ファンタシースターオンライン2~Stardust Dreams~   作:ぶんぶく茶の間

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 ヒャッハー! 書きたてほやほやの最新話だァーっ!
 というわけでお待たせしました! 第二章開幕です!


第二章 ~特科クラス《Ⅶ組》~
上條祈とその周辺


 ――翌朝。

 七時五分前に集合した私達は、片桐先生運転のもと、公用車で都内の某所へ向かっていた。

 場所は――アースガイド日本支部。

 この地球において古来から異星人関連を取り扱っているスペシャリストの集まりであり――そして、私のアルバイト先でもある。

 一度内部での騒乱があったけれど、現在ではその火種は鎮火し、支部だけで街の象徴となっている『エスカタワー』と張り合えるほどの超高層ビル。その資産と実績から、世界に名を馳せる大企業として世に知らしめている。

 そんな私達は、地下10階の特殊な控室に集められ、身体測定や運動能力の測定などを小一時間のなかでぎっちりとこなすことになっていた。

 ……なっていた、のだけれど。

「――どうだ、学校の方は?」

 楽しいか、と――赤い髪に赤い瞳を備えた男性、八坂炎雅日本支部長に訊ねられた私は、彼からいただいたカフェラテをちびりと飲みながら答える

「そうですね……。まだ入って三日目ですが、楽しいです。進堂さん達のようなお友達もできましたし、憂人くんとも同じクラスになれましたから」

「そうか……そいつはよかった」

 炎雅さんはそう言って安堵の息を吐くと、前かがみになった。

 場所は測定室の外。マジックミラー越しで体力測定などを行っている様子を私と炎雅さんは壁に据え付けてあったクッションつきのベンチで見守っていた。

 赤い髪をそれなりに伸ばし、おひげもほどほどに生やした炎雅さん。六年ぶりに再会したときは以前の雰囲気とギャップを感じてしまって驚いたけれど、性格や口調はあまり変わっていなかった。

