朱に交われば紅くなる【完結】   作:9.21

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zeonneralです。
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本編
どこか似ていて


 酷く無気力な人生だ。俺の人生を照らしてくれていた者たちを失い、俺の辞書から『やる気』だの『ひたむき』だのという言葉は消え失せた。部活などに精を出す連中を尻目に、俺は生産性のない毎日を送る。大体の人は、俺のことをだらしないと言うんだろう。

 いわば、俺の心のキャンバスは黒塗りだ。暗いトンネルの中を1人で迷い続けてる。光が届かないほどに真っ黒で、俺ですら出口を見出だせないほどに。外からどんな『色』が干渉してきても、全て掻き消してしまう。

 このキャンバスの色を塗り替えるとしたら……そうだな。1面を一瞬で塗り潰してしまうようなそんな出来事が起こるか、徐々にキャンバスの色を自分で変える事か。そう、無意識にその人の『色』で……。

 

 

 

 

 ★☆★☆★☆

 

 

 

 

「……ハァ」

 

 1枚、また1枚と花びらを散らす桜。生徒会室の窓からそれを見て、俺はつい溜め息をついてしまった。時期は4月の初めだから、もう間もなく桜の季節も終わるだろう。下を覗くと、式を終えたらしい1年生が体育館からゾロゾロと出てきた。

 今日はここ、沼津市立浦の星中学校の入学式。俺にとっては、もう2年前の話だ。特に感傷に浸る必要もないし、そんな気も起こらない。ただ、この入学式のせいでせっかくの休みが台無しになってる事への憤りはある。

 

「シンヤ、いきなりどうしたの? 溜め息は幸せを逃がしちゃうって、よく言うじゃない」

「お前と一緒にするな。この面倒な仕事に対して、だ」

「んもぅ、相変わらずしょっぱい対応なんだから」

 

 俺の隣で書類を纏めていた小原(おはら)鞠莉(まり)が、茶々を入れてくる。コイツのノリに合わせるのが面倒だったので、俺は適当に流しておいた。しょっぱい対応……塩対応と言いたいのだろうか。相変わらず、コイツの独特な口調には慣れない。

 俺は根っからの面倒臭がりな気質だ。積極性という言葉が何よりも嫌いで、我が道を突き進んでいる……ってのは自分で言うことじゃないか。まぁ、要するにひねくれものだ。自他共に認めている。

 

「ま、他の在校生が休みの中手伝ってくれてるんだし、感謝はしておくけどな」

「出た、シンヤのツンデレ!!」

「誰がツンデレだこら」

「イッツジョーク。それよりダイヤが帰ってきたら、お昼奢ってもらうくらいしてもらわないと!!」 

 

 俺は生徒会副会長――といっても、周りからの強い推薦の末だが。小原は生徒会とは関係ないけど、生徒会長である黒澤(くろさわ)ダイヤの友人だ。黒澤が在校生代表で式に出ていたため、俺の助っ人に小原を送ったんだろう。……コイツの様子を見る限り、かなり強引に連れてきたみたいだけど。まぁ、せっかくの休日が潰された悲しさは同感に値する。

 とはいえ、今日の仕事はもう終わりに近い。保護者へ配る資料作成が主だったし、入学式が終わったからな。多分、黒澤もすぐに戻ってくると思うし、昼前には帰れるだろう。

 

 

 

 と、そんな事を思っていると、コンコンと生徒会室のドアをノックする音が。噂をすれば影が……って奴だろうか。

 

「戻ってきたか?」

「来たわねダイヤ! マリーはもう既に激おこよぉ!!」 

 

 俺が出るより先に、小原がドアに向かった。コイツも本気では怒ってないようだけど、これは一波乱起きそうな予感。俺は早くお暇するかね。巻き込まれるのは面倒臭いし。

 

「ダイヤ!!」

「いたいっ!?」 

 

 小原が思いっきりドアを開けたせいか、ノックをした奴がドアに頭をぶつけていた。そこにいたのは、黒澤……ではない。全く関係ない他の生徒だった。

 赤というよりは紅色に近い感じの髪の毛。それをツーサイドアップ――いや、ツインテール(・・・・・・)に纏めていた。制服が新調されているところを見ると、1年生だと思う。身体は華奢で、実年齢よりもずっと幼く見えるくらい。ソイツは涙目になりながら、おでこを痛そうに擦っていた。

 その幼い見た目が、脳内でフラッシュバックする。ドアの前で泣きそうになってるその少女は、いるはずのないアイツにそっくりだった。一瞬だけ、思考が止まった。

 

「オゥ、ダイヤじゃない!? ソ、ソーリィ。怪我はない?」

「は、はい。なんとか大丈夫で……ヒッ!?」 

 

 小原は女子生徒に駆け寄る。どうやら、怪我自体はないようで安心。……なぜかソイツは、俺を見るとおぞましい物を見たかのような反応をしたけど。 

 おかしい。小原ならまだしも、俺はソイツに危害は加えてないというのに。あろうことか、奴は小原を盾にして、俺に対して身構える。……何が不満なんだよ、こらそこのガキ。

 

「あら、どうしたの?シンヤに何かされたとか?」

「初対面だわ。そいつが勝手に怯えてるだけだろ」

「あ、いえその……。男の人だからビックリしちゃって……ごめんなさい」 

 

 俺がダメなんじゃなくて、男性がダメって事か。別に知った事ではないけど。普段女子に避けられるとかは別段良いとして、コイツだと妙に腹が立つというか傷付くというか。全てはその顔つきのせいだが。

 それでも頭は冷静に。元より、相手は年下のそれも女子。ここで不機嫌になるのは、あまりにも大人げない。俺は、青筋を出さないよう必死に声のトーンを抑える。

 

