ファンタシースターオンライン2~Stardust Dreams~   作:ぶんぶく茶の間

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第五話 踏み出す勇気

 二人で朝食をとり、準備を終えて登校。そのまま教室へ入ると、すでにそこには城之内さんと進堂さんをはじめ、数人のクラスメイトがいた。

「あっ、二人ともおはよう。昨日はちゃんと休めた?」

「おーっす! なんだ二人揃って登校かよ」

「ああ」

 憂人くんが私の席まで付いてきてくれて、そこで輪ができあがる。

 私は革鞄を置いて、二人へ挨拶と共に一礼した。

「おはようございます。お二人とも昨日はありがとうございました」

「こっちこそありがと。おかげでレベルアップ間近まで来たしねー」

「まじか! んじゃ昼休みにでも行くか!?」

「あっはは、気が早すぎだよ城之内~。二人も緊急、一緒にどう?」

「お前らが良いなら付き合うけど」

 早速お昼休みにプレイすることが決まり、私がみなさんの会話を聞きに徹していると、進堂さんが「祈も行くでしょ?」と誘ってくれた。

「いいんですか……?」

「なーに言ってんの。祈だけ誘わないなんてありえないじゃん」

「こういうのは勢いが大事なんだぜ? 勢いだ!!」

 得意げに笑った二人につられて私も笑ってしまい、わかりましたと了承する。

 すると城之内さんがガタッ! と大きな音を立てて席から立ちあがり、ぐっと右手を挙げた。

「よーっし、これで決まりな! ――おーいっ! 12時半の緊クエ行く人いないかー? あと8人なんだけど! 暇してるやつら手ぇ挙げろー!」

『あっ、わたし参加するー!』

『まじかよ30分開始? 飯食ってる暇ないだろ。――でもやる! はいはいっ!!』

「オーケー締め切り!! んじゃ昼休み弁当持ってオレん席集合な!」

『おーっ!!』

 あっという間に面子が決まり、きょとんとしていた私に進堂さんは肩をつつきながら微笑んだ。

「城之内が募集するとあっという間に決まるんだよねー」

「なんといいますか……。本当にコミュニケーションツールなんですね」

 ――『仲間』だと、その一瞬で感じた。

 そこには活気があって、笑顔があって……『人の輪』があった。私の知っていた高校と違うという事を思い知らされる。

 少しでも上へ行くためにクラスメイトすら受け付けない、そんな青春(もの)だと思っていたのに。

 でも――それは違った。私の見識が狭かっただけで、本当はこんなにも眩しくて、尊い。

 あまりの眩しさに、私はつい目を細めてしまった。

 すると憂人くんが私の机に両手を置いて、私をみてくる。

「人と人との関わりがあるからできるゲームだって、さっきも言ったろ? ここの奴らなら気心も知れてるし、信用できるやつらばかりだ。だから、大丈夫」

「……はいっ」

「おー? なにその二人だけ通じ合ってるような会話? やっぱりリア充?」

「ちっ違いますよっ!?」

「お前の思ってるようなことはないからな?!」

「あ~やしぃ~」

 にやにやと進堂さんは半眼で私達を見ながら口元に手をあてた。

 ちら、と憂人くんと視線が合う。ちょっと気まずい。

 私は口元をもごもごさせながら彼を見続けると、彼は困ったように眉間に皺を寄せて笑うのだ。

 それが少し面白くて、彼の顔をもっと見ていたくなる。

 と、そこでかさりと憂人くんの手が私の持ってきた紙袋に当たって音がなる。

(そうだった、早く渡さないと)

「あの、お話は変わるんですけど、これ……」

「んー? なになに?」

「なんだ、食いもんかっ?」

「ちょっと城之内ー。食べ物要求するのは失礼なんじゃない?」

「いやぁ~悪い! 小腹すいちまってさ!」

 なはは、と城之内くんは進堂さんにけしかけられて笑う。

「一応卵を使っているので、できるだけ早く食べていただければ」

「ってことは……やっぱり食べ物なんだ?」

 はい、と進堂さんの言葉に頷きながら、紙袋から白い箱を取り出し、蓋をあける。

「お口に合うかどうか……」

 そこには牛乳瓶を小さくしたようなガラス製の容器にプリンが入っていた。

「プリンだとッ!?」とぎょっとする城之内さん。

「うわぁ凄い美味しそう! どこで買ったの!?」

 進堂さんは悲鳴にも似た声をあげたあと、私の二の腕を掴んでがくがくとゆすってくる。

「材料は近所のスーパーで……。容器は使い回しですが」

「……ってことは自作!? 女子力高っ!?」

 なんだなんだ、と進堂さんの大きな声にクラスメイトのみなさんが集まってくる。

「や、八つあるので残りは抽選で……あっ」

 私が声をあげると同時に憂人くんがそのプリンが入った容器を左手に空いた右手を天井へ突き上げる。半眼でポーカーフェイスとなり、一見やる気はなさそうに見えるけれど、その瞳の奥は勝利に燃えていた。