「というか、私はいいんでしょうか? 彼らと同じメンバーですけど……」

「おまえはこの間の任務でメディカルチェック受けてたろ。結果は出てるから二度もやる必要なんかねえよ」

「そういうものですか」

「そういうもんだ。もっと気楽にやれよ……って、支部長としては言えないよなこいつは」

「まあ、ほどほどに息抜きはしていますから……」

「それならいいさ。おまえさんは生真面目だからな……もっと肩の力抜いとけ。な?」

 ずず、とカフェオレを飲んでいた私の背中をぽんぽんと炎雅さんが叩く。

 私は苦笑いを浮かべて頷いた。

「……毎週、見舞いに行くんだってな?」

 唐突な炎雅さんの言葉にぴくっとその手が止まり、私は小さく頷きながら俯いた。

「……ええ。仕事の前に、ですが。……できるだけ、やりたいんです」

「ああ……きっとアイツも喜ぶ」

「だといいんですけど」

 それから二人の会話は止まってしまった。

 ……私の兄、上條悠里(ゆうり)。今年で25歳になる人だ。

 私とは七歳も離れていて、正直容姿としては真逆。金髪に翡翠色の瞳の男性。――だった。

 今は寝たきりで眠ったまま。そんな状態が、六年も続いている。

 彼の療養先はこのアースガイド日本支部が提携している医療施設であり、なんとか個室を借りられている状態だ。

「中学の頃から土曜日になるとこっちに来て、面倒見てるんだろ?」

「………」

 炎雅さんの言葉に、小さく頷く。

 もちろん、テストの期間などは行けない事もあったけれど、それ以外の休日には必ず兄さんのいる医療施設へ足を運んでいた。

「家事も一人でこなして、何時間もかかる電車に揺られて兄貴の介護、か……。昔の俺じゃあ一切考えなかったな」

 炎雅さんはそう言って笑い飛ばす。彼なりの気遣いだというのはわかっていた。だから、私も笑う。

「そういえば、妹さんはお元気ですか?」

「ん? 火継か……あいつはどうしてっかなぁ……」と後ろ頭を掻く炎雅さん。

「……ひょっとして喧嘩中ですか?」

 仲直りした方が身のためですよ、と言うと、炎雅さんは大慌てで「ちげぇよ!?」と取り繕った。

「そんなんじゃねーよ。今ラスベガスに行っててな、現地でうちの嫁のダチと合流して支部の視察中なんだ」

「そうだったんですか……。え、ですが火継さんて確かマザークラスタの……」

「ああ。大幹部やってるよ。総裁だ」

「えっ……おじいちゃん引退されたんですか!?」

「違う違う。あっちは総帥。ヒツギは総裁だ……ん?」

「……へ?」

 お互いに顔を見合わせて疑問符を浮かべていると、ダースベイダーの着信音が鳴り響いた。

 その音に私と炎雅さんはびっくりしてその場から飛び上がり、元をたどれば炎雅さんの携帯電話。

 私はどうぞ、というジェスチャーを出すと、炎雅さんは「悪いな」というように謝罪のジェスチャーを見せた後それに出た。

「な、なんだどうした。何かあったのか?」

『――おっそーい!! ワンコールで出るのが100%常識でしょ!』

 ……なんて大声が聞こえて、私はああ……と声をあげてしまう。

「ちょっと席外しますね」

「わ、悪いな。またあとで――」

『――誰かと会ってんの? まさか若い女じゃないでしょうね』

 彼に背を向けて退室しようとした私は、電話越しの冷ややか声に背筋を凍らせるのだった。

 声の主はオークゥ八坂さん。何を隠そう炎雅さんの奥様なのである。

 正直に言ってしまえば、私は炎雅さんよりもくーさん達との付き合いの方が長い。なんだかんだで、物心がつく前から面倒を見て貰っていた気がする。

(最近、会ってないなぁ。電話しかしてないし……)

 ずず、とドアの横で壁に寄りかかりながらカフェラテを飲みながら天井を見上げ、その人の愛称をぽつり、と零す。

「レグ(ねえ)……」

『――おや、私をお探しでしたか?』

「ひゃっ!?」

 唐突に左横から声が掛かり、私はびくっと驚いた。

 条件反射で動いた腕によって、手に持っていた紙カップの中身がこぼれ掛ける。

 けれど一瞬で間合いを詰めて私の腕を優しく支えてくれたのもまた、たったいま呟いていた女性――レグ姉こと、ファレグ=アイヴズさんその人だった。

 伸ばした金色の後ろ髪を三つ編みにして肩に掛けた女性は、「大丈夫でしたか?」と微笑みかけてくれる。

「相変わらず、落ち着きがありませんね」

「お、落ち着きがないとかそういうことではなく……びっくりしました」

 咄嗟に起こった出来事でサァ……っと血の気が引いた私は彼女を見上げると、ファレグさんは微笑みを変えないまま私の頭を優しく撫でてくれた。

「ところで、ファレグさん? どうしてこんなところへ?」

「飛行中、懐かしい気配がしたので立ち寄りました。久し振りですね祈。元気そうでなによりです」

「ファレグさんこそ。御変わりなさそうで……」

 ちび、とカフェラテを飲むと、ファレグさんは先ほど出てきた部屋の扉をちら、と見る。

「……お取り込み中のようですね?」

「ええ。奥さんです……」

「ふふっ……」

 苦笑いを浮かべながらファレグさんに答え、二人で壁に寄りかかる。

「ところで祈。視力が落ちてしまったのですか?」

「あっ、いえ……。その、伊達です」

 自分でもつけている事が当たり前になっていた眼鏡を指摘されて、少し恥ずかしくなったので眼鏡のつるを軽く持ち上げて外す。

「ちゃんと見えていますよ。安心してください」

「そうですか、よかった。貴女に何かあってしまっては、私もゆっくりと飛び回っていられませんからね」

「ふふ、ありがとうございます」

 行き場のない眼鏡をどうしたものかと一瞬思案したあと、パーカーのポケットへ入れておくことにした。

 私の服装は学園指定のパーカーの下に動きやすいもの、と言われたのでシンプルなシャツに黒いジーンズといったラフな格好だったのだけれど、みなさんは制服のブレザーを脱いでその上に私と同じパーカーを着込んでいたので、合わせればよかったと後悔してしまった。

