Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章 作:純白の翼
「滑稽だな。」
年齢は20歳代程の、シルバーの短髪。全てを威圧する様な神々しい虹色の瞳。マゼンダで表現されている太陽の柄がプリントされている白いローブを羽織っていている男。マクルトは、リトル・ハングルトン墓地での一連の出来事を常に見ていた。
「これで。ヴォルデモートは、自分の破滅の原因を作ったエリナ・ポッターを2度と殺す事が出来なくなったわけだ。エリナ・ポッターの血に宿る、母親の魔法を取り込んだ事で、奴がポッターのある種の分霊箱と化しているわけだ。これで、闇の陣営は完全終了だな。頃合いを見て、追加で参加するか。そして癪だが、シモンズとは休戦だな。だからこそ……」
お前達闇の陣営には、これから犠牲になって貰うとしようじゃないか。俺から全てを奪った、その報いを、その痛みを知るが良い!
*
ヴォルデモートの顔は、うっとりと勝ち誇っていた。杖を上げて、ペティグリューをボクが縛り付けられている墓石に叩き付けた。次に冷たく、無慈悲な高笑いを上げて、赤い目をボクに向けた。ボクに近付き、額の傷跡に触って来た。また傷が痛む!
「ああああああ!!!」
「俺様を破滅させたお前が、俺様がただ触れただけでこんなに泣き叫ぶとはな。」
「エリナちゃん!エリナちゃん!何をしやがった!テメエ何する気なんだ!」
グラントが、ヴォルデモートに果敢に吠え掛かっている。グラント。縄を解いたら、すぐに逃げて。ボクの事は無視して良いから。
「俺様の計画通りに、全て事は上手く進んでいる。そして勇敢な貴様。この俺様を恐れずに立ち向かうとは……小娘の父親一味以来だ。ナギ二の餌にしてやりたい所だが、お前にはじっくりと聞きたい事があるんでな。それまでは生かしておいてやろう。」
グラントは、勝ち誇っているヴォルデモートを睨み付けている。でも、ヴォルデモートは全く気にしてない。それどころか、自分を恐れない存在がいるのか、思わず狂気の笑みをこぼしている。
そう言えば、グラントと若い時のヴォルデモートは、髪の色以外は全く容姿が一緒だ。語ってくるものとか、雰囲気は全然正反対だけど。ハリーは昔、グラントはヴォルデモートと何かしらの関係性があるって教えてくれた。
あのヴォルデモートが、素直に自分の子どもを作るとは思えない。でも、同じ姓だし、顔も全く一緒だし、蛇の言葉が分かるしで何も関係がないわけがない。にもかかわらず、この2人はあたかも初対面という感じだったんだ。
益々、グラントの事で疑問が浮かぶ。そんな事を考えてる内に、ペティグリューがヴォルデモートのすぐ近くまで来た。
「我が君……」ペティグリューが声を詰まらせる。
「ワームテール。お前はこの1年間、俺様の手足として良く働いてくれた。約束を果たそうではないか。」
「おお…………何と慈悲深い。」
「と、その前に左腕を出せ。」静かだけど、有無を言わせない口調だ。
「そ、それだけは……それだけは…………」ペティグリューは怯えている。
「ならば、無理矢理やるまでよ。」
ヴォルデモートは屈み込んだ。ペティグリューの腕を露出させた。クィディッチ・ワールドカップの時と同じ印が見えた。生々しい赤い刺青だった。確かハリーが言ってた。闇の印と呼ばれるものが。
「フム。戻っている様だな。」
泣き続けているペティグリューを無視して、丁寧に刺青を調べるヴォルデモート。人差し指を印に当てた。
「!?ううっ!!」また傷跡が痛んだ。
一方のペティグリューも、また新しい悲鳴を上げている。指を印から離し、また立ち上がった。印の方は、真っ黒を変わっていた。
「用が済んだぞ。まずは約束を果たそう。ワームテールよ。名誉あるお辞儀を、お前から最初にやらせてやろう。」
冷たく、甲高い声が響いた。
「ご主人様……我が君…………闇の帝王。」
地面に手を突き、平伏した態勢になっているペティグリュー。
「そうだ。深くやれ……違う。それは、ジャパンで言う土下座だ。立て。お辞儀をするのだ。」
