お待たせし申した。
結局分割する羽目になるというね。
ここからまた暫くは時間が取れず、反応もなくなると思いますがきっと生きておりますのでしばしお待ちいただければ……!
取りあえず、時間がない今、先に来るのがライト版で助かった……
その後に2017年クリスマスが来るって信じてる。
どの面引っ提げてやって来たのかと自嘲する。
呼ばれたって行かないぞ、と宣言しておきながらこうしてオメオメやってきてしまったのだから、苦笑の一つや二つ浮かぶものである。
最初に出会ったのは、第一特異点と呼ばれるオルレアン。マスターとしてはまだまだ未熟で、障害にはなり得ないだろうと評価していた少女。
次に出会ったのは、生ぬるい煉獄の中。魔術王の手によって落とされたのはすぐに分かった。また趣味の悪いことをする、とぼやきながら亡者の群れを串刺し、磔にし続けた。
どうせもう一人、男のマスターもいるのだろうと探してみるも、どうやら落ちてきたのは彼女一人だけのようだった。恐らくは別の方法で男のマスターも呪い殺そうとしているのだろう。
まぁ、二人同時に殺すよりも別々に殺す方が成功率は高いものとなるのだから、魔術王の選択は間違いではない。
ただ、あの煉獄に送り込む、という選択以外は。
何より送り込んできたのが、その少女であったのが間違いだ。
――死にたくないと、みっともなく足掻くその姿……
どこか自分の姿に重なった。生きたいという欲望に塗れ、足掻いているその姿が生前の自分に似ていると感じてしまっていた。
そんな少女を目にしてしまえば、体は勝手に動き出す。第一特異点では随分と迷惑をかけた。そして死にたくないと足掻いても結局死んだ私がこうなってる。
その二の舞となりそうなソレを見て、動かずにはいられない。私は復讐者だ。身勝手で理不尽な世界に、国に、人に復讐を成した魔女だ。憎悪に身を焼かれる魔女だからこそ思うのだ。
――醜い魔女は一人でいいと。
気づけば何気なく声をかけ、亡者を蹴散らし助け出していた。意識が朦朧としている彼女に話しかけ、一人勝手に納得していた。ああ、だから私は彼女を私に似ていると感じたのだと。周りの人間、欲に塗れたその在り方を思い返し、道理でと心の内で呟いた。
後は流れるがままだった。
勝手に仮契約を結び、予想以上の相性の良さに驚きながら亡者を蹴散らす。途中、彼女が涙を堪えれば、まるで昔の『私』を見ているようで放っておけなくなると同時に、暗い炎が再び灯る。
私は確かに復讐を成し遂げた。
とはいえ、復讐者として確立してしまった私は、最早その枠からは逃れられない。以前のような狂気に見舞われることはないものの、それでも『私』を思えば憎悪と愛情が入り混じる。
とは言え、此度の彼女は関係がない。
気を紛らわすように、力尽きそうな彼女を背負う。そこから感じられる人のぬくもり、生きていると実感させてくる鼓動がどうも心地よかった。
耳元で自身の願望を呟く彼女を背負ってまっすぐ歩く。その願望は否定できないほどに切実で、真っすぐで、何処までも人間らしい願いだった。
生きていればきっといいことがある。
その言葉が何よりも尊かった。
結局、私は最後まで彼女に付き合って、カルデアへと帰るのを見届けた。縁は結ばないし、呼ばれようと行かないからそもそも呼ぼうとしないようにと伝えながら。
そして三度目。
まさか私が、あの時に結ばれたほんの僅かな縁を辿ってこんな場所にやって来ることになるとは思いもしなかった。
それというのも、私の目の前でニコニコと笑う日焼け野郎のせいである。
繋がっていた縁を辿れば、数多の英霊がかの特異点へと流星となって降りて行った。その中で唯一、流星がたどり着けない領域があった。その領域が何か大体の予想はついていたし、魔神柱の詰めが甘かったのはすぐに理解できた。
予定外の
その中に一つ、見逃せないのが交ざっていたのだ。
――天草……!