「……ファレグさんは、今はどちらへ?」

「特に決まったところはありませんね。ご連絡さえいただければ、いつでも参上しますよ?」

「あはは……。何か困ったことがありましたら、いつでも私のところへいらっしゃってください」

「それは有り難い申し出ですが……ふむ、天星学院は何度か御手合わせに伺ったことはありましたが、清雅学園はありませんでしたね。私が入っても問題はないのでしょうか……」

 いつも窓からいらっしゃるのに今更なにを……、と思った私はその言葉を飲み込んで、苦笑いを浮かべながら「保護者ですから大丈夫です」と答えると、ファレグさんは細目をかっと見開いた。

 そしてどこかうっとりしたように片頬に手を当てて、私を見つめ……

「保護者……。なんという良い響きでしょう。かしこまりました。今後は定期的に訪問させていただきますね」

 きゅ、と私の手を握った。

「美味しいものは作れるかはわかりませんが、頑張ります」

「くす……。祈の料理は安心感がありますから何を食べても美味しく感じます」

 ――でも、感想は憂人くん以上にシビアだ。中学生の頃にファレグさんに連れて行って貰った旅行先で、温泉饅頭の感想を長々としゃべっていたのを覚えている。

 私が料理について一歩の譲歩もしなくなったのは、恐らく彼女の影響だと思う。

 だって、私に家事を教えてくれたのは何を隠そうファレグさんなのだから……。

 別にファレグさんが三刀屋家のベビーシッターをしていたとかそういう事はないのだけれど、本当に彼女には色々なことを教えてもらっている。

「そうです、祈。去年お渡しした書籍は読まれましたか?」

「阪急電車ですか? 有川先生ほんと好きですねファレグさん」

「あれは良いものです。ショートストーリーでありながら、様々な方の人間模様を描いている……御嫌いでしたか?」

「とんでもない、とても読みやすかったです。また教えてください」

 しょんぼりしかけたファレグさんにややオーバー気味なリアクションを取ると、彼女は気を良くしたのか微笑んだ。

 すると、電話が終わったのか炎雅さんが部屋から出てくる。

「祈、すまねぇな――って!」

「これは、エンガさん。ご無沙汰しております」

「ファレグ!? どうしてあんたが此処に!?」

 地下10階だぞ、なんて言いながら炎雅さんは額に手を当て疲れたように「あ゙~……」と声をあげた。

「そこに祈が居るからです」

「……まぁ、そういう事ならいいか……」

「――それではエンガさん。私はこれにて御暇させていただきます」

「ん、もういいのか? 久々に会ったんだろう?」

「連絡はいつも取り合っていますから」

 ファレグさんは得意げにそう言うと、懐から黒い携帯電話を取り出してにっこりと笑ったあと、私に優しい抱擁をくれる。

「祈。どうかお元気で。学校での生活も勉学もすべて、これからの貴女の可能性を芽生えさせるものです。総ては貴女次第。まだ見えぬ将来で、貴女の可能性を示すためにも、頑張ってください」

「ありがとうございます。ファレグさんも、お気を付けて」

 私も彼女の背中に手を添えると、お互いにゆっくり離れ、ファレグさんは私達に軽く手を振って踵を返す。

 炎雅さんと一緒に彼女の後姿を見守っていると、ふとファレグさんは何か思い出したように半身で振り返った。

「近々新刊が出るようです。その時は、一緒に買いに行きましょう」

「わかりました。是非!」

 それで今度こそ最後、というように彼女は一瞬でその場から消えてしまった。

「……おまえ、よくあんなやつと付き合えるな」

「そうですか? 私にはとても御優しい方ですけど……」

 時には優しく、時には厳しく。けれどその厳しさは理不尽なものではなく、そこに必ず愛情があることを私は知っている。

 だから、あの人は本当に優しい人なんだ。

「あれを優しいっておまえ……。まぁいいか……」

 炎雅さんはがりがりと頭を掻いたあと、大きなため息をつく。

 ――また楽しみがひとつ増えた。

 さて、今日も頑張らないと――!

