贋作でなく   作:なし崩し

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 お待たせしました……。
 ようやく引っ越し、転入届、ネット環境完備に至りました。
 取りあえず新宿の一話完成です。

 今回のガチャはあれだね、エミヤガチャなんだね。
 金色回転は確定でエミヤなもよう……レモンゼリーじゃぁ!


新宿
新宿1


 

 

「さて、これは一体どういうことなのか」

 

 唐突に座から引きずり降ろされた。

 カルデアの召喚システムのように、相手に『呼ばれる』形ではなく『呼ぶ』形の強制力ある召喚だったらしい。

 まさか私のような英霊を呼ぶ者が一人を除いて他にいようとは思いもよらなかった。それ故に油断していた私は気づけば現代風の街中にポツンと一人立っていた。

 煌びやかで目が痛くなる街並み。看板に書かれている文字は読めるが、母国の言葉ではない。さて一体どこの国かと考えれば、するりと答えが浮かび上がる。

 

「日本……確か、あのマスターの生まれ故郷でしたか」

 

 ふと、あの明るい少女を思い出す。

 しかし状況の確認には必要のない情報と頭の片隅にしまい込んでおく。

 

「文字が読める。そしてこの場所がどこかも分かる。当然ながら私にはないはずの知識……となれば聖杯の関与が濃厚であると」

 

 見れば『新宿』と書かれた標識がある。

 そこで新宿とは、と自分に問えばまたもや答えが浮かび上がる。これはもう、聖杯の関与は確定である。となれば抑止力に近い召喚である可能性が高い。そもそも、強制的に英霊を召喚できるものなんて、それくらいしか考えられない。

 

「『私』ではなく私という点からも、『私』では乗り越えられない可能性があるということですか。それとも、ここに呼び出される英霊はそういった曰く付きだけなのか」

 

 こればかりは調べるほかない。ただし優先順位は低めに設定する。勿論必要な情報ではあるものの、何も分からないまま行動を起こすわけにもいかない。

 恐らくここは特異点だ。

 でなければ英霊が呼ばれるなんて事態にはなるまい。

 

「となれば、何らかの脅威が存在していると仮定しましょう。正直、さっさと座に帰ってしまいたいところですが、あの人理修復を見届けた後では寝覚めが悪い」

 

 英霊でなければ対応できない何かがある。それは恐らく、自分たちと同じ英霊かそれに準ずるものだろう。相変わらず、世界は崩壊一歩手前らしい。

 

「活動するなら拠点が欲しいところですが、その前にこの街がどういう街かを調べましょうか。拠点の確保中に襲われても困りますからね」

 

 取りあえずの方針は決まった。

 あとは行動に移すだけだが、その前に少し体を動かす必要があるらしい。先ほどから随分と無遠慮な視線があちこちから向けられている。肌を這うような、忌々しい視線だ。

 見れば変わった姿の――モヒカンと呼ばれる髪型をしたサングラスの男たちがニヤニヤと此方を見ていた。手に持つ鉄パイプは血に汚れ、赤くさび付いている。舌なめずりをする男たち、その後ろに転がるスカートを穿いた人影、その隣に横たわる虚ろな目をした男、それだけで理解できる。

 

「あぁ、やはりろくでもない特異点でしたか」

 

 反吐が出る。

 見ればスカートを穿いた人影が動き、男に縋りつくが彼は動かない。それを見ていたサングラスの男たちが下品に笑えば、スカートを穿いた人影は俯き動かなくなった。

 さて、取りあえずどんな特異点かその一端は確認できた。

 そして都合のいいことに、ここには情報が山とある。向こうから来てくれるとは有り難い話だ。おまけに遠慮はいらないと見える。

 動かない私を見て、勘違いした彼らが輪を小さくする。

 

「あれービビッて動けなくなっちゃった!? ごめんごめん、怖がらせるつもりはないんだって! 俺たちってば優しいからさ! 取りあえずお姉さん、服買ってあげるから一緒に行こうぜ? まぁ、コスプレでってのも悪くないけどさ」

 

「俺はコスプレ賛成派!」

 

「俺は反対派!」

 

 ワイワイと騒ぐ彼らは傍目に、サーヴァントの気配を探る。流石に準備もなしにアサシンの気配遮断は見破れないが、他ならば話は別だ。

 取りあえず今のところは問題ない、そう判断し

 

