違うんや・・・つまらなくするつもりは無かったんやけど俺の文才がな・・・でもやらないといけない話なんや・・・
side 風華
一瞬何が起こったのかわからなかった。
一夏さんが落ちていくのだけが見えた。
嫌だ
嫌だイヤだいやだ
そう言って泣き叫びたいのを堪える。放送室をジャックし、この事態を招いた篠ノ之に怒りを叫びたいのを堪える。今すぐにでも一夏さんの元へ駆けつけたいのを、堪える。
「鈴ちゃんは夜空君を救助!セシリアちゃんは放送室に言って箒ちゃんの確保!急いで!」
楯無さんの指示が飛ぶ。その指示に従い二人が飛んでいく。私の仕事はゴーレムを抑える事。
「ごめんなさい。本当なら夜空君の所に行きたいでしょうけど」
「今の状況での自分の役割。それがわからないほど子供では無いつもりです」
怒ってない訳では無いし、一夏さんが心配じゃない訳じゃ無い。それでも自分の感情を優先して喚くほど私は子供でも無い。
「援護します。さっさと片付けましょう」
両手にアサルトライフルを構え、放つ。流石に避けられるが、
「誘導ありがと♪」
ゴーレムの回避先を楯無さんの方に誘導。まんまと射程距離に入ったゴーレムを楯無さんが槍で穿ち、更に槍に内蔵されたガトリングで攻撃する。
「
その言葉と同時に鳴り響くフィンガークラップ。そしてゴーレムの背中側で爆発が起こり、こちら側に飛ばされる。
「落ちろッ!」
両手にアサルトショットガンを構え、乱射。勢いの緩んだゴーレムに前転の要領で勢いをつけた踵落としを食らわせ、地面に叩きつける。
「フルバーストッ!」
両手のアサルトショットガンを全弾叩き込み、
「これでどう!?」
「わかりません!」
安堵の息をつく暇も無く、炎の中からゴーレムが飛び出して来て、両腕のブレードを楯無さんに叩きつけようとする。
「悪いけど」
しかし、そのブレードは楯無さんの機体には届かず、水のヴェールに絡め取られる。
「その程度でこの
楯無さんが絡めとった腕をどうにか引き剥がそうとゴーレムが動くが、そんな事をさせる訳もなく、背後から私が二本の片手直剣で、前面から楯無さんが片手剣で切り飛ばす。吹き飛ぶかと思ったが、楯無さんが水のヴェールで拘束。身動きが取れなくなったゴーレムに私が二刀流で乱舞を食らわせる。そして、
「終わりよ!」
私がサマーソルトキックと同時に後ろに飛ぶと、私の後ろから水を纏わせた槍を楯無さんが叩きつける。少しの抵抗の後、槍がゴーレムの体を貫き、ゴーレムの機能が完全に停止する。
「終わり・・・ですか?」
「ええ、寧ろこれ以上動かれたら困るわ」
そう言って油断なくゴーレムを見据える楯無さん。それでも動く気配が無いので、ようやく肩の力を抜く。
「そう言えば、教師部隊の方々は?」
「クラッキングに手こずって、開けれなかったそうよ。元々結構厳重なセキュリティで、中からクラッキングで開けれない様に、外からクラッキングで中に侵入出来ないようにしてあるのよ。有事の際の避難場所にもなるし、敵を閉じ込める場所にもなるもの」
恐らく今回のような事態が想定外なんでしょうね。とため息をついていた楯無さん。確かに有効なシステムだと思うがそれを悪用されてしまっては意味が無いのでは無いのかと思わなくもないのですが、今はそれどころでは無い。
「楯無さん。私は一夏さんの所に」
『更識、夜月両名は事情聴取の為この後すぐにこちらが指定する場所まで来い。いいな』
通信が入り、それだけ伝えると切れてしまい、私は今度こそ喚き散らしそうになりました。
「いいかしら?」
「・・・・・・了解」
それだけ絞り出すのがやっとで、楯無さんに苦笑いをされました。
side 一夏
「・・・・・・ッ!」
目が覚め、起き上がる。いつの間にか俺はISスーツから病院などで患者が着る服に着替えさせられていて、ベッドに寝かされていた。
「ここは・・・」
「医務室に決まってんでしょうが」
そう声がする方向を見ると、鈴がちょうど扉を開けて入って来た所で、投げ渡されたスポーツドリンクのペットボトルを受け取り、口をつける。
「一応怪我は軽いけど、今日一日は大人しくしときなさいってさ。まあ無理だろうけど」
そう言って笑う鈴。つられて俺も笑ってしまう。
「無理だろうけどって・・・、事情聴取か?」
