Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章   作:純白の翼

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第31話 グラントの正体

バーティ・クラウチ・ジュニアと呼ばれた人物は、まるで悪い子供を食い物にするあくどい大人の様な残虐の笑みを、ヴォルデモートに送った。更にヴォルデモートを怒らせたのは言うまでもない。

 

「そんなに怒んないで下さいよ。元ご主人様。尤も、付き合いは1年しかありませんでしたけどね。それに血圧が上がり過ぎて、タコみたいになりますよ?」

 

「フフフ。あなたもジョークが言えるのね。ジュニア。」

 

「シモンズ様のお陰ですよ。今の俺があるのは。冤罪でレストレンジ達と共に捕まり、その後は実家で不自由な生活。こんな風にした連中なんて、全殺ししたい位ですねえ。」

 

バーティ・クラウチ・ジュニア、これからはジュニアって呼ぼうか。その人は、まるで死喰い人達とヴォルデモートを道路に存在する汚物を見るかのような目をしている。

 

「何故奴が?魔法省の陰謀によって、抹殺された筈なのに……」

 

ワルデン・マクネアが動揺している。

「あら。ルシウスじゃないの。お久しぶりね。少しは決闘の腕を上げたかしら?2年前は、まるで鬱陶しいハエみたいに弱かったからねえ。」

 

リチャード・シモンズは、獲物を見るかのような凶悪な笑顔をして、ルシウスにそう語りかけた。

 

「以前は、良くもドラコを!私の息子を!変な痣を付けてくれたな!この落とし前、今ここで付けさせて貰うぞ!!!」

 

ルシウス・マルフォイは、不倶戴天の敵を見るかのようにシモンズを睨み付ける。

 

「そのドラコなんだけどね。彼、私の所に来たのよ。」

 

「!?どうしてあいつが!」

 

ルシウス・マルフォイが動揺している。

 

「このままあなたの元にいても、無抵抗にもTWPFに嬲り殺しにされるだけだと判断したそうよ。だから、私達アルカディアが育てているのよ。力を求めてね。じっくりと、私色に染めてあげるから安心なさい。」

 

ルシウス・マルフォイは、うなだれてしまった。だけど、彼の災難はこれだけでは終わらなかった。今度は、白いローブの男が話し始めたんだ。

 

「更に。お前がヴォルデモートの招集に応じたすぐ後の事だ。我が組織は、マルフォイ家に侵入した。簡単だったな。1人こちらで預かっているよ。」

 

「まさか……シシー!シシーを…………私の妻をどうするつもりだ!」

 

「ナルシッサ・マルフォイは、お前が迂闊な事を出来なくする為のカードとして我々の下にいさせる。我が組織には、あの女の親戚が1人いるのでな。そのよしみで命と安全を保障する。高級ホテルまでとはいかないが、豪華なマグルの施設に監禁している。あの女にとっては、さぞかし屈辱の日々を送っているだろうな。何せ、散々見下していたマグルと同じ状態で生きているのだから。」

 

ルシウス・マルフォイは、もう何も言えない様だった。顔面蒼白になっている。

 

「いつの間にか一家崩壊してたなんて。」

 

「悪い闇の魔法使いとは言え、こんなのあんまり過ぎるぜ。フォイの家。」

 

もう、ボクを嘲笑っていた怒りよりも、知らない間に家庭崩壊する事態までに状況が悪化していたから、寧ろ憐れみすら感じるよ。

 

リチャード・シモンズは、グラントの姿を見つけた途端、急に穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ウフフフフ。私の最高傑作がこんな所で生き残った女の子と一緒にいるなんてね。しかも、仲が良さそうだし。目的の1つは、達成されそうなわけね。」

 

グラントに対して、シモンズはそう言った。

 

「ボクには、何が何だか……」

 

「俺もだ。エリナちゃん。いきなり最高傑作と言われてもよぉ。実感が湧かないぜ。」

 