「まぁいいけど。それより、何か用?」

「あ、はい。えっと、教室の場所が分からなくて……。お姉ちゃんが、困ったことがあったらここに来いって言ってたから……」

「お姉ちゃん? まさか、ダイヤのシスター!?」

「ヒッ!? は、はい。黒澤……ルビィって言います」

「わぉ♥ダイヤに似てベリーキュートね!! 抱き締めたくなっちゃう!!」

「ふぇぇぇっ!?」 

 

 なるほどね。それにしても、性格から何から何まで真逆みたいだ。黒澤はどっちかと言うと、みんなの中心になるタイプ。だけど、コイツは大人しい印象を受けた。印象というか、限りなく大人しい部類だろう。 

 それに、人見知りも激しいみたい。小原が詰め寄ったときにも、軽く怯えていたし。それでいて、どこか放っておけない雰囲気を纏っている。

 

 

 ……そんな部分まで似ている。

 

「あら、ごめんなさい。で、1年生の教室よね? シンヤ、どこか分かる?」

「えーと、確か別棟の2階のはず。ここの階段降りて、渡り廊下を通れば着く」

「あ、ありがとうございます。お仕事中にすいませんでした……」

 

 黒澤の妹は申し訳なさそうに頭を下げて、生徒会室を出ていこうとする。なるほど。キチンと礼儀を弁えている辺り、黒澤らしい。腐っても姉妹ということか。

 でも、姉と似ているのはそこだけだった。急いで出ていこうとしたコイツは、パタパタと走っていく。そして、廊下の何の障害物のないところで、ズデーンと盛大にすっ転ぶのであった。

 ハァ、と俺は今日何度目か分からない溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 ★☆★☆★☆

 

 

 

 

「ヒッ、染みるよぉ……」

「我慢しろ。担任の先生には言っておいたから、治療終わったらさっさと自分の教室戻れよ」 

 

 保健室。今日はここの先生がいなかったから、俺がこの1年の手当てをしている。といっても、ちょっと擦った程度だから消毒くらいのものだが。それより、おでこに出来ていたこぶの方が酷いくらい。 

 ちなみに、その犯人である小原はいない。なんでも、黒澤が来るまで待っているとか。

 ……どれだけ根に持ってるんだ。おかげで、俺がこんなクソ面倒な事に巻き込まれているというのに。

 

「は、はい。えっと……」

真哉(しんや)だ、北谷(きただに)真哉。えーと、お前の名前何だったっけ」

「る、ルビィです。ありがとうございます、真哉……さん。」

 

 少しだけ、ルビィとの距離が縮まった気がする。やはり、名前呼びというのは大きいのか。黒澤が2人いるのもややこしいし、俺も下の名前で呼ばせてもらおう。

 消毒液を付けた脱脂綿を、ルビィの膝に押し当てる。染みるんだろう。顔を歪めるけど、それは消毒出来ている証拠ってことで。俺は小さい頃にそう教わった。……あの時を思い出す。昔から俺はこうやって、アイツが怪我したときの手当てをしていたものだ。

 ……なんで距離が縮まったことに安堵しているのか。なんでこうやって昔を思い出してしまっているのか。まだ出会って数分しか経ってないというのに。

 

「その、さっきはすいませんでした。真哉さんは、何も悪いことしてないんです。本当にごめんなさい」

「もういいよ、別に。男が苦手なんだろ?」

「は、はい。お父さん以外の男の人と、こうして話したことなくて……」

「ふーん」

 

 ルビィの膝に絆創膏を貼って、パシンと叩く。こうして話している間に、手当てが終わった。最初のホームルームをしているだろうし、早めに行かせた方がいいだろう。元より、俺が早く帰りたいのが8割を占めているけど。

 それにしても、男性恐怖症ね……。多感な年頃になる中学生にとって、かなり辛いんだろうか。特に、異性に興味を持ち始めるだろうし。恋愛沙汰の話に関しては、俺は残念ながら疎いが。

 

「ありがとう、ございました。手当てまでしてもらっちゃって」

「別に。教室は分かるよな?」

「はっ、はい!! あ、あの……初めて話した男性が、真哉さんみたいに優しい人で良かったです……。その、また何かあったら、よろしくおねがいします」

 

 少し驚いたせいで、俺の脳は一瞬フリーズしていた。多分、男の俺にこうした事を言うのが、ルビィにとって大事件なんだと思う。スゴく、意を決したような表情だった。

 本当に腹立たしい。理不尽なのは分かっているが、この感情が抑えられなかった。なぜならアイツの風貌、振る舞い、性格と何から何まで

 

 

 

 

 

 ――――俺の死んだ妹に似ていたからだ。

 

 

 

 

 

 振り払おうとしても既視感が邪魔をしてしまい、どうしても一体化してしまう。思い出したくないのに、どうしようもなく辛いのに。

 今度こそルビィは保健室を出て、自分の教室へと向かった。その後ろ姿を、俺は見えなくなるまで見送る。その危なっかしい足取りがまた心配で、助けに行かねばという衝動に駆られる。それを、何とか理性で抑えた。

 桜はいつか散る。満開だった頃の賑やかさも、華やかさも残らなくなる。でも、季節を1つ終えた先にあるのは新たな舞台。そして、新たな出会い。今がその時なんだな――と、俺はふと思った。どうしようもなく、もどかしい感じがした。




のんびりと頑張ります。最後に主人公の設定だけ載せておきますね。

名前:北谷真哉
身長:162cm
年齢:14歳(中学3年)
容姿:少し立てた黒髪で、つり目

基本的に面倒臭がりで、ぶっきらぼうな性格。学業だけは真面目に取り組んでおり、生徒会副会長も勤めている。過去に、妹を亡くしている。






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