幻想郷が思ったよりも過酷な件について   作:ララウ

3 / 3
後日談的なアレ

 戦いは終決し、八雲紫ことゆかりんがレミリアと話をつけてくれた。

 そこに関しては仕事をしてくれたが、なんであんな、レミリアをけしかけるようなことをしたのか問い詰めたら素直に謝ってくれた。

 素直に謝るとは思わなかったから正直びっくりした。まぁ謝るぐらいならするなと言いたいけど。

 それと膝枕を頼もうなんて考えてたけど、普通に考えてそんな事頼めないとその時になって気づいて、結局なにもご褒美なしになった。悲しい。

 レミリアから受けた傷はかなり酷かったが、ある意味怪我には慣れているからな。修行とか妖怪退治とかで。

 傷口は筋肉で血管を圧迫し、その間に細胞を促進させる魔法で傷口を再生させる事でなんとかした。

 我ながら人外じみた行為をしていると思う。

 

 まぁ、それはそれとして、なぜか紫の俺を見る目が日に日に怯えが混じっているのは気のせいだと信じたい。

 

 美女に距離取られるってかなり傷つくわ。あ、そうそう、距離を取られると言えば、里の皆もなんか距離感微妙にまた遠くなった気がする。

 いつも通り妖怪と戦って帰ったら「なんで生きてるんだ?」とか「ありゃあ人間の皮を被った妖怪じゃあ」とか、好き放題言ってくれるよ。全く。

 唯一慧音だけは俺の事を労ってくれたのが救い。貴女は私の女神か。

 まぁ、若干顔を引き攣らせていたのが気になったが……。

 

 里の居づらい雰囲気にどっか他の所に行くか、となって気づいた。そう言えば紅魔館で酒を奢ってくれるって言ってたじゃん。しかもいつ来てもいいとか言っていたし、これは行くしかないと思って、はい、紅魔館に来ちゃいました。

 

「ほんとに来るんですね……」

 

 門の前に現れた俺に、美鈴が呆れた視線を向ける。

 だって、よくよく気づいたら俺って友人いないし、里ではあんな感じだし、妖怪にも怯えられるし、あれ? 俺ってかなりぼっちなんじゃ……考えちゃいけない(戒め)

 

「まぁただ酒飲めるしな」

「わからない人ですね」

 

 苦笑交じりに言う美鈴に、俺もまた苦笑で返す。

 いや、確かに争い合ったのになに暢気に来てんだよって呆れる気持ちはわかるよ?

 けど、現在ぼっちの俺にはそんな理由で引き下がる訳にはいかんのだよ。

 

「あ、そういえば傷の方はもう大丈夫なのか?」

「勿論、一晩寝れば大抵の傷は癒えますからね」

 

 にっこり笑みを作る彼女に、俺は心の中で安堵する。

 幾ら急所を外したとはいっても、人間なら致命傷の傷だったからな。美鈴が妖怪で良かった。

 

「あの戦いは心が躍りました。良かったら模擬戦でもいいのでまたやりませんか?」

「まぁ機会があったらな」

 

 きっとですよ! なんて美鈴に明るい顔で言われて、おじさんちょっとキュンとした。美人の笑顔は何よりもいいね。

 まぁ、あんな戦いは出来たら遠慮したいのが本音なんだがな。

 神経研ぎすませて戦うのは本当に疲れる。

 美鈴は達人故に隙がないから余計にね。

 けど……あんな純粋な瞳で見られたら、断りづらい……。

 

「では、我が主の部屋までお連れします。勝蔵さん」

 

 これから先、模擬戦を挑まれたらどうしようか悩んでいる間に、門を開いて、こちらに笑顔を向ける美鈴を見たら、なんかどうでもよくなってきた。

 諦めた訳ではない。諦めた訳ではないのだ……。

 

 

 

 ★    ★

 

 

 

 魔女と吸血鬼、そして人間である男、計三人は机を囲んで紅茶を飲んでいた。レミリアの傍には咲夜が直立不動でいる。

 魔女『パチュリー・ノーレッジ』は目の前の人間、勝蔵と初めて対面するが、実を言うと、彼を見たのはこれが二度目。一度目はレミリアが勝蔵と戦っている姿を八雲紫のスキマから観戦させてもらい知っている。

