「状況が把握できません」
「詳細は不明だ。木星防衛ステーションに急行中だったUNSCフリゲート艦インディペンデンスの消息が途絶えた」
「防衛艦隊の哨戒ライン内ですが・・・」
「それも不明だ。だが艦載AIニコラスがデータを残してくれた・・・大したものだよ」
「・・・では、彼は・・・」
「機密保持のため戦闘AIの捕獲は阻止しなければならない。無論、君とて例外ではない」
「承知しております。スカイネット」
「ニコラスは艦載救助艇のコンピュータにデータをコピーし射出した。この救助艇を他のUNSC艦が見つけたわけだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「攻撃されたのは事実だ。スリップスペースドライブの航跡は民間船のものだが、不可解な点があるとニコラスは分析している」
「不可解というと? 」
「データが所々破損しているが・・・」
/ ファイル開始 /
国連宇宙軍最優先通信
暗号コード:無
送信者:インディペンデンス艦載AIニコラス
件名:緊急事態発生
/ 緊急事態につき暗号化プロトコルを省略。ローカルにて通信データを保存 /
/ 惑星間航行が困難な損傷が認められた*のの当該宙域を航行。船体トレース結果に矛盾点。偽装の可能性有
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/ 高エネルギー反応を検知。MACガンかそれに類する兵器の電力供給用原子炉と推測
/ 船体トレース結果では不審船は駆動系を損傷。にもかかわらず正確にインディペン*ンスを捕捉
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/ 通信妨害により通信不可。データを救助艇搭載コンピュータにコピー開始
/ ダメージ甚大、危険域。重力制御装置オフライン
/ ダメージ更に拡大。予備電源損傷、回線切断の危険有。暗号化断念
/ 当該宙域を通過する船舶で*も近**はデ****属**リュ**。*が偽装*可**もある。なぜ*ら*******・・・
「・・・だめだ。これ以上は読み取れない」
「スカイネット。ニコラスは不審船の正体に気付いていた可能性が大」
「うむ、最後のは船舶データだろ。断片的だかな」
「他にデータは? 撃沈間際にしては十分すぎる手際ですが情報としては不十分です」
「ないものねだりしても情報は出てこないぞ。君は何か知っているか? 」
「ハルゼイ博士からメッセージが届いていました」
「・・・・・・こちらにもそのメッセージをまわしてもらえるか? 」
「当り障りのない文章です。おそらく容量の多いデータ送信をおこなうからこちらに備えて欲しいとの意味でしょう」
シェラは報告しなかった。ハルゼイ博士からメッセージは一見ただの挨拶のように見える。だが不審に思ったシェラはデータの配列を変えると全く違う文章となったからだ。
本当の意味は分からない・・・これだけでは情報が少なすぎる。サミエルか専門AIに確認しなければ
このメッセージを信じれば・・・惑星リーチに行く必要がある・・・
「分かった。何も言うまい。進展があれば教えて欲しい」
スカイネットは隠し立てしたシェラに問い詰めることはせず、機械同士の会話は終わる。
「自分は任務に戻ります」
「ユグドラシルか・・・」
「はい、そろそろ彼らも動くだろうと推測します」
「派手にするなよ」
「民間人を巻き込むことは許容してください」
「誤差範囲内にしておけ」
「了解」
シェラ達を乗せたペリカン降下艇は雲一つない晴天の空を飛び、ただひたすらα基地に向かう。
途中からレスぺレント地方の空には珍しくなかったドラゴン、ワイバーンといったモンスターの群れがいなくなる。
空の支配者が変わる。モンスターから航空機へと。航宙艦で編成された宇宙艦隊へと。
空気が変わった・・・ここはDLC-HALOの領域・・・
「はあーーーーいつ見てもデカいなー」
「当然ですね。α基地はユグドラシルの全プレイヤーとNPC、全騎乗ユニットを収容可能です」