「ねー、話聞いてんの? まぁお姉さん美人だから許すけど――え、なに、手を出せって?お姉さん実は積極的な人? いいねーってあれ、待って、手じゃなくて腕? 痛い、ミシミシ言ってる……っていうか、なんか燃えてないお姉さん。パチパチ言ってない? あれ、ていうか俺たち――――炎に囲まれてない?」

 

 情報の山から、搾り取れるだけ搾り取ろうと実力行使を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、つまり貴方たちは魔術使いで、この新宿は善人であるほど生きづらい悪の都市になり果てたと。悪は善を喰い悪をも喰らう……悪ほど生き延びやすい特異点、ということですか。成程、故に私と」

 

 自覚はあるが抑止力は許さん。

 

「他にも貴方たちのようなならず者に加えて、殺戮人形、首無しと巨大な狼、雀蜂を名乗る武装集団などが存在していると。そして彼らはそれぞれの地区を分割するなりして、独自の縄張りを維持している……この中でも危険なものは?」

 

「うぅ、マジで体中いてぇ。って待って待って、答えますから!?」

 

目の前で顔を腫らし涙するのは先ほどのサングラス集団の一人。他のメンバーは全員叩きのめして夢の中である。

中には先ほどのスカートを穿いた人影も含まれる。

 

「ったく、まさかアイツが()だってバレてるとは。アレでも失敗したこと無かったんですぜ?」

 

 そう、あのスカートの人影は案の定、男だったのだ。乱暴された女を装い、隙をつくのが役目だったらしい。だが、私は男女の区別がつかない性別アストルフォを知っている。奴に比べればまだまだだ。骨格レベルから頑張るがいい。

 

「いいから、早く続きを」

 

「うす……。まぁ()さんなら、人形も雀蜂も大丈夫そうですし、巨大な狼っすかね。国道を縄張りにしてて、遠吠えが遠かったら安心、近かったら抗争中でも手を取り合って逃げろとか言われてます」

 

姐さん、という呼び方に少し思うところがあるがまぁよし。欲しい情報は大体得られたのだから。その情報の中からはサーヴァントらしき存在も確認できた。

巨大な狼と首無しの騎士。

 これは恐らくサーヴァントだ。

 

「問題は、真名が把握できないことですか。恐らくはライダーでしょうが……」

 

 組み合わせが問題だ。

 首無しの騎士、これはいい。

 では下の狼は何だ。

 

「……まぁいいでしょう。縄張りには近づかなければいい話です。さて、聞きたいことは聞けましたので、もう行っても構いませんよ」

 

「いや、皆寝てんすけど……」

 

 ボコボコにした人が何言ってんだ、という視線を受ける。だが悪いのは襲ってかつ負けた側である。命までは取らなかったのだから感謝してほしいくらいだ。

 その後、立ち去ろうとした私に、「全員が起きるまで待って!?」と泣きついてくる男が一人。交換条件に、近場の服屋を聞き出し、全員が起きた後に今度こそ立ち去った。

 そして男に聞いた服屋にたどりつく。

 個人経営らしく小さめだがどこかおしゃれな店。外からみても明かりは見えなかったが、中に入れば明かりがついており、カウンターの奥に座る女性がビクリと背中を震わせる。恐らくはならず者の一味とでも思われているのだろう。この時代かつこの状況、私の装いは確かに怪しさ満点である。

 だからこそ、ここで現代風に装いを変えるのだ。

 とはいえ私に現代の服は選べない。というかそもそも服なんて自分で選ぶのも初めてだ。生前の『私』は頓着しない方だったし、そもそも私は体がなかった。母が作るか買ってきた服をただ着ていた『私』に、それを見ていた私。センスなどあるはずもない。

 ただ、自分で選ぶというのは中々に新鮮だ。あちこちに貼ってあるポスターやマネキンを見ながら服を物色していると、カウンターから店員であろう女性がおずおずと近づいてくる。

 

「ここ、これとか……どうでしょうか」

 

 未だに怯えを見せながら一着の服を差し出してくる。

 まるで小鹿のように震える姿はなんだか申し訳なくなる。いっそ店を閉めてカギをかけろと言いたくなったが、よく考えればこの状況下、下手にカギを掛ければドアごとぶち抜かれかねない。

 さっさと選んで出ていくのが吉とみる。

 服を自分で選ぶのはまた次に機会があったときだ。

 きっと、ないだろうが。

 

「予算はこれで、枠内に収まるように一式お願いしても?」

 

