英雄王《偽》の英雄譚   作:課金王

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8話

全ての準備を整えたギルガメッシュは日本にあるウルク本社へとアンジェリカと共に会社の土地にある本社行きの道路(・・・・・・・)を送迎用のリムジンに乗って赴く。

彼が会社の入り口から本社に向かうのは作戦の重要な役割を担う少女と出会うためだ。

しかし、現在の彼はそれどころではない。

大企業に成長していた事はアンジェリカの定期報告とニュース、計画をアンジェリカと話し合う際に知識として知っていたが、実物を見るとあまりも想像からかなりかけ離れており、リムジンの中で唖然としていた。

 

 

――――――。

 

 

大財閥ウルク。

 

初めはギルガメッシュが小遣い稼ぎの為に設立した会社であったが、彼の目が離れて数十年の時が流れた現在は一部を除いた世界中の先進国に支部を持ち、医療・電子工学・農水産・美術・エンタメ・建築と幅広く勢力を伸ばす怪物企業へと成長している。

当然、会社が成長するにつれて建物や土地も大成長を遂げた。

 

土地は東京ドーム何個分?がリアルで聞けるほど広く、会社の土地に入る為のゲートには検問所が幾つも設けられていた。

警備員から会社のパンフレットを渡され、専用のリムジンで広大な土地に入っていくと、それぞれの部署に適した巨大な施設に職員とその家族の為の家やマンションがエリアごとに建設されていた。

さらに土地の中心には仕事で疲れた体と心を癒すレジャーと娯楽施設に体を鍛えるトレーニングジム。

社員の奥様の強い味方、重火器以外は何でも揃っているとんでもないショッピングモールが存在した。

レジャー施設とトレーニングジムは福利厚生でお得な無料チケットが定期的に貰えるが、基本はショッピングモール同様に有料であるらしい。

 

ここはもう、誰もが想像する一般の会社ではなく、全てが揃っている一大都市であった。

 

もちろん、こんな事になったのは窓の外を見て、呑気に唖然としているギルガメッシュが原因だ。

 

アンジェリカは定期的にギルガメッシュに重要な案件のみであるが、会社の報告と雑談(・・)をしていた。

ギルガメッシュ本人はサラリーマン時代に思っていた理想の会社や働き方を口にしていたのだ。

 

会社にレジャー施設が欲しかった。深夜遅くまで残業をするならいっその事、家やマンションが欲しい。

体がなまらないようにトレーニングジムもあったらいいな。

 

農業の片手間で会社をアンジェリカに任せっきりだった為に、特に考える事なくスマホ越しに垂れ流されたギルガメッシュの実現不可能な妄想。

もし、相手がアンジェリカではなく遠坂(とおさか)(りん)やルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトだったら、笑顔で流していただろう。

しかし、アンジェリカは冗談が通じない真面目な人形だった。

 

しかも、最悪な事に彼女には中小企業だった会社を大財閥まで成長させた手腕とギルガメッシュの妄想を現実化させるほどの財力があった。

故に彼女は、雑談(・・)をギルガメッシュの冗談や妄想と捉えるのではなく、実行可能な命令と受け取ったのだ。

 

そう、このとんでもない都市のような会社はギルガメッシュとアンジェリカの単純な認識の違いと言うミスによって生まれたのである。

 

ギルガメッシュがこの都市の様な会社を知ったのは半年前。

エストニア政府との領地買取契約が内定に決まり、日本にある本社をアンジェリカの力でエストニアの何もない土地と置換させる準備を始める際の必要以上の触媒を購入した時の途方もない億単位の金額に魔術を行使する土地の広さ。

 

どれもこれも規格外すぎる数字に誤字か何かの間違いだとギルガメッシュがアンジェリカのプライベート端末に確認を取った事で発覚した。

彼が会談前日に胃を痛めていた原因の一部である。

 

まあ、このミスのお陰でギルガメッシュが計画当初に考えていた何もない土地で本社と研究所からじっくりと都市開発をしていくのではなく。

都市が丸ごと移動する事になったので、開発費用が浮いたのだ。

 

