朱に交われば紅くなる【完結】   作:9.21

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遅くなったけど、ルビィちゃん誕生日おめでとう!!
ちなみに、その前日は作者の誕生日だったり。梨子ちゃんとルビィちゃんに挟まれてるぜグヘヘ(関係ない)


つい気になって

「……はぁ」

 

 つい漏れてしまった溜め息に対して、隣の少女はピクリとカラダを震わせた。そのおどおどとした態度に、俺はガクリと項垂れる。せっかくの昼休みで、一人心安らげる場所であるはずの屋上にコイツはやってきた。そりゃあ、気分も萎えるってもんだ。

 俺は手にしたイチゴ味のパンケーキをかじる。仄かな甘酸っぱさが口の中に広がり、少しだけ気が楽になった。広い屋上に、なぜかこじんまりと座る2人。交わされる言葉なんてものはない。ホント、何でこうなったんだっけ……。

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆★☆

 

 

 あの騒がしい入学式から3日。新入生は、そろそろ中学校の1日というものに慣れてくる頃合いか。あるいは小学校以上の厳しさに、既にうんざりしている奴がいるかのどちらか。どちらにせよ、在校生には何て事のない日常だが。

 違いがあるとすれば、授業の量。3年ともなれば、始業式の翌日から普通に授業がある。1年はオリエンテーションやらで1週間くらいは潰れるというのに。今日も校舎見学とやらで廊下を歩く1年を、横目で羨んでいたのは内緒だ。

 そんな辛い授業の前半を終え、迎えるのは昼休み。俺は、チャイムと共に教室を飛び出した。この学校には、他ではあまり見られない珍しい特徴がある。そう、給食がないのだ。必然的に、昼食は購買で買うか弁当を持参するかになる。

 今日の俺は前者。つまり、購買で何か買って食べることになる。ま、パンだとか弁当だとか。だが、これが案外辛い。

 

「……ん、まだ行列にはなってねぇな」

 

 ここの購買、昼休みになるとアホみたいに混むのだ。それはもう、スーパーのタイムセールで主婦達が戦争するみたいに。昼食が懸かっているから当たり前と言えばそうだが、俺は巻き込まれるのはゴメンだ。

 だからこうして、真っ先に購買に駆けつけて必要なものをゲットする。そうして、早々に立ち去るに限るのだ。後で腹を空かせた猿共に揉まれるのは、勘弁願いたいからな。

 俺がパンを買い終えて、レジから出るとほぼ同時だった。廊下から、下の階から、上の階から生徒がどっと押し寄せてきたのだ。それはもう津波みたいに。これだから、昼間の購買は嫌なんだよ。

 俺は隅にある自動販売機で飲み物を2本ほど買いながら、その様子を流し見る。まるで、雛が店員という親鳥に餌をせがんでいるみたい。餌ってのは商品の事な。何とも見ていて滑稽だ。数分遅ければ、自分も雛の仲間入りだったが。

 

「あーあー。男も女もお構いなしかよ」

 

 誇張してもない、紛れもなく戦争状態。こいつらは並ぶって事を知らないんだろうか。レジ前はさすがに整列したみたいになってるが、商品を取るまでは奪い合いみたいになっている。

 っと、あんまりここで時間を潰しているわけにもいかない。良く良く考えれば、レジの清算を終えたら飲み物を買う奴もいるだろう。早いところ退散した方が吉だ。

 未だ混雑している購買は、あぶれた生徒が廊下にまではみ出している。俺は巻き込まれないように、廊下の裾を通るがそれでも狭い。面倒くさい。強引に切り抜けようと、俺は生徒の波を押し退けて進む。

 生徒の多さと空腹で苛立っていたのだろう。少しばかり乱暴に掻き分ける。迷惑そうな目で見られるが、俺はそれを歯牙にもかけずにずんずんと。そうしてようやく抜けられると思った矢先、何かを弾き飛ばしたような感触が手に残った。

 

「きゃっ!?」

 

 人の波からはみ出したのは、俺ともう1人。正確には、俺が突き飛ばして無理やり弾き出したんだが。紅色の髪をツインテールにした幼い見た目の少女。俺はその姿を見て、舌打ちを隠そうともしなかった。