 ならず者たちから巻き上げた金をぽんと渡し、後を任せる。すると店員はポカンとしたあと、慌てて服を物色に向かった。怯えつつもちらちらと此方を見ながら服を合わせる様、そしてこの状況下で店を閉じていない辺り、仕事熱心な人なのだろう。

 しばらくして選び終わったのか、一式を手渡され試着室で身に纏えば店員はどこか満足そうにうなずいていた。私としてはもう少し落ち着いていたほうがとも思ったが、現代に合わせるならばきっと正解なのだろう。

 用も済み外へと出るタイミングでふと、ならず者たちのことを思い出す。世話になったし、とならず者たちがうろちょろしていることを店員に伝えれば困ったように笑う。そして扉が閉まる直前に、また来てくださいね、という声が聞こえ、次いで扉の閉まる音がした。

 

「まったく、日本人というのは……」

 

 あのマスターも、言い出したら聞かないところがあった。

 最終決戦後はサーヴァントを召喚する機会もなかっただろうから、呼ばれることはなかったがそれまでは酷いものだった。

 

「……ん、何かを忘れているような」

 

 はて、何だったか。

 今までは状況の確認で余裕がなかった。残るは拠点の確保と余裕ができたことで、他に意識を割く余裕ができたのだろう。一体何を忘れているのか。

 

「まぁ、この特異点にカルデアが気付いて、どちらかのマスターが現れれば思い出すでしょう」

 

 まずは拠点。

 一瞬だけ過った疑問を掃き捨て、目的を果たすために改めて行動を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日。

 拠点を探し始めて数時間後には、ある程度理想の場所が確保できた。坂上にあり敵は確認しやすく、建物の下は床をぶち抜いてある程度掘り進めば下水道にたどり着く。

 万が一の脱出経路も確保でき、仮住まいとしては悪くない。

 ただ、ただ問題なのは、

 

「姐さん、新しく周囲に住まわせてほしいと抜かす馬鹿どもが来ました」

 

「……貴方たちもその馬鹿どもの内、という自覚がありますか」

 

 周囲がやたらと騒がしくなってきたことである。

 最初はよかった。ただ一人、私だけが住んでいたのだから。だが数日前、私の縄張りに例の殺戮人形を引き連れて逃げてきた馬鹿どもがいた。知ってか知らずか、真っすぐに私の拠点に向かってくるのだからどうしようもない。

 馬鹿どもごと焼き払うか、と考えたところで、「神様、助けて」なんてふざけた言葉が聞こえてしまった。『私』を救いもせず死へと導いた神にすがるか、と半分キレた私は「神に縋るくらいなら、魔女にでもしておけ」と言い放ち、気づけば人形どもを焼き払っていた。

 それからというもの、人形に追いかけられる人間が稀にこの縄張りまで逃げてくることがある。放置すれば辺りから絶叫、怨嗟の声、救いを求める声が上がり続ける。憎悪に身を燃やす私からすれば子守歌程度だが、いかんせん血の臭いが濃すぎた。

 おまけに宣言してしまった手前、仕方がない。

 私の言葉通り、神ではなく魔女に救いを求めてくるのだから。

 どうも私は『私』や神、生前の事になると頭に血が上りやすい。

 

「まったく、最近増えすぎでは? あれだけ好き勝手やっていたならず者風情が今では簡単な組織化。それに何です、この携帯とかいう便利機器は」

 

 ピロリンという音がうっとおしいが、画面には『狼注意報』や『殺戮人形速報』、『雀蜂の大移動』などなど、各地に散った情報収集を仕事としたならず者たちから報告が入ってくる。

 気づけばならず者どもはこの縄張りに根を張った。元々は善人であり、環境の変化により悪として生きるほかなかった者たちも多いらしく、何割かの人間は以前よりも生き生きとしている始末だ。

 おまけに中には魔術師もいたらしく、魔術的な結界も完備。

 侵入者があればどこからかもすぐに分かる――というか、連絡が来る。人形たちも最近はこの縄張り内には入ってこないことから、私が出張ることは少ないが。

 

「……というか、今度はどこに住みたいと?」

 

「縄張りのギリギリですね。姐さん決めた縄張り内にはもう空きがないっす。最近、ウチの手の者から姐さんの提示した条件に合う土地が見つかったとの連絡もありますし、場所を移しますか? 魔術師連中も龍脈上ということで乗り気で工房作ってますし」

 

「もう私が移動したらついてくる気満々ですね。……此方が後手に回れば、龍脈は抑えられるでしょうし早いところ移動するのが吉ですか」

 