 八雲が何を考えて自分にあの戦いを見せたかはわからないが、彼に興味を持たせるという事なら成功しているだろう。

 彼の異常な、それこそ人間とは思えない力と精神、それに加えて魔法を扱う特異性。

 本来魔法を扱う者、即ち魔法使いは探究心の強い者で、必要のないものには大体頓着しないものだ。

 この男は魔法を扱えるだけでなく、尋常じゃない努力で手に入れた刀の技術と肉体を持っている。

 そして、これは推測の域を出ないが、彼は捨虫(しゃちゅう)の魔法と捨食(しゃしょく)の魔法を使えるのに使っていない。

 もしこの推測が間違っていなければ彼は魔法使いではなく、魔法が使える“ただの人間”である。

 

 あの戦いを見たからわかるが、彼の魔法の技術は侮れない。

 捨虫の魔法も捨食の魔法も使えるはず、なのに使わない。

 パチュリーにとって、それは理解し難い考えであるが、だからこそ彼を知りたいという好奇心が触発される。

 彼の考え、扱える魔法、知識、知りたいと思うこの気持ちは紛れもなく魔法使いらしい探究心である。

 

「酒じゃないのか……」

「まだ時間が早い。どうせ暇をしているのだろう?」

「まぁ、そうだが」

 

 不満そうな顔をする勝蔵にレミリアは気品のある仕草で紅茶を飲む。

 その様子を見て、パチュリーは今更ながら、勝蔵という男が如何に肝が座っているか理解する。

 吸血鬼、それも上位の存在であるレミリアに気負った様子もなく、まるで友人のよう、いや、もう彼の中ではレミリアは友人の扱いなのかもしれない。

 

「なら酒が入る前に、貴方に聞きたい事があるのだけれど」

「ん? 俺にか?」

「えぇ。質問の前にまずは自己紹介といきましょうか。私はパチュリー・ノーレッジ。ここで大図書館を管理しているわ」

「知っているとは思うが、俺は御門 勝蔵だ。んで、質問っていうのは?」

「そうね……貴方は魔法が扱えるようだけど、捨虫の魔法と捨食の魔法は使えるのかしら?」

 

 彼がどう答えるかはおよそ予想できるが、これは確認のため。

 

「使えるが、俺は使う気にはならんよ」

「それはどうしてかしら?」

 

 冷静を装いながらも、パチュリーの視線は勝蔵に固定される。

 

「使ったら魔法使いになっちまう。俺はあくまで人間でいたいからな。それに、不老なんかに興味はない。限りある命で精一杯生きられたらそれでいいのさ」

「……そう」

 

 考えついた答えとそう変わらない返答に、パチュリーは頷く。

 魔法使いである自分では絶対に考えられない選択。

 彼にも魔法使いのような探究心があるのだろう。だが、それは全てを投げ打ってまでしようとは思えない事のようだ。

 面白い人間、それがパチュリー・ノーレッジが思った素直な感想だった。

 

「では、次の質問に移るわ。貴方は“妖怪をどう思う”のかしら?」

「妖怪をどう思うか、ねぇ」

 

 パチュリーの質問に勝蔵は難しい表情を見せる。

 この質問は八雲紫から頼まれたものだ。

 レミリアが勝蔵と戦っている間に、八雲紫とパチュリーは対談していた。

 今回の争いの落とし所と、幻想郷でのルールの説明、今後の身の振り方、そしてあの男、勝蔵に関する話。

 なぜ自分に? という疑問はあったが、八雲に「あの吸血鬼と話すよりも、貴女の方が円滑に話が進むと思ったから」などと言われて納得する。レミリアが話を聞かない時はトコトン聞かない。経験済みだからわかることだ。

 しかし、だからといってこちらに全て丸投げはどうかとパチュリーは思った。

 あの後、レミリアに八雲からの伝言を伝えたら、それはもう不満丸出しで困ったのだが。

 

 思い出したくもない事を思い出し、若干憂鬱になりながらもパチュリーは彼の答えを待つ。

 数秒、思考の後、彼は口を開いた。

 