 対してルビィは、青緑の瞳を潤ませて俺を見つめる。少なくとも、文句があるという訳では無さそうだ。そんな柄じゃないし。そのはっきりしない仕草に、俺はまた舌打ちした。いっそのこと、大きな声で罵ってくれればすぐにでもこの場を離れるのに。

 紅色の財布を固く握りしめているから、同じく昼食を買いにでも来たのだろうか。コイツの性格や体つきからして、この仁義なき争いに勝ち抜くのは無理なのは目に見えてるが。

 俺に落ち度があるから、後ろめたいのもある。助けを求めるような無垢な瞳を見るのも辛かった。そこから、俺の選び出される行動は1つ。それは、目を伏せルビィから逃げるようにして、足早にその場を去っていくことだった。

 

 

 

 ……のんびりと昼休みを過ごしたいんだ。許せ。

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆★☆

 

 

 はずだったのに。何故か、またこうして屋上で再会を果たすこととなってしまった。いや、望んでない。コイツも偶然だったのだろうが、どうしてこの場所を探り当てたのか。そして俺という先客がいるのに帰ろうともせず、わざわざ俺の隣に腰かけるのは何故だ。もう頭痛い。

 俺は調達出来たパンケーキをかじりながら、横目でルビィをちらり。特に何かをするでもなく、指をいじいじしては時々俺を見るだけ。じれったいことこの上ない。つか、コイツ何も持ってないな。

 

「お前、飯は?」

「へゃっ? あ、え、えっと……その、売り切れてました」

「あっそ」

 

 結局買えなかったのね。まぁ、俺が帰ろうとした時点で列の後方だったし、予測は出来ていたが。1年生のそれも女子が、あの群れを掻き分けるのは少し酷というもの。

 俺はそれ以上聞くことをせず、ルビィも特に付け加えて話したりはしなかった。屋上は、春風のそよぐ音すら聞き取れるくらい静かだ。あとは、俺の咀嚼する音くらいか。次いで、カフェオレを喉に流し込んだ時。音がする度に隣がピクリと反応しているのは、けして勘違いではないだろうな。

 正直、食べにくい。いちいち反応されたら、そりゃあ気になる。無視したくても、どうしても視界に入ってしまうし。それに加えて隣で腹の鳴る音がされたら、もはやわざとだと疑いたくなるまである。

 コイツはどうしてこう、俺を困らせるのか。それなのに放っておけない自分に、一番困っているのだが。やっぱり、その見た目が全ての元凶だ。アイツに似ているというだけで、こうも甘くなるのか。そうでなければ、こんな1年生相手に……。

 抗えないと悟った俺は、食べかけのパンケーキをそのまま差し出した。ちょうど半分くらいは残ってる。昼飯には物足りないが、何も食べないよりはマシなはずだろ。

 

「あの、真哉さん……?」

「味に飽きたからやる。喰っていいぞ」

 

 無論、嘘だ。わざわざ購買に早く着いたのだから、充分に商品を見定める時間くらいはあった。選んだ品が俺の好きな味なのは必然。実際、このパンケーキは食べていて美味しかったし。

 当のルビィは、目を見開いて驚いていた。少し問答していたが、結果俺からパンケーキを受け取る。やはり空腹には耐えられなかったのか、もきゅもきゅと口に押し込んでいった。小さい口のくせに、そんなに慌てて食べるなよな。喉に詰めても知らねぇぞ。

 

「んぐ、くふっ!?」

「本当に予想通りのリアクションする奴がどこにいるんだよ……。ほら、飲み物」

「あ、あいがとうございまひゅ……」

「まったく、どこまでも世話の焼けるヤツだな」

 

 俺は、口を開けてない方の飲み物をルビィに渡す。本当は午後の授業の合間に飲もうと思ってたんだが、まぁ仕方ないだろう。……それにしても、驚くほど手のかかるヤツだ。あの黒澤の妹とは、とうてい思えない。

