ファンタシースターオンライン2~Stardust Dreams~ 作:ぶんぶく茶の間
そろそろストックが尽きかけている・・・!(早い)
第一章が終わりましたら、一度期間を開けたいと思います、よろしくお願い致します!
ふぇぇ……テクターのレベルが上がらないよぉ……(現在67Lv)ヒーローしたいよお……(涙目)
ゲーム内でもフレンドやご意見、募集しておりますので、お気軽にお願いします!
第四話 それはある意味必然と呼べるもの
――その碧眼には、己にとって大切な仲間を屠った妹の後ろ姿が映っていた。
嵐の前の静けさか。予想外の結末を迎えてしまったことへの静けさか。
未だ振り返らぬそんな彼女へと、ゆっくりとした口調で青年は語りかける。
『お前は……俺なんかのために、すべてを捨てたのか?』
彼女の銀色に黒色が混じった髪が風に揺れる。
彼女は依然として無言で立ち尽くしたまま。青年はその暗紫色の空を見上げた。
『全部……無駄だったか……』
上空にある濃度の濃い、暗紫色の球体は浮遊を続け、絶望に打ちひしがれるような声音で男性はその言葉を吐きだした。
†
「……………」
ゆっくりと目を開く。いつもの夢に自分なりのけじめを付けながら起き上がる。
夢の中の
ただ一人、彼らのためだけの盾になれればそれでいい。
依存、他力本願するヒト……それが私だ。
支えるのではなく支えて貰う人間が自分だった。
それを、忘れてはいけない。
忘れてはいけないし、変えなければならない。
――昨日あれからお買いものに行った際、床屋さんで髪を切りそろえて、揉み上げだけ長く保ってもらった前髪を持ち上げ、額を抑えながらベッド脇にあるサイドテーブルに乗った時計を見ると、時刻は五時。
カーテンを開け、登りかけの太陽を見つめながらんっと背伸びをして、気分を切り替える。
洗面などを済ませた後、すっきりした気分でキッチンで昨日買っておいた食材で二人分のお弁当を作り始める。
調理器具もこのまま借りた状態では申し訳ないので、明後日からの二連休で上條家へ取りに戻らないと、と考えながら、ハムとレタスを丸めて中に少量のマヨネーズを入れて爪楊枝を通す、という作業を六回ほど繰り返し、ブロックベーコンを細かく切った野菜炒めを小分けにしてシリコン製のカップへ詰める。
続いてミートソースで和えたウィンナーと玉ねぎを別のカップへつめて、もうひとつ空いたスペースへ、ニンジンとグリーンピース、シーチキンの入った卵焼きと、お砂糖の入った卵焼きを二切れずつ入れた後、白米を詰め込んで……完成。
学園内での憂人くんはお昼は結構がっつり行くことが昨日のお昼で分かったので(一人で1合も平らげた)、別の容器にご飯を入れておく。
ここで大体六時くらいになっていたので、お弁当袋へ包んでから、荷物と共にそれを手に持って憂人くんを迎えに行く。
男子寮へ入ると、昨日はすれ違いざまに笑われてしまったカップルと挨拶を交わす。ちょっとした変化に驚きながらも、少し嬉しく感じた。
こんこん、とノックすると、どたどたっ! という大きな音が聞こえる。どうやら中で何かをしているようだった。
「おは――憂人くっ大丈夫ですかっ? なんだかすごく大きな音がしましたけど……!?」
『あ、あぁおはよう大丈夫! もう入っていいぞ』
失礼します、と言いつつ鍵をあけて中へ入ると、憂人くんは肩にタオルをかけたジャージ姿で直立していた。
「ど、どうしたんですか……? この時間に起きているだなんて」
それにシャワーも浴びていたようだ。髪の毛も濡れているし、慌てて出た事が分かる。
「あ、いや……。そろそろ祈が来るころだと思ってさ」