ペティグリューは立ち上がる。そして背筋を伸ばして、腰から上体を折った。視線は足下の少し前方に落としている。その角度は、丁度45度だ。
「良いぞ。素晴らしい。3種類ある内のお辞儀。その中でも、最も丁寧な深いお辞儀をしてくれるとはな。虫けらの様な裏切り者とばかり思ってたが、俺様を楽しませてくれる才能だけは持ってる様だな。」
「は、は、は…………ははー!」ペティグリューがそう返事をした。
「く、狂ってやがる。」
それまでの光景を目の当たりにして、そう呟くグラント。
「さてと。この印を持つ全員が気付いた筈だ。」
ペティグリューの左腕の印を指差すヴォルデモート。
「今こそ。今こそだ。これではっきりするのだ。闇の印……俺様のシンボル……ヘビとドクロ……死の飛翔…………そして、ザ・ニュー俺様。」
「厨二病なのか?お辞儀ハゲは。」グラントが言った。
「戻る勇気のある奴は何人いるかな?そして、離れようとするプランクトン以下の愚者はどれだけいるのかな?共に待とうではないか。エリナ・ポッター。俺様の宿敵。そして憎き小娘よ。そして、リドルの性を持つオマケよ。」
「テメエ!ぶっ殺してやる!!」グラントがオマケ扱いされて怒ってる。
ヴォルデモートは、残忍かつ満足そうな表情を浮かべている。次に、暗い墓場を一回り眺め回した。
「エリナ・ポッター。お前が縛り付けられている墓石。これは、俺様が最も憎んだ存在、即ち俺様の父親の遺骸が横たわっている。」
「……トム・リドル・シニアの!?」
「そう。マグルの愚か者よ。お前の母親と同じだ。最終的には、そのどちらも役に立ったわけだが。片や娘を生き延びさせ、片や息子を蘇らせた。だが、俺様からしてみれば、あのクズへの憎しみと復讐心が消える事は無い。これまでも……今も……そして、これからもだ。永久にな。魔法族の中で最も特別だった母を、使い古したボロクソ雑巾の様に捨て、挙句俺様に同じ名前をよこした。トム・リドル。」
歩き続けているヴォルデモート。
「あれは16歳の夏だったか。俺様は奴と、その一族を憎んでいた。そして探し出した。最後に復讐してやったよ。ククククク……闇に生まれ、闇に生きた俺様の中でも、一筋の光だった。あれこそ気高い行為だ。」
何て事を。グラントも同じ気持ちの様だ。
「自分の…………自分のパパを!」
「正気の沙汰じゃねえ!」
グラントも、ギャングの抗争で人を殺す時はあるかも知れないけど、基本的に命を奪わない様にしているんだ。堅気の人間は、絶対に殺さないって本人が言ってたし、実際そうだったもの。だから、それを平気でやったヴォルデモートに嫌悪感を募らせているんだ。
「当然の報いだ。あのクズは、俺様が生まれる前に母を捨てたのだからな…………俺様が自分の家族の歴史を物語るとは……自分でも不思議に思う位感傷的になったものよ…………だがな、見ろ。エリナ。そしてグラントとやら。紹介しよう。俺様の――真の家族が戻って来たぞ!!」
マントを翻す音がみなぎった。魔法使い達が姿現ししてきたんだ。全員がフードを被り、仮面をしている。
「ありゃあ。クィディッチ・ワールドカップの時にマグルの人達を襲って、その後にハリーとキットさんに瞬殺された奴らじゃねえか!」
確かにグラントの言う通りだった。よく見たらそうだ。ヴォルデモートを囲っているのは10人前後。だけど、ある程度後ろに下がっている魔法使い達の数は、正確な数は分からないけど、少なくとも50人はいた。下手をしたら100人はいるかも。
「よくぞ戻って来た。闇の専属。死を喰らいし者達。
「ご主人様……」
「我が君!」
「マイロード。」
「闇の帝王……!」
呼び方は様々だけど、死喰い人達がざわざわと呟いている。だけど、心の底では怯えている様な感じだった。ヴォルデモートに対してではなく、もっと別の何かに対して。
「14年。14年だ。我々が最後に出会ってからな。だがお前達は、それが昨日の事であったかの様に呼び掛けに応えてくれた。少々数も足りないが、まあ良い……さすれば、我々は未だに『闇の印』の下で結ばれている。そうに違いないだろう?」