奴は色々と危険だった。
相容れない存在だ。
そして何より、あの少女に近づけてはいけない類のものだ。ああいうのは天然の兄の方に任せておけばいい。が、彼は魔術王にかかりきり。おまけに奴の目的地は少女の元だ。
どうせ今救援に入り信頼を獲得。好感度を上げつつ聖杯の奪取を狙うとかそんなことを考えているのだあの男は。
おまけに奴への恨みつらみはつきやしない。
妨害する、それが結論だった。
そして途中で巌窟王を捕まえて奴より早く合流。どうやら私の意図を悟ったらしい奴は、引率として来た、という体で堂々と私の隣へとやって来た。座に送り返してやろうか、などと思いながらも今に至るのだ。
魔神柱―― 相手は無限。
死なず、尽きることのない存在。
だからこそ、戦い方は簡単に絞られた。
ようは、殺さなければいいのだ。
目の前で魔神柱が雷に打たれ続けて痙攣している。それが終わったと思えば、芳醇な酒の香りが魔神柱を飲み込み思考を奪い、巨大な鬼の手によって封じ込められる。やがて気を取り直した魔神柱を待っていたのは、エミヤとクロによる投影魔術。
巨大な刀剣が降り注ぎ、彼らの動きを封じ込めていく。恐らくはそういう効果のあるモノが交じっているのだろう。相変わらずの万能さである。
それから逃れた一部はイリヤや天草の一撃によって群体に戻される。そして再生してきた傍から延々とループが始まっていくのだ。
途中、魔神アーチャーや病弱セイバーと一部チェンジしたり、回復したカルデアのサーヴァントを復帰させたりとシフトを組んで対応する。
そして現在、私が少女――マスターのお守役だ。
「……ええ、そうです。私は確かにお守役ですが――――離れなさい」
背中に張り付くソレ。
先ほど、私が宝具による磔役を終えてからずっとこうである。護衛役だからと彼女の前に立ったが運のつき。かといってあのまま横に立っていても何だかろくなことにならない気がしたのである。
主に私を見るあの視線的に。
その結果がこれなのだから何とも言えない。
ス、と背中に手を回せばいつの間にか回避され、その先に手を回せばまた回避され。一体私の背中で何が起こっているというのか。正直に言えば戦慄が隠せない。
「呼んでも来てくれなかった」
「言ったでしょう。呼ばれても行かないと」
そういえば背中にグリグリと頭が押し付けられる。何とかしろ、とオカンと呼ばれるエミヤに視線を向ければ、どこか微笑ましい目で見られる。ではセイバー、と視線を送れば彼女の幸せは奪えないかな、などと抜かす始末。
仕方なく放っておけば、ようやく落ち着いたのか顔を真っ赤にしながらいそいそと隣へと降り立った。顔に手を当て自分は一体何をしていたんだ、とつぶやく彼女を見て、ホントにな、という言葉を飲み込んだ。
「まったく、あれから成長したのかと思えば退化しているのでは?」
「うぐっ、あ、あれはその……はい。でも、オルタにも責任があると思うよ。こう、なんて言うか、あまりにも理想的すぎたもん。アーサー王もビックリだよ」
ちらり、とそのアーサー王に視線を向ければ彼は頬を掻いて笑う。
「それに、あれからずっと会えなかった反動と言うかですね……」
「当然です。縁はあれど、呼び出しに応える気なんて無かったのですから。今回は緊急事態だから致し方ないとして、今後に期待を寄せないように」
まったく、と呆れながら彼女を見れば、申し訳なさそうに身を縮こませる。そして真っすぐとした目で、サーヴァントたちの奮闘を見つめていた。
「……結局、目をそらさず戦う道を選びましたか」
ポツリと呟けば、彼女は一瞬だけきょとんとした後、照れくさそうに笑う。
「覚えててくれたんだね。うん、私は結局、こうして戦う道を選んだよ。オルタに救われて、カルデアに戻って、美味しいご飯をいっぱい食べて、泥のように眠った。その後で、皆に相談してみたんだ」
それで、と口をはさむのはなぜか憚られた。