ドアをしめて玄関に荷物を置きながらリビングへ入ると、私は小さく笑う。
「憂人くん、そのままだと風邪を引いちゃいますから、ちゃんと髪を乾かしてください。今コーヒー淹れますね」
「ありがとう」
憂人くんは再び洗面所へ入ると、ドライヤーのスイッチを入れたのか音が鳴り始める。私は私で台所へ入って二人分のインスタントコーヒーの粉をパーカーのポケットから出しマグカップを借りてスティックシュガー2本を入れてお湯を注ぐ。
私はお砂糖は要らないので、そのまま。
かちゃかちゃとスプーンでかきまわしていると、ドライヤーの音が止んで憂人くんが出てきた。
「ふふっ、本当にどうしたんです? 憂人くんが早起きなんて珍しいですね」
「お、俺だってたまには早く目を覚ますよ」
憂人くんは苦笑いを浮かべながら、はいっとマグカップを差し出した私にお礼を言って受け取る。
一緒になって台所のシンクに身体を預けながらコーヒー(といってもカフェラテなんですけど)を飲むと、ふぃーっとひと心地つく。
「確か今日は修学旅行についてだったか」
「六月の上旬、でしたよね? 場所はー……えっと」
「海外だよ。グアム」
「わぁ……。その季節だと大分暑そうですね」
「時期的にスコールも増える頃合いだって言うし、しっかり雨対策していかないとな」
気が早いと感じるだろうけれど、高校生と大人とでは時間の流れ方が違う。
私達にはまだまだ先の事であっても、雨宮先生はじめ教師の方々はすぐそこまで迫っている案件なのだろう。
「でも、私は海外が初めてなので楽しみです」
こくっとコーヒーをまた一口飲みながら先の行事への期待を話すと、憂人くんは嬉しそうに笑った。
「まあ、それまでに祈はうちの学園に早く慣れないとな」
「ふふ、そうですね。城之内さんや進堂さんにも、昨日のお礼をしないといけませんし」
ちら、と私はお弁当と鞄の他にもう一つ持ってきていた紙袋を見ると、憂人くんは小首を傾げる。
「あっ、そういえば憂人くん。お弁当作っておいたので、忘れずに持って行ってくださいね」
「お……まじか。嬉しいよ、ありがとう」
「いえいえ。簡単なもので申し訳ないんですけど、お口に合えば」
「なに言ってるんだよ。祈の作る物がまずいわけないだろ」
憂人くんはマグカップを片手に青い包みのお弁当箱を持ち上げてにんまりと笑うと、リビングに置いてあったバッグの隣に置く。
(あ……)
そこで気付く。いつもは早いペースでコーヒーを飲む憂人くんが、今日はまだ半分ほど残っていることに。
時刻を見れば食堂が開く20分ほど前を指していた。
どういった心境の変化なのかは分からないけれど、いつもより早起きして、いつもよりもゆっくりと朝のコーヒータイムを楽しむ彼。
なんだか時間がゆっくりと流れているような感覚がして、とても落ち着く。
昨晩とはうって違う優しい雰囲気に、私はほっと息を吐くほど安心してしまった。
†
――それは昨夜の晩のこと。
事件は唐突に起こった。
(――あった)
レベルキャップを40から75まで開放させるためのクライアントオーダー、『レベル制限解除試練・Ⅱ』の内容にあるドロップアイテム、『リリーパ観測素子d』。
ナベリウス、アムドゥスキアと三種類の観測素子を十個集めるクエストなのだけれど、これが大分難を極めた。
討伐する対象が殆どダーカーだったので、まったくと言っていいほどドロップしなかったのである。
とりあえず目的のものは手に入れることができたので、これ以上レベルを上げることができない状況で奥まで進むのも気が引けたため、やむなくクエストを破棄する。
