白き英雄への復讐   作:煌酒ロード

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IS学園入学。クラス代表決定

「そういえば、彼女は?」

 

ホテルの部屋に通された後、俺はここまで連れてきてくれた少女の事を聞く。

 

「ああ、ふーちゃんね!彼女はねー」

 

「いいですよ束博士、自己紹介ぐらいしますので」

 

そう言ってその女の子はこちらに向き直る。黒いパーカーに黒いズボン。綺麗な銀髪と整った顔立ち。口元をマフラーで隠していて、表情はわからないが、その紅い眼はこちらを射抜くように鋭い光を向けてくる。

 

「改めまして織斑一夏さん。夜月 風華(よづき ふうか)です。見てわかる通り女性で」

 

そこで一度切ると、少女の紅い眼が俺を射抜く。

 

「白騎士に、家族を殺され、白騎士に復讐を誓う復讐者です」

 

そう、言い切った。

 

「復讐・・・ね」

 

俺にはそこまで白騎士を恨む理由が家族を殺されただけだとは思えない。それでも聞いておきたいことがある。

 

「織斑千冬を殺すのか?」

 

「殺しませんよ」

 

少女は涼しい顔で言い切った。そしてその顔が憎悪に歪む。

 

「彼女は沢山の人を殺したんですよ?そんな彼女に、()()()()()()()()与えるわけ無いじゃないですか。彼女には生きて、糾弾され、自分の犯した罪に苦しんで貰わないと」

 

そう言って彼女はまた無表情に戻る。そして誰もが見惚れるような綺麗な笑みで、

 

「私は彼女が大量殺人者であるにも関わらず英雄として生きているのが気に食わないんですよ。彼女には罪を償ってもらわなければならないんです」

 

それは当たり前で、誰もが知っている理論で。それでもこの世界では実現が不可能に近い物。

 

「・・・罪を償わせる・・・か」

 

彼女がどれだけ苦しんでこの結論を出したのか俺は知らない。それでもこの少女にはそれが全てのような、そんな感じが見える。

だからこそ、放っておけない。

 

「・・・束さん、頼みがあります」

 

だから俺は、一つ決意をする。

もう、見て見ぬ振りはやめだ。

 

 

 

―――――――――――――

 

side 風華

 

織斑一夏さん・・・おっと、今は夜空一夏さんでした。アレから彼は名前を変えて、私と束さんの夢を叶える手伝いをすると言ってくれました。

束さんはともかく、なぜ私の?と聞いた時、俺がやりたいからだって言われました。因みに名前の夜空の意味は、月が輝ける場所でありたいから、だそうです。

アレから一年経って、世界がもう一度変わるかもしれない事実がわかりました。

一夏さんがISを動かせる。束さんが凄く驚いた顔をしていました。それから一夏さんは強くなりました。正直な話、国家代表レベルまで腕が上がったのは驚きでした。

そして今ですが、私が一夏さんの膝を枕にして、一夏さんのベッドに寝転んでて、一夏さんは端末を弄りながら私の頭を撫でてくれています。すっごく気持ちいいです。

 

「一夏さん」

 

「ん?」

 

「よかったんですか?」

 

「何が?」

 

「いえ、本来なら一夏さんは一年前の段階で平穏な日常に戻れていたはずなんですよ?それを」

 

「知ってしまったからな。もう戻る気もないさ。それに」

 

一夏さんの顔がアップになったかと思うと、額に口付けが落とされました。

 

「一目惚れした女の子を置いて行けるほど薄情者でも無いんだ、俺は」

 

嬉しいです。凄く。でも不意打ちは辞めてください。今絶対顔真っ赤ですから。

 

「〜〜〜〜!/////」

 

声にならない悲鳴ってこういう事を言うんですね。そんな時でした。

 

「やあやあやあ!相変わらず糖度高い空間作り出してるお二人に相談だよ!」

 

扉を物凄い勢いで開け、束さんが飛び込んでくる。私は起き上がって、

 

「別に糖分を撒き散らしてるつもりは無いんですが、なんですか?」

 

「二人共学校通って無いじゃん?IS学園、行ってみない?」

 

この発言に私達二人は顔を見合わせて、

 

「いや・・・俺たちは既に高校卒業レベルの学力を持ってますよね?なんで今更?」

 

「甘いぜいっくん。高校っていうのは青春する場所、そう言うのを経験できるのも今のうちだけなんだぜい?それならやっておかないと!それに」

 