建国する際に解決しなくてはならなかった国民数もエーデルベルク周辺に住んでいた人々だけではなく、本社移設の際に残るか残らないかをアンジェリカに問われた本社で勤務している社員全員が『我々は地球の裏であろうが宇宙の果てだろうが、社長について行く』と日本を捨てて移住を決意。

家族を連れて喜んで日本を捨てると言い切った事で、都市機能を維持できる人数を確保する事が出来た。

 

給料は安い、休日出勤とサービス残業とパワハラが当たり前。

そんな時代の日本企業と仕事に見合った給料と定時帰宅、家族と遊べるレジャー施設と娯楽施設などの設備が揃った楽園のようなホワイト企業。

 

社員全員とその家族が悩むことなく、ついて行くのは考えるまでもない。

 

 

――――――。

 

 

会社の最奥に建設された巨大なオフィスビル。

アンジェリカが働くビルであり、彼女の話によるとメイド二人と共に施された魔術トラップによって要塞化されており、このオフィスビル勤めである証の社員証を持っていない状態で入ると一瞬で捕縛されるらしい。

ギルガメッシュは「俺の知っている会社じゃない」と小さく呟き、何処の部署にでも自由に入れる特別な『ゴールドカード』をアンジェリカから受け取りビルの中へと入って行った。

 

「「お帰りなさいませ!!マスター!!……ついでに社長」」

 

入って来たギルガメッシュとアンジェリカにスーツ姿で挨拶をする見慣れた二人の女性……いや、二対の自動人形。

 

「何故、ここに居る?日本の屋敷はどうした?」

 

予想外の受付嬢の存在に頭を押さえながら二人に問いただす、ギルガメッシュ。

彼の認識では二人は日本の屋敷で放置……ではなく、留守を任せていたはずだ。

そして、ギルガメッシュの質問を聞いて明後日の方向へと目を泳がす二人。

そんな自動人形達の反応に嫌な予感を激しく感じたギルガメッシュはゆっくりとアンジェリカを見る。

 

ギルガメッシュのその動作だけで色々と察した出来る自動人形は、ギルガメッシュの疑問に躊躇なく答えた。

 

「二人のケンカにより、屋敷が大破炎上。

屋敷は我が、優秀な建築スタッフにより完全再現。

特別な宝石を使った強化の魔術により、二人がケンカしても壊れない特別性に仕上がっており、

現在は我がスタッフが屋敷の管理を行い、この二人は建築費用を稼ぐまでの間、我が社でタダ働きをして頂いています」

 

アンジェリカの言葉を聞いて、ギルガメッシュの攻撃力を増加させるスキル『カリスマA+』が発動した。

着ていたライダースーツの様な黒い服も、黄金の粒子が体を纏う事によって太陽神からドロップした太陽の輝きを放つ『黄金の甲冑』へと切り替わる。

 

受付の机に足を掛けてジャンプし、空中で見事な三回転を同時に見せた彼女達はビルの床に両手と両膝を同時について額を床にこすりつけた。

 

「「ご、ごめんなさい(ですわ)―――――――――――!!」」

 

(ギルガメッシュ)に許してもらえるまで、二人の人形たちの土下座と冷や汗は止まらない。

 

 

―――――――。

 

 

ポンコツメイド達を物理言語で説教したギルガメッシュは元の黒いライダースーツに戻り、アンジェリカの案内によってようやく目的の人物が待つ社長室へとたどり着いた。

 

扉を開けると壁側に設置してある巨大な本棚や部屋の最奥にある高級そうなデスク。

中央にはギルガメッシュが会わなくてはならない重要な少女とその親が高級なソファーに座りながら目の前の机の上で一心不乱に絵を書いていた。

 

音を立てて、部屋に入ったのに気づかない絵具に汚れた金髪二人。

 

「サラ・ブラッドリリー、レイオス・ブラッドリリー。一端、手を止めなさい」

 