ふわっと質感の異なった地面に足がつく感触がしたところで目を開くと、見慣れたロビー、ゲートエリアの光景が広がっていた。
(えっと……コフィーさんは)
そう思いながら左手のクエストカウンターの方へ歩き出す。
「……あれっ……?」
腰にいつもの重さがない事に気付く。
「ない……っないっ!?」
愛用していた新世武器のガンスラッシュゼロさんが無く、冷や汗が額と背中を伝う。
焦っていた私はアイテムストレージを開くのも忘れて、暫く自分の身なりを確認していた。
けれどそれも、自分が着ていたはずのコスチュームとは全く違うものになっている。
「えええ……っ!?」
青と白の配色でできあがったカットシャツの袖を肘辺りまで下り、胸元が開けた部分には緩められた黄色いネクタイ。その結び目や袖のボタン、穿かれている黒いパンツスーツをとめられた皮製のサスペンダーなど、色々な所に剣をモチーフにした装飾が施されていた。
右手には皮製の小さい腕時計がつけられ、靴は革靴のホールカットとなっており、暖色系のものが使われている。
……あまりにも唐突な出来事で、しばらく呆然としたところでようやくアイテムストレージを開いた。
「あ……あったぁ……」
愛用のガンスラッシュゼロ-NTさんもそこで発見し、私はその場で膝をついた。
はあぁぁ、と深い安堵の息を吐いたあと再び立ちあがり、カスタム画面を開いて私はガンスラッシュゼロさんを装備しようとしたけれど……できない。
「あ……あれ?」
何度かストレージ画面からガンスラッシュゼロさんのアイコンをタッチしてドラッグし、武器の設定がされていないおかしなカスタム画面へと持って行くけれど、それを受け付けなかった。
(ど、ど、どういうことっ? クエストを途中で切り上げちゃったから、とか……!?)
あわあわとしていたところで、近くを通りかかったプレイヤーさんに「どうした」と声を掛けられる。
私はびくっと肩を震わせながら、恐る恐る訊ねてみることにした。
「あ、あのっ……」
「やはりどうかしたのか。なにやら困っているようだな」
黒髪に黒い瞳、それに長身でやや浅黒い肌色のプレイヤーさんにこくこくと涙目で頷くと、彼(?)はまず私の肩に片手を置いた。
「まずは落ち着け。動揺をしていても、表に出しては敵の思うツボだ。そういった時こそ冷静になれ」
「は、はい」
すうっとひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、思考をまとめると、彼へと聞いてみる。
「わ、私がついさっきまで使っていたガンスラッシュが、クエストを破棄してしまったらどうしてか装備することができなくなってしまって……。あの、こういったペナルティなどはあるのでしょうか……?」
ふむ、とその男性は顔の顎あたりに手を添えて考えるそぶりを見せた。
「……それはおかしいな。クエスト破棄にペナルティはない。マグを外しているなど、装備条件はクリアしているか?」
「あっ……確認してみます!」
私は急いでステータス画面を見る。
「……あっ」
「……その様子では、どうやら条件が合っていなかったようだな。クエストを受ける前には準備を怠るな。戦場ではそれが命取りになる事もある」
「は、はい……ありがとう、ございました……」
ではな、と言ってその男性は去っていく。私は彼へとお辞儀をしながら見送ると、再び視線は自分のステータス画面へと向けられた。
(――サブクラスが、ない……?)
確かクエストを受ける前はファイターを選択していたはずで、メインクラスはハンターだったはずだ。
なのに、メインクラスも変わってる……?