「さーいしょーはぐー」

『じゃんけんだとっ!?』

 サッと他のクラスメイトのみなさんがそれぞれ拳を構え、憂人くんの号令を待つ。

「じゃーんけーん」

『ぽんっ!!』

『いやぁあああっ!?』

『うおぁあああっ!!』

 次瞬、悲鳴をあげる者と勝った喜びに震える者に二分された。

 そんなやり取りを苦笑いを浮かべながら見守っていた私は、憂人くんの袖を引きながら言う。

「ゆ、憂人くんの分はありますよ……っ?」

「……だそうだ。悪いなみんな。このプリン四人用なんだ」

『はああぁぁぁぁぁっ!?』

 全員大ブーイングだった。そこまで食べたい人がいたなんて……。

『ちょっと待てよ上條! お前一人でいくつ食べるつもりだ!?』

『ずるーい! わたしにも欲しい~っ!! 上條さぁ~んっ!』

「は、はい……。えっと、また作ってきますから……。別のものになってしまうかもしれませんが」

『それでもオッケー! もう二週間も甘い物食べてねぇやってられっかぃっ!』

「お前は一体何に金使ったんだよ……おっ、うまい」

「ありがとうございます」

 いつの間にかプラスチック製の小さいスプーンを袋から取り出してプリンを食べていた憂人くんが、率直な感想を言ってくれた。

「なんだろ……膜みたいなものの間に生クリームが入ってて……その下に濃い目のプリンが入ってる……?」

「うぅぅぅぅううううんめぇぇぇぇいぃいいいいいぞぉぉぉぉおおおおおおっ!!」

 進堂さんはそれをしっかりと味わいながら食べ進め、城之内さんはなぜかヘッドバンキングして叫びながら食べてる……って、それ大丈夫ですか!?

「城之内はもう少し味わって食べなよ! これほんと美味しいよ祈!? お店出せるんじゃない!?」

「あ、いえ……。すでにお店に出ていたものを少し真似て作ってみたので……。本物はもっと美味しいですよ」

「まじか……まじか……!!」

 一つ目を早々に食べきってしまった城之内さんは、きらきらとした目でそのカップを掲げて見つめていた。

「でもさ~上條さんの作ってくれたプリンも美味しいよ!? カラメルソースもあたし気に入った!」

「あっ、ありがとうございます……。お口に合ったみたいでよかったです」

 ――かたん、と無言で食べていた憂人くんがカップを置くと、「ご馳走様」と呟く。

「いえ。お粗末様でした」

「カラメルソース、結構焦がしたんだな」

「はい。嫌でしたか?」

「いや、凄くうまかったよ。プリンの甘さ加減を見たら、もうちょっと焦がしても良かった気がする」

「ふむふむ……。ありがとうございます」

 憂人くんの感想をパーカーのポケットに入れておいた小さいメモに記入していると、進堂さんが憂人くんへ食ってっかかった。

「ちょっと上條! そういうコメントは失礼じゃない?」

「いいんです進堂さん。私が好きでやっていることですから、こうして身近な方からアドバイスをいただけるのはとても貴重なんですよ」

「えぇー……」

 こんなに美味しいのに、と呟きながらスプーンをくわえる進堂さん。そう言って貰えるだけで本当に嬉しい。

「お二人からもご感想をいただければ嬉しいです。お好みの味などあれば、出来る限りご要望にお応えしますから」

「祈~……あんた健気すぎ……っ」

「ひゃっ? し、進堂さん!?」

 がばぁっと進堂さんに抱きつかれてしまい、私は目を白黒させていると、城之内くんはそそくさと憂人くんのカップも持って教室から出て行ってしまう。どうしたんだろう?