 私は軽く袖をまくってしまいながらふんす、と意気込むのだった。

 

 

「――さて、こうして俺達《アースガイド》は今までの人類史以前から各国の神話、聖戦などと密接に関わっているわけだが」

 場所はアースガイド日本支部、百十数階の小さなブリーフィングルームで、八坂炎雅日本支部長は私達へアースガイドの成り立ちからその軌跡について小一時間講義を行ってくれた。

 私の隣に座った進堂さんは真剣にメモを取り、対面の席に腰かけている憂人くんは神妙な面持ちで腕を組みながら炎雅さんを見つめている。彼の隣に座る城之内さんは……案の定、船をこいでいた。

「今は専ら、都市内外問わず出現する《幻創種》の討伐に当たっている」

 私はこの講義を数年前に聞いていたけれど、今更ながらあらゆる方面での疑問などが浮き上がる。当時も拙い解釈で後々炎雅さんを困らせてしまうような質問ばかりしていたけれど……こう考えると、私も少しは成長できたのだろうか。

「さて、俺からの講義は以上だ。真剣に聞いてくれなくても良かったんだが、何か最後に質問はあるか?」

「それじゃあ、俺から」

 炎雅さんは私達を見回すと、今まで話を聞いていた憂人くんが手を挙げた。

「おう。答えられる範囲でなら、いくらでも答えられるぞ」

 大きく頷いた炎雅さんに、憂人くんは鋭い視線を送った。

「その《幻創種》とやらは、通常の人間には何の危害もないんですか?」

「――原則的には、一般の人間に危害はない。だが、間接的な被害は起こり得る。例えば瓦礫の破損なんかが良くある話だ。……さっきも言ったようにアイツらは人々の『負の思念』から生み出される。その力は、人間の『負の感情』によって決められているんだ。だが、俺達アースガイドは出現位置の予測・特定や周辺区域の人払いなども出来る。つまり、こうして俺達の活動が世間に広まる前までは被害を最小限に留めつつ、隠密に、そして確実に処理してきたことだ。今は大々的に行う事が出来てはいるが、住民からの理解も希薄であり、活動するのは殆どが夜になっている」

「……日中は無視するんですか?」

「言ったろう? 隠密に、そして確実に処理してきたってな。やりようはいくらでもあるのさ。例えるなら《幻創種》を目的の位置へ転移する事なんかもできる。大体大型《幻創種》の場合は殆どがこの《転移術式》に頼り切りになっているけどな」