「(……
ぽつりと、私の口から自分のクラスの名称がこぼれた。
殆どのクラスが使用することのできるガンスラッシュが装備できないというのは少しおかしい。
(カミトくんなら、何か知ってるのかな……)
なんて思いながら、現在緊急ミッション中ということもあり、声の掛けにくさを感じていた私は、とにかくレベルキャップの解放をしようと思考を切り替えてコフィーさんのもとへ向かう。
「オーダー、お疲れ様でした」
「はい。またよろしくお願いします」
蓄積した分の経験値が付与されて、いくつかレベルアップしたであろう私に、ふっと微笑んでくれたコフィーさんへ軽く会釈すると、新しい称号が入手できます、というシステムメッセージ通りに、トレジャーショップNPC、シロナさんの隣に居る、称号カウンターの係員NPC、ラケシスさんへと声をかけた。
「こんばんは」
「こんばんは。……おやルドガーさん、どうやら新しい称号を獲得されたようですね。報酬はお受け取りになられますか?」
「は、はい。お願いします」
そう言われて、ラケシスさんは本当のプレイヤーのようにパネルを操作して私へと報酬を渡してくれた。
先ほどのコフィーさんもそうだけれど、このゲームのNPCには高度な人工知能AIが搭載されているようで、本当に普通の会話もできるのだから凄い。
「――お疲れ様です。これからも頑張ってくださいね」
「ありがとうございました」
クラスカウンターNPCのビアさんの方へ向かいながらラケシスさんへ軽く手を振ると、彼女も手を振り返してくれる。
「ルドガーさん、こんばんは。レベルキャップを解放されたみたいですね、おめでとうございます。さ、本日はどうされますか?」
「こんばんは。本当に情報が早いですね」
「一応、管理職ですから」
彼は得意げに目を伏せながら小さく笑うと、私は「では、スキルツリーを見せてもらえますか?」と言いながら自分のステータス画面を再び開く。
スキルツリーとは、それぞれのクラスのレベルをあげることで入手できるポイントから、自分のステータスを向上させたり、スキルによってプレイングの幅を広げたりすることのできる、とても大切なものだ。
基本的にレベルが75となった時点でレベルキャップが再び発生し、上限値を越える事でクラスキューブと呼ばれるものが一つずつ貰う事ができ、19個ほど集めることでレベルキャップを80レベルまで解放することができる。
「かしこまりました。――こちらになります」
ビアさんがスキルツリーのウィンドウを出してくれるけれど、私の手が停まっていた事に彼は小首を傾げた。
「? どうかされましたか?」
「あ、は……いや、なんでもありません」
「そうですか。ごゆっくりどうぞ」
私はぺこっと再び一礼して、ゲートエリアの中央にある椅子へ腰かける。
(落ち着けー……。落ち着け私……。きっと見間違い)
ふっと息を吐きながら再び自分のステータス画面を見ると。
『銃剣鎚士 Lv76』
という、常軌を逸した数値が出ていた。
何かの間違いでは? と思いながらスキルツリーを見れば、ちゃっかりクラスキューブによって増えるスキルポイント分、及びレベルキャップ解放後のスキルポイントが入っていたので柄にもなく吹き出してしまう。
(こ、これは夢だ……夢に違いない……)
何時の間に寝たんだろう私、なんて思いつつ一度ログアウトして、再びログインし直す。
「………」
おぅじーざす……どうやら夢ではなかったようです。
私はエクストラハード推奨ブロックのゲートエリアで、キャンプシップへ向かうためのゲート付近にあるソファでぽつんと座りながら床をぼうっと見続けていると、大剣を背中に背負ったカミトくんが帰ってきた。
「あれ、どうしたんだイノリ。そんなところで?」
「ゆうっ、かっ……ゆ……カミトく~ん……っ!」
「本当にどうしたっ!? なんで半泣きなんだ……?!」
がくがくとカミトくんに両肩を抑えられて揺すられていると、その後ろからフェザーさんとアリーザさんがひょこっと顔を出した。
「あれー? かみじょ……。ごほ、どうしたのそんなとこでー? 緊急いかなかったの?」
「おいおい勿体ねぇなー。今なら周回組のやつらが居るだろうし、行ってきたらどうだー?」
「いや、こいつは