「うちにお嫁に来ない!? 家政婦さんでもいいから!!」

 一家に一人欲しい! と叫んだ進堂さんの頭に、憂人くんは軽く拳骨を落とす。

「いたっ」

「何言ってんだお前。祈はうちのだ」

「えっ……私いま、ナチュラルに所有物扱いされました!?」

「おーいお前ら集まってなにしてんだ?」

 ぎょっとして憂人くんを見ると、視界の端で雨宮先生が教室へ入ってきた。

 時計を見れば始業5分前だ。そろそろチャイムも鳴るだろう。

 城之内くんも少し遅れて戻ってきて、綺麗になったカップ容器を私へ渡してくれた。

「あ……わざわざ洗ってくれたんですか。ありがとうございます」

「気にすんな! こっちも美味いもん食わせてもらったし、また頼むぜ!」

 そしてぞろぞろとクラスメイトのみなさんは自分の席へ戻ってゆき、うち一人の女の子が雨宮先生へ何かをリーク。すると――

「なにぃっ!? 上條料理できるのか! 先生と結婚しないか!!」

 バッ! と教壇から身を乗り出した雨宮先生はとんでもない事を言ってのける。

 その言葉に一瞬で教室の空気は凍て付き、雨宮先生は男女双方から、

 

『死ねッ!!』

 

 というドストレートな罵倒が一斉に注がれた。

「冗談なのに……なんでさっ」

 ほろり、と雨宮先生は目じりに涙を浮かべながら悲しげに笑うのだった。

 

 

 朝のHRが終わると、進堂さんと城之内くんはお互いに目配せをしたあと席から立ち上がり、雨宮先生の方へ向かう。

 私はなんだろう? と小首を傾げながら二人の様子をうかがっていると、憂人くんが近づいてきた。

「祈、俺プリンが食べたい」

「……憂人くん、さっき食べたばかりでしょう?」

「俺は別に認知入ってないんだけど……」と苦笑いを浮かべる憂人くん。

「帰ったらまたなにか作りますから、残りはお昼休みに食べましょう」

「やる気出てきた」

 踵を返した憂人くんはんっと伸びをして自分の席へ戻って行く。それがおかしくて笑ってしまう。

「あー、上條兄妹ちょっといいかー?」

「兄妹じゃねえ従兄妹だ」

「はい」

 雨宮先生から呼び出しを受け、教壇へと歩いていく。

「先生、どうしたんですか?」

 その場にいつものメンバー(この呼び方、なんだかちょっと嬉しい)が揃い、雨宮先生を見上げると、どこか感動したように目尻に涙を浮かべ、ずびっと鼻をすすった雨宮先生は、

「昼休みでもいいや。この四人で職員室へ来てくれないか?」

 と言ってきた。物申したげなみなさんよりも早く、私は即答する。

「あの――それはできません」

「んっ、どうしたんだ? 用事でもあるのか」

「はい。とても大切な用事があります」

 楽しみという気持ちがあって、それ以上にこうしてみなさんと集まれる機会があることに嬉しさを感じていた私は、表情に出ていたのだろう。小さく笑ったつもりが、満面の笑みで雨宮先生の呼び出しをお断りしていた。

 私はみなさんを見ると、その場の全員が笑顔でいてくれた。

「へへっ」

「ふふっ……」

「……ああ。そうだな」

 城之内さんは鼻を擦り、進堂さんははにかんで。憂人くんは口角をあげながら大きく頷く。

「――そう、か。んじゃ先生も用事があるし放課後でいいなー?」

 どこか納得したように雨宮先生は目を伏せて微笑みながら頷いたあと、ニッと笑いながら襟足に手を当て、私達へ問いかけると、一斉に頷いた。

「はいっ」

「おう!」

「はいよー」

「わかった」

「決まり、だな。――おっし、んじゃ職員室戻るわー。お前ら、くれぐれも授業までには終わらせろよな?」

『わーってらーいっ!!』

 教室の扉に手を掛けた雨宮先生は、クラスメイト全員にそう言って出て行く。

「いや~。まさか祈が真っ先に断るとはねぇ」

「ホントだよなぁ、びっくりしたぜ」

「う……。ちょっと罪悪感もあるので、よしてください……」

「それだけ楽しみだったんだろ? 募集したかいがあったってもんだ!」

「はいっ」

 すると憂人くんがクラスのみなさんに告げる。

「あー、みんな聞いてくれ。祈は今回の緊急が初めての固定パーティになる。よろしくな」

「お、お手柔らかに……えと、よろしくお願いしますっ」

 ぺこっとみなさんへ一礼すると、「ってなると上條さん初陣!?」「えーっ募集あったの!?」「まじかよ乗り遅れたー!!」という声もあって、城之内くんが苦笑い混じりに軽く謝罪するのだった。

 

            †

 

