贋作でなく   作:なし崩し

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次が一万を超えるため五千オーバーで切ります。
いや、自分的に五千オーバーは十分に長いんですけどね!
感覚的に次を含めて二、三話くらいで終わるかな、といったところです。


4

 立花が合流したとき、そこにいたのはジャンヌたちと西へと向かっていたリツカとジャンヌ、そして――ゲオルギウスと呼ばれる聖人の一人だった。とある街で知り合ったはぐれサーヴァントのエリザベートと清姫から聖人の話を聞き、呪いにむしばまれていた竜殺し、ジークフリートの解呪の協力を求めに行ったのだ。

 ジークフリートは街の中で弱り切っていたところを、マルタのヒントを元に見つけることができた。どうやら黒いジャンヌは竜殺しを警戒し、優先的に殲滅していったらしい。しかし、とも思う。あの彼女が見落としをするのかと。

 すると解呪を受けたジークフリートは、

 

『竜の魔女は執拗に、俺に呪いを刻んでいった。おまけに最後まで苦しめと、止めを刺さずに追加で大量の呪いをかけていく始末だ。あと少しで霊基が崩壊するところだった、ありがとう。ところで俺は、彼女に何かしてしまったのだろうか――すまない』

 

 と、どこか悲しそうに頭を下げた。

 こうして一人、強力な味方が増えた。ゲオルギウスも味方となり、戦力は増大している。

 しかしそこにはもう一人いたはずなのだ。可憐な白百合、マリー・アントワネットが。リツカを見れば首を横に振る。それだけで何があったのかは理解できた。途中からドクターとリツカの通信が途切れ、何かあったのかもしれないと予想はしていたが、やはり堪えるものがあった。

 

「ごめん、途中でサーヴァントと交戦になって……おまけに黒ジャンヌまで来て、マリーが殿に……」

 

 その言葉にアマデウスは笑いながら、博愛主義者らしい、と一言残して疲れたから休むと言って、この場から去っていく。マシュは後を追いたそうな表情であったが、それ以上に堪えたらしいリツカのフォローを頼んだ。

 一人になった立花は空を見上げながらつぶやいた。

 

「……まだ、信じたいって思っちゃう俺は、ただの馬鹿なのかなぁ」

 

 

 

 

 

 そんな立花たちを見たジャンヌは一人輪を外れて考えにふける。マリーを失い喪失感に襲われながらも、頭のどこかで冷静に計算している自分がいた。一人減って一人増えた。加えてこちらには協力してくれそうなサーヴァントが二人加わった。呪いが解呪されたジークフリートも加われば+3だ。対し敵は黒いジャンヌにセイバー、アーチャー、消息不明のランサーにアサシン、そして恐らくはいるだろうジル・ド・レェだ。加えてファヴニールにその他の竜種といったところか。

 そこで嫌気がさして頭を振る。いつもなら、こんな時にはもう一人の自分が声をかけてくれていた。

 

 ――その頭で考えたところで、ピタゴラ的に大惨事引き起こすだけだから、後は私に任せておけ。

 

 そう言って呆れた顔をする彼女が目に浮かぶ。同時に、そんな彼女から向けられた仄暗い視線に胸が痛み、息が苦しくなる。普段から自分を、ぶっきらぼうに気遣ってくれた彼女。それでも主の言葉を信じ、彼女の言葉を無視しないまでも心にとどめるだけにした自分。

 

「その結果が……これなのですね」

 

 主の言葉に従って戦い、そして死んだ。死にたくないと散々言っていた彼女を巻き込んで死んだのだ。絶対に死なない、守って見せるといいながらも最後まで足掻くことなくその最期を受け入れてしまった。

 彼女にしてみれば裏切りだろう。散々、この体を使ってくれていいと言っておきながら、結局は自分の目的のためだけに人生を使い果たした。彼女はこの体は私のものだといって私情の為にこの体を動かさなかった。そんな彼女が最後の最後に私情の為にこの体を動かした。それを止めたのも、結局私だったのだ。

 どれだけ悲しかったのだろう、空しかったのだろう、辛かったのだろう。――どれだけ私の事が憎かったのだろう。言葉だけで希望を持たせることの残酷さを、今更ながらに叩き付けられた。気づけなかった自分の情けなさに嫌気がさす。

 

「これ以上、他の人々を巻き込むわけにも行きません。ごめんなさい、私。必ず貴方を止めて見せます」

 

 ジャンヌはその決意を胸に、立花たちの元へと向かった。すでに戦力は十二分に整った。再度、相手が戦力を補充してくる前に決戦を挑む。これが最適解だと信じて。こうしてカルデア一行の目標は決定された。

 

 ――決戦、オルレアン

 

 

 

 

 

 お膳立ては整った。恐らく『私』は獲得した戦力を計算したうえで、こちらが回復する前に叩くつもりで決戦を挑んでくるだろう。愚かなことである。何故私が素直に竜殺しを生かしておいたのかを気にも留めていない。

 そもそも本気で竜殺しを殺す気であればサーヴァントを複数派遣してその場で首を断っている。それをしなかったのは私の都合に合わせるためだ。ああ、『私』の単純さに笑いがこらえきれない。

