を遮って、血を吐くように吐き出された言葉は続く。
「母さんは僕を産まなければもっと長く生きられた・・・。元々体が丈夫なほうじゃなかったから、出産と言う過剰な負荷で寿命を縮めてしまった・・・。縮めるとわかっていたのに、僕を産んで愛してくれた。
そして僕が十歳になった時、母さんは死んだよ。僕を残して、逝ってしまった」
泣きそうな声で吐き出される言葉は、刃となる。
「その時に引き取られたのが今のデュノア社さ。お葬式を済ませた後、引き取られた」
そしてその子は愛されて終わるなんて、ハッピーエンドは存在しない。
「初めてかけられた言葉は今でもよく覚えてるよ!『貴様がアイリスの命を奪ったのか』って!憎悪の篭った目と!憎しみに染まった声で叩きつけられたさ!
それだけならまだいいさ!僕だってそう思ってる!僕は母さんの命を奪って生まれてきた!」
その口から吐き出されるのは、背負い込んだ十字架で
「本妻からは『泥棒猫の娘が!』と怒鳴られたさ!母さんを侮辱されたのは許せなかったけど、本妻の人から見たら夫がどこの誰とも分からない女と浮気していたっていうんだから気に食わないんだろうさ!
それだって構いやしない!事実向こうから見ればその通りなんだから!」
息をつく暇もないような勢いで叫び、息を切らして黙り込む。顔を上げたシャルロットの目に映るのは、ドス黒く濁った光。
「食べるものには薬を盛られた、飲むものは汚された、着るものは与えられなかった、住む場所はゴミ溜めだった、安寧なんて存在しなかった、睡眠なんて取れなかった、何度も原因不明の事故に遭いかけた。
義母から貰ったのは暴力だった、義父から貰ったのは性暴力だった、周囲から貰ったのは軽蔑と嘲笑と暴力と性奴隷の烙印だった」
少女は謳う。ただ淡々と、自身のこれまでを言葉にし、口から吐き出す。
「それでも僕は耐えた。僕は母さんの命を奪って生まれたんだ。ならどれだけ辛い目に会おうと、どんな事をされようと、僕は母さんの分まで生きて、生きなきゃいけない」
瞳をドス黒く光らせ、孤独な少女は、吼える。
「例えその結果母さんに顔を向けられないなんて事になろうが!他人から軽蔑され、罵られる事になろうが!友人を利用し、使い潰す事になろうが!他人の幸せを踏み躙り、不幸のドン底に叩き落とす事になろうが構うものか!
生きるためならどんな事だってやってやるさ!
ああそうさ!僕は生きる!他人の生き血を啜ってでもね!」
牙を向き、俺を食い殺そうとする
「その為に僕は牙を磨いた。今回の件は僕にとってはラッキーだった。君のISとデータを取ってくるだけで僕は義理の両親とおさらば出来る。やっと僕は僕の為に生きることが出来る。本当なら両親殺そうと思ってたから、人を殺さずにすむのはよかったって思ってる」
油断なく俺達から目を離す事無く、シャルロットは入口のドア前へと立つ。侵入時に鍵をかけてしまったのが裏目に出てしまったのが悔しい所だが。どうするか思考を始めた所で、笑みを浮かべた楯無さんが俺の前に出てくる。
「シャルロットちゃん。一つ、賭けをしない?」
「・・・賭け・・・ですか?」
「そう、賭けよ」
突然の提案に少し困惑の声色を見せながらも、シャルロットが油断なく此方を睨みつけながら問う。
「内容は?」
「そうねぇ・・・、貴方が生きれる場所を用意できたら私の勝ち。大人しく投降してくれる。逆に用意出来なかったら私の負け、一夏君と一夏君の専用機、貴方の好きにしていいわよ♪」
どう考えてもコチラ側にメリットのない賭け、それを理解したのだろう彼女は、怪訝な表情になる。
「その賭けをする事によってそちらに生じるメリット・・・こちらのデメリットは?」
「そうねぇ・・・コッチのメリットはぶっちゃけ無いわ。そちらのデメリットは・・・国籍が日本になる事と、残念ながら生きる場所が自由に選べない事ね」
用意してあげる場所は決まってるものねーと微笑む楯無さん。それでもシャルロットは此方を睨みつける事をやめようとしない。
「信用されてないのかしら〜?お姉さん悲しいわ〜」
そう言ってしくしくと鳴き真似までする。その姿をうっとおしそうに睨みつけるシャルロット。
「・・・貴方にそれが出来る、と言う保証は?」
「あら、こう見えてもおねーさん顔は広いのよ?それにどーせ、