「そんな所。起きたら連れて来いって言われてるのよ。着替えれる?手伝ってあげてもいいけど?」
そう言って悪戯っぽく笑う鈴は昔のまんまで、変わってないようで色々変わった。
「着替えれるさ。介護が必要な老人じゃねーんだから」
そう言って笑う俺にじゃあ扉前で待ってるから。とだけ言って鈴は退出する。
さて、着替えなきゃな。
side 風華
事情聴取の為と連れてこられた部屋。入るとブリュンヒルデ様と別の男性、そして周囲には他の教師陣とセシリアさんと篠ノ之の姿があった。そこに、
「凰鈴音、夜空一夏、入ります」
そう言って、鈴さんと一夏さんが入ってくる。一夏さんが無事だと聞いた時は泣きそうになりましたが、今は報告の方が重要です。
「生徒の皆さんは初めまして、ですね。このIS学園の学園長、
よろしくお願いしますねといって柔和な笑顔を浮かべ頭を下げる轡木さんに、私達も頭を下げます。そして挨拶を終え、轡木さんが口を開きます。
「皆さんに集まってもらったのは他でもありません。本日クラス代表戦途中に乱入して来た機体について実際に応戦した専用機持ちの方々、現場指揮官及びその関係者にお話を伺うためです」
先程まで柔和そうな笑みを浮かべていた人物が喋っているとは思えないほど重く、威圧感のある声で轡木さんが喋ります。
「ではまず更識君。当時の状況の説明を」
「わかりました。先ずはコチラをご覧ください」
そう言って、楯無さんがディスプレイをつけると、そこにはゴーレムが乱入して、一夏さんの顔写真を表示した所が写っています。
「まず乱入して来た機体は無人機である事がわかっています。これは鹵獲した機体を調べた結果判明した事です」
その言葉に周囲がザワつくが、轡木さんが目を向けるだけで黙り、楯無さんが続ける。
「無人機はアリーナのシールドバリアを突き破り乱入、その後ウィンドウにて夜空一夏の写真を表示。下の一文、男はISに〜の文章からの推測になりますが、目的は男性操縦者である夜空一夏の誘拐、もしくは殺害であると考えられます」
そこで一旦言葉を切り、横に控えていた眼鏡をかけた几帳面そうな女子生徒に楯無さんが指示を出すと、再び画面が切り替わり、セシリアさんと一夏さんと鈴さんで戦闘をしている場面に移りました。
「事態を緊急事態と見て、生徒の避難を開始、近くにいた夜月風華に避難誘導の手伝いを要請、夜空一夏には無人機に狙われているという事を理解した上で避難終了まで囮となってもらいました」
それに対して周囲がザワつくが、無視する。この時そんな指令はありませんでしたが、あの時の会話なんて私と一夏さんと楯無さんしか知りません。どうやらそれをいい事に一夏さんが独断で戦ったのを生徒会長が命令を出した、という事にして処罰を無くす方向で行くようです。結果的に被害が出なかったからできる方法ですが、恐らくブリュンヒルデ様あたりは何か言ってくるでしょう。
「狙われている人間を囮に使うとはな。もしもそれで夜空が殺害ないし誘拐されていたどうするつもりだったんだ?」
言われると思いました。確かにこの場合普通であるならば狙われている当人を真っ先の避難させるのが当たり前です。
「普通はそうですが、あの無人機はあの段階でコチラを視認していました。シールドバリアすら容易に突き破る火力を持った機体の前に、私、夜月、夜空の三人では
その一言でブリュンヒルデ様は黙り込む。
「最も敵はこちらのシステムを悪用し、教師部隊は突入出来ませんでした。クラッキングしてから救援に入ったのでは間に合わないと判断し、ピットの扉を破壊、中に入って無人機と戦闘。篠ノ之箒の行動により途中ピンチにはなったものの撃墜、残骸を回収しました」
そこまで言って楯無さんは下がる。そして再び轡木さんがこちらに顔を向ける。
「この会議の後、教師部隊は今一度緊急時の対応の見直しの為、会議を開きます。次に更識会長の扉破壊の件ですが、緊急時の対応の為不問とします」
そこまで言って言葉を切る。そこで私は口を開く。
「学園長、一つだけお聞きしたいことが」
「何でしょう」
「篠ノ之箒の処分に関して、通知がありませんでしたが、今回彼女が行った行為は自身の命のみならず、他人の命も巻き込む行動でした。それに関して処分が無いのはどういう理由でしょうか」
そこで初めて轡木さんは少し頭の痛そうな顔をして、