私が促す必要などない、そう感じたのだ。
実際、彼女はそんな私を見て頬を緩め、一度だけ頬を叩いて気合を入れ直すと再び口を開いた。
そして、彼女の口から語られたのは、サーヴァントたちの生い立ちだった。どのように生き、どのような思いを抱いていたのか。それを聞いて回ったのだそうだ。
勿論、自分の思いを示し、考えたいのだと伝えて。
多くの生きざまを彼女は知ったのだという。英霊に至ったエミヤの話。聖杯を求めるアーサー王の話。ランサーはただ、強いやつと戦いたいのだという。他にも様々なサーヴァントたちから、その生きざまを学んだ。
王として生きた者たち。
それでも王の在り方はそれぞれで、一人一人の王道があった。ただ一つでも同じものはなく、その全てがオリジンだった。
英霊だって迷い、葛藤し、後悔していた。
かの英雄王だって、一度は死を直視していた。
「私は、自分の思いを言葉にするべきだったんだって痛感した。最初、エミヤに相談してみたんだ。そしたら『君が思いのたけを口にし、相談してくれたのは初めてだな。申し訳なくもあるのだが、こうして相談して貰えたことが嬉しいと感じている』だって」
「流石は天下のプレイボーイですね。それでころっといったわけですか」
「いや、私にはオルタがいるし。まぁ、そうエミヤに言われて気づいたんだよね。なんで私は、相談することを諦めていたんだろうって。そもそもオルタに言われるまで、皆が世話焼きでいい人ばっかなんだってことすら、頭の中から抜けてた。うん、余裕がなかったんだ、私」
バツが悪そうに、彼女はそう言った。
「相談したところで状況は変わらないって、諦めてたんだ。それを真っ向から否定して、自覚させてくれたオルタのおかげで、私の視界は広くなった。皆の考え方を知って、思いやりを感じて、それらを踏まえてどうしたいかを考えた」
「その結果が、戦うという結論ですか」
「うん。皆、色んな理由で戦ってたよ。で、私なりに考えた。進んでも死ぬかもしれない。進まなければ必ず死ぬ。皆は葛藤の末に選んだ。だから私も葛藤して選ばなきゃいけない。一を捨てて十を救った正義の味方が、結果は伴わなかったけど、最後の最後まで足掻いたように」
彼女の視線が何かを追った。
それを辿れば、赤い外套を纏う『正義の味方』がそこにいた。
「そしてオルタの言葉が止めになった。どれを選んでも後悔は付きまとう。それをどれだけ小さくしていけるか、良いものにしていけるか。うん、考えるまでもなかったんだ。私は見て見ぬふりなんてできない。うずくまって震えていることに耐えられない。だから今までだって、がむしゃらに駆け抜けてきたんだ」
そう言った彼女が、ゆっくりと前に手を突き出した。
か細く白い少女の腕。
見ればうっすらと、いくつもの傷跡が白い肌に線を引いている。
「私は心が疲れ切ってた。マスターとして戦おうって思った原点も忘れていた。人に悩みを打ち明けることが出来なくなってたんだ。最後のマスターっていう、プレッシャーに負けて。それをあっけなく吹き飛ばしていくんだから、もう勝てないよね」
「勘違いも甚だしい。どうせあと一人いるのだし、程度の考えでしかありませんでしたよ。貴方が潰れようと、メインがいるから問題はない、と」
「それでも、私の逃げたいって思いを肯定してくれたのに変わりはないよ。私の不安を肯定してくれたのは嘘じゃない。どんな私も、私だと認めてくれた。嬉しかったんだ、本当に。あぁ、背中を押してくれるお姉ちゃんって、こんな感じなのかなって思った」
傷だらけの手。
その手が私の手を取った。嬉しそうに笑う彼女の姿が、もう『私』と重なることはなかった。『私』とは違う強さを持ち合わせた、立派なマスターだ。
一人ではなく、多くの人と共にしか進めない。
歪にも見えるが私はそれが普通だと思うし、それでいいのだと思う。