その言葉と共に、風華の専用機の待機形態から、兎のマークのウィンドウが飛び出す。
『あはははは〜、たっちゃん気づいてたの〜?』
「そりゃ勿論。貴方の大切な二人だもの、ピンチになんのアクションも無い筈は無いと思っていたわ」
『そっかそっか〜。んでまあそれはいいや、シャルロットちゃんだっけ?ハロハロ〜天才兎の篠ノ之束さんなのだ!』
画面越しで、サウンドオンリーにも関わらず、ドヤ顔でふんす!っとなっているであろう束さんが想像出来てしまい。微妙な顔になってしまう。しかしそれはどうやらここにいる人間共通の思いのようで、シャルロット等はあからさまに引いていた。
『シャルロットちゃんの事だけど、束さんがなんとかしてあげるよ。束さんは君みたいに諦めない人間が大好きだからね〜。
でもね、シャルロットちゃん。覚えておいて?君のその覚悟は立派だ。諦めない心とか、死んだ人の分まで生きようって言うのは凄いよ。でもその為に
私はね、昔それをしちゃった。早い段階で勝手に諦めて、勝手に見切りをつけてやってしまった。
後になって凄く、凄く後悔した。けどもう私は既に沢山の命をこの手で奪った後だった。
私は自分の発明を認めてもらう為だけに大勢の人を殺したんだ』
その口調、声色はふざけていた時とは違って真剣で、後悔と懺悔に満ちていた。
『私はもう引き返せない。沢山の命を奪ってしまったから。私に出来る事は、私の発明品を正しい方向で完成させて、キチンとした形にする事。その上で、これからの人々が生きて行く為に自身の才能を使う事。傲慢で偽善かもしれないけど、私はそうやって償って生きなきゃいけない。それが私の罪。
だけどシャルロットちゃん。君はまだ誰も殺してない。誰も死なせてない。誰の幸福も奪って無い。まだ引き返せる。進みかけた道を選び直して進むことが出来るんだって事、覚えて置いて。
私みたいになってからじゃ・・・、遅すぎるから』
「ならどうしろって言うんですか!諦めて僕に死ねとでも!?巫山戯るなッ!まだ僕は母さんの分まで生きていない!僕が死んで母さんに会った時に語れるものを何一つ得ていないッ!」
『一人で考えるから、間違えちゃう。でもねシャルロットちゃん。君は一人じゃないでしょ?』
「巫山戯た事を言うなッ!もう誰も・・・ッ!もう誰も僕の事を見てくれる人なんて・・・ッ!」
『少なくともそこに、一人居るよ?』
その言葉に、涙でボロボロになった顔で、シャルロットがこちらを向く。その視線を真正面から楯無さんが受け止める。
『シャルロットちゃんの情報見た時から、こっちで受け入れる準備初めて、ずっと頑張ってたんだよ?写真見て、こんな今にも泣きそうな顔した子、放っておけるわけないでしょって』
シャルロットが俯き、嗚咽が聞こえ始める。それでも下ろそうとしない拳銃を、楯無さんが両手で包み込み、下ろす。
そして、シャルロットを抱きしめる。
「よく・・・、頑張ったわよね。もう、一人じゃないわよ」
その言葉と共に、絨毯に重いものが落ちる音と、少女の嗚咽が響く。
「でもっ・・・、ぼくっ・・・、もう・・・、ボロボロで・・・汚れてて・・・っ」
「誰もそんな事思ってないわよ。知らない子は知らないままにしておけばいいんだし。それにここにいる全員貴方が汚れてるなんて思ってないわよ。その証拠に今私はこうやって貴方を抱きしめてる」
楯無さんの言葉に俺たち二人は力強く頷いて、楯無さんの右側から俺が、左側から拘束を解いた風華が抱きしめる。
「大丈夫だよシャルロット。俺も、お前が汚れてるなんて思ってない。お前は誰かのために生きれる。優しい人間だ」
「そうですよシャルロットさん。大丈夫です」
「あ・・・りが・・・とっ・・・、ごめん・・・なさっ・・・い・・・」
「大丈夫よシャルロットちゃん。ここにはあなたの味方しか居ないの。だから・・・」
そう言って楯無さんはシャルロットを強く、抱きしめる。
「泣いて、いいのよ」
そう言って泣くシャルロットを抱きしめ、背中を撫でる楯無さん。その優しさに甘えるように、数年間の寂しさとか、辛さとか、悲しさを全て吐き出すように、シャルロットは泣き続けた。
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