ファンタシースターオンライン2~Stardust Dreams~   作:ぶんぶく茶の間

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 お待たせしました! 第二話ですっ!
 第三話は24時以降にあげさせていただきます! また明日っ!


第二話 登校初日で戦闘ってどこかのハーレムアニメみたいですよね by祈

 ――ヒュッ! と風を切るような攻撃が飛んできた。

「ッ――!?」

 その一瞬の行動に、私の意識は戻ってくる。

「何ぼーっとしてんだ。とっとと始めようぜ?」

 拳を構えた城之内さん――フェザーさんはすでに闘争本能をむき出しにしていた。

 折角私に興味を持って話しかけてくれたクラスメイトと、まさか肩を並べて戦う事になるだなんて、誰が想像しただろう?

 私が、たった一太刀浴びせただけで壊れてしまうかもしれないほど、危うい関係だというのに。

「……っ……」

 眉間に皺をよせながら目を細め、口元を一文字に結んだ。

 

 

            †

 

「……これでよし、と」

 服装チェックオーケー。

 白地に青の入ったパーカーの中に白いワイシャツ、第二学年である事が分かる各学年色違いの赤いネクタイをしめると、腰まで伸びた銀灰色と、右の前髪から長くしたもみ上げにかけて黒い、その特徴的な髪を整えて、日本人らしからぬ翡翠の瞳を誤魔化すように赤いフレームの眼鏡をかける。

 もちろん伊達だ。視力は小さい頃弱かったけれど、いつからか回復していたので、殆ど慣れでかけてしまっている事が多かった。

 ……ネクタイの方は、憂人くんのものを借りている。青いスカートと学園指定のパーカーだけしか届かなかったので、色々と借りているものが多いため、パーカーもぶかぶかだ。

 黒いストッキングで防寒も完璧。スカートも以前の学校で穿いていたものより丈の長い物なのでよかった。

 色々と問題点はあったけれど、そろそろ行かないと朝食の時間に遅れてしまう。

 父のお古である黒い革鞄を手に、玄関で革靴を履いて

「行ってきます」

 見慣れていない寮の自室から踵を返し、施錠をして出ていく。

 そのまま廊下を歩き、憂人くんへエスカで連絡を取るけれど……反応がない。

 30秒くらいコールしたけれど応答もなかったので通話を切り、女子棟から男子棟まで歩を進める。

 途中で何人かの男子生徒とすれ違ったので挨拶をしながら、すたすたと目的の部屋の前へ立つ。

「……憂人さーん?」

 こんこん、とノックを繰り返すけれど案の定反応もなく。

 くすくすと恋人を迎えに来ていたのであろう女子生徒と、迎えられた男子生徒に小さく笑われるなか、寝落ち確定という単語が脳裏を過ぎり、彼から貰っていたスペアキーで入室。

 そこには。

「……憂人さ――あぁ~っ……」

 恐らくベッドから転げ落ちたのだろう、身体に毛布をぐるぐる巻いた状態で床で熟睡している憂人くんの姿があった。

 その頭部にはコードがビンと貼られている状態でVRに接続するためのデバイスが被られていた。

 彼の周辺も飲み干したマグカップが転がり、マンガの単行本や雑誌、エスカなどが転がっていて、見るからに足の踏み場もない空間が出来上がっていた。

 私は腕時計で登校時間までまだ時間があることを確認すると、その場に革鞄を置いて散乱していた雑誌と単行本を種類別に分けて彼のまっさらな状態の机の上へ置く。

 続いてマグカップとエスカ、彼の頭からデバイスをコードを抜いて取り外し、机にあげながら彼の肩をゆする。

「朝ですよー。起きてくださーい」

「…………んあ……?」

 目が半開きになり、彼はゆっくりと開かれた目で私の顔を見ると、再び目を伏せて寝息を立ててしまう。

「ちょ、ちょっ! 寝ないでくださいっ! ご飯を食べずに学校へ行く気ですか!?」

 流石に彼の朝の体調面を考慮すると食べさせないとまずいので、今度はがくがくとやや強めに肩を振った。ゆするだけじゃ再び眠りにつこうとしている彼を起こせないのは分かっているからだ。

「……祈の作った飯が食べたい………」

 ぽつ、と眠気の抜けきらない憂人くんの声が聞こえて、私はほうっと胸を撫で下ろす。会話ができるならもう大丈夫だ。

「コーヒーなら準備できますから……。ご飯はその、食材がないので出せません……」

「……昼飯は作ってくれない?」

「お昼でしたら大丈夫です」

「なら、起きるか~……」

 むくり、と左肘を視点に起き上がった憂人くん。ようやく起床だ。

「おはようございます、憂人さん。今日から二年生ですね」

「おはよう……」

 くぁっと大きな欠伸を胡坐をかいた状態でかみしめた憂人くんはその場で伸びをし、私は立ちあがって閉じられていたカーテンを開く。

 日が射しているからだろう、いつもは寒いと感じる朝の冷気が心地良い。

 その眩しさを遮るように目を細めながら手の平で太陽の光を遮ると、踵を返して

「コーヒー、用意しますね」

「ああ……うん」

 玄関から入って右手の扉からやや狭い台所へ入り、ポケットから朝食後に自分が飲む予定だったインスタントコーヒーの袋を切り、彼の台所に置いてあったスティックシュガーを2本入れてお湯を注ぐ。