それを言った直後、虹の眼の男がこう言い出した。

 

「シモンズ。グラント・リドルとは何者だ?ヴォルデモートとはどんな関係だ?お前は何を知っている?場合によっては、奴を殺さなければならんが?」

 

「マクルトね。リーダー直々に来るなんて光栄じゃないの。ま、ちゃんと説明するんだけどね。そこにいる、ヴォルデモートにも深く関わって来る事だから。」

 

ヴォルデモートを指差すシモンズ。

 

「俺様と関係だと!?その小僧、よくよく見たら昔の俺様と瓜二つではないか!答えろ!その小僧は何者だ!」

 

激昂しながら、シモンズにそう問いただしたヴォルデモート。

 

「ま、ヴォルデモート如き、大した事ないんだけど。話しましょうか。私の目的からね?」

 

「目的?」ボクが言った。

 

「そうよ。エリナ・ポッター。ハリー・ポッターの双子の妹。私の目的はね。この世の真理を知り尽くす事と、あらゆる生物の頂点に立つ究極の生命体を造る事なのよ。」

 

全身が震えた。というか、ジュニアとマクルト以外の全員が恐怖している。

 

「その過程で人間を拉致したり、改造手術を行ったり、未知の人造生物も作ったりしたわね。殆どが失敗作で、処分ばかりしてるんだけど。」

 

思わず吐き気がした。この人の思考回路、狂ってる。死喰い人の多くが、悲鳴を上げた。

 

「ホグワーツにも1人いるようだけどね。私の実験体が。私から逃げ切った子が。もう、その子なんてどうでも良いんだけど。ジュニア。あなたが言ってちょうだい。」

 

え?ホグワーツにシモンズの実験体がいるの?

 

「はい。シモンズ様。そいつの名前はマリア・テイラー、ですよね?」

 

「嘘でしょ!?マリアちゃんが!?」

 

「嘘なんかつかないわよ、エリナ・ポッター。彼女はね、遠い先祖に水人族の遺伝子を持ってるのよ。古いタイプの改造人間に起こる副作用、リジェクションが起こらなかったのは私が人魚の遺伝子を組み込んだ改造人間にしたからよ。だからあの子の場合、人為的な手で先祖返りをしたとも言えるわ。」

 

そんな。ロイヤル・レインボー財団に、それを伝えないと。

 

「さあてと。私の目的を、雑談も交えて語ったわ。そう言えば、ヴォルデモート。あなた、16年前に左腕を失わなかったかしら?」

 

シモンズがヴォルデモートにそう聞く。

 

「すぐに、再生させたがな。ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック、リーマス・ルーピンによってな。あれは屈辱的だった。俺様にとっても。」

 

ヴォルデモートが苦い顔をする。

 

「その左腕、後で私が回収したのよ。あなたをも超える、最強の生命体を作る為にね。」

 

「それが、グラントの正体に近付くの?」

 

ボクがシモンズに聞いた。

 

「ええ。最強且つ、究極の生命体。ベースには、魔法使いの中でも突出したヴォルデモート。彼の個人情報物質を使う事は確定したわ。だからね、いわばヴォルデモートはグラントの遺伝上の父親とも言えるわね。」

 

「何……だと……」ヴォルデモートが狼狽えている。

 

死喰い人達も、ヴォルデモートとグラントを交互に見ている。

 

「ウフフフフ。永遠を与える為に、秘書を務めていたダンピールの女性を被験者にした。」

 

ダンピール。確か、吸血鬼と人間のハーフとなる存在。この人が言いたい事は、要はグラントの遺伝上の母親はダンピール。グラントは、吸血鬼の血が4分の1入ったクォーターという事。

 

ふと彼を見る。自分が人間じゃない事を察したのか、顔が何時に無く真っ青になっている。

 

