サクラ迷宮第18層。
私達の前に現れたメルトリリスは、BBにその無敵性を剥ぎ取られた。
今この瞬間こそが彼女を倒す絶好の機会のはずなのだがーーー
「マスター、少し俺に時間をくれないか?アイツと話しがしたい」
私のサーヴァント バーサーカー
シャルルマーニュ十二勇士最強の騎士にして、聖剣デュランダルの担い手ローラン
そのバーサーカーが、メルトリリスとの対話が必要だと判断した。
なら、私はその判断を信じるだけだ。
「ありがとう、マスター」
ローランはメルトリリスに向き直る。
「なあ……メルトリリス、一人ぼっちは寂しいか?」
「っ……何を、言って」
「お前達アルターエゴの根底には孤独がある。
パッションリップは愛してもらうことに必死だった。
そのための被虐体質。
メルトリリスーーお前は愛してもらうことを諦め、一方的な感情をぶつけることで孤独を紛らわせようとした。
そのための加虐体質、人形嗜好、そしてオールドレイン。
ひとりでも生きていけると、虚勢を張り続けてきた。
そうでもしなければ孤独に耐えられなかった」
「孤独に耐えられない、ですって?笑わせないで。私はハイサーヴァント、いずれBBに代わり月の支配者となる存在!」
「分かる?そもそも人間とはスペックが違うの」
「全てを溶かし、世界の全てが私と1つになる!なら……ひとり、ぼっちで、当然じゃない」
それは虚勢だ。端から見ている私にさえメルトリリス強がっているのが分かる。
メルトリリスはおそらく最初から自らの愛の欠陥に気づいていた。気づいていながら、目を逸らし続けていたのだろう。
「お前は前提から間違っていたんだ。相手を溶かし1つになる、そんな方法でしか愛することができないなら、最初から誰かを愛するべきじゃなかった。
恋そのものを履き違えていたパッションリップのように、お前も愛を理解してはいなかった」
「───なら……聞かせてよ。
私は何が間違っているのか。
私は…どうすれば良いのか───」
メルトリリスは、今にも泣き出しそうだった。
まだ最後のSGを抜かれていないにも関わらず、彼女は既にボロボロだった。
その姿はあまりに痛々しく、哀し過ぎた。
だが彼女が救われることは永遠にない。
改心したとしても、今までに彼女が犯した罪は消えない。
それに対する罪の意識が、彼女をいつまでも縛り続ける。
───ああ、彼女の愛は報われない。
「ローラン・キャストオフ!」
は?
「は?」
『『は?』』
ローランは、脱いだ。
全裸だ。
「「「ぶは───────!?」」」
ぶは────────!?
「だが、それでも俺たちは理解し合える!愛し合える!
なぜならお前の第三のSGは『露出狂』!
そうさ!俺たちには露出という共通の趣味───絆 があるのだから!」
…………。
「そうだ……恥ずかしがることなんて無いんだ。
服を着た連中は服無しじゃ生きていくことができない。
服を着なければ恥ずかしい、それは自らのありのままの姿を直視できないだけだ。
己を服という虚飾で覆い隠さなければ、自らの醜さに耐えられないんだ!
それは本当に服を着ていると言えるだろうか?───否、否だ!
それでは服に着られているだけ、何1つ真理を悟ることなど出来はしない!」
なんか語り始めたぞ。
「服を着るという慣習に飼いならされた、服を着た豚どもよ!
刮目せよ!この原初の姿こそが世界の理!
露出こそ自由!露出こそ解放!露出こそ真理!」
…………。
「俺たち服を着ない存在こそが真に服を着るに相応しい!
我ら
我が
ダメだこいつ。
そもそもメルトリリスの質問に全く答えてないし。
ただ自分が脱ぎたかっただけだろお前!?
「───コイツは一体何を言っているの!?」
うん、本当に何言ってるんだろうね、コイツ。
「そもそもこれは露出じゃないわ!貞淑に隠しているの!私のこれはファッションなのよ!!アナタみたいなヘンタイと一緒にしないで!」
うんうん、もっと言ってやれ。
「───え?マジで」
マジで。
メルトリリスは本気でそう思っている。
メルトリリスの第三のSGは『露出狂』ではない!
それはお前のSGだ!
