オーバーロード ~経済戦争ルート~   作:日ノ川

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商談も終わったのでいよいよ行動開始。ですが繋ぎ回なのであまり話は進んでいません
今回はフォーサイトの話


第40話 行動開始

 アインズの前にフォーサイトのメンバーが全員集まっている。

 アインズが口を開くのを今か今かと待っているのが、手に取るように分かった。

 その視線を一身に受けながら、アインズは偉そうに口を開く。

 

「さて諸君。時間が無いが、今一度我々がすべき事を確認しよう」

 アインズの言葉にもっとも強い視線を向けていたハーフエルフ、イミーナの人より少し長い耳が揺れる。

 こんな時にとでも言いたげだが、口にはしない。

 アインズの方が立場が上だという事もあるが、話を進める上で余計な口出しが一番時間を食うことを知っているのだろう。

 

「目的は暴徒の鎮圧。陛下は平和的な解決がお望みだが、出来なければ実力行使でも構わないとのことだ」

 

「マーレ、様がいらっしゃれば、問題なく鎮圧出来ます! 暴力は必要ないわ」

 今まで我慢していたものが爆発したのか、直ぐにしまった。というような顔つきになるが、訂正する気はないようだ。

 

「え、えっと……あ、あの。アインズ様」

 アインズの隣に立ち、ローブをしっかりと握っているマーレの頭に手を乗せる。

 例によってガントレットはしたままなので撫でるようなことは出来ないがマーレはそれだけでも気持ちよさそうに目を細めた。

 

「それならばそれに越したことは無い。しかし先ほども話したようにマーレがエルフの王族という確証はない。少なくともマーレにはその記憶もないし私も聞いた覚えが無い。間違い無いのだろうな?」

 

「……両方の瞳の色が違うのはエルフ王の特徴の一つ。それはエルフであれば誰でも知っていること。エルフ達が見れば大人しく投降してくれるはず」

 

「ふむ。まあ血を見ずに鎮圧出来るのならばそれが最良だ。良いだろう、マーレすまないが頼めるか? 勿論お前の身は私が守ろう」

 

「は、はい! アインズ様、頑張ります! えっと、えい」

 そう言ってマーレがローブを掴んでいた手を離し体ごと抱きついてくる、身長の関係で足に抱きついて来るような格好だ。アウラは稀にそんなことをしてくるが、マーレがしてくるのは珍しい。

 いつも積極的に行動するのはアウラなのだが、その姉の目が無いときはこうして控えめながらも甘えてくる。

 普段我慢している反動だろうか。

 やはりまだまだ子供なのだと実感出来る。

 

「問題は人質か。館内に人が残っている可能性もあるがエルフ達は人間に強い恨みを抱いている。ならば人質が無事な保証は無い。むしろ、全滅していることも視野に入れて行動する必要があるか」

 帝国で奴隷として売買されているエルフ達が団結し、帝都の高級住宅街の一角を占拠したという報告が入った時には驚いた。

 それはデミウルゴスの計画には無かったものだったからだ。

 王国では奴隷が全般的に禁止されているが帝国には未だその文化が残っているらしく、中でも長寿で見目麗しい者が多いエルフはとても貴重で高額な奴隷として取り引きされているらしい。

 しかし奴隷として商品になるようなエルフは様々な方法を用いて気力を失わされており、反旗を翻すことなどあり得ない。とされていたが、この混乱に乗じてそのあり得ないことが起こったのだという。

 

 その話を聞いた後、アインズはこれもまたデミウルゴスのアドリブであることに気がついた。

 デミウルゴスの持つ特殊能力(スキル)支配の呪言であれば、相手にその意志が無くても反乱を起こさせることは容易だからだ。

 それをアインズが解決することによってより多くジルクニフに恩を売ることも出来る。

 実際、直ぐに近衛兵を向かわせようとしていたジルクニフにアインズがマーレを伴って鎮圧に向かうことを伝えると、大した時間もかけずに了承した。

 完全にこちら任せにすることを嫌ったのか、自分が雇っているフォーサイトを護衛として付けることとし、デス・ナイトはユリと共にアインズ達が借りた天幕から動かさないように。と釘を刺されはしたが。

 だが、軽い気持ちで鎮圧──殺しても良いとのことだったので楽な仕事だと思ったのだ──するはずが、フォーサイトのイミーナが突然武力による鎮圧に反対してきたのだ。

 その理由はエイヴァーシャー大森林なる場所にあるエルフの王国を統治する強大な力を持った王が、マーレと同じく左右の瞳の色が違うらしく、エルフは特にそうした血筋による身分制度を重要視するはずなので、マーレがただ顔を見せ命令するだけで暴徒は鎮圧出来るからだという。