ヴォルデモートが、演説をするかの様にここにいる死喰い人全員にそう問いかける。口調は静かだが、その表情は途轍もなく激怒している。それでも、寄り添ってきたヘビを優しく撫でていた。
「罪の臭いがするぞ!ナギ二が今にも暴れそうな程の……罪の臭いを持つ者がな!」
【ご主人タマが、アタイを呼んだわ。誰か食べて良いかしら?】
蛇語が聞こえる。
【ああ。下らん言い訳をほざく奴には、そうなって貰うとしようじゃないか。】
ヘビに対して、死喰い人どころか他の人間には決して見せない優しそうな態度で接し、穏やかな声でそう話すヴォルデモート。グラントにも、その会話の内容は分かっているみたい。
「お前達全員が、無傷で健やかだ。魔力も全く損なわれていない――こんなに素早く現れてくれるとは!なんと心強い!そして頼もしい!俺様には、こんなに素晴らしい手下が100人はいたのか!」
笑いながら、死喰い人達を称賛するヴォルデモート。でも、目は全く笑ってない。もっと言うと、心から称賛なんてしてないんだ。それを察しているのか、何も言えない死喰い人達。
「さて、そこで俺様は自問する……いいや、自問しなくてはならん。お前達は何故、その素晴らしい魔力で俺様を探そうとしなかったのか。14年間も。何故だ!どうして誰一人俺様を助けようとしなかったのだ?」
「うっせえ!テメエの恥ずかしい思考回路に誰も付いていけなくなったんだろうが!」
誰も答えようとはしなかったけど、グラントが言った。
『おい。なんて奴だ。闇の帝王のレッテルなんか、あの小僧には関係無いのか?』
そう思っているのだろうか。死喰い人達は動揺している。
「お客様には黙ってて貰おうか。」
ヴォルデモートがグラントに杖を向ける。その途端、グラントは何も話せなくなった。
「さて、俺様は自答する。奴らは、本当にいなくなったのだと思ったのだろう。ヘビの様にスルリと立ち戻って、俺様の敵に無罪と無知、そして呪縛に支配されたと主張したのだろう……」
段々怒りの表情を見せていくヴォルデモート。
「失望したぞ。お前達にはな。俺様の力を今まで散々見せていたのにも関わらず、再び立ち上がって来れるとは思えなかったのか?既に死の回避の手段を講じていた俺様が。」
ヴォルデモートが周囲を見渡す。死喰い人達はガクブルしている。
「その答えを自答する。恐らく奴らは、こう思ったんだろう。より強大で偉大な力――打ち負かす力が存在したのだとな。だから今頃は、他の奴に忠誠を誓ったのだろう。あの凡人で、古狸の、何を考えてるのかも分からん。傲慢で強欲極まりない腹黒の、マグルの味方。アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアにか?」
ダンブルドアの名前が出て、周囲に動揺の声が走った。ヴォルデモートが、また杖を振るう。すると、端っこにいた死喰い人1人を自分の前に引きずり込んだ。
「我々全員をお許しください!我が君!どうか!どうか!!」
「ほほう。俺様の前に引きずり出された瞬間にひれ伏したか。ジャパニーズ土下座も結構良いものだな。
引きずり出された死喰い人が、磔の呪文を掛けられる。ヴォルデモートは、笑いながら許さざる呪文を使っているんだ。
「ギイヤアアアアアアアアアアアア!!!」
これまで受けた事が無いであろう苦痛を味合わされて、痛烈な悲鳴を上げる死喰い人。
「許す?許すだと?何の成果も上げておらず、その上14年間のツケを払ってないお前を許すとでも思っているのか?もう生きて清算出来るものでもあるまい。【ナギ二。食べて良いぞ】。」
【やったー!ご主人タマだーい好き!じゃ、遠慮無く。いただきまーす。』
最後の蛇語でそう聞こえた。聞き間違い?違う。確かに食べて良いって言った。グラントも青ざめている。
ヘビは死喰い人に巻き付き、締め付け殺した。事切れる死喰い人。そして、ゆっくりと丸のみにされた。他の死喰い人は、この残虐な光景を見て今にも逃げ出したそうな感じだ。
「許さん。そして、決して忘れんぞ。14年分の落とし前を付けさせるまではな。だが、ワームテールは既に借りの一部を返した。そうだな?」
