ユグドラシル
D77-TCペリカン降下艇(兵員輸送機)
一羽の鋼鉄の鳥が闇夜を突き進む。
それは平和とはかけ離れた機体。見るものを威圧する武器の数々、機体を覆う複合素材の塊である装甲板。誰が見ても戦いのない空を飛ぶ存在ではないことが分かる。
機内を見渡すと・・・・・・騎士に悪魔に鳥人と見事にバラバラである。
『今回のクエストは、現在コヴナント軍に制圧されているβ基地の確保です』
モニターに映っている紫髪の少女は淡々とした口調で告げる。
『先日、偵察隊を派遣しましたがコヴナント軍発見の報告と同時に消息が途絶えています』
「シェラ、現在の状況を教えてくれ」
『最新情報によると事前情報通りコヴナント軍が周辺に展開中。敵のレベルは全てこちらと同期。注意を』
「さあ、いっちょやってやるぜ! 」
遠足気分で気を高ぶらせ準備するバードマン。
アイテムボックスは無制限に収納できるが、多すぎると検索に時間がかかりイザという時に取り出せない。初心者はどこぞのネコ型ロボットのようにパニックになってる内に襲われるのが通過儀礼であるが、慣れたプレイヤーが戦闘前に不要なものは取り出すのは常識である。
「いっちょ前に指揮官気取りか。たっち?」
羊顔の悪魔は騎士をにらみながら言う。
「この戦いが終わったら皆にとっておきのエロゲーを見せるぜ」
「お前の姉ちゃんが出てくるエロゲーを押し付けるな。1人でやれ」
「期待した新作に姉ちゃんが出てきた絶望がウルベルトに分かるものかーーー」
はぁ~毎度のことながらぺロロンチーノも懲りないよな。人気声優は限られているから買う前に予測がつくだろうに・・・いやまてよ、人気声優は目玉だから事前に公表されているはず。わかってて買っている? ・・・まさかな。
「そろそろクエスト開始だ。みんな準備は? 」
「ぺロロンチーノのゲイ・ボウは問題なし。ワールドチャンピオン・オブ・アルフヘイムも正常そうだ。ほら受け取れ」
ウルベルトからペリカンの武器庫に保管されていた愛用の剣を受け取る。普段対立しているが、こうゆう時はしっかりやってくれる。
『現在高度10,000m。まもなく目標到達ポイントに接近。出撃を許可します』
先ほどの騒ぎを全く意に介さず告げる。毎度のことながらいい性格をしている。
--- 降下準備完了 ---- ハッチ開放 ---
機械音声がペリカン機内に響く。
駆動音と共にハッチが開き、薄暗かった機内に光が差す。闇は去り朝日が眩しく白銀の騎士を光り輝かせる。
『日の出です。現在予定時刻』
たっち・みーはウルベルト、ぺロロンチーノに告げる。
「アインズ・ウール・ゴウン出撃だ!! 」
大空に飛翔する3人。高度計が差す値がみるみる小さくなる。
「異業種を選んでおいて正解だったぜ」
まったくだ。高高度からの降下は人間種なら専用のスーツとヘルメットが必要であるが、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは全員が異業種であり強固な体を持っている設定なので必要ない。バイザー越しではない降下は迫力満点である。
とはいっても地面との激突には耐えられないから自分を含めジェットパックを装着済みである。降下中はずっとオートモードで姿勢を制御している。バードマンであるペロロンチーノも単独では高高度の姿勢制御は無理なので専用品を装着している。高度10,000mなんて種族を設定した人も想定外だったんだろうな。
「ジェットパック異常無し。楽なものだ」
やがて湯気のような白い雲の中に突っ込むと視界が真っ白に塗りつぶされる。
『最新情報更新。β基地に装甲車両、及び航空機を多数確認』
降下中だというのに無視できない情報がもたらされる。
「ちょっと待て。なんでこのタイミングで? 剣で立ち向かえとか言わないよな。戦域内に参加可能なギルドはいないのか」
装甲車両は乗り込んで搭乗員を斬れば何とかなるが、空から攻撃してくる航空機相手には無理。今は自分を含め3人しかいないから他のギルドの力が必要だ。
『トリニティが対応可能との事。準備が整い次第、所属の航空部隊に援護させます』
「了解した、シェラ」
視界を覆っていた雲を抜けるとβ基地と思われる建物が目についた。そろそろか...
