これが終われば帝国でやることは終わりなのでようやく最終作戦に入ります
どうにかエルフ達の誤解を解き終え、ナザリックのログハウスにエルフ達を転送し、その後の処置をペストーニャとアウラに頼んだ。
マーレと同じく左右の瞳の色が違うという王族の特徴を持っているアウラならば上手く纏めてくれるだろう。
とりあえず準備が整うまで第六階層で面倒を見るように伝え、アインズは急ぎ帝都に帰還した。
「よし。ではフォーサイトと合流後、皇帝のところに戻ろう。アレだな、エルヤーとかいう奴に全部罪を被って貰うとしよう。アイツにエルフは全滅させられていたと皇帝には伝えて、フォーサイトは……まあ正直に話して良いだろう、あのハーフエルフもうるさそうだからな」
今後の予定を考え、そのまま口にする。
一応証拠としてエルヤーの武器と、エルフ達の装備品も回収しておいた。
これを見せれば信用するか、しなくても元々武力で鎮圧しても良いと言っていた以上、エルフが居なくとも文句は言えないだろう。
「あの、アインズ様に失礼なことをしているなら、アレもナザリックで教育した方が良いんじゃないでしょうか?」
アレとは間違いなくイミーナのことだろう。イミーナは確かに妙にアインズに対して強気と言うべきか、失礼とも言える態度を取り続けている。
そのことにマーレが珍しく怒りを覚えているのも気づいていた。だが、今はそれは出来ない。
「いや、それは流石にな。一人だけというわけにもいかんだろうし」
イミーナ一人だけいなくなれば仲間意識の強い奴らのことだ、騒ぎ出すに決まっている。
「……そもそもあの程度、いちいち気にする必要はない。マーレも適当に聞き流しておけ」
マーレが何か言いたげにこちらを見ていることに気が付き、慌てて付け加える。
でしたら全員連れていきましょう。などと言い出しかねない雰囲気だったからだ。
「分かりました」
納得しているのか、それとも渋々我慢したのか、口調や態度からは読み取れない。
「よし。では戻るとしよう」
「本当に生きている……のですね?」
全ての説明を終えたアインズに、イミーナはそれでも疑い深げな視線を向けて言った。
「無論だ。今は私の店で治療を行っている。後は耳だな、切れているのが奴隷の証らしいからな。それを治療すれば奴隷だとは証明出来なくなり、大手を振って歩くことが出来るようになるだろう。その後こちらで仕事を紹介するつもりだ、本人達も納得している」
「っ! そんなことが可能なんですか? あれは普通の魔法じゃ……」
「私ならば容易いことだ。実際一人はその場で回復させた。まあ数が多いから、多少時間は掛かるだろうがな」
マーレの高位治癒魔法で回復した以上、本職であるペストーニャならば問題なく回復出来るだろう。
これで元奴隷という正体を明かすことなく、店で働かせられる。
そもそも誰かに見られたとしてもそのエルフが奴隷だと知っているのは持ち主である商人だけであり、その商人はデミウルゴス曰く、八本指の息が掛かった者達なので、例え正体に気づかれても文句を言ってくる者はいないのだが。
「ということだ。出来れば君達にも口裏合わせに協力して貰いたいのだが、どうだね?」
チラリと、眠りから覚めこちらを訝しげに窺っているアルシェの妹達に目を送ってから告げる。
お前達にも弱みはあるんだぞ。と言葉に出さずに告げたつもりだったが、少し露骨だったかも知れない。
「そのことなんだが。ゴウン殿、さっきも少し言ったが実は俺達は帝国、というか皇帝陛下からか。アンタ達を見張ってどんな力があるか、エルフに対してどんな行動を取るか、どうやって解決するか。とかまあ密偵みたいなことをしろって命令されてたんだよ」
ヘッケランが唐突に口を開く。
確か頼まれた仕事を無視している。というようなことを言っていたが、てっきりエルフの蜂起を止める手伝いをする命令を無視し、アルシェの妹を助けたことを言っているのだと思ったが、どうやら違ったらしい。
考えてみれば、未だ実力が不明なアインズの力を調べるのは帝国にとっては重要だ。今更ながらジルクニフがあっさりとこちらの提案に乗ったのはそれが理由だったのだと気付かされた。
「ほう。それで、何故そのことを今口にする?」
とはいえ騒ぐようなことでは無い、問題なのはそれをヘッケランがこのタイミングで言ってきたかということだ。