 

 当然アウラとマーレが闇妖精(ダークエルフ)の王族として作られたという設定はない。

 単に創造主であるぶくぶく茶釜の趣味でしかない。

 だとしたらこれは偶然なのだろうか。たまたまこの世界の王族とマーレ達の特徴が一致しただけなのか、それともなにか理由があるのだろうか。

 その王が強大な力を持っているのならば王か祖先がユグドラシルのプレイヤーないしNPCだった可能性があるのではないか。

 より詳しい話を聞こうと思ったが、今は時間が無くそもそもイミーナも純粋なエルフではないので詳しくは知らないとのこと。

 しかし今蜂起しているエルフ達ならば詳しい事情を知っているはずだ。と彼女は告げた。

 この瞬間アインズとイミーナの目的が一致したことになる。

 ユグドラシルに関係しているかも知れない情報源の確保は重要な案件だ。

 今回の作戦におけるタイムリミットはジルクニフ達の準備が整うまでの半日ほどだ。

 それまでにアインズはエルフを無力化しジルクニフの下に戻らなくてはならない。

 フォーサイトさえいなければいくらでも方法はあるのだが、その意味では邪魔な存在だ。

 どうにか着いて来させないように出来ないかと画策したのだがアインズの頭脳では良い方法は思いつかず、結局成功した場合もっとも簡単で早期に解決出来そうなイミーナの案を採用することにした。

 うまくすればその場で情報を得られるかもしれないという打算もある。

 

「そして我々が向かう場所だが、君たちはまだ聞いていないな? この辺りにある貴族の邸宅に立て籠もっているらしい。そして理由は不明だが、帝城周辺にのみいるはずの悪魔達がこの付近にだけ姿を見せているという報告もある」

 頭の中で作戦を整理しながら、ここにきて初めてフォーサイトにも目的地を伝える。

 この悪魔達は元々のデミウルゴスの作戦に組み込まれていた者達で、その出現場所とエルフ達の立て籠もっている館が同じ区画にあったため、アインズもこれがデミウルゴスの作戦であると確信出来たのだ。

 これがあったからこそ、ジルクニフはすんなりとアインズを派遣する気になったとも言える。

 今まで帝城の周りから逃げ出そうとする者を襲う以外の行動を取っていなかった悪魔達が現れた以上、そこに何か重要なものがあるのかも知れないと考えたのだろう、事実そこにはデミウルゴスも来ているはずなのでそれは正しい。

 

「っ!」

 そんなことを考えながら帝都の地図を広げて場所を指し示すと、それまで無表情にアインズを見ていたアルシェが息を呑み、驚愕を露わにした。

 

「あの、ゴウン……様。頼みがある」

 今まで無言を貫いていたアルシェが怖ず怖ずと口を開く。馬車の中でも淡々としていた彼女らしくない態度だが、アインズは特に指摘することなく無言で顎をしゃくり、続きを促した。

 

「私を斥候として先に行かせて欲しい」

 

「……それは君たちフォーサイトが、ということかね?」

 

「違う。私だけで良い」

 

「アルシェ? 何言ってんだ。魔法詠唱者(マジック・キャスター)のお前が斥候に出てどうするってんだ。何より帝都の中にはどこに悪魔がいるかもわからねぇんだぞ。行くなら俺達も」

 

「いい。あの辺りには私が一番詳しい。一人で大丈夫」

 

「いやしかしだな」

 ヘッケランというフォーサイトのリーダーが慌てたように止める。

 

(何だ仲良さそうなチームだと思ったけど。やはり俺の仲間達のようにはいかないな……いやこっちはこっちでみんなかなり自由人だったけど)

 どちらも譲らずに言い合いに発展しかけている二人を見ながらそんなことを考えてしまう自分に、空虚な胸に黒い何かか溜まっていくのを感じる。

 その思いがこれ以上二人のやりとりを見ていることを拒絶させ、アインズはその場で大仰に手を振って話を中断させた。

 

「そこまでにしてもらおうか。フルト嬢、理由を言いたまえ。君は何のためにそこに行きたがっている? そこに何がある?」

 

「……その近辺は私の実家があります」

 言いづらそうに告げるアルシェにアインズは納得する。この辺りは帝都の高級住宅街、元とは言え帝国の貴族だったらしいアルシェの家があっても不思議はない。

 