「そうですね・・・」
考え込むような表情をするが、何故そんなに考える必要があるのかわからない。退学処分にでもしてしまえば済む話では無いのか。
「納得いきません!」
そこに件の篠ノ之箒の声が響く。全員が篠ノ之に目を向け、私は睨みつける。
「私は処分を受けるような事はしていません!一夏が邪剣を使い、変な戦い方をして苦戦をしているから、キチンと剣で戦えと喝を入れただけです!」
そう叫び、私は正しい事をした!と言わんばかりの篠ノ之を見て、また怒りがこみ上げてくる。
「・・・篠ノ之」
一夏さんが低い声で呼ぶ。
「俺の剣が邪道かどうかなんてどうでもいい。けどあの場でやっていたのはスポーツの決闘じゃ無い。戦闘・・・命のやり取りだ。そこに邪道もクソも無い」
自分の擁護をしてくれると思っていたのか、篠ノ之の顔が驚愕に染まる。
「アレがスポーツの場ならお前の言う事は正しい。邪剣を使わず、ルールに則り正々堂々と戦うべきだろう。だがアレは戦闘だ。卑怯だと罵られようが、勝たなきゃ意味が無いんだ」
「邪剣で勝って得た勝利など誇れるものか!正々堂々と戦ってこそ戦士だろう!」
「悪いが俺は戦士じゃ無い。それにあの場に限って言えば俺が勝つ必要は無かったからな」
「勝つ必要が無いだと!」
「ああ、無かったさ。俺の仕事は狙われてると言う立場を利用しての囮、撒き餌だ。教師部隊の突入と生徒の避難が終わるまでの時間稼ぎ、俺が勝利する必要は全く無い」
「だが剣を握り、剣道をもって敵を倒してしまえば、脅威は取り除かれたはずだ!」
「ああ言えばこう言うな。お前は少しはその頭で考えてから発言をしろ。いくら俺が専用機を持っていて、多少心得があると言っても、軍事訓練をした訳じゃない。更に鈴とセシリアさんは試合中だったからエネルギーだって減っている。そんな中に素人に毛が生えた程度の俺が加わっただけなんだ、時間稼ぎが出来ただけマシだったさ」
一夏さんの言葉に頷くセシリアさんと鈴さん。二人は代表候補生として軍事訓練も受けている為、一夏さんの言っている意味を理解している。そして、篠ノ之がコチラを向く。
「一夏が剣道を辞め、邪剣を使うようになったのはお前のせいだ!そうでなければあのような戦い方などする筈が無い!」
そう叫んだ。
もう
我慢出来ない。
鈍い音が響き、篠ノ之が吹き飛ぶ。後ろの壁に激突し、咳き込む。
「ふざけんじゃねーんですよ・・・」
邪剣を使うようになったのが私のせい?巫山戯るな。
「今の戦い方にするのに一夏さんがどれだけ努力したかも知らねー餓鬼が」
射撃適性の高い一夏さんに、戦い方はどうしますか?と尋ねた時に、片手に剣を、片手に銃を持ちたいと言われて、何故そんな事をするのかと聞いたことがある。その時寂しそうな顔で、
「俺の剣は千冬姉が教えてくれたんだ。俺と千冬姉の大事な思い出なんだ。剣術でも剣道でも無くなってしまうけど、俺が剣道を始めた切っ掛けで、大事な思い出なんだよ」
だから大事にしたい。と言って寂しそうな、泣きそうな顔で笑っていたのを覚えてる。
間合いが違う武器を同時に使うのは大変で、一夏さんは苦労しながら今の戦い方を創り出した。
出来た時は一緒に喜んだ。
好きな人が笑顔で居てくれるのが嬉しかった。
「邪剣だのなんだのってさっきからうるせーんですよ!剣道すらマトモにできねー餓鬼が、努力の果てに手に入れた人の剣を!技を!否定してんじゃねーんですよ!」
左の顔面を殴り飛ばしたので右顔面を裏拳で殴り飛ばす。ブリュンヒルデ様やセシリアさん達が驚いているけど知った事じゃない。
「辞めなさい!」
怒号一喝。思わず声の元を振り向くと、コチラを見据える轡木さんと目が合った。
「夜月さん。これ以上の暴力行為は認められません。それと篠ノ之箒さんの処分ですが、一週間の自室謹慎。反省文三十枚の提出と部活動への参加禁止とします」
軽すぎる。そう思い声を上げかけたが、一夏さんに止められる。そして轡木さんはよく通る声で、
「ではこれでこの場は解散とします。教師陣はこの後すぐに会議ですので残ってください。生徒諸君は部屋へ戻って頂いて結構です」
轡木さんのその声で、この場は締めくくられた。
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