「あー、そうか。ちゃんと口にしなきゃダメか。そもそもアンタは既に俺達の命の恩人だ。実はここにも悪魔が現れてな。借り受けたこの武器のおかげでどうにか撃退できたんだが、正直俺らだけだったら殺されてた。先ずはそのことに感謝を。そんで──」
ガシガシと頭を掻いてから、ヘッケランは深々と頭を下げ、その後胸を張ってアインズと向き合うとハッキリとした態度で口を開いた。
「要するに俺たちは帝国を裏切ってアンタに着くってことだ。この状況では正直皇帝陛下より、アンタに着いた方が生き残れそうな気もするし。つー訳で何なりとご命じ下さいよ。ゴウン殿」
茶化すように纏められたが、言葉に込められた意味は本気だろう。
デミウルゴスに頼んでいた件が上手く行ったようだ。
ヘッケランの後ろではアルシェも、ロバーデイクも頷いている。チームで事前に話し合いは済んでいたらしい。
ただ一人、イミーナだけは少しの間、何か考えるように下を見ていたがやがて顔を持ち上げると、強い意志を込めた瞳を真っ直ぐにアインズに向ける。
また何か文句でも言うつもりだろうか。
しかしそんなアインズの予想はその場で深々と頭を下げたイミーナの行動によって覆された。
「これまでのご無礼お許し下さい。それとエルフ達を救って下さいまして、ありがとうございます」
今までのトゲトゲしさが消え、これまでの取って付けたような敬語ではなく、キチンとした敬語でイミーナは頭を下げたままそう言った。
「おお!」
「……イミーナが敬語」
「何とも、珍しいものが見れましたな」
アインズが何か言う前に、フォーサイトの他の面子が口々にイミーナを茶化して行く。
それに反応してイミーナが怒りを露わにしている様子を見やりながら、アインズは再び自分の内にドス黒い嫉妬心が沸き上がりかけるのを感じるが、精神は直ぐに安定する。
同時にアインズはそれらを見ないようにしながら咳払いをして、話を強引にこちらに引き戻す。
「謝罪と感謝は受け取ろう。そして君達の協力に私からも感謝する。今は時間が無いから、早々に行動を起こそう。先ずは……」
さてフォーサイトが協力を申し出たのは良いが、彼等をどう使えばいいのだろう。
単に皇帝への口裏合わせに使えばいいのか、それとももっと、それこそあのエルフ達のようにナザリックにとはまではいかずとも、魔導王の宝石箱に組み込むべきか。
そうなった場合の使い道はどうするのか。
冒険者ならまだ王国の冒険者達のように未知を明らかにする仕事と武器の宣伝を頼めるのだが。
(いや、待てよ。余計なしがらみが無い分、冒険者よりコイツ等の方が扱いやすいんじゃないか? 下手を打ったり、裏切ったりしてもコイツ等を始末すれば良いだけだし──よし。何とか説得してみよう、となると全員一度には無理だから)
「早速陛下の元に戻り、話を付けよう。全員来る必要はない。ここに残す人員も必要だろう。無いとは思うが再び悪魔が襲って来ないとも限らんしな」
「お姉さまぁ」
双子らしい揃った声でアルシェを呼びながら、不安そうに彼女のローブにしっかりと抱きつく二人の幼子。
あれを連れて皇帝の元に行くわけには行かない以上、ここに置いていくしかない。
もう悪魔が襲って来ることは無いはずだが、アインズがそう言っても信じないだろう。
「となると?」
「一人で良い。お前達も戻り次第帝国側の依頼主に報告するように言われているのだろう? 私からもここに拠点を置き、守らせていると陛下には伝えよう。さて、誰が来る?」
アインズの言葉にフォーサイトの視線が一人に集中する。
その視線の先にいたのはヘッケラン。
てっきり弁が立ち、真面目で信用の置けそうなロバーデイクかと思ったが、違うらしい。ロバーデイクならば説得出来そうだと思ったがゆえの提案だっただけに少し予定が狂ったが、仕方ない。
「あー、分かったよ。こんな時はリーダーが行かないと侮ってると思われるってんだろう。分かりましたよ、ってことだゴウン殿、俺が付いて行って説明する。正直俺はあんまり弁が立つ方じゃないんで、出来れば詳しく指示を貰えると助かるぜ」
なるほどそう言うことか。と納得しかけたところに、更に想定外の頼みごとをされ動揺する。
(そんなの俺が聞きたいよ。こっちはお前をどうやって説得するか考えるので忙しいのに。報告ぐらい自分で考えろよ)