「なるほど、家族を助けたいということか」

 

「──妹が、いる」

 長い沈黙の後、アルシェがぽつりと呟いた。

 ややばつが悪そうな態度であり、先ほどまでの頑なさの理由も分かった。あくまで個人的なことなので仲間を巻き込みたくなかったのだろう。

 確かにそうした個人的感情での行動は全体の不利益へと繋がる。

 

(さてどうしたものか。こいつらの心証を上げるだけなら俺も手伝ってやれば済むけど、それで何か問題が起こったら皇帝の方からの評価が下がりそうだしな。放っておくか? コイツ等がいなくなればもっと楽に動けるようになるし、独断先行を許したというだけでコイツ等に手を貸したことにはなるし)

 この手の連中はなんだかんだ言って最終的にはアルシェ一人で行動させるような事はしないはずだ。

 本来であれば雇い主であるジルクニフの命令を無視して個人的な行動を取ろうとするだけで問題であり、アルシェもそれが分かっているからこそ、仲間を巻き込むまいと一人で行こうとしているのだろう。

 ならばそれを見逃すだけでフォーサイトにとってはアインズに貸しになるはずだ。

 そう考えてアインズはリーダーであるヘッケランに視線を向ける。

 

「ゴウン殿」

 ヘッケランに声を掛ける前に、アインズの横から声が掛かった。

 

「何かね」

 声を掛けてきたのは、ここまでの旅路で最もアインズとコミュニケーションを取ってきた神官のロバーデイクだった。

 急な問いかけに慌てそうになる自分を律し、アインズは威厳を保ったままそちらに体を向けなおす。

 その瞬間、ロバーデイクは深々と頭を下げた。

 

「無理を押してお願い致します。彼女の、アルシェさんのご家族を助ける為に手を貸しては頂けないでしょうか?」

 

「ロバー!?」

 仲間達にとっても彼の提案は想定外だったらしく、ヘッケランも声を上げるがそれも一瞬であり、彼もまた直ぐにロバーデイクと同じように頭を下げた。

 

「俺からも頼む、いや頼みます。無駄な寄り道だとは分かってはいるが、アンタの実力なら何の問題もないはずだ。金は勿論払う、だから」

 

「それはチームの総意と受け取っていいのか?」

 リーダーであるヘッケランが頭を下げたとはいえ、このチームの力関係は全員平等に近いのは何となく理解している。

 だからこそ、残りのメンバーであるイミーナとアルシェにも確認するが、イミーナは直ぐに頭を縦に振り、その後二人よりは控えめに頭を下げた。

 

 残ったアルシェは手にした杖を一度強く握りしめた後、震える声で口を開いた。

「お願いします。妹を助けて下さい」

 自分達の力のなさを認めることでもあり、仲間達に迷惑をかけることにもなると分かっていながらも、それでも家族を優先しアルシェは深く頭を下げることを選択した。

 そうした己より優先するものがあるという思いはアインズにも理解出来る。

 かつての仲間達がそうであり、彼らと共に作り上げたナザリック地下大墳墓。そして今は彼らが作り上げた子供とも言えるNPCたちもそうだ。自分と皆が安全に、そして幸せに暮らすこと。そのためならアインズはどんなことでもするつもりだ。

 

「……良かろう。では先にフルト嬢の家族を救出することとしよう。ただし私にも出来ることと出来ないことがある。先ずは既に手遅れになっていないか、確認と行こうか」

 

「……ッ!」

 アインズの言葉が配慮不足だと思ったのか、即座激昂し声を荒らげかけるイミーナだったが、直ぐに押し殺したような唸り声と共に言葉を押さえる。

 確かに配慮の欠けた言葉だったかも知れない。どうにもこの体になってから、他人に気を遣うということが難しくなってきている。

 これもアンデッドに精神を引っ張られた弊害だろう。

 

「<千里眼(クレアボヤンス)>は使えるか?」

 アルシェは無言で首を振る。

 

(まぁそうだろうな)

 以前ナーベラルにも教えたが、アインズがかつての仲間、ぷにっと萌えから伝授された誰でも楽々PK術は、基本的に戦いを始める前にいかに相手の情報を集めるか、にかかっている。

 だからそれを可能とするために、補助魔法かあるいはそれを込めた巻物(スクロール)を大量に用意するのが基本であったが、この世界でそこまでする者たちには出会ったことがない。

