絶望に反抗した結果、生まれ変わりました。   作:ラビリンス・ペンギン

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義母の言動がよくわかりません。

「花ちゃん、今日はお家に遊びに来てくれる?」

 

「ごめん、明日でもいいかな?」

 

 

 

今日から面談期間につき午前授業らしく、多くの児童が浮き足立っている。俺もそのうちの一人だ。クラスメイトともなんとなくではあるが打ち解け始めたが、テンションはついていけないことが多い。

今は授業間の休み時間。いつものパターンは、本を机に広げそれを読む俺のところに京子ちゃんがやって来る、というものだ。今日も例外なくやってくる。

遊びたい気持ちはあるが、今日は義母(かあ)さんから早く帰ってくるようにと言われていた。

 

 

 

「今日はダメなの?」

 

「ごめん、お母さんから今日は早く帰って来てって言われてるんだよね…。」

 

 

不思議そうに首を傾げてきいてくる京子ちゃんに申し訳なく思いつつも、こればかりはどうにもならないので謝るしかない。明日なら時間はあるはずだし、午前授業だからたっぷり遊べるだろう。

 

 

「わかった!じゃあ明日!」

 

「うん、ありがとう。」

 

 

 

太陽のような暖かい笑みにつられて俺も笑う。温かいよりも暖かいという表現が似合うそれは、見ていて気持ちが良い。笑顔というものは人を幸せにする。…笑う門には福来るなんてよく言ったものだ。

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

  キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

「あ、もう時間だ。じゃあ、またね!」

 

 

予鈴がなり、京子ちゃんは会話もそこそこに席へと戻る。

次の授業は算数で、俺は教科書を引っ張り出すと机の上へと置き、先生が来るまで本を読む。本は、俺の知らないことを教えてくれる。…小学校で習うことは型にはまったことばかりだが、本は、それからはみ出ていたりと型にはまらないことが度々あり、ついつい読んでしまう。

それはともかく、この算数の授業が終われば今日の授業は終わりだ。

算数は特に難しくもなく、昔やった内容のために気にすることはないが…それでも何か面白いことがあるんじゃないかと耳を傾け一時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、義母さんは俺にこの国の民族衣装を着せ、写真を撮り始めた。……うん、全く意味がわからない。一体なんだというのだろうか。

訊きたいという気持ちを押し殺し、俺はいつもと変わらぬ顔で写真を撮られる。

…が、暇なので修行について少し話そうと思う。この世界では気は使えるが、威力は昔ほどではないし、空を飛ぶスピードだって、体が耐えられるくらいしか出すことはできない。…だから、修行はもっぱら体を鍛えることばかりだ。…過度な力は求めない。大切だと思う人を守る力が欲しいだけだ。

 

 

 

「花ちゃん、難しい顔しないで?」

 

「あ、ごめんなさい…。」

 

 

 

まだ写真とってたのかと思いつつこの写真はどうなるのか…。写真のために京子ちゃんと遊ぶ時間が削られたのかと思うと複雑な気分だ。…さて、明日は何をして遊ぼうか。

 

義母さんが満足そうに撮った写真を確認しているうちに、ランドセルの中から本を取り出してそれを読む。学校で読んでいたものとは違って、京子ちゃんオススメの本だ。学校図書館から借りたものだが、妖精が人間界でこっそり魔法を使いながら生きるという、ファンタジーな物語だが、巻数が20を越える長編だ。学校ではついついブックカバーで表紙を隠しただけの推理小説を読んでいたが、読む本を間違えたと思う。学校でこの本を読めば、少しは京子ちゃんと会話できただろうに…どうにもうまくいかない。

 

 

 

 

「花ちゃん、ちょっと指貸してもらっても良いかしら。」

 

「右手で良いですか?」

 

「えぇ。」

 

 

 

少しでも本の内容を覚えて京子ちゃんとの話題にできるようにと集中していたが、義母さんに言われて両手で持っていた本を片手に持ち直し右手を差し出す。

義母さんは、俺の右手を手に取ると、何か濡れたスポンジのようなものを親指につけられ、そのまま紙に押さえ付けられた……え?

 

 

 

「ありがとう。ごめんね、記念に取っておきたかったの…。」

 

「あ、いえ…。」

 

 

 

普通の母親というのはこんなものなのだろうか?微笑む義母さんに何も言えず、俺はこのまま本を触る訳にもいかないので流しへと手を洗いに行った。


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