と叫びたいところだが、フォーサイトからすればアインズが指示を出さなくてはどうして良いのか分からないのも理解出来る。
「分かった。では付いて来い、道中で話そう」
「了解です。んじゃみんな、行ってくるわ。後は頼むぜ」
「ヘッケラン、頑張って」
「頼みましたよ、ヘッケラン」
「……気をつけてね」
口々に声援を送られるヘッケランを連れ、アインズ達三人は外に出た。
・
周辺から一切音はせず悪魔の姿も見えない。
しかし、そこかしこに生々しい破壊の痕跡が残っている。
「静か、ですね。悪魔達もいないみてぇだ」
一応護衛としての仕事はまだ完了していないと、アインズの少し前を歩きながら、ヘッケランは口を開いた。
「ふむ。転移の魔力が回復するまで少し時間が掛かる。その前に周囲を確認しつつ帝都内に転移先を作っておこう。案内を頼む」
魔力はアイテムなどで回復することは出来ず、時間とともに徐々に回復していく、ということはヘッケランも知っている。
となるとやはりここはヘッケランがアインズを守った方がいいだろう。
「それは良いんですが、ゴウン殿。俺は結局どうすれば?」
しかしその前にヘッケランもアインズに聞いておきたいことを先に問う。これは単純に今からの行動というよりは、今後の悪魔との戦いの流れを聞いておきたいという思いが強い。
何しろヘッケラン達は未だに帝城奪還に際しどのような作戦を執るのか聞いていないのだ。
アインズにはああ言ったが、アインズが今後どんな役回りをするかで、再び帝国に寝返る選択肢も無くなったわけではない。
フォーサイトとしては生き残ることこそ最重要だからだ。
アインズ達には恩があるのは事実だが、そのために命を投げ出せるかと言われれば首を横に振る。
だからこそ、ここでアインズがどのような行動を取り、フォーサイトに何をさせる気なのかを確かめたいのだ。
「その前に、君に一つ聞きたい」
そんなヘッケランの感情を知ってか知らずか、アインズは淡々と感情を交えない語り口で話しかけてくる。
「何でしょう?」
「この一件が片づいてから、君達はどうするつもりだ?」
こうした腹のさぐり合いは苦手であり、かつここまで見てきたところアインズ・ウール・ゴウンという人物はそうした面でも長けている、ヘッケラン程度の腹芸では欺くことなど出来ない、ならば正直に言うしかない。
「実は俺らにとって、今回が最後の仕事なんですよ」
これは話し合った訳ではないが、ほぼ確実だろう。理由は当然アルシェだ。
彼女の両親が消え──悪魔に連れ去られたとなれば生きてはいないだろう──幼い妹を抱えて生活する以上、ワーカーの仕事は続けてはいけないだろう。
となればやはり解散、あるいは別の
「ほう。そうだったのか」
「まあ、ここまで来たら隠し事はしたくないんで言いますがね。アルシェ、アイツの妹見たでしょう? 両親もいなくなってあんな小さな子供を二人も抱えてる。今みたいに妹を置いてワーカーの仕事は出来ないし。やっぱあんまり後ろ暗い仕事をさせたくないんですよ。アイツは俺たち全員の妹みたいなもんですし」
これも全て本音だ。
弱点となるべきものも含めて語ることで、アインズに対し隠し事は一切無いとアピールすることが出来る。
フォーサイトは元々金が欲しいという理由で集まったワーカーチームであり、汚れ仕事もこなすが、何も好き好んでのことではない。
本音で言えば冒険者がやりそうな仕事を好んでいる。
だが様々な理由でそれが不可能であり、単純に金が欲しいという事情もあってそうした仕事をしているが出来ればアルシェには真っ当な仕事をしてもらいたいのだ。
そんなヘッケランの顔を仮面越しにじっと見つめてくるアインズ。やや間が空いてから、彼はふむ。と一つ納得しように頷いてこう切り出した。
「では提案だが。この件が終わった後も君たちフォーサイトを我々魔導王の宝石箱で雇うのはどうだろう?」
突然の提案にヘッケランは思わず、アインズを探るように見つめる。
当然仮面からはいかなる感情も読みとれない。
「──そいつは、どういう意味ですか?」
仕方ないので思ったことをそのまま問うと、アインズは軽く肩を竦めた。
「そのままだよ。君達がどこまで私達のことを知っているのかは分からないが、我々魔導王の宝石箱は、顧客制度を取っていてね、顧客になった者には店頭に並べない上級の装備やアイテムの貸し出しや販売を行っている。そうしている理由は、君達冒険者に私の個人的な依頼をしたいからだ」