 冒険者などはミスをすればそのまま命の危機に直結するのだからもっと慎重に行動すればいいものをと思わないでもないが、アインズがわざわざそんなことを言う必要はない。

 今回も本来なら防御対策に魔法をいくつも発動させるところだが、相手がデミウルゴスの用意した悪魔たちなのだからそこまでしなくとも良いだろう。

 アインズはマーレに預けていた荷物入れを受け取ると中から巻物(スクロール)を一本取り出す。

 

「ではこれを使って先ずは家の様子を見ると良い。私が代わっても良いが、正確な位置を知る君の方がうまく使えるだろう」

 受け取った<千里眼(クレアボヤンス)>の巻物(スクロール)を疑う様子もなく使用しようとするアルシェにアインズは忠告する。

 

「何が見えても取り乱さないよう心の準備をしておくことだ」

 先ほど無神経なことを言った詫びのつもりだったが、アルシェはその言葉に嫌な想像でもしたのか手を震わせながら巻物(スクロール)を持ち上げる。

 

「<千里眼(クレアボヤンス)>」

 熱を持たない炎が巻物(スクロール)を燃やし尽くし、少しの間周囲に緊張感を伴った無言が広がる。

 フォーサイトの面々がアルシェを心配そうに見つめているのが分かる。

 やや時間を置いた後アルシェが息を呑む音が生々しく響いたが、声は上がらない。

 そのまま室内を隅々まで確認しているのだろう。何かを探すように顔が小さく動いている。

 少なくとも目立つところに死体などは無かったようだ。

 

「いた。ウレイ! クーデ!」

 鋭い声と同時に緊張感が薄れる。

 無駄足にはならなそうだ。とアインズも僅かに安堵する。

 魔法の効果を切ったアルシェがようやく安心したように息を吐く。

 

「妹達は二人とも無事みたい」

 

「良かったじゃねぇか」

 

「でも……両親はいない、二人を置いて逃げたのかも。あの二人なら、やりかねない」

 続く言葉に再び場の空気が重くなりかけるが、他ならぬアルシェ自身が空気を変えるように手に持った杖で地面を突いた。

 

「あの二人はもう良い。とにかく急がないと、二人とも怖がってた。早く助けたい」

 

「そうね。急ぎましょう。私が先行するからみんな用意は良い?」

 

「おう。早速帝都に進入だ。安心しろ、アルシェの妹たちは必ず俺達が助け出してやる」

 

「ええ。急ぎましょう、ゴウン殿も用意は良いですか?」

 悪魔の巣窟となっている帝都に決死の進入を敢行する。とやる気に満ち溢れたフォーサイトの面々を前にしてアインズは少したじろいてしまう。

 この空気に水を差すのはあまり好ましくはないのだが。余計な手間や時間のロスは出来る限り避けたいのだ。

 何しろこの後エルフ達の鎮圧もあるのだから。

 ゴホン。とわざとらしい咳を一つ落とし、アインズは再び荷物入れに手を伸ばすと別の巻物(スクロール)を取り出しアルシェに渡した。

 

「これは?」

 

「<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>の巻物(スクロール)だ。ある程度の人数と距離ならこれで移動出来る。これでフルト嬢の家まで移動しよう」

 場の空気が一気に冷え込み、アルシェを除いたフォーサイトの面々は気恥ずかしそうに視線を逸らしている。

 それぞれがあのやる気に満ちた言葉を吐く前に、もう少し早く言うべきだったと思うが後の祭りだ。

 

「ありがとうございます。早速」

 

「うむ。使い方は分かるはずだ。我々全員も一緒に転移させることを忘れるな、場合によってはそのままエルフ達の元まで行くことになる」

 アルシェだけはそんな周囲の空気も気づいていないのかそれとも気にする余裕もないのか、アインズから受け取った巻物(スクロール)を強く握りしめ、感謝を示すように深く頭を下げる。

 アインズにとってはありがたい。このままこの空気を無かったことにして進めさせて貰おう。

 

「では皆、フルト嬢の側に。周囲に敵はいないと思うが警戒は怠るな」

 アルシェが小さく頷き再度巻物(スクロール)を発動させると周囲の景色が歪み、一瞬の内に切り替わった。

 

 薄暗い室内。

 それなりに豪華な内装で如何にもな貴族趣味が透けて見える。

 転移は成功したのだろうか。とアルシェに問いかける間もなく、彼女はその場で妹たちの名前を呼びながら走り出してしまった。

 