「うぅっ、ぐすっ。ええ、ご主人様。私めは、そうです、忠実なるご主人様の――」
「違うな。忠誠心からではなく、恐怖心や報復を恐れての事だとあれ程言い聞かせた筈だ。その苦痛は当然の報いだ。分かっているな?」
あれが、報い?自分の破滅の原因になったとは言え、腕を切り落とすそれが報い?狂ってるよ。
「だが、俺様の復活を助けたのもまた事実。虫けら以下の、文字通りネズミの様に不愉快極まりない裏切り者だが、それだけは確かだ。不変の真理でもある。俺様を助ける者には、それ相応の褒美を与えようではないか。」
杖を上げて、空中でクルクルと回した。溶けた銀の様なものが一筋、輝きながら宙に浮いている。
「腕の……形をしているの?それにしては、クオリティが無駄に高過ぎるよ。」
「腕フェチなのか?お辞儀ハゲは変態だったのかよぉ。」
そんな感想なんて知らずか、銀色の腕はペティグリューの失われた右腕に装着された。
「ご主人様……素晴らしい……ありがとうございます!おお!自由に動く!うわっ!」
突如、銀色の腕はペティグリューから分離した。ロケットの様に素早い。そして、墓石の1つを完全大破させた。瞬く間に、ペティグリューに再装着された。
「ワームテールよ。お前の忠誠心が2度と揺らがない様にしておく事だ。」
「はい。我が君。もう2度とそんな事は――」
ペティグリューは、輪の中に入った。囲っているのは、幹部級の死喰い人かな?ヴォルデモートは、次にペティグリューの右側にいた人物に話しかけた。
「ルシウス。抜け目の無いわが友よ。お前にもそれを求めるぞ。」
男に囁くヴォルデモート。
「我が君。私は、常に準備しておりました。あなた様からの印が、あなた様に関する情報が少しでも入っていたら私は――」
「馳せ参じるつもりだった、か。世間的には対面を持ちながら、上手くやっていると聞いているぞ。だが、俺様から見れば忘れているようにも見えたが。でもまあ、クィディッチ・ワールドカップでマグル苛めを楽しんでいたから必ずしもそうではないようだ。尤も、小娘の双子の兄と、見知らぬ男に瞬殺されたらしいがな。」
「我が君。小娘はともかく、兄の小僧の方はとんでもない奴です。特に、魔力の質が――」
「分かっている。小娘と違い、小僧の方は俺様でも警戒している。俺様が負ける事は無いにしても、それでもタダでは済まされないだろう。ロイヤル・レインボー財団の会長アラン・ローガーは、俺様が復活して来る事を見越して、海外で小僧を育てていたのだからな。だがな、今は小僧の事はどうだって良い。ルシウス、お前の話に戻すとしよう……小僧の話題を出して、有耶無耶にするのは許さん。」
「……」
「その後に『闇の印』に怯えて逃げ出した。表向きは清廉潔白に見せかける為とは言え、俺様を探そうと思わなかったわけだな。」
「…………」
「これ以上は何も言わん。その意味、お前はもう分かっているだろう?ルシウスよ。」
「はい。我が君。ご慈悲を、ありがとうございます。」
3人分空いている空間を見つめるヴォルデモート。
「レストレンジ3人がここに来る筈だった。」ヴォルデモートが静かに言った。
「ベラ、ロド、ラバは残念ながらアズカバンに葬られている。何処までも忠実な奴らよ。俺様を見捨てるよりは、あの牢獄に囚われる事を選んだのだからな。あそこが開放された暁には、3人は最高の栄誉を受けるだろう。それに、俺様直々に最敬礼と土下座のコンボを行おう。彼ら3人には……愚かな義弟とは違い、それだけの価値がある。」
「我が君が!?」
「最敬礼と土下座!?」
「良いなあ。あの3人。ここのマグル殺して来ようかな?」
死喰い人達がざわついてる。バカみたい。
「ベラとロドには、ケフェウスという1人息子がいた筈だ。順調に成長していれば、その息子は20半ばになるか。彼にも、俺様から栄誉を与えよう。そしてゆくゆくは、死喰い人に勧誘しよう。」
その言葉を聞いて、また死喰い人が騒ぎ始めた。
「ベラに息子!?我が君。どういう事ですか?」
ルシウス・マルフォイがヴォルデモートに聞いた。
