絶望に反抗した結果、生まれ変わりました。 作:ラビリンス・ペンギン
靴紐をしっかりと結び直し定位置に着くと、スターターピストルの発する声を聞き、ピストルの音を合図に駆け出す。
この借り物競争は、最初にぐるぐるバット(10回転)をしたあと、ケンケンしながらお題の紙の置かれた台まで行き、辿り着き次第で各自お題のモノを探しに行く、というものだ。
ちなみに、俺が3回行った練習で出されたお題は
だったが、今回もお題が良ければいいが…。どうか、練習で俺の運を使いきったなどというわけではありませんように!
なかば祈るような思いで、1位をとるために急いでいるにも関わらず目を瞑り捲った紙。…視線をお題に合わせ、そこに書いてる文字を見るとすぐに紙を短パンの中にいれた。
────なんで、こんなお題が出た…?
先生よ、つまりこれはあれか?あれなのか?とりあえずお題にこれあってもいいよね!アハハーみたいなやつなのか!?というか、来賓席にいないぞ!?いうら席を離しても、群れだらけじゃ仕方ねぇけどさ…借り物競走どうするよ…。
焦っても意味のないので俺の捲ったとてもとてもスンバラシイお題を紹介しよう。
それは…
“中学校の風紀委員長が使うトンファー”
いや、トンファーってそもそも何ですか!?
しかも、中学校の風紀委員長になった…って噂によく聞く雲雀家次期ご当主様じゃないですか、やだ~。なんかテンションが変だが、それくらいに今回は嫌なのだ。
気を探って雲雀家次期当主を探すが、そもそも過去に1度会ったっきり(多分)のような相手の気なんてそう覚えてない。これは難航するかと思い、俯いていた顔を上げると、視線が偶然クロスした相手がいた。
離れた位置にいるというのに、この世界の気ではそれなりのところにいるであろう彼はニヤリと口許に笑みを浮かべた。つまり、その彼こそがお題の相手そのものだった。
…こんなことってあるか?というより、ニヤリって何?声援が各所から送られてくるなか、俺は雲雀恭弥の元へと走る。
《お~っと!ここで白組の黒川花が走る!一直線で迷いがありません!借り物をすでに見つけたのでしょうか!?》
競技中のアナウンスはその後も続いたが、俺が雲雀さんのもとへ辿り着いた瞬間、空気が凍った。
昔よりは伸びている身長に羨ましく思いながら、俺はお題の書かれた紙を見せた。
「お願いします!一緒に来てください。」
「やだ。」
「何故ですか!?」
そして、共に来てくれるよう話すが彼はいっこうに聞く耳を持たない。…いや、聞いてはいるようだが、これはダメだ。
木に寄り掛かり腕組みをするその様はカッコいいが…何故かという問いに対して返ってきたのは「群れは嫌い。」という一言。…いや、二人はセーフ!
「…何故群れが嫌なんですか?」
「弱い
いや、どういう定義ですか!?とは流石に言わないが…、
「強い動物も弱い動物も、どちらにだって群れはありますよ。百獣の王ライオンでさえ群れで生きているのですから。お題にはトンファーとありますが、雲雀さんへ共に来てほしい旨を伝えた理由は、トンファーをお借りしてしまったら雲雀さんがもしも何かあったときには困るのではないかと思ったからです。…そうですよね、雲雀さんは───」
「いいよ、行ってあげる。」
強いヤツに分類されるので大丈夫ですよね、と続くはずだった言葉は、かけようとした相手に被せられ言葉にならなかった。でも、確かにこの場では必要な一言が耳に入り安心した。
「その代わり、運動会が終わったらちょっと僕のところ来て。」
「え、あ…。」
返事をする間もなく駆け出した雲雀さんの後を必死に追う。少しすると追い付いたので、距離を開けて隣を走りゴールすると、どうやら他の子がゴール間近だったらしく、雲雀さんが1位をとるために走り出したのではないか、なんて考えてしまったのは俺のせいではないと思う。
とにかく、他の人もお題がしんどいものだったらしく、話すだけで着いてきて(?)もらえたのは良かったんだろう。
ただ、この運動会終了後が気になるが…。
まぁ、なんとかなるよな!