朱に交われば紅くなる【完結】   作:9.21

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もうすぐ2期が始まりますねぇ……(*´-`)


中身まで似ていて

 ルビィの後ろをついていって数分。どこに連れて行かれたかと思えば、俺たちを待ち受けていたのはズシリとした重たい扉。てっきり1年の教室に連れていかれると思ってたんだが、どうも違うようだ。

 ルビィがドアを開くと、そこに広がるのは無数の本、本、本。言うまでもなく、俺たちがいるのは図書館だ。正直、1年時の学校施設紹介で校内を回った以来、ここに来た記憶がないが。ルビィが迷わずここに来たと言うことは、本好きな子なのだろうか。

 当然だが、図書館内の生徒は皆が皆読書に耽っており、新しく入ってきた俺たちに興味を向けることもない。ほんと、ここは息が詰まりそう。賑やかな場所も苦手だが、こういった場所も得意ではない。ものすごくワガママなのは放っておいて。

 俺たちが入り口付近で立ち止まっていると、唯一目をかけてくれたものが1人。茶髪のふわっとしたロングが特徴の、見るからにおっとりとした少女。茶色の瞳がルビィを捉えると、嬉しそうにこちらへ駆け寄ってきた。どうやら、この子で間違いないようだ。

 

 

 

花丸(はなまる)ちゃーん!!」

「あ、ルビィちゃん。さっきぶりずら。と、んん~? ルビィちゃん、その隣の人は誰ずら」

 

 ルビィに笑顔で対応してすぐに一転。花丸、と呼ばれた少女は俺を怪訝そうに見つめる。なんでコイツ急に真顔になったんだよ。こえぇよ。そんな品定めするように見らんでくれ。

 よくよく考えれば、ルビィは人見知り。特に、男性恐怖症だった。友人であろう彼女が俺を怪しむのは、ある意味至極当然――だとしても少し辛い。こんな所に連れてこられた挙げ句、どうして見ず知らずのヤツに警戒されなければいけないのか。

 まぁ、俺が何か言うのは得策ではないだろうし。ここはルビィに任せるとしよう。

 

「えっと、この人はルビィの……。あれ、なんだろ? お友達はちょっと違うし、仲良しさんは馴れ馴れしいよね……えーと」

「はっきりするずら。ズバリ、彼氏ずらね?」

「ちっ、違うよぉ!? どっちかと言うと、お兄ちゃんって感じだし……ってそうでもなくて!!」

「お兄ちゃんんんん!?」

 

 ルビィに任せた俺が愚かでした、はい。おかしい、どうしてこうも話が拗れていくのか。ルビィの嘘でさらに困惑したコイツは、俺を恋敵のような目で見てくる。それはもう、肉食獣のように鋭い目で。花丸とかいうほんわかした名前とは、まるで正反対だ。

 大声を出す1年馬鹿2人のせいで、図書館にいる生徒の視線が一斉に集中する。副会長という俺の肩書きも手伝って、非常に目立つ。これでは、帰るにも帰れない。というか、帰りたい。

 

「てことは、ルビィちゃんのお姉さんの彼氏さん!? そうすれば、ゆくゆくはルビィちゃんの義理のお兄さんになるし……間違ってないッ!!」

「話が飛躍しすぎだよぉ!? そんなんでもないってば!!」

「まさか、二股掛けてるずら!?」

「花丸ちゃん、帰って来て!!!!」

 

 考えが危ない方向にいっている友達を現実に返そうと、ルビィは必死に揺する。お前昼ドラの見すぎだわ、バカ野郎。黒澤と良からぬ噂を立てられたりしたら、どう責任取ってくれるんだよ。面倒くさいんだぞアイツ。

 ルビィがいい子だって言うから少しはマシな子かと思ったのに、ルビィとは別のベクトルで厄介な子だ。アイツの身を案じている辺り悪い子だとは思わないけれども、そんな事は今はどうだっていい。早く止めないと、色々な意味で俺がヤバい。

 この場を去ると返って目立つと思っていたが、今はどう見たって留まる方がマイナスが大きいのは明らか。これをどう弁解したものか。腹を括った俺はルビィたちの襟丈を強引に掴むと、有無を言わさずにズルズルと引きずる。周りの目とか気にしてられない。3年男子が、1年女子の襟を掴んで引きずる姿。なんとまぁ、シュールな事か。

 