 ……本当に綺麗な台所だ。清掃員さんがしっかりやってくれているのもあるのだろうけれど、自炊していない事が分かる。冷蔵庫もからっぽ。せっかくいいやつなのに、使わないなんてもったいない。

 調理器具は食堂で借りる事が出来るので、必要なのは食材だけ。幸い近くに安いスーパーを見つけたので、今日買いに行こうと考えていた。

 かちゃかちゃとスプーンでコーヒーをかき混ぜ、それを手に憂人くんのもとへ持って行く。

「はいどうぞ、コーヒーです」

「ありがとう」

 ぼさぼさの髪で、洗面を終えて寝間着からジャージへ着替えを終えていた憂人くんは、肩にタオルをかけてベッド脇に腰掛けながらぼーっと外の景色を見ていた。

「いや悪い……。休み明けだから、ちょっと身体がきついな」

「ふふ、分かります……。私もいつもより30分ほど寝坊しました」

 小さく照れ笑いを浮かべながら、床の座布団に座ると、マグカップを手にとってちびちびとコーヒーを飲む憂人くんを見守る。

「30分って……気になってたんだけど、いつも何時に起きてるんだ?」

「5時起きです」

「……うゎお……」

 目を見開いた彼はマグカップから口を放してそんな声をあげた。

「……俺みたいにもうちょっと寝ててもいいんだぞ? 食堂空くのが7時なんだから」

「憂人さんが起きないと始まらないので」

「ぐっ……!?」

 笑顔で彼に伝えると、彼はマグカップを置いてひとつ溜息を吐いた。

 私の転校理由。それは彼に関する事だった。

 もちろん面接の時に話したのは将来の事も考えての転校、というものだったのだけれど、あまりにも生活面でだらしのない彼の御世話をするよう、憂人くんの両親からお願いされたのである。

 姓についてはこれまた家の事情というか。従兄の家に行くのなら名前も変えなさいという私の両親からの変わった指示で、母方の姓名――上條となった。

 閑話休題。憂人くんはコーヒーを飲み干すと立ち上がり、「行こうか」と言って玄関まで歩いていく。

「はい」

 私も彼の後を追って、部屋の施錠を確認すると、食堂まで向かうのだった。

 

 

 朝の食堂にはおびただしい量の生徒で溢れていた。

 流石都会の高校は違うと思い、私達もその列に並ぶ。

「いつもこんなに人がいるんですか?」

「ああ。まぁ殆どが部屋で料理しないからな。自炊してるなんてほんの一握りの生徒だけだ」

「そうなんですか……」

 ちなみに寮の資料によれば一食200円前後。値段も大分安くなっているうえ栄養バランスもしっかり考えられているので、お得だ。

 確か昼食は出なかったので、今後はお弁当にした方がいいだろう。この混雑具合を見るに購買などは大変な事になっているに違いない。

 券売機で小銭を入れ、憂人くんがA定食を選んだので私もそれに合わせる。

 パン食だったのでジャム付きのロールパン2つにコーンスープ、ベーコン入りのシーザーサラダと本当にバランスが良いし手間もあまりかからない。

 食券を手にカウンターへと出すと、焦げ茶色の天然パーマといった髪型の食堂のおば……お姉さんが「あらっ」と声をあげた。

「憂人ちゃんが誰かと一緒にご飯なんて。見ない顔ねぇ、新入生?」

「い、いえ。転入で……」

「あらま、そうなの? この子朝のテンション低いから、しっかりフォローしてあげてね。憂人ちゃんも女の子連れてるならもっとしっかりしないと! ほら、今日は3つにしてあげるからっ! シャキッと!」

「うぉ、流石にそいつはきつい……」

「なーに言ってんのさ! 男の子ならがっつり行きなさい朝は! ねっ?!」

「あ、あぁ……ありがとう」

 ばしばしとカウンター越しの腕を伸ばされて腕を叩かれる憂人くん。私は大丈夫かなとあたふたしながら見守るけれど、お姉さんも接し方は心得ているのだろう。彼が辛そうな表情をしない程度の絶妙な力加減で叩いているのが分かる。

 憂人くんはげんなりした様子でパンが追加された定食を受け取ると、席を取りに向かう。

「それで、あなたお名前は?」

 矛先が私へ向いたっ!?