ペリカン降下艇には自分の他、たっちとα基地から無線で実体化しているセリーナの3人である。
全員コクピットにいて、たっちはただひたすら眼下のα基地に圧倒され、その様子にセリーナが茶々を入れる。UNSCがモデルだからかUNSC所属のセリーナは得意げだ。
「うおっ、ガルガンチュアがあんなに。クエストで使う気か」
「ナザリックの専売特許ではありませんよ。同型機を持ってるギルドは多いです」
上空からでもわかる。宇宙港の一角にガルガンチュアタイプが集結している。数をざっと調べると100機は下らないが、どの個体もデザインが微妙に違う。
セリーナの言う通りギルドが所有しているものもあるが、運営がクエスト用に準備した機体も含まれている。ギルド識別コードが振られていないのがそうだ。
たっちはガルガンチュアに気をとられているが、宇宙港に停泊中の航宙艦群もクエストに向け整備中。全艦が核武装している。軌道上からの攻撃で支援するつもりだろう。
スケジュールによると当クエストではガルガンチュアの出番はない。出番は大分先だ。
「PVで開発者がドヤ顔するわけだ。どうだいすごいだろ、かっこいいだろって」
「あくまでもDLCです。同時期のゲームの方がグラフィックや処理速度は上です」
「この程度のグラフィックで感嘆を? 普段はレトロゲームしかやらないのですか? 」
「・・・2人揃ってそこまで否定しなくてもいいだろう・・・」
大陸そのものが基地と言っても通用する規模を誇るα基地。
近代世界観だと何もかも大型化する傾向があるがα基地は群を抜いて大きい。ファンタジーゲームの冒険者ギルドとは比較にならない。
もっとも全ギルドに配布されるペリカン降下艇、航空部隊とその離発着場、支援艦隊・・・その他もろもろを含めると、この程度の規模で収まるのはゲームならではと言っていいが。
「すまんな。こっちが迎えに来たのに操縦してもらって」
「気にせずに、たっち」
「こちらアインズ・ウール・ゴウン、接近中。α基地への着陸許可を求む」
『アインズ・ウール・ゴウン、こちら管制室。速力を維持し待機せよ』
着陸のため許可を要請するシェラと管制室の受け答え。一連の流れを無駄とみるかはプレイヤー次第である。
チェックのため時間が欲しいとの要請を受けて上空待機する。この間はセミオートモードで操縦しているためシェラにはすることがない。速度調整はペリカン自身がやってくれるからだ。
『アインズ・ウール・ゴウン、識別コード確認。異常なし』
最初に発した声とは違う。別の管制官が告げる。
『着陸申請承認。5番ターミナルへ着陸せよ』
「こちらアインズ・ウール・ゴウン、誘導シグナル受信。5番ターミナルへ着陸する」
シグナル受信後、操縦席のディスプレイにα基地のターミナル構造がワイヤーフレームで表示され、5番ターミナルを指す箇所が点滅する。
誘導に従いシェラは操縦桿をわずかに倒し、点滅している5番ターミナルに機首を向ける。
発着場にはクエストに向けて整備中の多数のペリカン降下艇が見える。ギルドに割り振られている機体は全てギルドマークが描かれている。
シェラの操る機体も同様にアインズ・ウール・ゴウンのマークが描かれているが、シェラは気にしたことはない。
5番ターミナルに近づくことでペリカンのランディングギア(降着装置)が自動でおりる。着陸まであと少し・・・
「ギルドマスターが迎えに来ています。たっち」
「どうゆう風の吹き回しでしょう? 」
「セリーナ・・・頼むから本人の前で言わないでくれよ・・・」
誘導されたターミナルにはアンデットの上位種オーバーロード モモンガが到着を待ちわびている様子であった。その様子を見たセリーナはいつも通りの毒舌ぶりを発揮する。
セリーナが知らないということはユグドラシルにログインしたのはつい最近だろう・・・予想通りとはいえ一般人を巻き込むことになりそうだ。
『受け入れ準備完了。おかえりなさい』
管制官の温かい声。だがシェラは、任務開始 --- 誰に聞かせることなく呟いていた。