 ため息を一つ。

 だが、改めて組織の利便性を知る。

 私が一人で動いたところで集められる情報は少ないが、こうして数を用いることでより多くの情報をこの場から動かずに得ることが出来る。加えて現代機器のおかげで敵の出現、そしてその正確な場所まで地図付きでわかるのだから素晴らしい。

 これを維持することは、やがてくるだろうカルデアの一助になるだろう。今回の敵はどうも厄介らしい。今までだって敵は厄介であっただろうが、カルデアのマスターにはよく刺さるのではないだろうか。

 あの、人を見捨てることが出来ないマスターたちには。

 

「あのアーチャー、あれが恐らく敵の首魁ですが――カルデアが今まで遭遇した悪とは隔絶している。種類が違う、とでもいうのか」

 

 以前、偶然出くわした敵の首魁。

 周囲の散策中に戦闘音を確認し顔を出せば、いつぞや見たセイバーの黒いのが戦っていた。その戦闘を観察していると、一発の弾丸が飛んできた。見ればセイバーとの戦闘中に此方に攻撃を仕掛けてきたらしい。

 一人で二人を相手どるつもりか。

 勝つ算段があるのか、無謀か――きっと前者だと感じた。

 敵を眺める目が無機質で、淡々と此方を観察していた。実際に彼の攻撃は正確で、セイバーの動きを先読みするようにその場その場で最適解を導き出していた。

 私はセイバーとアーチャーの衝突を見て、アーチャーの行動が最適解だと理解する。だがあのアーチャーは、初めからそれが最適解だと分かっていて行動する。それが私と彼との間にあった差だ。

 おまけに見た限りだと、私たちより霊基の出力が遥かに上だ。素の戦闘技能なら此方が上、出力や戦闘理論はあちらの方が上。

 そして恐ろしいのは、そんなアーチャーが戦闘を良しとしたこと。即ち、私たち二人を相手にしても問題ないと判断していること。

 ここは撤退、そう判断して即座に宝具を開帳。

 圧倒的火力でアーチャーの周囲を焼き払い、セイバーを確保して逃走した。当然ながら回避していたアーチャーだったが、目くらましも兼ねた炎のおかげかその場からは離脱に成功。

 厄介だったのはここからで、雀蜂たちが行く先々に出現し逃走の邪魔をするのだ。行く先々に敵が出現し、撃破してもまた次が来る。結局、その逃走劇はいくつか用意してあった隠れ家を犠牲に成功する。

 それからはセイバーと別行動をとり、いつの間にか私の周囲で組織化が始まったならず者を止めることなく今に至る。

 何故ならば、必要だと思ってしまったからだ。

 向こうは近代兵器を用いた武装集団+化け物。

 此方は魔術師の混合集団。

 

「こんなに膨れ上がっていくとは思いもよらなかったわけですが。まぁ、おかげで情報収集が滞りなく行えるのでプラスですか」

 

「そりゃあ、なりふり構ってらんないっすからね。街に出て情報収集すんのは危険ですけど、安全な場所を得られるってんなら一時の危険なんぞなんのそのっすよ。今までは安全な場所なんてなかったんすから」

 

 ならず者その一の言う通り、彼らに安全な場所などなかった。

 しかしここに来て魔術師たちも腰を落ち着けることができ、工房の作成に成功した。彼らは現在、それぞれの知識と技術を持ち寄って結界や礼装の開発中である。プライドが高く、魔術師らしいクズもいたが人形の群れに差し出してやれば大人しく従うようになった。

 中には戦闘特化の魔術師くずれもおり、彼らは縄張り周辺の見回りにあたっている。また手の空いている数名が雀蜂を強襲し装備を奪ってくるため、徐々に此方の戦力も増大していく。

 当然、中には増長し始める馬鹿もいるため、毎回絞める。方法は簡単で、彼らが誇る成果を私が真正面から捻りつぶすだけだ。所詮、サーヴァントには届かないぞと。そんな装備で人形を操るサーヴァントに挑んだところで、奴らの仲間が増えるだけだとその身を以て知ってもらう。

 結果、人形一体を数人で囲めば無傷で始末できるまでに仕上がった。それでも向こうの数が多いのだから、此方が不利なのは相変わらずであるが士気は確かに上がっていた。

 

「さて、では移動するとしましょう。情報収集は綿密に。それと土地の確保をしてくれているセイバーに連絡を。遅れるものは置いていきますので、そのつもりで」

 