「真哉さん、痛い痛いッ!! 引っ張らないでぇ~」

「ゆ、誘拐ずらぁ~!!!!」

「お前ら頼むから、もう騒ぎを起こさんでくれ……」

 

 仕方ない事かもしれないが、引きずっている最中でもこの2人は騒ぐ。廊下だから、余計に人の目についてしまった。今度の学級新聞の見出しは『副会長、1年生の女子生徒2人を誘拐!?』に決まりだろうか。ふざけんな。

 

 

 

 ……ハァ、帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆★☆

 

 

 

「何だ、ただの先輩後輩かぁ。焦って損したずら」

「なーにが損しただ。お前が勝手に勘違いしたんだろうが。あんなに大騒ぎしやがって」

「あ、あはは。……すいません、真哉さん。ほら、花丸ちゃんも」

「……ずら。ごめんなさい」

 

 

 

 場所は移り変わり、再び屋上。昨日まで俺以外の誰も知らなかった絶好の隠れ家は、今やこうして溜まり場みたいになっている。いや、まぁ連れてきたのは俺だけれども。ここなら誤解を解くのに誰も見られないだろうし。

 そして俺から真相を聞いたコイツは、拍子抜けたような顔をするだけ。何というか、ルビィとは違って随分と図太い子だ。図書館であれだけ騒いだのにも関わらず、あまり気に留めていない。単に鈍いだけかもしれないが。

 とはいえ、年下の女子2人に頭を下げられて、いつまでも気にしているわけにもいかない。悪気自体はこの子にもなかったようだし。過ぎた事は忘れよう。

 

「はぁ、もういいよ。とりあえず、ルビィの知り合いの先輩っていう認識にしておいてくれ」

「わ、わかったずら。えっと、おら国木田(くにきだ)花丸っていうずら。よろしくお願いします」

「真哉、北谷真哉だ。好きに呼べ」

 

 ルビィの友達、もとい国木田はペコリと頭を下げる。初めのインパクトが強すぎたおかげで変な子のイメージがあったが、それなりに礼儀はあるらしい。そうだとしても、今後『変わったヤツ』のレッテルは中々剥がれないだろうが。

 ルビィと国木田は幼少期からの仲で、親友とも呼べる間柄にあるらしい。ルビィが俺に国木田を紹介する、という面目で図書館に行ったという経緯を話すと、本人はすっかりご満悦の様子だった。

 

「それにしても不思議ずら。ルビィちゃんがマルに男の人を紹介するなんて……。今まで、話している場面すら見たことなかったのに」

「い、言われてみれば確かに……。でも、なんか安心するというか。その、お姉ちゃんみたいに」

 

 怪我の手当てしたり、パンを半分譲ったりしただけだわ。とキッパリ言いたくなったが、喉まで出かかった言葉をグッと抑えた。理由は分からないが、なぜか悲しませると感じたから。いつもは回らない周囲への配慮が、こういう時だけムダに発揮する。

 

「お姉ちゃん? あぁ、黒澤の事ね」

「ルビィちゃん、お姉さんっ子だから」

「うんっ!! 勉強も出来て習い事も全部やってて、生徒会長もしてて。お姉ちゃんは何でも出来るんだぁ……ホントに」

 

 話題はなぜか黒澤ダイヤについてに移る。ルビィが姉の事を好いているのは薄々感じていた。それは当たっていたというのに、彼女が表情を曇らせているのはなぜだ。黒澤の事について話すルビィからは憧れという正の感情と、それとは別の何かを不意に感じた。

 元から自信なぞは微塵にも感じられない彼女であったが、さらにか弱さを思わせる表情。これは何かを抱えている、俺は直感的にそう読み取った。

 

「ルビィちゃん、実は中学校に入る前に習い事を全部止めちゃってて……」

「あぁ、そういうこと」

 

 俺が疑問に感じたのを察してくれたのか、国木田がそっと耳打ちしてくれた。中々に気の回る子だ。そして、ルビィの表情についての謎もある程度合点がいった。

 いわゆる、コンプレックスというヤツだろうか。黒澤の家はかなり大きく、内浦では名家に値するはず。確か、旧網元の家系だったか。その長女として生まれた黒澤は、当然厳しく育てられる。勉学はもちろん、世間に高い教養を示すために多くの習い事まで。実際、生徒会長としての職もしっかりこなすし、成績だって俺よりも上くらいだ。