「それだけじゃなくてよ。受精卵の段階で、今まで存在した、有能な魔法使い、そしてこの地球上に存在している全ての種族の遺伝子を組み込んだのよ。」

 

まさか……でも、そうじゃなければあの能力を身に付けている辻褄が合わなくなる。グラントも真っ青を通り越して白くなる。

 

「それこそが、私の最高傑作!究極生命体!グラント!あなたなのよ!生まれながらの王者、オリジナルたるヴォルデモートすら足元にも及ばないわ!!」

 

グラントが突然叫んだ。絶望の余り、発狂しそうになってしまったから。死喰い人の殆ども、シモンズの行った人道的に許されない所業に対して、恐れ、恐怖し、怖がっていた。本気で、リチャード・シモンズを恐れている。それこそ、自分達の主人たるヴォルデモート以上に。

 

ボクからすれば、自分達は今まで何の罪も無い人間を虫けらみたいに殺していた癖に、都合の良い時だけ善人面するなんて、全く都合が良過ぎる。そう思った。

 

*

 

イドゥンは、アヌビステップ・ネクロマンセス3世と戦っていた。

 

「黒き王の末裔よ。お前の未来は、死だ!スピニングケイン!!」

 

ネクロマンセスは、イドゥンに向けて杖を放った。杖は回転しながら、イドゥンに狙いを定めている。

 

肉体強化せよ(コンフォータンス)!」

 

肉体強化呪文を使うイドゥン。元々は、異常な身体能力を持つハリーとグラントのその秘密を探る為に行動していた。先程唱えた呪文は、その僅かに得られた成果を基に開発したのだ。この状態であれば、通常時のハリーと同等の身体能力が発揮される様になるわけだ。

 

「……とは言え、今の私では5分が限度ですわね。さっさとケリを付けないと、副作用で動けなくなりますわ。」

 

イドゥンは思った。術なんて使わずとも、今の自分と同等の状態を手にする様なトレーニングを今まで積んできたハリーには、敬意を払いたくなった。

 

アヌビステップの放ってきた杖を、強化された身体能力を以って回避するイドゥン。先程イドゥンがいた位置で回転しながら停滞し、それからアヌビステップの元へ戻って来た。

 

「この杖による攻撃を避けるとは大したものだな。ならば、これはどうだ。蘇れ!パンテオンよ!!」

 

ネクロマンセスが自分の周りで回転させた。すると、イドゥンの前と後ろに人型の何かの残骸を一時蘇生させた様な奴が1体ずつ出現した。

 

「何ですか?これは。」

 

「我が体にはナノマシンが搭載されている。機能停止した機械生命体達を蘇らせる事が可能だ。パンテオンと呼ばれる機械生命体達を蘇生させたのだ。ゾンビとしてな。」

 

「ホグワーツでは、機械を使える筈はありませんけど?」

 

機械や電気製品、即ち科学に由来するものは全く使えないのだ。それは散々、ハリーとゼロ、グラントが愚痴っていたのだ。

 

「ところが、その常識を覆すある鉱石が発見された。それが我らの身体に使われている。魔力を持った者(お前達)が触れれば、力が抜ける。それが、魔封石と呼ばれている物なのだ。」

 

その話を聞いて、イドゥンはある光景を思い出した。1993年のクリスマス休暇。伯父であるシリウスの無実を証明する叫びの屋敷での出来事。スネイプやペティグリューが、ロイヤル・レインボー財団の用意した手錠や鎖によって、完全無力化したあの光景を。

 

「後でハリーから聞きましょうか。その鉱石の事。」イドゥンが呟いた。

 

「だが、それは冥土の土産にもなるわけだが。」

 

アヌビステップがイドゥンを嘲笑う。

 

「どうでしょうか?それに、あなたが勝つ前提で物事を進めるのは良くありませんわよ?」

 