 どれくらいの犠牲者が出るか。

 きっと道中で襲撃があるだろう。いつもは縄張りにこもっている我々を叩く最大のチャンスなのだから。とはいえ此方もタダでやられるつもりはない。セイバーは土地の確保と防衛で動かせないが、此方にはアサシンがいる。

 新宿のアサシンとの戦闘を見かけたならず者からの連絡があり、近場にいたセイバーにジャンクフードを対価に依頼した結果、山の翁の一人を味方に誘い込むことが出来た。

 彼には新宿のアサシンを警戒して動いてもらっているが、今回はそうもいかない。新宿のアサシンに対する警戒も大切だが、今は戦力を維持したい。削られればそれだけ士気が減るのだから。

 この日の為に移動経路、万が一の対応は確認済み。

 後は迅速に移動し、縄張りとする新たな土地に逃げ込むだけだ。そこまでいけば既に龍脈を用いて工房化した領域であり、セイバーもいる。幸い、対魔力を持っているだろう三騎士は残り一騎らしい。新宿のアーチャーをいれれば二騎だが。

 

「さて、後はどう連携を取るかですが……向こうから接触があるか否か。まぁ無ければないで此方も独自に動くとしましょう」

 

 視線を上げれば空を照らす、巨大な塔がそびえ立っている。

 最終目標は、まだ遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「教授、ジャンヌ・オルタが動き出したようだぞ」

 

「ほう、早かったな。まぁセイバーが動き出した時点でその可能性は考慮していた。しかし、彼女たちが接触した形跡はなかったはずだが」

 

「大方、教授との遭遇戦時、その撤退中にオルタが何か仕込んだのだろうさ。それで、俺はどうする。始末して来いというのならば始末してくるが?」

 

「そうしたいのは山々だが、セイバーが既に土地を確保していてね。罠を張るには既に遅く、おまけに既に数名の魔術師が工房を作り上げている。狙うならばセイバーではなく、移動中のオルタたちの方だろう」

 

 バレルタワー。

 そう呼ばれる巨大な塔の最上階に彼らはいた。

 一人は妙齢の眼鏡をかけた知的な紳士。

 一人はマフィアのような黒い男。

 前者こそがジャンヌ・オルタの言う新宿のアーチャーであり、後者が彼によって召喚された別のアーチャーだ。

 他にも七クラスを召喚していたため手駒は存在するものの、その内のセイバーとランサーは反転化してもなお誇りを失わずに敵対してきた為、召喚されたアーチャーが無慈悲に殺戮した。

 残る手駒はアーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーに教授と呼ばれる新宿のアーチャー自身。この中でもキャスターは非協力的ではあるものの、能力が非常に有用なため拘束。無理やり能力を行使させ戦力の拡充につとめさせられていた。

 

「どうせならばアサシンも動員して始末してしまいたいところではあるが、彼はどうも扱いにくい。幻霊を施した結果かもしれないがね」

 

 幻霊。

 都市伝説などの、英雄譚には至らなかった者たち。いずれ朽ち果てると定められた、英霊には至れなかった半端者の総称である。

 だが教授はそれに目を付け、利用することに成功する。

 英霊に対しての外付け装備。要は礼装と同様に、後からつけることで能力の底上げを行えるのである。たかが幻霊と言えど、英霊には至れなかったが礼装と比べれば規格外の神秘である。それこそ、霊基の出力が大幅に底上げされるくらいには。

 

「加えて、セイバーの横やりが入り山の翁を取り逃がしたという。彼にはそちらに対処してもらわなければならない。ライダーは言わずもがなだ。無論、バーサーカーもな。私も今はここから動けない。となると君と君の手勢だけになるが問題はないかね?」

 

「ふん、俺の手勢がどうなろうと補充は利く。奴の手勢を多く始末すればするほど、向こうの士気も低下するだろう。聖女の反転したサーヴァント、お手並み拝見といこうじゃないか」

 

「ならば成果に期待しよう。ただ気を付けたまえよ。彼女の思考は論理的で読みやすいが、誘導される可能性もある」

 

「鼠を狩りに出たつもりが、先にいたのは虎であるとでも言うつもりか。結局のところ、殺すことに変わりはないんだろう? 何が用意されていようと、仕事をする。それが俺に求められる役割のはずだ」

 

「ははは、相変わらず君はストイックだな。過程を求めず、結果が伴えばいいという考え方は数学者としては少し物申したいがね」

 