そこで一旦切って、

 

「君達にはちゃんとした生き方をして欲しいしね。学校生活をエンジョイするのもいいもんだじぇい?」

 

そう言って笑う。

 

「それにIS学園には英雄様も居ることだし、アソコなら政府の影響も軽い、だから」

 

「粗捜しができる。という事ですね」

 

一夏さんがそう答える。

 

「まあそういう事だじぇい。それでどうするー?行くんだったら色々やるんだけど」

 

その言葉に一夏さんと私は頷いて、IS学園に行くことにしました。

 

 

 

―――――――――――

 

side 一夏

 

アレから束さんがISを動かせる男性を発見したと発表。その後俺達はIS学園へと強制入学させられた。もっともここまではほぼ自分たちの意志だが。

そして俺は今、視線で蜂の巣にされかかっています。なぜ席順があいうえお順では無いのか。奇跡的に後ろには風華がいるから耐えられるけどこれは酷い。

その時扉が開いて、緑髪でメガネの人が入ってきました。

 

「皆さんご入学おめでとうございます!このクラスの副担任を努めさせていただきます山田真耶(やまだまや)です。よろしくお願いします」

 

と元気よく喋り出したのだがいかんせんこの空気だ。誰も返事など返すはずがない。

 

「え、えっと・・・で、では!自己紹介をして行きましょう!」

 

山田先生が順序よく進めていこうとするが少し涙目になっている。可哀想に。

 

「夜月風華です。好きな物は寝る事、甘い物で、嫌いなのは自分の考えを正義だと信じて疑わない馬鹿とそれに流されるヤツらです。よろしくお願いします」

 

中々に過激な自己紹介をしてくれるな風華。俺のハードルが上がったぞ。そんなことを思いながら立ち上がる。

 

「夜空一夏だ。なんの因果か知らないがISを動かしてしまった。だけど男性という事以外は皆とあまり変わらない、気楽に接してくれ。趣味・・・という程でも無いが機械いじりと読書が好きかな。一年間よろしく頼むよ」

 

そこまで言い切って座ろうとするが、すぐ横から殺気を感じて横に避ける。視線を向けるとそこには、かつての姉であり、世界最強であるブリュンヒルデ様が立っていた。

 

「俺の行動は特に問題が無かったと思うんですがね。いきなり鉄拳制裁はやり過ぎじゃ無いですか織斑教論」

 

「問題がない、か。一年間行方も知らせず帰ってきたかと思えば訳の分からん苗字を名乗っている馬鹿者に、ちゃんと名を名乗れと注意しているんだがな」

 

「訳のわからない事を。確かに自分は一度苗字を変えていますが、キチンと生徒名簿にも夜空一夏と言う名前で載っています。貴方のそれは言いがかりです」

 

それだけ言って席につく。未だに織斑教論はしかめっ面をしていたが、

 

「まあいい。さて諸君!私が担任の織斑千冬だ!私の仕事は諸君等を一人前の操縦者に育て上げることだ!逆らってもいいが私の言うことは聞け!いいな!」

 

何という暴力宣言か。ここは軍隊じゃねえぞ。そう叫びたいが、俺の声は上がった黄色い悲鳴にかき消されてしまった。後ろを見ると風華が表情の抜け落ちた顔をしている。

 

「はあ・・・。静かにしろ!まだ自己紹介は終わっていないぞ!」

 

その一言で再び自己紹介が始まり、そして全員が終わったあたりでベルが鳴る。教師達が退出し、再び俺は視線の雨に晒されることになる。

 

「おい」

 

俺は次の準備をしようとして、声をかけられたのに気がついて顔を上げる。

 

「話がある。来い」

 

それだけぶっきらぼうに告げた、ポニーテールの女子と目を合わせる。

 

「・・・断る」

 

そして再び顔を伏せ、教本をめくる。既にISの知識は一通り頭に入っているが、こういうのは初心に帰ってみるのもいいものだ。

 

「聞いているのか!来いと言ったはずだ!」

 

そこでもう一度俺の前で叫んでいるポニーテールの女子と顔を合わせる。

 

「・・・篠ノ之、お前こそ聞いているのか?俺は断ると言ったはずだ」

 

「なぜ断る!それになぜ苗字で呼ぶ!名前で呼べ!幼馴染だろう!」

 