「そんな…一体俺は…何のために……脱いだと言うのか!!??」
趣味と実益のためではないだろうか。
「白野、自害を命じなさい」
『そうね、それがいいわ』
『同意します。脱ぐのはパンツだけにすべきです』
『ラニ、ちょっと黙ってなさい』
公衆の面前でいきなり脱ぎだす男を自害させる。
その気持ちは分からなくはない。
いや、普通の女性の反応としては当然の範疇だろう。
実際、凛やラニも同意しているし。
だが、この程度で縁を切るほど私達の絆は安くない。
これまでどんな困難でも二人で乗りこえてきた。
そしてこれからもどんな困難だって、
ローランとなら乗りこえていける。
そう信じている。
ローランだってそう信じてくれているはずだ。
言葉にせずとも分かっている。
これまでの旅を通して───私達は分かり合えたのだから。
「「「チッ」」」
目の前には(全裸で)四つん這いになって落ち込んでいるローラン。
私はこれまで何度もローランには助けられてきたんだ。
今度は私がローランを助けてあげる番なんだ!
▶︎ローラン、未来は変えられるんだ!
「───」
ローランが、ゆらりと立ち上がる。
「そうか……そうだったな……『未来は変えられる』……か。ありがとうマスター。おかげで、目が覚めた」
私にそう告げ、
思わず見惚れるような笑顔でローランは微笑み───
「メルトリリス!今からお前を脱がす!
そして露出の素晴らしさをその身体に叩き込んでやる!」
「はい!?」
ん?
「今からお前を露出に目覚めさせ、
お前の第三のSGを『露出狂』に変えてやる!
そう!
未来 は 変えられるんだ!」
ローランは剣を構える。
───それは見事な構えだった。
数多の戦いを潜り抜け常勝不敗を貫き、
磨き上げてきた剣がそこにはあった。
そこには一部の隙も存在しない。
だが全裸だ!
この急激な状況の変化にメルトリリスはついていけていない!
私もついていけない!
「ちょ、ちょっと!?あなた本気!?
この空気の中で戦うつもりなの!?
ていうかそもそも、アナタそんな格好ではずかしくないの!!??」
お前が言うな!
メルトリリスの格好だって痴女そのものだろう!
「恥ずかしい!!──────が、その恥ずかしさがたまらない!!」
こっちはもっとダメだった!既にある種の境地に達している────!
「覚悟ォ!!」
「───っ!応戦するわ!」
ローランがメルトリリスに斬りかかる。
こんな状況だというのにバーサーカーの剣技に乱れは見られない。
『無窮の武練』
1つの時代で最も武勲に秀でた者にのみ与えられるスキル。
如何なる外部環境、精神状態でも常にその一騎当千の実力を発揮することができる。
例えそれが全裸で美少女に襲いかかるという事案な状況であってもだ!
「そおらあ!」
「くっ───!」
激しい剣戟の末、メルトリリスが受け切れず体制を崩す。
メルトリリスは神霊を繋ぎ合わせて作られたハイサーヴァント、兵器だ。
だが兵器は扱う者次第その力を大きく変える。
いくら強力な兵器でも扱う者が未熟ではその本領を発揮しない。
そしていかなる達人でも精神状態如何では素人にも敗北し得る。
それは
今のメルトリリスの精神状態は平静とは程遠い。
なぜならローランが全裸だからだ!
「捉えたああああああ!!!」
キィン!
一閃。
その太刀筋は 流れるような美しい軌跡を描いて───
バサリ
メルトリリスのマントをそれを支える金具ごと斬り裂いた。
───結果、彼女の肢体が露わになる。
「───き、きゃああああああ!!??」
「チッ 浅いか、今ので股間の金具まで斬り落とすつもりだったが───まあいい、少しずつ剥いていくとしよう!」
「ね、ねえ、今日はここまでにしない?
ほらSGだってあげるし、何ならBBの詳細マトリクスだって教えてあげるから───」
「問答無用!大人しく全裸になれえええええええええええ!!!!!!」
「い───いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!??????」
「はーはっはっはっはっは!!!お前も全裸になるんだよ!!!」
▶︎聖杯戦争は地獄だぜ!
メルトリリスのレベルが999なのに攻撃が通用するのは、仕様です。