 数学とは両方が伴ってこそだよ、そう言いながら教授は踵を返す。

 

「方法は任せよう。少なくとも現状の戦力が分析できれば良しとして、可能であればサーヴァントの撃破、といったところかな。何にせよ君が出るのだ、何かしらの結果は得られるだろう」

 

 そう言って教授はその場から姿を消した。

 それを見計らったかのように、黒いアーチャー――エミヤに対して一人の男が話しかける。拘束されたキャスター、シェイクスピアである。

 

「ふぅ、やっと行きましたかな。まったく息が詰まる。執筆締め切りまでギリギリを攻める吾輩に対し、よもや無理やり筆を取らせるとは。生前の編集者も真っ青です。……いや、目を輝かせて教えを乞う場面が浮かんできますな」

 

「……無駄口を叩かず、リア王を量産していろ。それが教授の命令だろう?」

 

「ええその通りですとも! ただ吾輩も労働者、何か報酬が欲しいと思うのももっともでして。そこで一つお願い申し上げたい。聞けばあのジャンヌ・ダルクのオルタが来ているとか。であれば、であれば! ぜひ土産話の一つでもいただけないかと思いまして!」

 

「くだらん。そのような暇もなく塵殺するのみだ。残念だが、お前の望みなど叶いは……待て、キサマ、あの女を知っているのか」

 

「答えは否、ですな。吾輩が知っているのは白い、田舎娘の方でありまして。いやまぁ、黒い方も知っているといえば知っていますが、存在している程度の知識しかないもので。その存在している、という情報も又聞き。つまり吾輩、何も知らない」

 

「では何故知りたがる。人間のクズたる貴様が興味を持つだけの理由があるはずだ」

 

「ううむ、辛辣ですが否定できませんな! 挙句の果てに吾輩オルタですし! まぁアレです、こことは違う何処かの聖杯戦争で存在が確認されたというか、マスターから話を聞いたというか。悲劇の聖女、そのオルタともなれば吾輩、ちょっと資料として欲しいといいますか!」

 

 くだらない、そう一蹴してエミヤもまた塔の外へと歩みを進める。

 そんな彼の背中には未だに声がかかる。

 

「うーん、吾輩ちょっとやる気でないなぁ。リア王の量産速度落ちるかもなぁ。これもアーチャー殿が吾輩の些細な願いを聞いてくれないからで……いや、なんでもありませんぞ? ちょっと生産速度が落ちるかもしれないけど、意欲がわかないからであって決してアーチャー殿の責任ではありませんからな! 教授の前でデトロイトな人が些細な願いを聞いてくれなくて、とうっかり呟いてしまうかもしれませんが!」

 

「最早原因は俺だと言っているだろうが!」

 

 デトロイトな辺りに白目をむいてキレるエミヤ。一方でシェイクスピアは勝利を確信していた。これで資料が確保できると。本当ならば自分の目で、耳で確かめたいが無理ならば仕方がない。

 

「はぁ、ほんの少しでいいのですが。感想とかそんなので。それだけでも吾輩の執筆速度が上がると思うのですが、どう思いますアーチャー殿?」

 

「……了解した。地獄に落ちろ」

 

 今度こそエミヤは背を向ける。

 後ろではシェイクスピアが満足そうな笑みを浮かべてリア王を量産している。その速度は心なしかいつもより早かった。現金な奴め、とつぶやくが悪態を耳にする者はいない。

 ようやく一人になり落ち着いた辺りで思考に潜る。

 本来の依頼は単純だが、味方はいない。

 だからこそ今はこうして、本命である教授に従う。

 着々と整いつつある舞台に役者。エミヤの中には使えそうな駒がピックアップされていた。自身の持つ手駒は勿論、召喚された野良のサーヴァント達。

 戦力としては期待していないが、囮や露払いとしてはまぁまぁだ。ジャンヌ・オルタ辺りなどは組織化した集団を率いている辺り、教授とぶつけて戦力をそぐには適切な駒になる。

 後に来るだろうカルデアと合わせれば、ある程度の期待も持てるだろう。どうやらかの騎士王の反転した姿もいるらしいし、火力は十分だ。問題はあのライダーにどこまで奴らが対応できるか。

 時速200㎞越えの化け物を倒せるか否かだ。

 

「さて、ライダーの前にお手並み拝見といこうか竜の魔女。期待外れであってくれるなよ?」

 

 

 


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