イドゥンは、一時再生された機械達を魔法で破壊した。魔封石で体を形作られているからか、いつもより威力が抑えられている気がする。だけど、全く効かないわけではない。塵も積もれば山となる。どんなに攻撃が小さくても、ちゃんと蓄積されていく。

 

幸いにも、イドゥンはほぼ無尽蔵とも言える魔力の保有量の持ち主なのだ。ゴリ押しも不可能ではない。パンテオンと呼ばれた、ゾンビの様な印象を受ける人型の機械達を倒し切った。

 

「お前の事は正直見くびっていた。だが、認めよう。我の戦った人間の中で、お前の右の出る者は誰1人としておらん。敬意を表し、本気を出そう。サンドジャグリング!」

 

地形が変化した。なだらかな山が2つ出来た。

 

麻痺せよ(ストゥーピファイ)!!」

 

失神呪文をネクロマンセスに放つ。当たった箇所は、ネクロマンセスにしてみれば当たり所が悪かった様で、仰け反ってしまった。

 

「ぬう!ならば!コフィンプレス!!!」

 

ネクロマンセスが地中に戻った。それと同時に、棺桶が2つ出現した。それらは、かなりのスピードでイドゥンに襲い掛かって来たのだ。

 

「油断も隙もありませんわね!!」

 

身体強化された体を惜しみなく発揮して、棺桶による押し潰しをジャンプでやり過ごすイドゥン。そろそろ、肉体強化が時間切れになって来た。

 

『皆さんはどうしているのでしょうか?』

 

*

 

「テイルファイア!!」

 

水よ(アクアメンディ)!!」

 

ハヌマシーンとゼロの戦いは続いていた。回転しながら、尻尾から炎を3方向に繰り出すハヌマシーンに対して、ゼロは杖から水を出して対抗していた。水蒸気が生じた。

 

「断裂棍!」

 

ハヌマシーンは、ゼロの頭上までジャンプして来た。そして、下突きを繰り出してくる。

 

「旋風装。」

 

風を纏わせるゼロ。ハヌマシーンの断裂棍を受け流した。風を操ったり、風そのものになれるゼロだからこそ出来る芸当だ。そして、ゼロはお返しと言わんばかりに、バトルシャフトの一撃をお見舞いした。

 

「やりますね!では、行くのです!我が分身、ミニハヌズよ!!!」

 

ハヌマシーンは、小型の分身を3体繰り出して来た。ゼロは、攻撃呪文を無詠唱で出し、ハヌマシーンの分身体を撃破していく。最後の1体は、バトルシャフトのチャージ攻撃で粉砕した。

 

「食らいなさい!そして滅びよ!戦闘一族の末裔よ!!」

 

ハヌマシーンが突進してきた。速過ぎる。すかさずゼロは、自らの身体を風に変化させた。これで、大抵の物理攻撃を無力化出来るわけだ。ゼロの身体は、ハヌマシーンの攻撃をすり抜けた。

 

「それが自然物化能力でございますか。あの忌まわしきフォルテ・フィールドと同じ。」

 

「兄さんを知ってるのか?」

 

「彼が闇払いだった頃、ティファレト様と交戦状態になりましてね。ティファレト様を敗北に追い込んだのでございます。あの男も『覚醒』した魔法使いになってるのですよ。」

 

「覚醒?」そう言えば、ハリーも言ってたな。と、ゼロは思った。

 

「そのレベルにまで到達すれば、少なくとも小さな国1つを消す事が出来るのです。文字通り、地図から。」

 

それを聞いて思わず絶句したゼロ。国1つを消す?そんな話は聞いた事が無いと。

 

「あなたも、ハリー・ポッターもそこまでの境地に達する力をお持ちのようですが、あなた方2人にはまだ足りない物があるですよ。まあ、それを聞ける事は未来永劫ありませんがね。」

 

教えてはくれないみたいだな。フォルテから後で聞こうと思ったゼロであった。

 

「死になさい!ファイアバウンド!!」

 