 お昼休みになり、それぞれが手に思い思いの昼食を持ちより、机を合わせ並べた後、エスカを取り出してPSO2を起動する。

 なんというか、この光景は小学校の給食のときに作った班を12人規模にしたみたいで壮観だ。

「昼の緊急なんだっけー。マガツ?」

「だったはず。テクでいい?」

「やっべ光属性の武器持ってねぇじゃん! クラス変えよっ」

「あ、あうあう……」

 みなさんの言っている単語が理解できず、エスカを持った手がかたかたと震える。

 すると左隣にいた進堂さん――アリーザさんが私の様子を見てかずいっと近づいてきた。

「祈大丈夫だよ。昨日みたいな動きでいいからさ」

 目の前に座ったフェザーさんがぐっと拳を握りしめる。

「もしもの時はオレらに任せとけ!!」

「祈は自分なりの動き方をすれば大丈夫だよ。間違った事なんてないしさ」

「は、はいっ……」

 右隣りにいる憂人くんからもファイトを貰って、ふんす、と意気込んでフィールドへ入る。

 みなさんもすでに準備を終えたみたいで、キャンプシップへ戻るワープ地点からぞろぞろと、惑星ハルコタンにある、和風の街並みである《白ノ大城塞》へと集結していく。

 4人3組で構成されたそれぞれのパーティが役割を決め合うと、フェザーさんが開始ボタンを押す。

 ごくっと生唾を飲み込んで、きゅっとエスカを握りしめた。

 

            †

 

 ――ガガガッ!!

 私の背後に、勢いよく屋根瓦を削りながら、多頭の巨人――マガツの腕が迫る。

 高台に位置しているため、射撃職にとっては絶好の射撃ポイントになっているところへその腕が伸びてきたので、横に走りながらアサルトライフルを構えていた女性プレイヤー(クラスメイトなんだけど)は前方にある、背の低い別の屋根へと飛び移った。

「上條さんっ!!」

「っ!」

 マガツの腕が迫り、私は身を翻しながら跳躍。いつでも追撃を防げるように身体を広げ風の抵抗を受けながらゆっくりと降下する。

 視界の端では、マガツのいくつもある頭部には《ウィークバレット》と呼ばれるレンジャークラスの射撃箇所の防御力を下げるスキルが発動され、近接職はスクナヒメさんの加護によって強化された脚力によって足場へ飛び移り、さまざまなPAを発動して攻撃していた。

『みんな! 第二防衛ラインが近いぞ!』

 カミトくんの声が聞こえ、二挺拳銃で牽制していた私ははっと後方を見れば、さきほど突破された巨大な城門に似た――第二防衛ラインがじりじりと迫っていた。

 これを突破されてしまえば、残るは最後の第三防衛ラインまで後退せざるを得ない。

「……私も防衛に回ります! ここをよろしくお願いします!」

「おーけぇっ、任せて!」

 レンジャークラスのクラスメイトさんへこの場を託し、彼女が牽制射撃を行っている間に着地、盾を持ちながら第二防衛ラインの数メートル手前へ立ち、正面から迫っているマガツを見上げた。

 カミトくんから連絡が入る。

『拘束準備はっ!?』

『完了済みだよカミトっち!』

『よし――ルドガー頼む!』

「はい! ――いきますっ!」

 マガツは私を見下ろし、拳を振り下ろす。そして私もスレッジハンマーで勝負に出た。

 ――思い切り、振り抜く……!

「マギカ・ブレーデっ!!」

 身体の捻転を利用しながら鎚を振り回し、最後の一撃とマガツの拳とがぶつかり合う。

 マガツから繰り出されたのは、とてつもない重量の攻撃。けれど。

「くっ……!? ううっ――!」

 私は後ろへ数メートル押しこまれたあと、3秒、4秒と私の力とマガツの力が拮抗し始める。

「――ルドガ―――ッ!」

「アリーザさんっ!?」

 後方からアリーザさんの声が聞こえた直後、私の右脇にアリーザさんの蹴りのラッシュ、《グランウェイブ》がマガツの拳に襲いかかり、

「オレも居るぜぇぇぇ―――!!」

 左脇には拳に炎を纏わせたフェザーさんがやってきて、マガツの力が緩みだす。

「フェザーさっ……!?」

「安心して! 一人じゃムリでも――」

「オレ達ならどこまでだって行ける! そうだろ!?」

「――っ、はい……!」

 二人の言葉に胸が熱くなって、勇気が湧いてくる。こんな状況だって、光が見える――!