 怒られたと思ったのか、ルビィは更にカラダを小さくしてしまう。それでもパンケーキを口に運ぶのを止めないのは、流石というか呆れるべきか。カラダは正直である。

 献上したパンケーキは中々に好評だったようで、ルビィはものの数分でペロリと食べてしまった。結局俺の昼食も半分無くなった訳だが、その満足そうな顔を見ると、不思議と悪い気は起こらなかった。我ながら甘い。

 

「お前、なんでここに?」

 

 一段落着いたところで、俺は初っぱなの疑問を口にして掘り返してみる。今まで屋上は誰も寄り付かない……というか、本来立ち入り禁止なのだ。それなのに、ここに新入生が立ち寄るのは不自然というもの。

 俺自身はどうなんだ、という声が聞こえた気がする。一応説明しておくけど、ここ鍵は開いてるんだよ。立ち入り禁止の場所に、誰か見張りをつけるか? と言われれば、答えはノー。先生だってそんなに暇じゃないだろうし、バレる可能性なんて限りなく0に近い。ま、格好の隠れ家みたいなもんだ。

 

「教室に戻ると、皆のお弁当が目についちゃって。余計お腹空いちゃうから、外で気を紛らわせようかと思ったんです」

「弁当くらい、誰かに分けてもらえばいいだろ」

「で、でもお姉ちゃんには迷惑かけられないし。そのぉ、友達あんまりいないので……」

「俺が悪かった」

 

 ルビィの歯切れが悪くなったのを察知した俺は、すぐさま謝った。自分で言うのもなんだが、俺が素直に謝罪するのは珍しいことだ。デリケートな部分に触れてしまったから、仕方がないか。泣き出されても困るし。

 小学校とはガラッと雰囲気が変わるのが、中学校の特徴の1つ。早くて一週間ほどで、クラスではグループが出来始めるだろう。ルビィは人見知りも激しいようだから、その辺でも苦労しているのか。いずれにせよ、友達はいるに限る。

 

「な、なんで謝るんですか!?」

「いや、悪いことを聞いたもんだからな。つい」

「ちゃんと友達はいますよぉ!!」

 

 じゃあ、そいつのところ行けよ。と思ったのは、ここだけの話。これ以上問い詰めるといじめているみたいなので、俺は出かかった言葉を必死に飲み込む。

 少しからかいすぎただろうか。ルビィはむーっと頬を膨らませて俺をジッと見つめる。睨んでいるにしては、少々威力が足りなさすぎるな。これでは、子どもがいじけているようにしか見えない。実際、それに近いものだが。

 

「なんだよ」

「いえ、あんまり信頼されてない気がするので……」

「興味がないだけだ」

「あ、だったら紹介します!! スゴくいい子だから、真哉さんとも仲良くなれますよ」

「話聞けやコラ。さっきまで空腹でヘロヘロだったくせに」

 

 俺の言葉なんてまるで聞いてないように、ルビィは勝手に話を進め始める。誰がお前の友達と会いたいなんて言ったんだよ。興味ないって言っただろうが。ちゃんと会話のキャッチボールしてくれよ。頼むから。

 

「真哉さんがパンケーキ分けてくれたから、もう大丈夫です」

「お前の心配をしてるんじゃねーんだが」

 

 あ、スルーですかそうですか。もう、これは何を言ってもムダなんじゃないか。俺が何をどう言っても、自分の友達を紹介する気だなコイツ。やっぱり、昼飯を分けたりなんてするんじゃなかった。

 ルビィが早く早くとせがむのに対して、またもや溜め息。俺は、のそりと重たい腰を上げる。どうやら、今日の昼休みはコイツに潰されると決まっているようだ。後で黒澤に文句言ってやらないと気が済まないまである。八つ当たりだが。

 とはいえ、もうここまで来たら激しく拒絶することは出来そうにない。大人しく従うしかないだろう。観念した俺は、ルビィの後ろを渋々とついていく。それに満足したのか、ルビィ不意に振り返って俺に笑いかけた。どうやら、ご機嫌の様子。俺の本日3度目の溜め息は、アイツには届かなかった。

 

 

 

 

 

 




会話が少なすぎる()
まぁ、まだ2話だし許してください……。

感想・評価待ってます。ではでは~


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