「カミトくん、そのことなんですけど……」
ようやく頼みの綱に出会えたからか涙腺がゆるゆるになっていた私は、彼を見上げると状況をなんとなく察したのか真剣な顔つきになる。
「とりあえず、部屋いくか?」
「は、はい……」
「なんだなんだ、カミトの事待ってたのか」
「あちゃ~。借りてごめんねー? ごゆっくりー」
「いやいや、お前らも念のため来てくれよ」
「えー……」
「えっ、いいの? 二人の逢瀬に立ち合っちゃっていいの?!」
「まずアリーザ、お前は落ち着け」
興奮して手をわなわなとふるわせたアリーザさんはカミトくんに窘められ、軽く頬を膨らませるのだった。
◇
「……と、いうわけなんです」
カミトくんの和室チックなマイルームへ移動すると、私は座卓の上へこと、と人数分のお茶を置きながら、カミトくんの前にある座布団へと正座する。
「なるほどな……銃剣鎚士、か」
「それに40のレベルキャップが解放されたはずなのに、75通り越して76になっちゃう、っていうのもおかしな話だよね」
私の隣に座っていたアリーザさんがふむ、と唸る。
「フェザーはどう思う?」
そしてアリーザさんはカミトくんの横で寝そべりながらテレビを見ているフェザーさんへ訊ねた。
「オレは拳で語る派だからわっかんね!」
もくもくとみかんを食べ続けているフェザーさんは完全に興味なしのようだ。
「弱ったな……。俺達じゃ圧倒的に情報量が少なすぎる」
「会話からすると、銃剣鎚士と呼ばれるクラスは存在していないんですか?」
「ああ。今のところヒーローっていう特殊なクラスがあるんだけど、やってる人もあまり見かけないな。条件が厳しすぎなうえに、複雑なクラスだからできても慣れないんだよ。使いこなしたら強いんだけどさ」
「そうなんですか……」
ずず、と私はお茶を飲みながらカミトくんの言葉に頷くと、隣のアリーザさんは頭をがりがりと掻きむしりながら「あーっ!」といきなり声をあげる。
「とにかくっ、その銃剣鎚士ってクラスは今のとこルドガーにしか使えないってことでしょ? だったらユニークスキルみたいなものじゃないの?」
「ゆにーくすきる?」
ちら、とカミトくんを見ると、一瞬彼は気まずそうな顔をした。
「ああ……。まあ、なんというか。レベルキャップが80まで解放されたら教えるつもりだったんだけど、自分で想像した
「おっ、ユニークPAのことか!?」
がばっ! とフェザーさんは起き上がり、その勢いでみかんの皮があさっての方向へ飛んでいく。立ち上がりかけた私をカミトくんは手で制し、きっとフェザーさんを睨みつけた。
「後始末はしとけよ」
「お、おう……」
物凄い剣幕でカミトくんに言われたフェザーさんは頬をひきつらせながら立ち上がり、のそのそとみかんの皮の回収へ向かう。
「つまりアリーザが言いたいことは、恐らくルドガー専用のクラスかもしれない、ってことだ」
「私専用のクラス……ですか?」
「まあ、あくまであたしの推測だけど。世界にひとつしかないPAがあるんだったら、世界にひとつしかないクラスがあってもいいんじゃないかなー、なんて」
アリーザさんはぽり、と片頬を照れくさげに掻くと、カミトくんは何かを思い出したように「ああっ!」と声をあげ、座卓を支えに立ち上がる。
「ど、どうしたんですかカミトくんまで……?」
「そうだよお前! お前あのレリック武器!!」
「え……あ、ああーっ! あれですね!?」
私は急いでお部屋の出入り口脇に据え付けられているキャラクター倉庫へアクセスするための装置へ向かい、起動。そしてそこから会員登録をした時点で貰った武器を取りだした。
みなさんの位置へ戻り、その
ずしっという安心できる重量感が腰元と両足に感じられた。
「なにそれ……ひとつの武器?」
そしてみなさんを見れば、全員が呆然とした様子でそれを見つめていた。
「なんじゃそれ!? 一本じゃなくね!?」
「ハイブリットってわけじゃないし……なにその武器類?」
「ふぇ?」
そして私は変な声をあげながら、自分の武器の一本であるスレッジハンマーを腰元のドットボタンをはずして取り出し、軽く振ってみる。
「そう、ですか――?」
その時。
ざざ、というノイズが耳に響き渡り、立ちくらみにも似た揺れを感じる。