この親子はウルク美術部門に所属する世界的に有名な天才画家。

幼い娘は「マリオ・ロッソ」というペンネームで活躍し始めた期待の新星にして高ランクの伐刀者(ブレイザー)でとても稀有な能力を持っている。

父親は、生涯を賭けて自身の最高傑作を生み出す事を目標にしている娘にも劣らない才能を持つ、ベテランの画家である。

 

この親子は絵にしか興味がなく、自分の理想の絵を求める求道者であり、金や名声には興味はない。

ならば何故、そんな二人がウルクに居るのかと言えば……単純に絵が思う存分に描けるからだ。

 

彼らが商品用に描いた絵をウルクで販売する代わり、絵描きにとって最高水準の生活を与える事をアンジェリカと契約したからだ。

この契約によって彼らは、二十四時間体制で衣食住の世話をしてもらい、ケガや病気もカプセルで治療され完治不可能だった、生まれつき重い病を患っていた娘もアンジェリカに送られたギルガメッシュのエリクサーによって完治した。

 

そうして、最高水準の生活の中で描かれた絵はウルクがオークションで販売、もしくはウルク系列の美術館で展示され、発生した利益は親子に3割が、残りの7割がウルクへと分けられる。

まあ、二人はお金を必要としないので、アンジェリカが二人の為に個人口座を設立し高額な貯金が出来ているのだが……今までで一度も使われた事はなく、引き落としに必要な通帳やカードをしまった場所や、パスワードさえ覚えていないだろう。

絵以外は基本ダメ人間でウルクに来る前は着替えや風呂にすらまともに入らないダメな親子だ、ウルクが倒産して前の生活に戻ったら早死にするだろう。

 

そんなダメ人間な二人がアンジェリカの言葉に従い、真剣な表情で絵を描いていた表情は一変し、ギルガメッシュとアンジェリカの方へめんどくさそうな顔をしてゆっくりと向ける。

失礼な態度ではあるが一応、自分たちに理想の生活を与えてくれている雇い主なので、言う事は聞いてくれるらしい。

だが…面倒そうな親子の表情は再び、絵を描いていた時の表情へと戻った。

 

その次の瞬間、彼らは背筋を伸ばしてスッっと立ち上がり綺麗な動作でギルガメッシュ達の元へ歩き出す。

そして……。

 

「「……」」

 

無言でギルガメッシュの体をペタペタと触り始めた。

あまりの展開にギルガメッシュが動けない事をいいことに二人はそのままギルガメッシュの服を脱がそうと……。

 

「やめんか!!」

 

上着を脱がされシャツをまくり上げられた瞬間に正気に戻ったギルガメッシュの拳が二人の親子の頭に落とされた。

 

 

 




この作品に評価を付けて下さる皆様に感謝します。
驚くぐらいにいただく高評価や低評価もたくさん来ていますがこの自己中で書いている作品を面白い・つまらないと感じる様々な考えや感性を持っている人が読んでいると思うと嬉しくなりますね。

これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。


あと予告風番外編を作ってみたので気が向いたらどうぞ。
続くかは不明です。

原作;無人惑星サヴァイヴ

タグ;オリ主も登場 台本形式 完全不定期更新 続くのかは作者の気分次第。

本文

ルナ「重力嵐に巻き込まれた私たち7人と1匹は見知らぬ星の島へと漂流した。
巨大なウミヘビに謎の生物。
ここは油断ならないところだけど、生きていく為には食料と水を調達しなくちゃ!!
食料を探しに出かけた私とシャアラは、金髪と黒髪の二人のメイドさんを見つけたの!!
私たち以外にも人間が居た!!と、喜んだ私たちだけど、二人のメイドさんは殴り合いを始めたの!!」

チャコ「な、なんなんや、そのバイオレンスなメイドさんは!?
ルナとシャアラは大丈夫なんか!?」

ルナ「巻き込まれるのは危険だと判断した私達は二人に気づかれないように逃げ出したの!走るのよシャアラ!!諦めないで!!」

次回『つかまっちゃった』

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