「アルシェ! 先走るな!」

 慌てたようにヘッケランが後を追いかける。

 どうやら成功したと見て間違いないようだ。その様子を見送ってから、アインズは改めて室内を見回す。ここは玄関に繋がる廊下のような位置なのだろう。

 アルシェが駆け出して行った方とは逆側にこちらも如何にもな豪勢な造りの玄関ホールが広がっている。

 灯りのついていないホールには唯一破壊された玄関扉から漏れる外の光だけが光源となり周囲を照らしていた。

 アインズはアンデッドの特性である闇視(ダークヴィジョン)のお陰で苦もなくそちらに向かって歩き出した。

 

「ちょっと。私が先行するから、勝手に出歩かないで、下さい」

 そんなアインズの行動をイミーナが取って付けたように敬語で止める。こうして諫められるというのはなかなか新鮮だ。

 故にアインズとしては別に問題視するつもりはないが、片時も隣を離れようとしないマーレの瞳がじっとイミーナに向けられている。

 不敬だとか考えているのなら色々と危険なので落ち着かせておこう。

 

「これは済まないことをした。しかし私はこの後陛下を守るために前線に立つ身だ、守って貰ってばかりでは意味がない。君達は自分達の身を守っていればそれで良い」

 

「……私たちは陛下から御身の護衛も任せられていますので、お二人とも我々がしっかりと守らせていただきます」

 何か言いたげなイミーナとアインズの間に割って入るようにロバーデイクが顔を覗かせる。

 どうもこのチームは彼が調整役となり、周囲との交渉や橋渡しを行っているらしい。

 そう考えるとかつての自分と似たような立ち位置ということもあって多少親近感が湧く。

 

「そうか。陛下からの心遣いであれば受け取らないわけにもいかないな。では先行を頼もう。フルト嬢が戻る前に館内を確認し他に人がいないか、敵が隠れていないかを確認した後、ここを拠点にさせて貰おうじゃないか」

 苦労人であろうロバーデイクの顔を立ててやることとし、アインズは先頭をイミーナに譲る。

 彼女は黙って短剣を構え、周囲を注意深く観察しながら先頭を進んでいく。

 無言のまま頭を下げるロバーデイクに気にするなというように手を振り、アインズもその後に続いた。

 

 結果から言うと館の中に他の生存者はいなかった。

 扉が破壊されているところを見るに、既に悪魔たちによって連れ去られた後なのだろう。

 そうなると何故妹たちだけ残されたのかという疑問が出るが、こちらの状況は定期的にユリがデミウルゴスに報告しているはずなので、気を利かせてくれたのかも知れない。

 どうもアルシェは両親とは不仲だったようなので特に気にした様子はなく、ただただ妹達が無事だったことを安堵し喜んでいるようだった。

 それとも単に強がっているだけか。

 そんなことを考えながら、アインズは応接室に全員揃ってから話し始めた。

 

「先ずはフルト嬢の家族が無事だったことを素直に喜ぼう。だが状況は逼迫している。今から直ぐにでもエルフ達の下に行こうと思うが異論はあるかね?」

 泣きつかれたのか、アルシェを真ん中にして左右にくっついたまま幼い姉妹はソファの上で小さな寝息を立てている。

 

「そりゃ勿論。と言いたいところですが、アルシェ、その二人はどうする? この辺りの地理を知っているお前には着いてきて貰いたいが、妹たちも一緒にと言うわけにもいかんだろ」

 

「……出来れば安全なところまで連れていきたい」

 アルシェの目がちらりとこちらに移る。

 転移で帝国の駐屯地まで運んで欲しいとでも言いたいのだろう。

 正直転移程度なら何度使っても大してMPを消費しないので問題無いのだが、周囲にはあの魔法を数回しか使えないことにしているし、なにより何でもかんでも頼られるのも面倒だ、巻物(スクロール)も消耗品なのでこれ以上使わせたくはない。

 

「申し訳ないが私の魔力は切り札用にとって置かなくてはならない、巻物(スクロール)も転移はもうストックが無いのでな」

 

「……分かっています。ではせめてここにいる誰か一人残って守って欲しい、迷惑なのは分かっているけど」

 

「バーカ。そもそもここまで来て放っておくくらいなら最初から助けになんか来るかよ。ゴウン殿、どうだろう。ロバーデイクをここに置いてこの二人の護衛をして貰おうと思うんだが」

