ここのセッシーは女尊男卑に流された哀れなチョロインじゃないんですよ!
あ、セッシーの御両親は存命です
side 風華
三限目にブリュンヒルデ様と喧嘩になり、クラスの雰囲気を悪くしてしまったが、許してもらえたので私は安心してその後過ごすことが出来た。そして今は放課後で、一夏さんと、オルコットさんと一緒に教室で喋っている。
「それにしてもセシリアさんはクラス代表よくやろうと思ったな」
「そうですわね。普通はやりたいと思わないかも知れませんが、これも自分の為、ですわ」
「自分の為、ですか?」
「そうですわ。私の専用機〝ブルー・ティアーズ〟は試作機ですもの。クラス代表となれば当然、ISを使った公式戦の回数も増えますの。ですので」
「データ取りには持ってこい。という訳か」
「身も蓋もない言い方をしてしまえば、そういう事ですわ」
そう言ってセシリアさんは微笑む。その時山田先生とブリュンヒルデ様が一緒に教室に入ってくる。
「ああ、良かったです夜空君。まだ教室に残っていたんですね」
そう言って山田先生がこちらに駆け寄ってくる。
「夜空君の部屋の鍵です」
と言って、一夏さんに部屋の鍵を渡す。本来一夏さんは部屋が用意できるまでは近くのホテルから通うという話だったのですが、どうせこうなるだろうとは思っていました。
「・・・わかりました。取り敢えず荷物を運び込みますので」
「その必要は無い。私が手配しておいた」
そう言ってブリュンヒルデ様が前に出てくるが、
「一夏さん。こうなるとは思っていましたので一夏さんの荷物は私の部屋に運んであります。後で取りに来てください」
「そうか、有難う、風華」
そう言って一夏さんは私の頭を撫でてくれます。嬉しいです。
「で、では私は別の仕事がありますからこれで」
そう言って山田先生は教室を去っていく。そして教室には私とブリュンヒルデ様と一夏さんとオルコットさんだけになりました。
「では織斑教論。俺達もこれで」
そう言って退出しようとしましたが、
「待て、一夏!」
ブリュンヒルデ様は、そう叫びました。
side 一夏
呼ばれた俺の名前を聞き、ゆっくりと振り返る。
「一年間、私に連絡もせずどこに居た」
そう行ってくる。姉がいた。
「・・・それを貴方に報告する義務はありませんよね」
それでも何も思わない。こんなにも俺の心は冷めていただろうか。
「そんな事は無い!私はお前の保護者であり、家族だぞ!」
そう叫んでくる。家族・・・か。
「何故苗字が変わっている!お前に何があった!」
「家族、か。笑わせるな」
俺の横にいたセシリアさんが驚いている。自分でもびっくりするぐらいに、冷めた声が出た。
「アンタは俺が誘拐されても助けに来てはくれなかった。家族は守るとか豪語してたアンタがな。俺にはアンタがわからない。アンタが何を守っているのか、何を守りたいのか」
そこで一旦言葉を切る。
「アレは政府のバカどもが私に知らせなかったからだ!もう二度とあんな事はならない!今度こそ守る!その為の力もある!」
「やっぱりアンタが何をしたいのかわからないよ。力で家族は守れない。いや、アンタが持ってる力じゃ何も守れない」
その言葉に織斑千冬は驚愕に目を見開く。
「アンタは俺を、家族と言う檻に囲って何がしたい?」
その問いかけに答えれない織斑千冬を置いて、俺達は教室を出る。かつての姉に、背を向けて。
side 風華
あれから、一夏さんの部屋が私と相部屋で、オルコットさんの部屋もその隣だったという事がわかり、今は私とオルコットさん、一夏さんの三人で食堂に来ています。
「それにしても一夏さんは織斑先生の弟さんだったのですね」
「ああ、もっとも戻るつもりは無いし、苗字を戻すつもりも無いしな」
それに、と彼はそこで一旦切ってから、私の方を見る。
「今の俺は月を輝かせる空だから」
それだけ言って私の方を向いて微笑んでくれました。すっごく恥ずかしいです。セシリアさんが微笑ましいものを見る笑みをしているのがもっと恥ずかしいです。
「自身でやりたい事を見つけたから戻らない。そういう事ですか」
「そういう事だ」
そう言って微笑み合う一夏さんとセシリアさん。
「逆にセシリアさんはそう言うのは無いのか?」
「私は一夏さんと同じ心意気で家にいますもの。父と母が、私の先祖が守ってきた家を私も守る。その為に努力していますの」
そういったセシリアさんの目は輝いていて、心からそう思ってるんだなと思いました。
「ISで代表候補生となっているのもその為ですわ。実績や地位、実力が無ければ、守りたい物も守れませんもの。私も両親の様になりたい。そう思った日から努力を欠かしてはいませんの」
「素敵なご両親だったんですね」
「ええ、それはもう。素晴らしく、尊敬に値する人物でしたわ」
そう言ってセシリアさんは優雅に微笑む。確かに彼女の立ち居振る舞いからは育ちの良さが感じられるし、それでいて他者を見下すことの無いその姿勢は素直に尊敬できる。素晴らしい人物に育てられない限り、こんなふうには育たないと思う。
「母はその業界では知らない人は居ないと言われるほど仕事のできる人でした。しかし仕事ばかりでは無く、私の面倒も見ていましたわ。忙しい中時間を作っては、癒して〜といって抱きついて来ていましたの」
そう言ってクスクスと笑う。私達も、なんとなく光景が想像出来て少し笑ってしまいました。
「父も母と同じ仕事をしていましたが、基本的には家に居ましたわ。よく私と一緒にいてくださり、優しく、厳しくしてくれました」
「まさに理想の家族。と言った所か」
「ええ。父が母以上に仕事が出来るのを見て、なぜ表立って仕事をしないのか?と問うた事もあります。今の世の中は女尊男卑。そうだとわかっていても父が虐げられるのは我慢が成りませんでしたの」
「自分の好きな人が、言われもない理由で虐げられているの程、見ててキレたくなるのはありませんからね」
街中を歩いている時に、一夏さんは何度か変な女性に絡まれ、変な言いがかりをつけられたこともあるし、ファミレスなんかで食事をしていると、他人の女性から料金を払えと言われた事も一度や二度じゃ無い。そのたびにイライラするのを抑え、一夏さんがやんわり対応するのを見てきた身としては、気持ちがよくわかります。
「しかし父は笑って。今の世の中なら女性の方が有利だ。私の意見は彼女に通っている。ならば他の場所に意見を通すのは彼女の方がやりやすい。なら私が出来る事は、愛する彼女の為に、愛娘と家を守る事。そして疲れて帰ってきた彼女が、次の日また元気で動けるよう癒してあげる事。それが私の仕事だよ。と言って笑っていましたわ」
「カッコイイですね、お父さん」
「ええ、自慢の父ですから」
そう言って、セシリアさんは優雅に微笑んだ。
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