 そして、その妹のルビィ。黒澤ほどではないにせよ、彼女も幼い頃からそれなりに厳しく育てられてきたはずだ。だが、ルビィは黒澤ほど優秀なわけではなかった。申し訳ないが、付き合いの短い俺にでも分かるほど、コイツはおっちょこちょいでドジな面が多い。予想にすぎないが、習い事も上手くいかなかったのではないか。

 大きな家の娘として生まれたこと、多くの習い事、出来の良すぎるダイヤという姉。それらは全てルビィの重圧となり、彼女にのしかかる。一般家庭に生まれた俺なんかには、到底理解しがたいものだろう。気の利く言葉は見当たらない。

 

「もぉ、ルビィちゃん気にしすぎずら。ルビィちゃんには、ルビィちゃんの良いところがあるんだから」

「う、うん……ありがとう」

 

 国木田がルビィを気遣って声を掛けるも、あまり納得したという感じはしない。無論、国木田の言っていることは間違っていないとは思うのだが。それでも腑に落ちてないのは、自分に対する憤りが大きすぎるのが原因。

 具体性がないのが不満なのか。国木田の言葉は親切ではある。それは間違いないのだが、裏を返せば気休めとも取れてしまう。自分の良いところ、それはどこなのか。自分に自信がなくて、どうすればいいのか。そういった所だと踏んだ。

 ルビィは顔を伏せ、次に俺に視線を向けた。その目は弱々しく、あまりにも儚い。出会って数日しかない俺なんかに、一体何を求めているのか。慰めの言葉? 体の良いアドバイス? どれもしっくり来ない。

 俺はくしゃっと髪を乱暴に掴み、ルビィを見る。たぶん、そこまで真剣に考えた言葉はいらない。いま問題を知った、第三者としての意見を率直に知りたいんだと思う。俺はフゥと息を吐いた。

 

「習い事を止めたってことは、家柄に縛られなくて良いって事だろ。黒澤と同じ事をする必要がないなら、無理してアイツの背中を追う必要もない。好きな事しろよ」

「好きな事……」

 

 割りきった分適当に返したのだが、2人の反応は思ったより良かった。 特に国木田は、うむうむと頷いて賛同してくれている。こんな事で良かった……のか?

 自主的に止めたのか、止めさせられたのか、詳しいことは知らない。だが見込みなしと見捨てられたわけではないだろうし、ルビィの両親にも考えあっての事だろう。だったら、未だに黒澤を追いかける必要はない。目標にするのは勝手だが、比較対象にするのは違うという意味で。

 俺の口にした『好きな事』という単語に、ルビィが強く反応したのを俺は見逃さなかった。口の中で転がすように何度も反芻し、それを大事に包んでいるような。俺は、少し彼女に興味を持った。

 

「心当たりがあるのか? 好きな事」

「はい!! ルビィ、アイドルが大好きで大好きで。なろうとかそんなんじゃないけど、あんな風にキラキラ輝けたらなあって……」

「アイドルいいずら!! ルビィちゃん可愛いし、ピッタリ!!」

「だ、だから無理だよぉ……。見てるだけで幸せだし。あ、でも、衣装作りとかはしてみたいな……なんて」

 

 アイドル。嬉しそうに語るコイツに、俺は邂逅時以来の既視感を覚えた。今でも家にある、手作りのアイドルの衣装。所々焦げていてとても着られるものではないが、俺はそれを未だ捨てられずにいた。

 今からちょうど2年ほど前。学校単位で活動するアイドル、いわゆるスクールアイドルなるものが流行りとなった。その祭典――ラブライブは今でも毎年開催されており、スクールアイドルの甲子園と呼ばれるほど大きな催しになっている。

 当時中学1年生だった俺は、その右手をグイグイ引っ張られて秋葉原の街を練り歩いたものだ。いつもは気弱なアイツは、ことアイドルの事となれば誰よりも熱かった。本当にアイドルが好きで、将来の夢にまで見るほどに。俺も出来る限りの協力はするつもりだったし、楽しみにしていた。

 だが、アイツの夢見てた世界は永遠に見ることが出来なくなった。皮肉にも、ラブライブの決勝を見に行った数日後の出来事。凍てつくような、真冬の朝だった。残ったのは、着られる事の無くなった衣装だけ。

 

 

 

 俺の妹――愛もアイドルが大好きだった。

 

 

 

 




この小説ですが、時系列はアニメ準拠。設定はG'sよりのものにさせてもらいます。ルビィと花丸との関係が中学以前からのものであったり、習い事関連のものはそういうことです。

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