 仕掛けは既にすんでいる。カルデア一行が入ってくれば、私に失敗はない。懸念であったジルも東に釘付けである。その為の仕掛けも終えたところだ。これで思うがままに復讐を成せる。これだけは誰にも譲らない。

 するとここでアーチャー、アタランテより連絡が来る。

 

『こちらアーチャーだ。これより戦闘に入る。汝はどうするつもりだ』

 

『適度なところで撤退してください。ワイバーンを当てますので、その隙を撃っていただければ。私もファヴニールと共に出ます』

 

『了解した。まったく難儀なものだ。考えることが癖になっているらしい。汝、今もこの先を考えているのだろう?』

 

 そういいながら、彼女は戦場へと向かった。

 考えることが癖になっている。それも当然のことだ。私にはそれしかできることがなかったのだから。それにしても、思考能力を残したのは失敗か。少しバーサークにしてやった方が、他のサーヴァントも扱いやすかったかもしれない。

 どうしてこうも英雄というのはお節介なのか。

 

「まぁいいでしょう。これで全てに片が付く。思い知るがいい、自分たちの罪を」

 

 乗りなれたファヴニールの背。その力強さに頼もしさを覚えながらも、彼の天敵をあえて残した自分の差配に嫌気がさす。飛び乗れば彼は咆哮し、力強く空へと舞い上がった。方向を指示しなくとも、どうやら彼には天敵がどこにいるのかが分かるらしい。

 その感覚に任せて空を飛んでいれば、彼女たちがいた。

 

「――っ、ファヴニール! ということは……」

 

「ええ、その通りです。こんにちは、『私』」

 

 白い旗を持つ、一人の聖女。その傍にいるのは黒髪の少年と竜殺したち。ちらりと後ろを見れば盾を持った少女とオレンジ色の髪の少女が戦っている。傍にはエリザベートと清姫がおり、降り注ぐ矢とワイバーンを撃ち落としていた。

 

「ジークフリートさん、ゲオルギウスさん、ここはお願いします! 私は彼女を!」

 

「させませんよ――セイバー」

 

 声に応じて、男装の麗人か女装の麗人か、美しいサーヴァントが現れる。セイバーであるシュヴァリエ・デオンである。元々彼?にはファヴニールの護衛を頼む予定であった。これで後は『私』と早々に決着をつければいいのだ。

 

「ではお望み通り、私がお相手しましょう」

 

「はい。ではマスター、下がっていてください」

 

 ふと見れば、黒髪の少年はマスターの一人である。彼を殺せば幾人かのサーヴァントも消失することだろう。心臓をむき出しにするような行為に呆れてしまう。

 

「そこのマスター、下がりなさい。それくらいの時間はあげましょう」

 

 しっし、と手で追い払えば、どこか嬉しそうな表情で離れていく。大丈夫なのだろうか、あのマスターは。あれで世界を救おうとしているのだから、人材不足の深刻さがうかがえる。まぁ手加減はしないが。

 

「さて、邪魔者もいなくなりました。もういいですか、すでに斬りかかりたくてしょうがない」

 

 告げれば彼女の表情がゆがむ。

 どこか迷いの見える表情である。何を戸惑っているのだろうか。今までだって、迷いは短く、道を進んできたはずだ。主の言葉やらを妄信して。それが、今になって、迷う? ふざけるのも大概にしてほしいものである。

 

「……迷いがあるのならば、払えばいいのでは? 猪突猛進の貴方らしくもない。いつものように深く考えず、取りあえず行動すればいいでしょう?」

 

「――まだ少し、信じられなかったんです。本当に貴方は私の知っている私なのか」

 

「ふむ、では最後のおねしょがいつか盛大に吹聴して回りましょうか? それとも地図の最大サイズ? あぁ、何歳まで泥まみれで遊んでいたのか、でもいいでしょう」

 

 

 

 

「ななななな!? そ、それは言わないって約束したじゃないですか!?」

 

 

 

 

「はっ、今更約束も何もないでしょう? それとも私にだけその約束とやらを強制しますか?」

 

 ニヤニヤ、と笑って見せる。

 

「ま、間違いないですね。その嫌らしい笑みと痛いところを全力でついていくスタイル、間違いなく私の知っている私ですね……」

 

 顔を真っ赤にして睨み付けてくる。全く茶番である。こちらとしてはさっさと始めて終わらせたいのだ。でないとジルがこちらの変化に気づく恐れがある。

 

「……だからこそ、私は貴方に確認しなければなりません。これは私の責務であり、決して外してはいけないことです」

 

 言いたいことは理解できる。

 そしてそれに対する私の返答も決まっている。

 

「――恨んでいますよ、間違いなく」

 

「――――――――――」

 

 どうせこの時代で出会ったばかりの質問と同じだろう。だから素直に、もう一度答えた。恨んでいるかの問いにはYES以外に返す言葉を私は持っていない。あるのは憎悪の炎のみ。

 