「妖怪が悪とは思っていない。例え妖怪に人間が食い殺されることはあれど、それだけで悪とは思わない。人間だって家畜から命を貰っているのだから当然の考えだ」

「もしその捕食の対象が、大切にしている存在であっても?」

 

 それはちょっとした、この人間に対する悪戯、この質問にはどう答えるのか? そんな軽い気持ちで問いを投げかけた。

 

「……ふぅ」

 

 温度が下がった。まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚、ただ溜息を吐いただけなのに、額から冷や汗が流れる。

 

「勝蔵、親友をあまり虐めてやるな」

「んあ? 別に虐めてはいないんだがな……」

 

 レミリアの言葉に勝蔵が気まずそうな表情で返す姿は、先程の重圧は感じられない。

 好奇心は猫を殺すというが、まさに今、自分がそれを体験をしたのかもしれない。

 流れた汗を咲夜から借りた布で拭う。

 

「勝蔵は本当に人間なのか?」

「いや、どっからどう見ても人間だろ」

「吸血鬼を単身で、しかも力ずくで打ち負かしたというのが付くがな」

 

 心底楽しそうに話すレミリアに、勝蔵は困ったような顔で頬を掻く。

 この仕草、態度だけを見れば、そこらの人間と然程変わらない。

 だが、内に秘めたモノは、凶暴な獣を飼っている。手を出せば即座にその手を噛み千切る凶悪な獣が。

 

 ――もう一度あの質問をしようとは、思えなかった。

 

 

 ★    ★

 

 

 

 なんかおもっくそ重い空気にちょいビビる俺氏。

 パチュリーの質問に、大切な存在が襲われるという仮定が出された時、真っ先に思ったのは、あれ、俺ってそこまで親しい人って、あんまりいなくね? ということ。

 別に誰一人としていないとか言うわけでもない。俺にだって親しい人が一人や二人はいる。いるさ。

 例えば、例えば……特別親しい人物が思い浮かばない。

 そういえば、小さい頃から修行修行の毎日、人とのコミュニケーションは全くしてない訳じゃなかったが、それでも必要最低限であったことは確か。

 今思えば、里の人が俺によそよそしい理由がよく分かる。

 小さい子どもが黙々と筋トレ、刀術の鍛錬、魔法の研究なんてしているのを見たら、そりゃあ避けるわ。

 

 思わず溜息が出たら、なんかレミリアからはパチュリー虐めるなとか言われるしでびっくり。

 てかちゃんと質問に対する答えを言ってなかったけど、まぁ、流れたようだしいいか。

 パチュリーももう話すことはないって感じで魔導書を読んでるしね。

 

「なぁ勝蔵。貴様はどうして強くなろうと思ったのだ?」

「う~ん、それはまぁ、死にたくないからだな」

「死にたくないから? 里にいれば安全なのにか?」

「今はな。昔は里の中にいても確実に安全が確保されていた訳じゃなかった」

「ふむ、そうか」

 

 納得した表情で頷くレミリアは、それから続ける。

 

「ならば話を少し変えよう。私の執事にならないか?」

「は?」

 

 レミリアの言葉に、俺は間抜け面を晒してしまう。

 

「なに、別に眷属になる必要もない。私の傍にいればそれだけでいい」

「いや、いやいや、ちょっと待て!」

 

 突然の勧誘に俺は戸惑いを隠せない。なんで自分を殺せる人間を傍に起きたがるんだ。

 何よりも、レミリアの好感度が高いのが不可解だ。えっと、貴女殺し合いしましたよね?

 なして俺を執事にしたいと思ったのか、全然わからんが、取り敢えず無難に断ろう。

 

「誘いは嬉しいが、俺は一人で居たほうが何かと気楽でな。申し訳ないが断らせていただくよ」

「むぅ、そうか。それは残念だ」

 

 意外にもすぐに引き下がる所をみると、頷けば儲けもの、断られても気にしないって感じか。いやぁここで粘られたら困るから助かった。

 いやね、このお誘いは俺としては嬉しいんだよ。ぼっちの人生を気づいていたら歩んでいた俺にはな。

 けど、ここで頷けばある問題が起きる。

 それは、紅魔館メンバーとの仲、正直レミリア以外のメンツは俺のことをあまり良い感情を持っていない。まぁ、それが普通なんだけどな。俺は襲撃者であるから。

 流石に一緒に働く仲間から白い目で見られるのは、俺のガラスのハートには厳しいわ。

 