「か、上條祈と言います……。これからお世話になります」

「上條……。ひょっとして妹さん?」

「あっいえ。一応、従妹です……」

「あらそうなの。あの子朝は本当に弱いみたいだから、この時間に来るなんて珍しいと思ったのよ~。これからこの調子でよろしくね?」

 満面の笑みでそう言われてしまったら、断れそうにもない。むしろ断る気もさらさらないのだが。

 私は引き笑いで「は、はい……」と答えた後、朝食を貰って彼の元へ向かう。

「(……お姉さん、凄い。強烈。朝から)」

 そんな小学生並みの感想を呟きながら、憂人くんと合流して朝食をとるのだった。

 

            ◇

 

 登校時間の8時となり、私と憂人くんは通学路を歩いていた。

「そういえば祈、クラスとかは伝えられてるのか?」

「いいえ? 昇降口に張りだされるなどではないんですか?」

「……えっ?」

「えっ……?」

 並木路で、私達はお互い立ち止まって顔を見合わせる。

「そういう……ものでは?」

「い、いや……。うちの学園、基本的に1、2年は繰り上がりなんだけど……?」

「「…………」」

 一緒になって厭な汗をだらだら流しながら、ぐっと脚に力を込める。

「急がないと!!」

「憂人さん大変です! 昇降口と職員室が分かりません!!」

「俺が案内するから! 急ごう!!」

「はいっ!!」

 通学路を駆け抜け、昇降口で上履きのスニーカーへと履き替えて速攻で職員室へ。

「ひゅー……ひゅっ……こほっ」

「だ、大丈夫ですか憂人さん……?」

 職員室脇の壁で息も切れ切れな憂人くんは、呼吸を整えようとその場でしゃがみこむ。そして彼は軽くむせていた。

「祈こそ……平気か?」

「はい……。私は大丈夫です……」

 深呼吸をしながら酸素を取り入れる。……なんとか落ち着いてきた。

「それじゃあ、入ろうか……」

「そうですね」

 お互いに溜息をついて職員室の扉をノックし、入室。

「失礼します。二年の上條です」

「同じく、二年の上條です」

 そこでお互いの苗字が一緒な事に気付いて、私は少し照れくさくなった。きゅっと革鞄を握りしめる。

 すると職員室の角にある喫煙スペースからひょこっと顔を出した黒髪を伸ばし切ったスーツ姿の男性教諭は、顎のおひげをさすりながら歩み寄った。

「よう、憂人。朝から同伴出勤とはやるねぇ」

「……先生が出てきたって事は、祈は俺のクラスって事だよな?」

「ま、そんなトコだ」

 男性教諭は私へと視線を向けると、ほーう、と呟いてから名乗る。

「今日からお前のクラスの担任になる、雨宮遼太郎だ。よろしくな」

「上條祈です。今日からよろしくお願いします、雨宮先生」

「………」

 ぽすぽす。

「なっ!? おい遼太郎!!」

「おーお、怖いねぇ」

 がしっと唐突に私の頭を撫でた雨宮先生の手を憂人くんが掴み上げ、思い切りメンチ切った。

 いきなりの出来事だったので現状についていけず、私はぼーっと憂人くんの怒った顔を見つめる。

「とりあえず俺はこの後会議があるから、応接室で待っていてくれ。クラスは2年C組な。憂人は先に行ってろ。遅れんなよ?」

「……先生は信用できないから俺も祈と待ってるわ」

「お、おいおい……」

「いけませんよ憂人さん」

 がりがりと雨宮先生が頭を掻いていたところで、目の据わった憂人くんへけしかける。

「今回の責任は私にあります。ですから、憂人さんは所定のクラスへ行くべきです。このままでは折角早めに出たのに無駄になってしまいます」

「祈……でもそいつ」

「私は大丈夫です。それに、他の先生方の目がある中でそんな事をする方ではないと思います」

「(……オカンや……オカンがおる……)」

「何かおっしゃいましたか雨宮先生?」

「い、いやなにもっ?」

 雨宮先生は苦笑いを浮かべながら両手を前に横へ振る。

「とにかく冗談が過ぎたな。悪いが憂人、本当に教室で待っててくれ。こっちは色々と書いてもらう書類があるだけだからよ」

「……まあ、そう言う事なら」

 憂人くんはようやく納得した様子で溜息をつき、私へと振り返る。

「祈、とにかくそいつには気を付けろ」

 そう言い残して職員室をあとにした。

「おぉーい。もうちっと大人を信用しろっつの」

 ったく、と雨宮先生は苦笑いをそのままに、右手を襟足にあてた。

「ビックリさせちまって悪かったな」

「いえ。それで先生、先日郵送された書類の件なんですが――」

「お、もう書いてきたのか。そいつぁ話が早ぇや――」

 私は入学時に提出を求められた書類を手渡し、今後の予定などを雨宮先生へと伺うのだった。

 


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