ハヌマシーンが、炎を纏って突進してきた。咄嗟に旋風装で風を纏って回避するゼロ。縦横無尽に辺りを攻撃するハヌマシーン。その過程で、巨大なブロックをどんどん破壊していった。

 

「無茶苦茶だ!」不規則過ぎて避け辛いのだ。

 

ハヌマシーンの突進がゼロに直撃した。

 

「ギャアアアアアアアア!!!」ゼロが悲鳴を上げた。

 

まさか。自分の能力にこんなウィークポイントが存在していたとは思わなかった。それに、普通の身体以上に火傷が酷い。

 

「あなたの自然物化能力、どうやら火や熱を伴った攻撃にはめっぽう弱いようですね。」

 

ハヌマシーンがそう告げた。図星だ。自分でも初めて知った弱点。上手く能力を発動出来ないし、全身に火傷を負った。まともに動けそうにない。

 

「今度こそ滅びよ!焔昇猿舞!!!」

 

手持ちの棍をしなやかに、それでいて力強く伸ばすハヌマシーン。バトルシャフトでガードするが、逆に大破してしまった。無防備なゼロに、ハヌマシーンは今こそ引導を渡そうとした。

 

「ま、マズい!」体を動かそうとするが、全く動けない。

 

「ムッキーー!!!」飛び上がってゼロを殺そうとする。

 

覚悟しなければ。いいや。覚悟なんてもう出来ていた。死ぬかもしれないと。今がこの時なのか。

 

その時だ。水が襲い掛かって来た。ハヌマシーンは、遠くへ追いやられた。

 

「マリア・テイラーなのか?」

 

「あなたにとっては相性最悪ですから、先に行ってください。」

 

マリアは、火傷治しの魔法薬に、ウィッゲンウェルド薬をゼロに手渡す。大方、ハリーが作った物だろうと予想をするゼロ。

 

「分かったぜ。だが、無理はするなよ。」

 

「その言葉、そっくりそのまま返させていただきます。」

 

ゼロは、先に進んだ。マリアに、ハヌマシーンとの戦いを継続して貰って。

 

「精霊の水!」

 

マリアが杖を振るうと、意思を持ったかのような綺麗な水が出現した。ハヌマシーンの炎を消火させてしまう。

 

「相性が最高な相手から一転して、今度は相性最悪の相手ですか。」

 

「あなたの相手は私。」杖を振るうマリア。

 

*

 

先に進むゼロ。だが、刺客がいた。2足歩行となった、赤いヘラクレスオオカブトの様なレプリロイドとエンカウントしたのだ。

 

「俺の次の相手はお前か。」

 

「このヘラクリウス・アンカトゥスが、直々に貴様を始末してくれる。」

 

「やれるものならやってみろ!暴咆の藍風《ヴィオルギ・インディベンツ》!」

 

藍色の風が、ヘラクリウス目掛けて発射された。ゼロ自身の風の自然物化能力を利用して開発した魔法であるのだ。ヘラクリウスを牽制する。

 

「クッ!そんな小細工など効かん!ビートアタック!」

 

突進攻撃をしてきたヘラクリウス。ゼロの出した風の魔法で速度は大幅に抑制されているものの、それでも少しずつ近付いてきている。

 

「チッ!マズいな。」術の発動を止めて、体を風そのものに変質させるゼロ。ヘラクリウスの突進攻撃を、すり抜ける様に無力化した。

 

「フン。やりおるな。ビートアンカー!」

 

アンカー状の腕を2本伸ばし、アンカーの間に向かって突進。ゼロは回避し、失神呪文を叩き込む。魔封石で作られている為か、魔法の効果は半減された。

 

「自らを無敵だと勘違いした魔法使いの寿命は短い。死喰い人然りな。」

 

「生憎だが、俺は自分を無敵だとは思ってねえよ。だからこそ、非魔法族の戦闘技術も取り入れたんだ。」

 

