元アイドルであったものはデレマス世界で何を想う 作:しましまパンダ
美城プロダクションに入ることを決めた私は最後に広場で歌を歌うことにしました。そして、島村さんも呼びました。
彼女にかかりっきりでいられる時間はこれからは少なくなると思いますから、この場で島村さんの目安と言うか身近な目標になってあげたかったんです。後、終わった後に前世の頃から芸能活動をしていた時に思っていたことを伝えたいなと思いましたからね。
「おはようございます~」
「おはようございます、島村さん。今日は終わった後に少し時間ありますか」
「ありますっ!大丈夫です」
「今日終わった後によろしくお願いします。それでは、今日が最後の私のストリートステージですからよく聴いて、見ておいてくださいね」
「えっ……最後ってちょっとどーいう「詳しいことは終わったら話します。それでは集中していてください」
すみません島村さん。こればっかりは終わった後に話させてください。必ず、得られるものをココに置いていきます。
さあ、私(俺)……今持てる力を全て出し切ってみましょう。体の先という先にまで意識を割いてワンフレーズ、ワンブレスに魂を込めて歌いましょう。
「お集まりの皆様、それではお聞きください──」
◇◇◇
満ち足りた瞬間は一瞬で私を構成する力が外へ流れ出ていくかのような錯覚にも陥りました。その状態はきっとゾーンと呼ばれるものに近いのでしょう。
──楽しかった。体に掛けられていた枷のようなものが壊れ、そしてこの世界へ本当の意味で綺羅ツバサとして羽ばたいた。そんな気がした時を過ごさせていただきました。
この世界で久々に本気でやりました。この世界へ生まれ落ちてから確かに全力という言葉を用いてやってきましたが、心のどこかでズルのようなことをしている感覚に陥り、精魂尽き果てるほどの全力を出してやったことはありませんでした。あの出来事があってから私はリミッターを意識して掛けてきましたから。
あの出来事と言うのは、この世界へ生まれてから数年の小学一年生ごろだったでしょうか、ダンススクールに当時から通っていた私は新しい世界で、それも某学校アイドルの世界と勘違いしていて舞い上がっていた辺りの時期でしたか。
その当時一緒のダンススクールに通っていた子に相手からの一方的なライバル視ではありましたが、相手目線で言えばライバル的な感じの存在がいました。
確かに、彼女は才能に恵まれており、私が相手じゃなければ同世代に敵がいなくなると思うほどの才能でした。
ある発表会の時でした。私をライバル視している子はその発表会へ向けてかつてないほどのレッスンを積み上げていました。誰よりも早く来て、遅く帰る。なんというかブラック企業の新人みたいなスケジュールで練習していたわけです。
で、それほど才能のある子が練習すればぐんぐん上達するわけですが、当時舞い上がって力を発揮する意味を理解していなかった私のせいで折ってしまったんです……あの子のメンタルを。
発表会当日は相手からの宣戦布告もあり全力を発揮し合おうという約束をしたんです。それで、彼女の後が私だったんですが彼女のダンスは彼女よりも前に発表していたどの子よりもずば抜けてできていました。
それが本人も分かったのか演技が終わった後に喜んでいましたね。その後に私は手加減も何もせず、精魂尽き果てるほどではありませんが、ある程度の本気で踊ったわけです。
そして、彼女へ目を向けるとぼーっとしていました。その発表会の後彼女はスクールを突然辞めていきました。
辞める前に二人で話す機会があり、話したんですが彼女から出た言葉は以前の威勢の良いセリフではなく、
「あんなのに、勝てるわけないじゃん。絶対的な差を感じたよ。才能の有無何て無いってお母さんとか言ってたけど、こういうのを言うのかな?」
そう彼女は自嘲気味に言いました。私はその時頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けました。自分のしでかした事を自覚したんです。その時からリミッターを掛けるようしました。自らが才あるものを折るのではなく、導き伸ばしていくようにするために。