王都でアインズ達を調べた時に聞いていた情報だ。イミーナが冗談めかして顧客になって買い物すれば信頼を得られるのではと言った時に、ヘッケランはそれを否定した。
「俺らはワーカーですよ」
声が自嘲気味になる。
自分達のような身元の怪しいワーカーを信用が最も大事な顧客にしてくれるはずがないと、あの時も同じような理由でイミーナの案を切って捨てた。
「んん。私にとっては同じ事だよ。私の言う冒険者とは一般に知られているようないわゆるモンスター退治専門の傭兵などではない、未知を切り開く者たちのことを言う。未だ人の立ち入ったことのない場所、未開拓の遺跡、貴重なアイテムや装備の発掘。狭い範囲ではなく世界を広げようとする者、それら全てが私の言う冒険者だ。君達もかつてはそうしたものの為に剣を取り、旅に出たのではないかね?」
ドキリと心臓が跳ねた。
他の誰にも言っていなかったが、そんなことが出来たらいい。と心の中で考えていたことを言い当てられたからだ。
そして冒険者をモンスター専門の傭兵と言い切って嘆く様に、初めて仮面越しからでもアインズの感情が伝わってくるような気がした。
こちらを欺く為の嘘や、綺麗事ではなく、本気でそう思っているのではないか。とそんな風に思えたのだ。
「……それは」
何を言うべきか纏まらないまま、口を開きかけたヘッケランにアインズは更に追い打ちをかける。
「その為に必要な物は私が用意しよう。先ずは帝都近辺を中心に調査しても良い、それならばフルト嬢もこのまま君たちと共に活動出来るのではないかね?」
アルシェの名前が出て、少し冷静になる。
もしかしたらアインズの目的は自分達ではなく、アルシェただ一人なのではないか。という考えが浮かぶ。
アルシェは才能もタレントも間違いなく有能で代え難い存在だ。
だからこそ、彼女が抜けるならフォーサイトを解散させるしかない。と誰もが思ったのだから。
その才能を欲したアインズがアルシェを引き込むために自分達を優遇しようとしているのでは無いだろうか。
「一つ聞いても?」
「何なりと」
「何で俺達を?」
考えていても答えは出ない以上、ハッキリと聞くのが手っとり早い。
正直に答えるかは分からないが、納得出来る理由が貰えるかもしれない。
「──君がハッキリと言ったのだ、私も正直に言おう。先ほど君達は私の側に着くと言っていたが、私はそれを信用していない」
アインズがきっぱりとした口調で言い切る。視界の端でずっとアインズに寄り添っていた
そんなマーレに大丈夫だ。と言わんばかりにアインズは無言で頭の上に手を載せてから続ける。
「先ほど言っていたではないか。これが最後の仕事であり、フルト嬢にはこれから明るい道に進んで貰いたいと。なるほど彼女が若く才ある
「アルシェはそんなことをする奴じゃ──」
「妹達の為だとしても絶対にしないと言えるのかね?」
アルシェは今回、妹達を救う為に帝国を裏切ることになると分かっていながらアインズに頭を下げた。
つまりはまた同じような状況になった時に裏切らない保証はない。
アインズはそう考えたのだ。
それは正しい、いやアルシェだけではなく、フォーサイトのメンバー全員が、場合によってはアインズを裏切り帝国に着く腹づもりだったのだ。
それを容易く見抜いたアインズにヘッケランの背筋が凍る。
つい先ほど帝国を裏切り、アインズに協力を約束していたフォーサイトが舌の根も乾かぬうちに裏切ろうとしていることに勘付かれたのだ。
しかも理由はヘッケランの失言が原因ともなれば皆に何と言って詫びればいいのか分からない。
「だからこそ、帝国より良い待遇で君達を確保しておく。当然のことだろう?」
しかし、そんな危険な空気は、アインズの次なる一言で霧散した。
当たり前だと言わんばかりの軽い口調。
弱点を知られている以上、それを丸ごと抱え込むのは確かに手段としては真っ当だ。当たり前と言っていい。
だが確実を期するなら、殺した方が手っとり早いのもまた事実。アインズからすればそちらの方が容易いだろう。
ならば何故そうしないのか、何か裏があるのでは。
「なるほど。理に適ってる。でもそれ以上の待遇で帝国が俺達に接近してくるとは考えないんですか?」
そんな思いから口にした質問に対し、アインズは虚を突かれたとばかりの間を空けてからカラカラと愉快そうに笑って見せた。