ゼロは、ヘラクリウスに対して風の力で強化した蹴りを3発入れた。

 

「ほう。人間。ワシに物理的にダメージを与えるとは。名前は?」

 

「……ゼロ・フィールド。」

 

「ゼロとやら。認めてやろう。お前は強い。ワシが今まで戦ってきた人間や魔法使い達の中で、お前の右に出る者は誰1人としておらん。オールレンジアタック!!」

 

ヘラクリウスが宙に浮く。腕を4方向に伸ばし、ゼロを狙ってそれぞれの腕から1発ずつミラクルガンナーと同じ位の豆弾を撃つ。

 

万全の守り(プロテゴ・トタラム)!!」

 

上位の盾の呪文で攻撃を防ぐゼロ。

 

「どうした?防戦一方だぞ?」

 

*

 

「いいや。こっからが第2ラウンドだぜ。」声がした。

 

声の主の蹴りが、ハヌマシーンの棍を受け止めた。拳が、ハヌマシーンをふっ飛ばした。

 

「間に合ったな。マリア。それにしてもお前が、誰かの為に動くなんてよ。」

 

男はニッと笑った。

 

「キット。」

 

「少し休んでな。こっからは、俺が請け負うぜ。」

 

*

 

サンドジャグリングでまたも地形を変えるネクロマンセス。穴を2つ作った状態で、杖を投げてつけて来た。肉体強化呪文のタイムリミットが過ぎてしまい、満足に動けないイドゥン。急激な強化は、使用者に多大な負担をかけるのだ。だから僅かな隙間に逃げ込んで、攻撃をやり過ごす。

 

「クッ!また地形を変えて来ますわね。」

 

「サンドジャグリング!」

 

再び地形を変えるネクロマンセス。今度は、沈む地形。まるで蟻地獄だ。満足に動かせず、沈むのを待つしかないイドゥン。

 

「土に還るが良い。スピンクローラー!!」

 

スピニングケインと良く似ている。だが、これは地形に沿って移動しているではないか。身動きの出来ないイドゥンを、確実に仕留める為に使った技だ。当たったら致命傷は確実、下手をすれば即死。例え死を免れたとしても、無抵抗に蟻地獄へと沈んで死ぬ。どう足掻いても絶望である。

 

『万事休すですか。』沈む中で最期を悟るイドゥン。

 

「俺の妹の形見に何してやがる!このクソ犬が!!」声が聞こえた。

 

イドゥンは沈まなかった。周りを見た。ネクロマンセスの右腕が無くなっている。自分の目の前には、黒髪の男がいた。イドゥンの、ハッフルパフ寮生の中では1番の仲良しのエリナ・ポッター。彼女の名付け親でもあり、それ以上にかけがえのない存在。

 

イドゥンにとっては、母の長兄であり、自身にとっては伯父でもある。相変わらず左目は包帯で隠されたままだ。だが、そんな事はどうだって良い。エックス以外で家族と呼べる間柄の、最後の1人。シリウス・ブラックが、目の前でアヌビステップと対峙してたのだ。

 

「遅くなって済まないな、イドゥン。ここからは、俺に任せてくれ。」

 

「シリウス。良いタイミングですよ。」

 

*

 

ヘラクリウスの猛攻は突然やんだ。止めたのは、1メートル前後の小柄な老人だ。

 

「初めましてになりますかな?ゼロ・フィールド君。ある程度互角に渡り合っているようですな。」

 

「あなたは確か、フリットウィック教授。呪文学兼レイブンクロー寮監の前任者。」

 

「元教授ですぞ。さあ、共にあのカブト虫に良く似たミュートスレプリロイドと言う存在を倒しましょうか。」

 

「知っているのですか?」

 

「フォルテ君から聞いておりますぞ。」

 

ゼロは、フリットウィックと共にヘラクリウス・アンカトゥスに立ち向かうのだった。

 


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