『――拘束開始!!』

『撃て――――ッ!!』

 カミトくんの声が響き渡り、拘束用の弾頭が背後の防衛ラインの城門から放たれ、ふわっとマガツに隙が生じ、私達に一瞬の余裕ができた。

「――お二人とも、お願いしますっ!」

「おうさっ!!」

「任せろッ!!」

 アリーザさんが《ヴィントシーカー》のチャージへ入り、フェザーさんは三段ジャブを繰り出し、本命のPAを繰り出すべく一瞬身を翻す。

 私は一歩後退しながら、鎚で地面をたたきながら振り抜いた。

「ファンドル・グランデ!!」

「バックハンド――ブロウッ!!」

「これで――決めるッ!!」

 叩きつけられた所から、痛々しく尖った幾重もの氷が連なり、マガツの拳を凍らせ、フェザーさんの裏拳、アリーザさんの渾身の一蹴が凍った拳へと叩き込まれた。

 拘束されたマガツは膝をついた状態から右肩を下に激しく転倒する。

 その場にどよめきが走った。でも――!

「ラストアタックは任せたぜ!」

「ルドガー、行ってこーいっ!」

「はいっ!!」

 アリーザさんの発動する攻撃力をアップさせるテクニック、《シフタ》を背中で受けた私はただ、カミトくん達のいる前線へ走る。

 気を取り戻したみなさんは総攻撃を行い、私もそれに追いつく形で接近を終える。

「いいカウンターだ!」

「はいっ!」

 カミトくんがソードPA、《イグナイトパリング》による最後の連撃を終えたあと、ジャストタイミングで他のPA、《オーバーエンド》を発動する。

 私もそれに合わせ、双剣を抜いて縦横無尽に切り裂いた。

「オーバー……―――エンドッ!!」

濡羽狩(ぬればがり)――鳴時雨(なきしぐれ)ッ!!」

 二人の蒼フォトンの奔流と斬撃がマガツの頭頂部へ襲いかかり、粉々に砕かれる。

 すると、クエストクリアのシステム音が鳴り響き、周りから歓声が沸き起こった。

 周囲を見回せば、両腕を挙げて勝利に喜ぶ人や、目を伏せてほっと安堵の息を吐く人。さまざまな反応を見せていた。

 私もつい嬉しくなって、小さく笑みを浮かべると、大剣を背負ったカミトくんが踵を返すと、目を見開いて驚いている。

「お疲れ様です」

「あ、ああ……お疲れ」

 最後に武器や消耗品、防具などといったものが出る、大きな赤い結晶体のようなものが現れた。

「――なーいすルドガーっ!」

「よく耐えられたな、おまえ~!」

「わひゃっ……お、お二人もありがとうございましたっ」

 アリーザさんは私の背中に抱きついて、フェザーさんはぐっと親指を立ててお互いの健闘を称える。

「なぁに良いってことよ! オレも久々に全力で暴れられたしな!」

「むしろルドガーが頑張ってくれたお陰で第二防衛ライン突破されずに済んだんだから! グッジョブっ!」

 和気藹々としている中で、他のプレイヤーのみなさんが結晶体の前へ集合してゆく。

「っと、そんじゃあみんな、ブーストは良いな? 割るぞっ!」

『おおーっ!』

 その結晶体をフェザーさんが拳で砕き、「レア出たーっ!!」と興奮する人や「キューブ集めがはかどるなぁ」とため息をつく人たちが居る中で、私達は拾いにかかるのだった。

 

            †

 

 ――清雅学園・???――

「それで――どうだったラカム? あの少女は?」

 カーテンが締め切られ、薄暗くなった室内。その中に言葉を投げられたラカム――雨宮遼太郎は立っていた。

「ん、あ~まあ……。悪くはないだろう。フォトン適正も高い、戦闘時にしっかりと状況判断と危機察知能力も備わってる。……これ以上ないほどのビギナールーキーだと思うぜ?」

 彼は頭を掻きむしりながら“適当”という言葉が似合うような態度で目の前の執務机の席へ座っていたはしばみ色の髪に茶色い瞳を備えた、一人の女性教師へと答えた。

 ふむ、と彼女は顔の前で手を組み唸る。

「そうか……。では生徒会長にも報告を行った上で判断をしてもらうとしよう」

「ま、そいつぁお前さんに任せるわ。俺ぁあいつにゃ嫌われてるみてぇだからな」

「ふふ、了解した。彼女については私に任せてくれていい。君は引き続き様子見を頼む」

「あいよ。んじゃ飯食ってくるわ~」

「なんだまだ食べていなかったのか……? 早く行け、授業に遅れるぞ」

 雨宮は半身で振り返りながら笑うと、その女性も苦笑いを浮かべて送り出した。

「(ルドガー、か……)」

 女性教師は背もたれに身体を預けつつ、薄暗い天井を見上げるのだった。

 




 ここまでお読みくださりありがとうございます!
 明日もがんばルドガー!!

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