間違えたときは誰かが叱って、誰かが間違えたときは自分が叱る。何かを遂げて祝福され、同じように誰かを祝福する。悩みを相談し、相談され、共にその解決を目指していく。
私の願った在り方。
そして手の届かなかった在り方。
なんだ、もう、彼女は私の前を行っているんじゃないか。
まったく、無駄足もいいところだ。それでも、彼女が自分の意思で決めて納得できているならばそれは喜ばしいことだ。魔女の祝福なんぞ縁起でもないだろうが、勝手に祝福させてもらうとしよう。
さてはて、こうなると私がここにいる理由も無くなってくる。魔神柱も肉体は兎も角精神的な面で消耗し、現在では再生を拒む個体すら現れた。
元々、この領域には強力なサーヴァントが多かった。今では増えに増え、着物のセイバーに、セイバーを自称するアサシン等々も増援としてやって来ている。
セイバーを自称するアサシンを見てエミヤが噴出し、その後やって来た赤いアサシンを見て胃を抑え始め、その隣にいたキャスターを見てイリヤとクロが二人を見てお母さんと声を上げたのを聞き、彼の目は死んだ。最後、ソロモンのいる方を向いて一家せいぞろいかッ!と膝をついた。
何を面白いことやっているのだろう。
「さて、この様子ならばもう大丈夫でしょう。天草を放置していくのは気が引けますが、流石に今動くほど浅慮ではないはず」
そう呟けば私の手を握る力が強くなる。
「……行くの?」
「……ええ。どうやら、随分と拗らせているようですから。全く、面倒なのは相変わらずです」
「私もまだ、怖いんだけどナー」
「問題ないでしょう。この戦力差ですし、常に三人は手が空いている状態です。彼らが貴方の護衛に回れば先ず、貴方まで攻撃が通ることはないでしょう」
そういえば、彼女は寂しそうに笑う。
随分と懐かれたものだと思いながら、知ったことではないと背を向ける。目指すは『私』のいる第一特異点の領域だ。取りあえず一発かましてやらねばなるまい。
後の事をエミヤに任せると、彼はどこか複雑そうな表情をする。同時に、何か口にしようとするのだが、結局最後の最後まで出てくることはなかった。一体何なのかと疑問に思いつつも用がないならと足を動かせば、背中に突き刺さる視線が一つ。
「えっと、その……!」
何か口にしようとしてまとまらない様子が見て取れる。立派なマスターになったものだと思っていたらこれである。
どこまでも締まらないマスターだ。
それでも、
「ここまでよく頑張りました」
「――――……へ?」
予想外。
そう表情にありありと出ている彼女を無視して言葉を続ける。
「そうですね。陳腐ではありますが、何かご褒美でも差し上げましょう。ただ生憎、今は手持ちがありません」
「え、え? い、今もしかして褒められた!?」
「ええ褒めました。よくもまぁここまで来たものです。だからこそご褒美でもと思いましたが先ほど言った通り持ち合わせがありません」
「ではお姉ちゃんと呼ぶ権利を――――!」
「持ち合わせがありません! とんでもない要求をさらっとまぁ! 兎に角、今は持ち合わせがありません! ですので、次の機会に」
「――つ、ぎ?」
「ええ、今度また出会ったときに。その時に、私に叶えられる範囲で。それまではお預けとしましょう。何せまだ、全部は終わっていませんからね」
そういえば、疑問符だらけの表情がぱっと輝いた。ぐぬぬ、どうも絆されているような気がしてならない。復讐を終えてある程度憎悪が収まったことも原因だろうが、煉獄だの今回だの色々と共感してしまったのは失敗だったと見える。
「じゃ、じゃあまた今度! 約束だよオルタ!」
「ええ、約束です。それでは私はこれで。ここで気を抜かず、いらぬ怪我を負わないように」
それだけ言って最後、振り返ることなくその場を後にした。
これが最後の特異点、もうサーヴァントが召喚される場などない。さてはて、彼女が望むものを渡す日はいつ来るのか。最後まで詰めが甘い、そんなことを考えながら見覚えのある旗を目指して走り出した。