「語り合いはもう不要でしょう? 私は全てを恨みつくし破壊する。貴方は聖女として世界を救うために戦う」

 

「っ、もうこれ以上、罪を重ねるのはやめてください! 今ならまだ――」

 

「罪、罪と来ましたか。では、この国の民に罪はないと? かの王に罪はないと? 救国のために戦った乙女を一人、生贄にした奴らが? ――手遅れですよ。もうすべて遅い。私を止めない限り、この惨劇は続きます。貴方を殺した後には、先ずあのマスターを殺しましょう」

 

 そう言いながら、黒髪のマスターを指さす。あ、俺ですか?と自身を指さす姿はどこか気が抜けてしまいそうだった。再度、気を取り直して『私』へと向き直れば、彼女の目には力強さが戻っていた。本当に、扱いやすい。

 

「その次はあの盾の少女にしましょうか。彼女はデミ・サーヴァント。肉体へのダメージが落命につながるのでしょう? その次は――」

 

「――分かりました。もう、もう充分です」

 

 目を閉じ、次に開いた時、『私』は旗を構えていた。ようやく理解したらしい。私がどこまで本気であるのか。どれだけ多くの人々を傷つけてきたのかを。きっとこの旅の中で多くの涙を見たのだろう、悲しみと嘆きを見たのだろう。

 

「あぁ、虫唾が走ります。私の悲しみ、嘆きに、貴方は何をしてくれましたか? 貴方は見ず知らずの誰かのソレの為に、私を倒しますか?」

 

「ッ! そ、れは――――!」

 

「構いませんよ、共にいたとはいえ、生きていたとは言えない私は所詮、その程度だったということです。貴方の言葉は私を惑わし苦しめる。希望を持たせて、落とされる!」

 

 『私』の表情が歪む。葛藤、苦しみが見て取れる。

 

「あぁ、それが見たかった。しかしそれではまだ、この身を焼き焦がす憎悪を鎮めるには至らない。もっと、もっとその先へ進みなさい。絶望の淵へ立て、ジャンヌ・ダルク……!」

 

 彼女の持つ旗が揺れる。彼女の瞳に迷いが生まれる。その光景に心がうずく。もっと、もっとと私の中の歪んだ部分がささやきかけてくる。これ以上は支障が出ると分かっていながらも止まらない。どうしようもなく――この生身での語り合いが愛おしい。

 

「……私は――私は貴方を、家族も同然、双子の姉のように思っています」

 

「それは光栄なことですね。私も生前は出来の悪い妹をもった気分でした」

 

「そう、ですよね。生前の私は、こう、わんぱくで落ち着きがなくて……いつも貴方に諫められていた気がします」

 

 そういう彼女は、どこか懐かしそうに笑っていた。

 

「いつだって貴方は、私の間違いを正そうとしてくれました。あの時だってそうです。私は貴方の言葉に反し行動し、間違いを犯し、貴方を、家族を、仲間を悲しませました、狂わせました。それでも、それでも――」

 

 もう、彼女の瞳から迷いは消えていた。

 

「――私の今までの人生を、間違っているとは思いません。あれが私、ジャンヌ・ダルクの生き方です」

 

 私に向けられたその瞳は、どこまでも真っすぐだった。旗の揺れもなくなり、彼女の意志は固まったらしい。ああ、それでこそジャンヌ・ダルクだ。両親に城塞のごとき心と言われた、不器用な少女だ。

 

「それに巻き込んでしまったこと、付き合わせてしまったこと、誓いを破ったこと、これらは全て私の罪です。故に、貴方の罪を私も償います」

 

「傲慢ですね、理解できません。確かに私という存在は貴方の結末から生まれたものです。しかしもう、私は『私』ではありません」

 

「いいえ、貴方は私です。もう一人のジャンヌ・ダルクです。だからこそ、一緒に償いましょう――貴方の間違いを、正して。かつて貴方が道を外れそうな私を諭してくれたように、今度は、私が!」

 

「諭したところで最後は何も変わらなかったくせに、よく言うものです。変わったのは精々、生活習慣や健康管理、ほんの少し自分を大切にするようになったことくらいじゃないですか」

 

「確かにそうです。あの時の貴方は私に触れることができなかった。ですが今なら私も、貴方も、互いに触れることができます。言葉でなく、ぶつかり合うことができます。言うなればそう、初めての――喧嘩です」

 

「……ちょっと脳筋に過ぎませんか。言葉じゃだめだろうから物理って。あれ、私はどこかで教育を間違えましたか? 確かにこれまでの関わりでは、言葉では通じない、という反省を得ていますが、じゃあ殴って止めようという考えに至りますか、普通。それも貴方が」

 

「止めて見せます。貴方に関しては、他の誰でもない私が、何をしてでも、何をかけてでも必ず止めます。だから逃げないでくださいね、私。これが初めての姉妹喧嘩です!」

 

 彼女が地を蹴り、旗をふるう。

 その瞳にゾクリ、と鳥肌が立つ。

 恐怖ではなく、歓喜故に。

 

「あぁ、本当に――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょろい。

 

 

 

 

 

 


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