「なるほど……。ありがとうございました」

 憂人くんは炎雅さんへ一礼すると、彼も「いや。抽象的な表現で悪いな」と答える。

「他には? 特に祈。これ聞くの二回目だろう。何か聞けよ」

「えっ」

 唐突に指をさされた私はびくっと身体を震わせた後、わぐわぐと口元を歪めた。

「えっと、それじゃあ私からは一つ。――なぜ私達のような学生にこのような説明をされたのでしょうか?」

『………』

 その場の全員が私へ目を向けた。城之内さんも知らないうちに起きていたのか、テーブルに顔を突っ伏したまま私を見ている。

「いきなり容赦ねえな、相変わらず……。雨宮先生、説明しても?」

「ん? あ、ええまぁ。昨日の内に承認は取れてるんで」

「そうですか、わかりました、っと……」

 炎雅さんは一つ深呼吸すると、もう一度私達を見回した。その表情はとても真剣なもので、それでも瞳の奥には優しさがあった。

「これは、お前達が新しく配属されるクラスについて、とても重要な内容になる。そこ、寝てる余裕はないぞ?」

「あ、ああ……いや、はい」

 城之内くんが炎雅さんに指摘されて、むくりと上体を起こした。

 そしてそれぞれが炎雅さんに視線を向けると、彼はゆっくりと語りだす。

「まず、なぜ学生の自分達が、と思っているやつもいるだろう。その理由は一つ。この世界に流れている《エーテル》が原因だ」

「《エーテル》が……?」

 進堂さんが声をあげ、炎雅さんが彼女を見た後小さく頷く。

「世間一般では情報通信のインフラとして使用されているものだ。一切の遅延なしで情報通信が可能となる素子。だが、その本質は異なってしまった」

「つまり、何か変化があった、ってことスか?」

「そうだ。本来は情報構成能力に優れた素子だったが……今現在に於いて、《エーテル》の本質が変わりつつある。それは……これだ」

 シャッと窓に暗幕がかけられ、ブリーフィングルーム天井にあるプロジェクターからその暗幕に映像が映し出された。

「これは……」

「えっ――ちょ、これって……!?」

「……なるほどな」

「………」

 四者四様の反応を見せる中、私は無言でその《敵》を見つめた。

 それはバッタ型のような昆虫類のものを基本として、徐々に人型になりかけているもの――《ダーカー》だ。

「お前達が普段から慣れ親しんでいる《PSO2》で、良く見るものだとは思うが……これらは実在する(・・・・)。この地球では、色々と姿を変えているけどな」

 炎雅さんはポケットからリモコンを取り出すと、次の写真を見せた。

 先ほど教えられた《幻創種》に、どこか歪なものが混じり合った姿をしたもの。

「これを俺達は《エスカダーカー》と呼称している。倒し方は同じだが、お前らも知っての通り、この《エスカダーカー》を倒すためには様々なデメリットが生まれてくる」

「ダーカー因子の、侵食……」

 進堂さんは目を見開き、口元に手を当てて悲鳴のようにその言葉を呟いた。

「……そう。現段階ではこいつらを倒す力のある人間はかなり限られている。一般の戦闘員は通常の《幻創種》なら対処することが可能だが、この《ダーカー》に侵食された《幻創種》……《エスカダーカー》だけは対処することができない。もし倒したとしても、侵食のリスクが付き纏う」

 だが、と炎雅さんはもう一度リモコンを操作すると、今度はエーテル素子の波長と、恐らくフォトンであろう光子の波長とをグラフ化したものが現れる。

「今からおよそ六年前。《エーテル》はある種の進化を遂げた。ダーカー因子を浄化する能力を持つ、《フォトン》。それに限りなく近しい存在に。その()は全世界に散らばり、大人への影響は少ないものの、当時の子供達にとっては歩んで行く未来に全く新しい道が生まれた。ただ、本人がそれを扱えるか否か、そしてどう扱えるのかが問題だった。……そんな中でも最も戦闘に適したものが、お前達の持つ《エーテル》……いや、《フォトン》への才能だった。つまりお前達は見出されたんだ。この世界に。そして、《フォトン》という存在に――」

 ……炎雅さんはそう言うと、静かに息を吐いた。まるで一区切りというように。

「もちろん、この場に居ない一名を含めたお前達五人に戦って貰うわけじゃない。お前達を含め、《エスカダーカー》に対抗する子供達は、全世界で二百人確認されている」

 その数字が多いのか、それとも少ないのか。彼らはわかってはいないだろう。

「戦闘に特化したもの、治癒に特化したもの。多岐にわたるフォトンへの適性を持つ若者を見出し、そして未来へ繋げてゆく。それが俺達大人の役割なんだ。この先の未来は、確実にフォトン適性者が増えて行くだろう。そして同じく、《ダーカー》とも密接にかかわって行く事になる。……お前達もまだまだ子供だ。今の若者達に世界の未来を託すということがどれだけ辛い事かは理解している。しかしどうか――俺達人類の未来のために、力を貸して欲しい」

 炎雅さんは深々と私達へ頭を下げる。

 それと同時に、なぜ私達が選ばれたのかを理解した。

「あたしはまだ、その《エスカダーカー》ってやつと会ったこともないし、よくわからないけど……」

「こういうすっげー大事なコト聞かされた身としちゃあ……なぁ?」

「ああ。こうなった以上、肚を括るしかないだろうな」

 みなさんが頷き、私へと視線を向けた。

 ――私はみなさんの意思を汲み取り、目を伏せて大きく頷いてから静かに席を立った。

「――顔を上げてください、炎雅さん」

「祈……?」

 炎雅さんはゆっくりと顔を上げ、私を見る。

「この場に居るみなさんは、あなたがその言葉を告げるよりも前に決断した方々です。ですが、若者の決断は必ずしも正しいとは限りません。間違える事も多い。時には、感情だけで動いてしまうこともある……。ですから、そんな私達をどうか正しく導いてください。私達も、何が正しいのか。それらを見極める努力と、そして経験が必要です。これが出来たなら、私達はきっと、貴方達の期待に応えられるはずです」

「……ああ………ありがとう……」

 私の言葉を一言一句噛みしめるように受け止めてくれた炎雅さんは、何度も頷くのだった。

 


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