「……っ……」
私は咄嗟に自分の頭に手を当てながらふらついた。
きつく目をつむると、まるで目も開いていないと言うのに、『夢』の映像が流れた。
まるで、忘れてはいけないとでもいうかのように――。
ぐらり、と身体が傾く感覚がする。衝撃を覚悟していたけれど、その痛みはなく、背中にまわされた温かい腕によって抱きとめられている事に気付いた。
「――祈!」
ゆっくりと目を開けば、カミトくんの顔がすぐそこにあった。
「大丈夫か……?」
「っは……、はい……。すみません、ちょっと立ちくらみが……」
私は喉を鳴らしながら肺にいっぱいの酸素を吸い込み、カミトくんに支えられながら再び床へ座りこむ。
「……もう平気です。ありがとうございます」
しばらくして再び立ちあがり、座布団の方まで歩いていく。
そしてカスタム画面から武器を外す。
粒子化したそれはそのまま私のアイテムストレージへ格納された事を確認して、それぞれが息を吐く。
「とりあえず、そのクラスは今のおかしな武器がない、っていうのは良く分かった」
「はい……」
「問題は装備面だよな。レベル40のユニットから変わってないんだろ?」
「だとしてもさあ、その武器が打撃武器なのか法撃武器なのか、それとも射撃武器なのかが分からないじゃん」
ユニットと呼ばれるのは、他のゲームでいう防具のことであり、そのユニットにはオプションという特殊能力を追加する事のできるギミックがついている。
ステータスに影響するそのオプションは、攻撃力をあげたり、HPを増やしたり、防御力をあげたり。PAを多く出すために
攻撃力や防御力には打撃、射撃、法撃の三種類が存在し、それぞれ使用する武器に合ったものを付けなければ、攻撃力に反映されない。
恐らくアリーザさんの言っていることは、私の武器がその打、射、法のいずれかにカテゴライズされているのか分からない、ということだろう。
「まあ、見るからに打撃ではあるんだろうが……」
ふむ、と唸ったカミトくんは私を見つめると、それから溜息をひとつ吐いた。
「とにかく話してるだけじゃなんも始まらないぜ? クエストでも行けばすぐにわかるさ」
ぱしっとフェザーさんは拳を手の平に打ちつけて鳴らすと、その場から立ちあがる。
「え、ですが防具が――」
「そんなんカミトのお下がりがあるだろー? 貸してやるくらいしてやれよー」
「ん……まあ、そうだな」
ルドガー、とカミトくんに呼ばれて私は返事をする。
「とりあえず検証っていう名目で、これから四種類のユニットを渡すから。それぞれセットで装備してクエストへ行こう」
「わ、わかりました……?」
カミトくんはぶつぶつと何かを呟きながら倉庫へアクセスする装置へと向かうのだった。
†
そして今に至る。
あれから四回ほどクエストに連れて行ってもらったのだけれど、最終的な結果からすると。
シフタやデバンドといった補助系テクニックを除いたテクニックだけを使用することができるのに、打・射・法撃力のセット効果のいずれにも攻撃力は上昇し、それよって攻撃力が上昇したこと。
スキルツリーを確認したところ、他のクラスとは異なり、HPやPPを上昇するものではなく、純粋に攻撃力や防御力を主とした継戦能力を上昇させるスキルだったこと。
オートメイトと呼ばれる、HPが一定数値下回った際に発動するスキルや、ウォークライというエネミーやダーカーなど、敵の
それだけでも十分な情報が入手できたので、色々とお世話になったみなさんへちょっとしたプレゼントを用意しておいたのだ。
……コーヒーを飲み干し、二人分のマグカップを台所で洗っていると、後ろの冷蔵庫に寄りかかっていた憂人くんが口を開いた。
「なあ、祈?」
「はい、なんでしょう?」
「例のクラスの件なんだけど、基本的にクエストはソロか、俺達みたいにリアルで面識のある人と一緒に行ったほうがいいんじゃないかと思うんだ」
「えっと……つまり他のプレイヤーさんとはあまりクエストへ行かない方がいい、ということですか?」
「……酷な話なんだけど、そうなっちゃうな」
憂人くんは辛そうに眉間に皺をよせながら目を逸らした。
「私は平気です。憂人くんが気に病むことじゃありませんよ」