 わざわざアインズに許可を取るのは今回フォーサイトは皇帝の命令でアインズとマーレを護衛する為に付けられたからだろう。

 アインズの護衛を一人とはいえここに残すとなれば護衛対象であるアインズの許可がいるということだ。

 ここだ。とアインズは思いつきをそのまま口にする。

 

「いや、この地に現れた悪魔は正直に言って君たち全員が揃っていても危険なほどの強さだ。君たちのチームは全員ここに残った方が良い」

 そう。フォーサイトさえいなければアインズが取れる手段は一気に増える。デミウルゴスに連絡を取って現状の説明をし、これが本当に作戦の一部なのかも確認したいところだ。

 最悪の場合は、エルフの館に着いてからフォーサイトには不慮の事故で退場してもらおうと考えていたがそれでは折角力を貸した意味がないし、ジルクニフからも疑われる。

 だから彼らの意志でここに残ってもらう。

 フォーサイトからすればアルシェの妹を助けた時点でジルクニフに逆らっているようなものなのだから、アインズとの口裏合わせにも協力してくれるだろう。

 

「いや、しかし。二人だけでは何かあったときに」

 

「不要だ。はっきり言ってしまえば、君たちがいない方が私にとっては気楽なのだよ。君たちにもあるのだろうが私にも切り札がある。人前では使えないようなものがね、君たちがいてはそれが使えん」

 冒険者は上位の者達ほど自分達の情報を隠したがる傾向にあると聞く。

 ワーカーも似たようなものだろう。

 

「なるほど。そりゃそうだ。まあこっちも既に皇帝陛下から頼まれた仕事を無視しているようなもんだしな。分かった、俺たちはここに残る」

 ガリガリと頭を掻きながらリーダーであるヘッケランが言う。

 口調が荒くなったのは、こちらを信用したという意味なのだろうか。

 

「ヘッケラン!」

 イミーナだけは反対なのか、キツい口調でヘッケランに詰め寄るが、自分の大声でアルシェの妹たちを起こすのを心配したのか、慌てたように口を塞ぐ。

 

「心配はいらんよ。出来る限り武力による制圧はしないでおくとしよう。私ならばそれぐらいのことは造作もない」

 

「…………お願いします」

 長い沈黙の後、諦めたようなため息とともにイミーナが頭を下げる。

 それに手を振って応えてから、アインズは改めて部屋の中とフォーサイトのメンバーを見回した。

 彼らの装備や強さはこの世界ではそれなりなのだろうが、アインズから見ればゴミも同然、今この周辺に来ている悪魔達は手早く人間や資材を回収するためそれなりに強い悪魔が来ているはずだ。

 実際ここに攻め込まれたら彼ら程度では全滅は必至だろう。

 デミウルゴスに頼んでここに悪魔達が来ないように伝えても良いが、先にあれこれ注文を付けるといざ会って計画を確認した時にその意図を説明する必要があるかもしれない。

 仕方ない、せめてこれぐらいは。

 

「私からも後ほど一つ防御系の魔法をかけよう。フルト嬢の妹たちはそこに入れておけばいざという時でも身を守れるだろう」

 いつかカルネ村のあの姉妹にかけた魔法を今回も使用しておこう。

 せっかく助けたのに死なれては勿体ない。何か使い道があるかも知れないのだから。

 そんなアインズの言葉にどんな勘違いをしたのか、フォーサイトのメンバーは全員揃って頭を下げてアインズに感謝を示した。

 同時にもう一つプレゼントを贈ることにする。

 

「よし。ではついでだ。君たちにもいくつかアイテムや武具も貸し出そう。これを使用し私が戻るまでここを守ってくれ」

 フォーサイトには帝国側での店の武具やアイテムの宣伝をして貰おう。

 とはいえ色々と手間を掛けて手に入れたドワーフの武具は思ったよりも強くはなく、上位の品がアインズが店に並べている装飾メインの武具と大差ないもので多少肩すかしを食らった気分だが、この世界基準ならこれで十分だろう。

 もっと強い武器が必要になったら、既に廃れた技術であり人間達からは強さが分からないだろうルーン武器と偽って、手持ちの微妙なユグドラシル産武器を貸し出した方が良い宣伝になるかも知れないな。

 そんなことを考えながらいくつかのアイテム、武具を取り出しテーブルの上に並べはじめた。




ということで次はデミウルゴスとの作戦会議
元々は一話に纏めようとしていたのですが長くなったので切りました
次の話は半分くらい書き終わっているので一週間はかからず投稿できるかと思います……多分

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