「我々以上の待遇を出せる所など存在しないよ」
当然だと言わんばかりのその言葉は、絶対の自信、国一つを相手にしてすら、自分達以上の条件を提示出来ないと言い切る。
本来ならそれは狂人の戯言だ。だが、この男アインズ・ウール・ゴウンならば出来るのかも知れない。
そんな風に思わせる力が、この男にはある。
背筋の寒気は消え、代わりに腹の中が熱くなるような不思議な高揚感が生まれていた。
「ゴウン殿」
「何かね?」
「俺は裏切るつもりはありません。何かそういう魔法ありませんかね、裏切ったり秘密を話したら分かる、いや何なら死ぬような魔法でも構いません。そいつを俺に掛けちゃくれませんかね。そんで、是非とも俺達を顧客にして貰いたい。他の奴らは俺が必ず説得します」
本来これはヘッケランが一人で決めて良いことではない。
しかしここで曖昧な返答をすればこんなチャンスは二度と無いと思えたのだ。
誰もが金にならず、生きていく上で必要ないからと切り捨てた未知を求める冒険、それを求める夢追い人、そしてそれだけではなく冷静に時には冷酷にすべきことを成せる者。
硬軟織り交ぜ、どちらも最高水準のものを持ち合わせた男が──たとえ打算だろうと──自分達を評価し求めている。
こんな機会はもう一生ないだろう。
そんな風に思えて、ヘッケランは殆ど何も考えずにそう言っていた。
そんなヘッケランの真意を見抜くかのように、アインズはじっとこちらを見つめる。
ヘッケランもその視線を外すことなく向かい合い、やがてアインズはうん。と一つ頷くと、手を持ち上げどこからか鎖の付いたメダルを取り出した。
細かな模様の刻まれたそれからは特別な力は感じないが、そもそもヘッケランがそれを見抜く力は無いので当然だ。
「それを見える位置に着けておけ」
口調、声がこれまでと大きく違う。
威圧感と言うか威厳が増している。
それは作られたものではない人の上に立つべくして生まれた本物の支配者、これがこの男本来の姿なのだろう。
言われるがまま、ヘッケランにはそのメダルを首から下げる。
特に異変はない。
魔法のアイテムは身につけるとその効果を装備者に伝えるはずだが、そうした気配はない。
裏切りや嘘に反応して初めて効果を齎らす物なのだろう。
「これで、この件が解決した後、君はいや、君達はこの帝国で初めての──本物の冒険者となることだろう」
本物の冒険者という言葉に子供の頃に夢中で読んだ英雄譚や冒険録を思い出して胸が熱くなる。
「では改めて、君達にして貰うことだが。まあ正直先ほど私が言ったことをそのまま伝えて貰えば良い。ようは今回のエルフの反乱は全て、混乱に乗じてエルフの地位を貶めようとしたワーカーのエルヤー、か。あれの仕業であり、エルフは全員死亡していたと」
「了解です。と言いたいですが、信じてくれますかね。あの皇帝が」
鮮血帝と唄われ、恐れられているジルクニフだが、民達からの信頼は厚い、何しろジルクニフが殺したのは主に貴族や自分の兄弟達、一般人から見れば搾取する側の者達だ。
そうした者達を殺し、しかもその後帝国が日増しにより良い方向に進んでいると実感している民達から見れば、ジルクニフは名君に他ならない。
そんな男が今アインズが言ったような証拠も生き証人もいない言葉を信じるだろうか。
「信じようと信じまいと関係ない。今は私を頼るより他に無いのだからな。証人がいない以上、嘘だと断定も出来まい。それに、問題さえ解決すればその手段を気にする男ではないよ、ジルクニフはな」
当たり前のように帝国の皇帝を呼び捨てにする様は侮っているというよりむしろ、信頼しているからこそ。そんな風に感じられた。
こんなところでもアインズの威厳を感じることが出来る。
「では行こうか。細かな話は道中でしよう。案内を頼む」
「了解です。ゴウン様」
ごく自然に様付けをしている自分に気づく、別に心の底からアインズを信じ心酔している訳ではない。
これからだって、自分たちが生き残るのが第一なのは変わらない。
しかし、この人物には単にその呼び方が一番相応しく思えた、ただそれだけのことだ。
ということで、本編中の不幸な結末では無く、無事にアインズ様側に付けました
あの失言が無ければ、仲の良いフォーサイトはアインズ様にとって羨ましくはあっても嫌いなタイプでは無い気がするんですよね