低高度に到達すると、スラスターの出力が全開となり車で急ブレーキしたような衝撃が体に伝わる。ジェットパックがホバリングモードに切り替わり、衝撃の後はこれまで体に与えていた加速感が無くなる。プログラムに従い自動でゆっくりとたっち達を森林へと降ろす。
大地に降り各自が背負っていたジェットパックを外しアイテムボックスに収納する。男心をくすぐるアイテムだがイベント限定のため自分の物にならない、残念。
降下地点のすぐそばには断崖がありβ基地を見下ろすことができた・・・・・・全体的に演出過剰じゃないか? 拠点を見渡せる高台に敵がいないのは不自然すぎる。断崖にいる自分たちに気が付かないのもちょっと・・・
『ペリカンの作戦空域外離脱成功。現在コヴナント軍に反応なし』
・・・前々から思うんだがシェラの通信はいつもタイミングが良すぎる・・・
「侵入ルートは? 」
『北西に廃棄された搬入トンネル有、そこから内部に侵入できます。今座標を表示します』
絶景に後ろ髪を引かれながらも断崖を後にする。
徒歩で目的地に向かう途中、ペロロンチーノが皆の気持ちを代弁する。
「なあ、今プレイしているのってユグドラシルだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ」
「こっちもノリノリだったけどさ。さっきの会話はどう聞いてもミリタリー・・・」
「・・・DLC-Haloパック。皆で買ったろう? 」
ウルベルトが指摘する。ちょっと間があったのは気のせいだと信じたい。
「新規ユーザー獲得のため、なり振りかまってられないんだろ」
人気VRゲームのユグドラシルだがトップを保つのは容易ではない。近年ライバルが多数参入してその地位が脅かされている。少し前からユグドラシル自身も古参が跋扈して新規ユーザーが寄り付かないことが問題視されていた。新規ユーザー獲得を優先し、世界観を一新したり俺たち古参に制限をかけるメーカーの心境も理解できなくはない。
「ちょっと前に仲間になったシェラさんってさ。変わってるよね」
シェラは紫色の長髪、美少女だが感情の起伏に乏しい表情、一見すると魔導鎧を身に付けた少女だがれっきとした異形種である。鎧が本体で人間は生体部品というキャラ構成をしている。内蔵火器の魔導砲による攻撃は強力だが、後方で指揮をとることを好む。
リアルでそうゆう職業なのか情報処理や統率することに長けている。他ギルドの協力を得られるのはスキルではどうにもならない。他のメンバーもそう思っているらしい。彼女のNPCセリーナも同様に情報処理能力が高い。
仲間になった時期とメーカーが新規ユーザー確保に躍起になった時期と一致するため、ギルメンの間では運営の一員ではないかと噂されている。
トリニティの件もそうだ。あのタイミングで根回し済みなら降下前に言えただろうに。航空部隊を参加させるという事は、ド派手なバトルで新規ユーザーに魅せる展開にするつもりだろう。
セリーナの特殊性もしかり。NPCはほとんど会話できないのに、セリーナは皮肉に富んだ会話が可能で周囲を驚かせた。彼女は普通と言っていたがどう考えてもただのNPCではない。
なんとなく裏があるのはわかっているが、非日常な通信のキレの良さ、危機感ある展開は盛り上がるので口には出さない。なんだかんだで皆楽しんでいる。
そんなことを思いつつもルートに従いトンネルをすぐ見つける。トンネルは廃棄されてからずいぶん年月が通過している。表の道路はボロボロ、あちこち錆だらけでまるで防空壕である。
「敵がいるぜ」
ぺロロンチーノが目ざとく見つけ、トンネルの入口左右をそれぞれ指でさす。グラント、エリートが複数、歩哨のようだ。
『速やかに排除してください』
合図とともに3人が各々の武器を持ち突進する。
「ひぃぃーーー敵だあぁぁぁ!! 」
「ナニ!? 敵ノ攻撃ダ。至急連・・・」
グラントが悲鳴を上げ逃げまどう。エリートは最後まで言葉を発することなく一閃で首と胴が離れる。他も魔法や矢によって瞬きする間もなく地に伏す。
--- チェックポイント通過 ---
敵を排除した後、システムメッセージが表示される。このルートで正解か。トンネルにはいったが醜い有様だった。車が走れないくらい道路はボロボロ。乗り捨てられたトラックやゴミが散乱している。照明は辛うじて機能していて薄暗かったが、ライトは必要なかった。
壁から地下水が流れ地面に水溜まりを形成しているせいで歩くたびに泥水が跳ねる。生活排水でない事を祈りながらすすむ。
だいぶ歩いたが敵は現れず、瓦礫の山が行く手を阻んだ。どうやら封鎖されているらしい。
「こっちだ」
ウルベルトが非常階段を見つけ上層にあがる。3人の足音がトンネル内に響くが敵の反応はなし。まだ見ぬ敵との遭遇にそなえ皆無言で登る。
登り切った先には扉があり光が漏れている。ここから先はおそらくβ基地・・・
扉に耳をつけるが空調の音しかしない。探知魔法に反応はなく不意の遭遇戦はなさそうだ。
2人もβ基地だと考え戦闘準備を整えている。武器はよし。回復アイテムもいつでも使える状態になっている。
3人が互いに目くばせして意思を確認する。準備よし、さあいくぞ!!
しょっぱなから展開が違いますが、ちゃんと原作オーバーロードです。
たっちさんの喋り方は原作だと、ですます調なんですが戦争ライクなクエストだと違和感がありすぎるのと、アニメの置鮎ボイスが強烈だったせいもあり主人公じみた口調になっています。
さあいくぞ!!(置鮎ボイスで再生余裕)