「いや、でもさ。「はじめまして」から始まるRPGなんだよあのゲームは? 人と人との関わりがあるからできるゲームなんだ。俺が言ってるのは、それとはまったく逆のことで……」
「――そこ、憂人くんの悪い癖です」
私は彼へ歩み寄り、優しく叱るようにちょんっと鼻を軽くつついた。彼は軽くうなる。
「憂人くんと一緒なら安心できますし、私の今置かれている状況を見れば正しい判断だと思います。それが最善だと思ったからこそ、憂人くんはそう言ったんでしょう?」
「……まあ、うん」
ぽり、と憂人くんは片頬を人差し指で掻きながら、さらに視線を逸らし、「それに」と続けた。
「祈のああいう格好は、あまり他人に見られてほしくないなあ――って何言ってんだ俺はっ!?」
その言葉に、あの格好を思い出した私は一気に顔が熱くなった。
そうなのだ……。いざ戦闘モードに切り替わると、いつも着ているコスチュームとは違って、例の姿に強制的に切り替わってしまうのである。
実際アリーザさんやフェザーさんも驚いて、クエスト中にフェザーさんはあさっての方向へ攻撃をしたり、カミトくんは武器を落としたり。アリーザさんは付与するバフを間違えたりすることがあった。
「いっ、祈そのっ、あれ、あれだよ! そう! 結構地味目だけど色々目立つ格好だからさ! 武器なんか特に!!」
「一応言っておきますけど、あれは決して私が好んで着ているわけじゃありませんからね……?」
ふっと今度は私が憂人くんから視線を逸らして遠い目をする。ああ、本当に思いだすだけで……。
「わ……分かってるよ。スカートだけでもぎりぎりなんだもんな」
「よくご存じで……」
とにかく短いスカートなんて穿くことすら躊躇われるので、この学園の制服はロングでよかったと本当にほっとしているくらいなのだ。
そのうえあのコスチュームは、正直言って本当に華美な服装が多いPSO2では特に目立つ。結び直せるからいいけれど、胸元が開けているのは正直いただけない。
「あのさ、祈。お前が良ければなんだけど」
「はい?」
「……いや、ごめん。今はなんでもない」
「? おかしな憂人くんです」
私は小首をかしげたあと、腕時計を見る。
そろそろ食堂が開く時間だ。私は紙袋を手に持ち、部屋を出る準備をする。
「とにかく憂人くん、今は朝食です。急ぎましょう」
「ああ……」
憂人くんは溜息をついたあと、玄関のドアを開けた私へと続いた。
はい、というわけで第四話お送り致しました。第一章開始ですね。
ここで憂人くんことカミトくん、フェザーくん、アリーザちゃん、ルドガーちゃんの装備を紹介していきたいと思います!(リング等はなし)
キャラクター名:カミト
クラス:ハンター/ファイター(80/80)
メイン武器
アカツキ(ソード・武器迷彩:龍鳴剣ヴァンデルホーン)
ユニット
リア:シャインレッド(打撃PP盛り)
アーム:デッドリオエスト(打撃HP盛り)
レッグ:クリファドレム(打撃PP盛り)
好きなPA:イグナイトパリング
キャラクター名:フェザー
クラス:ファイター/ハンター(80/80)
メイン武器
ギクスディザンガ(ナックル・武器迷彩:火竜の鉄拳-オリジナル仕様:白&蒼)
ユニット
リア:サーキュレイ(打撃HP盛り)
アーム:ギクスクード(打撃PP盛り)
レッグ:サークレイ(打撃HP盛り)
好きなPA:バックハンドブロウ
キャラクター名:アリーザ
クラス:バウンサー/ファイター(79/80)
メイン武器
クリシスセルベス(ジェットブーツ・武器迷彩:雷装イザネカヅチ-オリジナル仕様:ロングブーツVer.)
ユニット
リア:シャインレッド(法撃PP盛り)
アーム:ホワイティルピナ(法撃防御PP盛り)
レッグ:ホワイティルエア(法撃PP盛り)
好きなPA:ストライクガスト
キャラクター名:ルドガー
銃剣鎚士(76)
メイン武器
―――――――(武器迷彩なし)
ユニット
リア:ウェラボード(打射法HP盛り)
アーム:フィオガルズ(射撃PP盛り)
レッグ:サーキュユニオン(打撃PP盛り)
好きなPA:鳴時雨
以上です!
ううん、殆どの面子が12ユニットなのは時代が進んでビジフォンで入手が可能になったというのと、クリファドなどがないのは今後の御話に関係するので自粛! お楽しみに!