「ツバサさん、やっぱりすごいですっ!」
過去に浸っていると、島村さんに声をかけられていました。自分に浸っていて自分から約束したのに島村さんが近づいてくるまで気づきませんでした。
「ありがとうございます島村さん。それでは、いつもの所へ行きましょうか」
「はいっ!」
◇◇◇
いつもの所と言うのは初対面の時に入った飲食店のことです。基本的に話があるときは此処でしているのでいつもの所で通じるようになってきたんですよね。
島村さんが腰を下ろしたのを確認してから言わなければならないことを言いましょう。はっきりいって、彼女はアイドルになりたい女の子なわけで、それを応援するといった私がアイドルになるというのは一種の裏切りに近いような気がして気が引けますが、ここで言わなければ本当に裏切ることになりそうですから。
「島村さん。私、アイドルになろうと思います」
簡潔に告げた事実に島村さんは一時は固まりましたが、おめでとうございますと言ってくれました。本当に出来た子ですね。教えると言っていた相手が突然自分の行きたかった世界へ行くとか言ってるのだから、当てつけですか?とか言われるのも覚悟していました。
そんなことよりも、どこの事務所なのかだとか、スカウトですかとか聞いて来ている辺り、本心で祝ってくれたのだと思います。
……島村さん、ありがとうございます。
「そう言えば、ツバサさんの言いたかったことってこれなんでしょうか~?」
「これも一つですが、本当に伝えておきたい事が一つありましてそれを伝えようかなと」
「何でしょうか?」
「島村さん。貴女はこれまで人は平等ではないと思いましたか?例えば、アイドル事務所の選考に応募して面接まで行って自分の方が周りより劣っているなとかってことです」
「……」
先ほどまでの笑顔が曇った表情で頷きました。その顔は上がることはなく俯いたままです。多分、自分の受けてきた面接などが脳に浮かんでは消え、浮かんでは消えとフラッシュバックしているのかもしれません。
島村さんにはものすごく失礼な事を言っている自覚はありますが、私が伝えたいのはこの先です。
「目を背けたい事実かもしれませんが、それは当たり前の事なのです。人には向き不向きがあるというのは事実ですからね」
「それって、私に……アイドルが向いていないってことですか……」
「そうではありません。私は島村さんはお世辞ではなくアイドルに向いていると思っています。最初に言ったかもしれませんが貴女の笑顔は本物です」
「……でも笑顔だけじゃ全然だめで、だからツバサさんに色々教えてもらって……」
最近の島村さんはこの傾向があります。あえて指摘してきませんでしたが、長所である笑顔を磨くよりも私が教える歌やダンスなどに比重を置いて練習しているんです。
理由はわからないでもないです。選考に落ちすぎて本当にこれでいいのかなとか、笑顔じゃダメなのかとかって思うときはあると思います。
「そこがまず間違えなのです」
「──ッ!? 何が間違いだっていうんですか!?」
「何故自分の土俵ではなく、相手の土俵に踏み込んでいくんですか。貴女には笑顔と言うカードが配られています。それを使って勝てばいいじゃないですか」
「それができないからっ……受かってないんじゃないですかぁ……」
まあ、そう思いますよね。ですが、私は一人一芸それをまず極めてからだと思っています。まず一芸を極めればどこかの事務所に入れます。
入った後でダンスやヴォーカルなどははっきり言って最低限にまでは伸ばせます。事務所もCDなどを出す以上は欠かせない要素ですからね。
「島村さん、人間と言うのは二種類の人間がいます。配られたカードに難癖をつける人とそうでない人。此処に明確な差が出るとすれば、カードに難癖をつけない人はそれをどうやって勝負所で効果を120%発揮できるようにするかと言う事です」
「勝負所……ですか」
面接を含め白黒付くような勝負事と言うのは勝負所があります。そこへ自分の長所を120%生かせる状態を事前に作り出して置いてからぶつければだいたいの勝負は勝てます。
