絶望に反抗した結果、生まれ変わりました。   作:ラビリンス・ペンギン

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雨の日の出会い

早朝、俺は隠れて修行をしていた。

…今度こそ、守りたいものを守るために。守りたいものが明確になった今、今まで以上に修行に身が入る。今の俺はサイヤ人ではないが、気は普通に察知できるし消すこともできる。

 

 

よく動き よく学び よく遊び よく食べて よく休む これが亀仙流の修行じゃ

 

 

 

昔、人造人間に対抗する術として、お父さんの師匠である亀仙流について亀仙人さんに聞いたことがあった。

何か修行のヒントは得られないかと伺ったが、それは今までお父さんがやっていたこと…あ、いや、学んではいなかったような…あ、自然から学んでいたような気が…。とにかく、あの時はいつもやっていることと何らかわりなくて戸惑ったが、今の世界では…いや、日本という国ではそんな事をする必要はあまりない。

 

他の国では武器を持てるが、この国は武器の所持は限られた人間のみ。さらには武器の使用にも許可がいる。

 

 

俺はまず、自分がどこまでデキるのかを確認した。動体視力はまずまず、肉体は普段からこっそりとトレーニングしているもののサイヤ人でない分、そんなに強くはなれない。…空は飛べるけど、見られると厄介だ。

 

 

 

外は土砂降りの雨で、俺が死んだのもこんな空だったと思い出す。…楽しかった頃の記憶より、辛かった記憶の方が記憶に残る。それは、仕方のないことだとはわかっていても、忘れたくない。

忘れるのなら、いっそのこと全て忘れてしまえば良かったんだ。記憶なんてなければ、何も知らなければ、俺は普通の少女としてこの世界で過ごしていただろうから。

 

でも、それじゃダメなんだ。…記憶があったからこそ辛くても、記憶があったからこそ守る力を手に入れる方法を知っている。

 

 

 

並盛山に登リ、奥まったところまで走る。

たとえ迷ったとしても気の集まってる方へ行けばいいし、空から見下ろすのもありだ。他の女の子よりは強い自覚はある。…指一本で人を殺められるのも、気でわかる。

 

生きとし生けるものの大半には気があるから…。それを感じながら修行をする。熊を倒したり崖を上ったりすることもあれば、川の流れをのんびりと眺めることもある。昔聞いた亀仙人さんの話だと、お父さんも修行だらけの日々を送っていた訳じゃないらしい。

お父さんのように強くなりたい。

いつものように基本的な筋トレをはじめ、その後瞑想をしてから気を使わない体術の修行を行う。…何故気を使わないのかというと、気を使うと自然が破壊されてしまうからだ。

 

ここの自然は豊かで、まるで昔のパオズ山のようだけど、少し脆い。気を使えば簡単に崩れるだろう。…気は、夜に打ち上げ花火に見立てて普段と同じようにひっそりと行う。並盛という町は不思議なところで、群れること、風紀を乱す行為が何よりタブーとされている。それは、雲雀家が代々統治してきた土地で次期当主が一匹狼傾向にあるからだと言われているが…次期当主は俺と同じ小学校の先輩らしい。噂では、強い人間は戦わされるとかなんとか…。

 

俺は戦いが好きじゃない。…だから、目をつけられないように隠れる必要があった。

義理の両親はとてもいい人たちで、前に物好きと表現したが本当にその通りだと感じた。

雨によって体は濡れるが、そんなことは気にしない。どんな天候の時であろうと、戦えるようにしておくべきだ。

 

俺は、それからも暫く修行を続けた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ここで何してるの?」

 

 

 

人の気が近づいているのはわかっていたが、まさか話しかけられると思っていなかった俺は、瞑想を止めて声の主を見る。

黒い髪に瞳、白い肌…それは、噂に聞く雲雀家次期当主と1寸違いなかった。名前はたしか…

 

 

「雲雀…きょうや?」

 

「へぇ、僕の名前知ってたんだ。…で、ここで何してるの?」

 

 

こんな雨の日に。と続けられた言葉に、俺は何と返そうかと考える。だが、もともとそういう方向での口は得意ではなかった。…つまり、言い訳は大の苦手だった。

 

 

「少し、体を動かそうと…。」

 

「ふぅん…、僕が見たときは動いてなかったけど?それに、僕は気配を消して近づいたのに、驚いた様子がなかった…ねぇ、何をしていたの?」

 

 

 

何故気配を消して近づいたんですか!!そんなこと、言えるわけもないので口をつぐむ。

 

気配を消すといっても、俺には筒抜けだ。気の扱いは俺の方が長けていると言っても過言ではないはずだし。それに、この雨の中で気配を消したとしても足の運ぶ音や雨音のぶつかる音で分かってしまう。…そう言い訳をしようとして、雨すでにあがっていることに気が付いた。

 

 

 

「十分驚きましたよ。それより、雲雀さんは何故こちらに?」

 

 

然り気無く話をふる。俺たちが今いるのは山の中でも奥まったところで、そう易々と人が来れるとは思えない場所だ。それなのに何故、こんなところにいるというのか。

 

 

「別に。…この時期は登山する人が増えて遭難が度々起こるから…。」

 

「そうですか。それでしたら、私もそろそろ戻りますので、引き続き頑張ってください。」

 

 

 

当たり障りのないようにペコリと頭を垂れてその場を去る。噂では弱者に興味はないらしい。つまり、弱者のふりをすればいいんだ。

俺は、怖がるような素振りをしながら帰路についた。

 

その後ろで、残された雲雀恭弥がどんな顔をしていたかなんて知らずに────


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