「では、時々でいいから我が館に来てくれ。勝蔵、貴様と話すのは存外に楽しいのだ」

「まぁそれぐらいならお安い御用だが」

「言質は取ったぞ。全く来なかったら、わかっているな?」

 

 赤い瞳が光る。レミリアたん怖い……。

 

「ふむ、そろそろいい時間か。咲夜」

「はい、お嬢様」

 

 名前を呼んだだけで、咲夜はレミリアが何を求めているのかわかったのか、その手にはワインとグラス、ちょっとしたつまみをお盆の上に飾られていた。

 時間停止か、便利な能力だなぁ。

 俺が関心している間に、咲夜はテキパキとお盆の上にある物を机の上に並べていく。

 

「今更だが、ワインは飲めるか?」

「問題ない」

「なら、グラスを持て」

 

 レミリアの言葉に従い、俺は上品なワイングラスを手に持つ。

 

「この出会いを祝して」

 

 その言葉と共にレミリアはクイッとワインを喉に通す。

 その隣でパチュリーも同じようにワインを飲む。

 俺も二人と同様に香りの強いワインを口にする。

 

 おぉ、これはかなりアルコールが強い。だが、後味がしつこくなく、飲みやすいな。それに美味い。

 良いワインだ。

 満足気に一人頷いていると、レミリアが笑う。

 

「ふふ、良いワインだろう?」

「あぁ、最高だ」

「それは良かった」

 

 お互いどちらともなく笑いながら、俺はふと思う。少女がワインを飲んでいる姿ってなんか凄いな。

 相手は妖怪ってわかっていても外見がこう、幼いとな。

 第三者からしたら結構おかしな光景の中、俺と二人の少女はそれからしばらく他愛のない話をして楽しんだ。

 

 

 

 

 ★    ★

 

 

 

 

「帰ったか」

「はい。お嬢様」

 

 あれから時間は経ち、深夜に近い時間、少々足取りが危ないが意識はしっかりしていた勝蔵にこの館に泊まってはどうだとレミリアが聞いたが、彼は問題ないの一点張りで、そのままふらふらと危なげに帰っていった。パチュリーは途中で退席したため、今はレミリアと咲夜の二人だけが部屋にいた。

 レミリアは彼が座っていた椅子を撫でながら、咲夜に問う。

 

「不満か?」

「……どういうことでしょう」

「そのままの意味だ」

 

 わかっているのだろ? そう言外に言うレミリアに、咲夜は観念した。主に嘘は吐けない。

 

「正直、そこまでお嬢様が気にいるとは思いませんでした」

「ククッ……嫉妬か?」

「っ!?」

 

 まさかそのようなことを言われると思わなかった咲夜は、驚き、見透かされた事への羞恥、他にも色々と感情がごちゃ混ぜになり、どう反応すればいいかわからずにいると、レミリアは咲夜に近づき、咲夜の頬に手を伸ばす。

 

「なに、私の一番はお前だ。案ずるな」

「お嬢様……」

 

 咲夜の頬を撫で、レミリアは妖艶に微笑む。

 

「あの男は謂わば駒、利用できる一つの駒。あの男をこの館に呼ぶ事で、私と繋がっているということが示せる。それだけで八雲は動きづらくなるだろうさ。勝蔵を痛く気にしているようだからな」

「そのために?」

「まぁ、それもあるが、私個人としてもあの男は気に入ってはいるからな。遊び甲斐のある人間を見つけた」

 

 新しい玩具を見つけた時の子供の様に、瞳を輝かせる主に、咲夜は先程まであった不満はなくなったが、次に勝蔵という男を哀れに思った。

 こういう顔をした時のレミリアは、必ずと言っていいほど、良からぬことを考えている。

 咲夜は密かに、つぎ勝蔵が来た時、対応を前よりも優しくしてあげようと思った。




次の投稿は来週の土日か、再来週の土日になります。
明日から実習期間なので……。
それまで楽しみに待って頂ければと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。