「幼馴染なのは関係無いだろう・・・それに幼馴染だったとは言え、長いこと離れていたんだ。いつまでも馴れ馴れしく名前で呼ぶわけ無いだろう」

 

「この・・・!いいから来い!話があるのだ!」

 

「ここで話せばいいだろう。それにもう休み時間は少ない、お前に付き合っている暇は無い」

 

そこでベルが鳴り、篠ノ之が舌打ちをしながら席に戻っていく。また来る!と言いながら。

そして何の問題も無く。授業が終わり、休み時間になると同時に、

 

「失礼。少しよろしいでしょうか?」

 

そう声をかけられ、顔を上げると、金髪をロール状に巻いた女性が立っていた。

 

「間違っていたら悪い、セシリア・オルコットさん。でよかったか?」

 

「合っておりますわ。改めまして、イギリス代表候補生セシリア・オルコットですわ」

 

「改めて、夜空一夏だ。一夏で構わないぜ、オルコットさん」

 

「私もセシリアで構いませんわ。それにしてもお詳しいのですね、IS」

 

「まあな、欠点こそあるがISがあればどこにだっていける。それこそ宇宙にだってな。それに男としてはあんなカッコイイ機械に関わらないってのはちょっとな」

 

「男の浪漫。というものですの?」

 

「話がわかるじゃないか」

 

俺とセシリアさんは軽く握手を交わす。そしてそろそろベルが鳴るという事で別れた。

そして再度前に向き直ると、三限目にしてようやく担任である織斑教論が教壇に立つ。

 

「さて、この時間ではISで使う火器類の説明をしようと思う」

 

そう言った後、ふと何かを思い出したような顔で、

 

「ああ、そうだ。クラス代表を決めていなかったな。どうせだ、今ここで決めてしまおう。自薦他薦問わない。誰かいないか?」

 

と言い出す。最初のホームルームで決めとけよ。と思わなくも無いが、あの顔を見るに純粋に忘れていたのであろう。

 

「はい!夜空君を推薦します!」

 

「私も!」

 

ここで俺を推薦する声が上がる。確かに俺はクラス唯一の男子だ。面白半分で推薦されるのは分かりきったことだった。

 

「織斑教論。辞退したいのだが」

 

「拒否権など存在しない。お前は推薦された者の気持ちを無為にする気か?」

 

そう真顔で言い放つ織斑教論。

 

「ブリュンヒルデ様は随分と自己中心的なんですね。人権って言葉知らないんですか?」

 

俺の後ろの風華が反論する。言葉の棘がヤバい。

 

「織斑先生と呼べ夜月。それと人権という言葉くらい知っている」

 

「では知っているだけで理解していないようですね。ブリュンヒルデ様は随分と幼稚なんですね」

 

そう言い放った風華に向かって出席簿での一撃が放たれるが、風華がカウンターで手首に一撃を入れる事で出席簿を弾き飛ばす。

オイあの出席簿天井に刺さったぞ。何で出来てんだいったい。

 

「教師に暴力とはな。それにここでは私は織斑先生だ。そして教師にナメた口をきくな。」

 

「驚きました。ブリュンヒルデ様は教師だったんですね。山田先生の後ろで動かないので置物かと思いましたよ。それにしても教師と言うのは人の人権を剥奪し、気に入らない生徒には暴力を振るい、人の意見は何一つ聞かない。聞き分けの無い子供(ガキ)の様な仕事なんですね。一つ勉強になりました。」

 

そう笑顔で言い切った風華と織斑教論が漂わす不穏な空気に教室中の温度が下がる。

その静かな空間に、パン!という音が鳴り響き、同時にセシリアさんが立ち上がる。

 

「織斑教論。話を切るようで申し訳ありませんが、セシリア・オルコット。クラス代表に自薦致しますわ。夜空さんがやると言うのならそれでも構いませんが、どうやら辞退される様ですので」

 

そうですわよね?という笑顔を向けてきたので頷く。それを確認してからセシリアさんは風華に向き直る。

 

「夜月さんも。感情的に言い返し続けるのは感心しませんわ。織斑先生の言い分は確かに人権を無視した不当なものです。しかしここで言い合いを続けてクラスの皆さんを怖がらせるのもどうかと思いますわ」

 

その一言でバツの悪そうな顔をする風華。周りの空気に気づいたのだろう。頭を下げて謝り、許してもらっていた。

その後クラス代表はセシリアさんに決まり、授業が再開された。




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