負けるときは同じ分野で相手の方が完成度が高い場合くらいですが、島村さんのように万人に出来ることが長所になるような、本人は気づいていないでしょうが天性の笑顔などは被ることがほぼないので大丈夫でしょう。
「そうです。貴女は言いましたね。笑顔だけは自信があると。何故それを信じないのですか、果たして自分の長所も信じられない人が相手を魅了し、選考で合格できるのでしょうか」
「……できません」
「であれば、することはわかりましたね」
これまでの話で島村さんは察してくれたのか曇った表情を明るくして笑みを浮かべています。本当はゆっくりとこういうことを教えながらやっていきたかったのですが、私がスカウトされるという偶発的な事が起こってしまっては仕方ありませんでした。
「はいっ!島村卯月、頑張りますっ!」
「良い笑顔ですよ島村さん。追い込むようなことを言ってしまい本当に申し訳ありませんでした。後、何か最後っぽくなってますが時間を見つけてこれからもアドバイスしますから安心してください」
「そうなんですかぁ~。これでお別れかと思っちゃいました~」
気が抜けたのか机につっぷして伸びている島村さん。これからも、貴女が事務所に入るまで一緒に頑張りましょう。必ず、私が貴女を光に包まれるあのステージに立つための入り口までは案内して見せます。
◇◇◇
島村さんと別れた次の日、学校で奏がこんなことを言ってきた。
「ツバサ、何かいい事でもあった?」
「いいえ、特に何もありませんでしたけどどうしてそう思ったのでしょうか」
「表情が昨日よりも晴れやかだったからどうしたのかなって思ったのよ」
「そうでしょうか……であれば、区切りが自分の中で着けられたからかもしれませんね」
奏は誰が……どうやって……とかブツブツ独り言を言いながら自分の世界へ行ってしまいました。確かに、晴れやかです。全力を出したことに対してもそうですし、島村さんへ伝えたいことを伝えたのも大きな要因かもしれないですね。昨日の夜は気持ちよく寝れましたし。
その日は奏と放課後クレープ屋に行って終わりました。美味しかったです。奏のも美味しかったですけどね。
◇◇◇
「それでは、ツバサさん。改めて風見和人です。入社二年目の新人ですがよろしくお願いします」
「風見さん、よろしくお願いします。年数は関係ありませんから自信をもっていきましょう。それと、もっと砕けた口調でも大丈夫ですよ」
「それじゃ、そうしようかな。ツバサさんももっとフランクで大丈夫だけど……」
「ああ、コレは癖ですから気にしないでください」
約束の日に美城へ来て、フロントの人に用件を伝えると通されたのはこの風見Pのいる一室である。さすがは大手のプロダクションと言うべきなのか椅子などは上質なものが用意されているようです。
それにしても、少々広い気がしますが他にもアイドルが来る予定でもあるのでしょうか。
「この部屋広いですが、他にもアイドルが来るのですか?」
「いや、来ないはずだよ。俺はツバサさん以外スカウトしてないし、部長にも何も言われてないからね。多分、俺の部長がツバサさんの名前聞いて頷いてたからそれでかもしれない」
「そうですか。それでは、この後何かすることはありますか?」
「それなんだけど、丁度今他のアイドルが集まっている場所があるからそこで自己紹介してもらえないかな?」
私の最初の仕事は他のプロデューサーの所にいるアイドルに対する挨拶ですか。まあ、当たり前の事ですが、どれくらいの人数がいるのでしょうか。この前のライブではそんなに多くない印象でしたけど……
あ……もしかして、奏とかと会うことになる?
主人公の過去話のようなものを入れさせていただきました。駆け足気味で申し訳ありません。
後、実際私も主人公とは立場は違いますが似たようなことがありました。数学IIBの問題を頑張って解いて練習しているときに、友人が暗算でIIBを解いてるのを見た時頭の出来の差を感じました。
そう言ったところを表現したかったのですが、うまくできずに申し訳ないです。
ウヅキのメンタルがぐぐーんと上がった!(パワプロ並感)
ウヅキの成長タイプがすこし変化した!(パワプロ並感)
ウヅキの迷いが晴れた!(パワプロ並感)
あー、ようやく事務所INですね……