「ルシウス。お前は知らないみたいだな。それも当然か。この事実を知っているのは、俺様とレストレンジ達だけだからな。」
ヴォルデモートは、左手を上げて、ざわつきを抑えた。
「生まれてすぐに、そいつは外国へと渡ったのだ。ブルガリアの魔法族の家に置き去りにしてな。ダームストラングに入ってる筈だ。もう卒業しているがな。じっくりと探すとする。その話は後だ。
吸魂鬼。あんなものが、またボクに襲い掛かって来るの?今度は敵として。思わず寒気がした。
「消え去った巨人達も呼び戻そう。各地に散らばった、誰もが震撼する生き物達。忌み嫌われ、迫害され、闇に葬られた者。『正義』の名の下にやられてしまった、忠実なる下僕達の全てを、俺様の下に帰らせよう。」
ボクも、グラントも戦慄した。ヴォルデモートならやりかねない。3年前に言った様に、世界を征服するつもりなんだ。悪夢だ。
その後、クラッブ父とゴイル父、ホワイト夫妻、ワルデン・マクネアに今まで以上に忠実になる様に言った。
「ここには11人の
「城だと!?」グラントが叫んだ。
「そうだ。その者の尽力によって、ようやく招待させる事が出来た。オマケもいるが。俺様の復活を祝ってくれる幸運の持ち主。もう紹介するまでも無いか。生き残った女の子。その名も、エリナ・ポッターだ。」
何か侮辱されている気分だ。グラントも怒ってる。オマケ扱いされている事に関して。
「我が君。教えてください……どのようにしてご復活なされたのかを。」
ルシウス・マルフォイの声が聞こえた。
「良いだろう。話してやる。」
ヴォルデモートは語りだした。ママがボクとハリーを庇って死んだ時に、ボクとハリーに護りの魔法が宿った事を話した。死の呪文を使った時、ヴォルデモート自身に跳ね返ったけど、何かしらの手段で生き延びた。
「その時に、予め何かあった時の為に近くに死喰い人を待機させていたのだが……何故か、全員皆殺しにされていた。それも、魔法を使ったわけでも、ましてマグルに出来る様な芸当ではない。もっと頂上的な何かにより力で殺されていたのだ。不死鳥の騎士団やロイヤル・レインボー財団以外にも、我が組織に敵対する者がいるという事なのだろう。まあ良い。そこの2人を始末したら、ゆっくり考える事にしようか。」
ヴォルデモートがそんな事を言っている。そう言えば、ハリーが何かを使ったって言ったような気がする。何だったっけ?
それは後で考えよう。ママの親族、つまりペチュニア伯母さんの所にいるだけで、その効果が増幅する様にダンブルドアが改良を施した事も知った。今回、その魔法が宿ったボクの血を使った事で、ボクに触れる様になった事もだ。
「お前に触れなかったのは、ついさっきまでの事だ。血を数滴取り込む事で、それを難無く突破出来る!」
ヴォルデモートが、ボクの頬に触ってきた。
「うわああああああああああああ!!!!」
「エリナちゃん!」
「痛いか?エリナ・ポッター。お前のマグルの母親の護りなんぞ、所詮その程度なのだ。」
「ママを!ママを!バカにしないで!」
本当に触れる様になってるなんて。逃げようにも逃げられない…………誰か、助けて……
「お前の血を手に入れる為に、この1年間。散々策を練って来たぞ。」
またヴォルデモートが語りだす。賢者の石での出来事で、クィレル先生は最初まともに触る事も出来なかった。今思えば、ママが最期に残してくれた護りの魔法のお陰だったんだ。その事を、ヴォルデモートは知ったんだ。
望みを捨てかけていた時にペティグリューがやって来た。杖を持って来て。更に、バーサ・ジョーキンズから情報を引きずり出し、三校対抗試合を利用してボクをおびき寄せる計画を立てたと語った。更に、連絡さえ取ればすぐに協力してくれる死喰い人もいると話した。バーサ・ジョーキンズは使い物にならなくなったので、ヘビの餌にされたらしい。
「もう賢者の石は手に入らない。ダンブルドアが。いいや、正確には小娘の双子の兄、ハリー・ポッターによって、粉々に握り潰されたのだからな。だから、目標レベルを低くしたのだ。破滅する前の状態で戻ろうと。それからじっくりと、より不死となる身体を探す術を探せば良いとな。」
そしてヴォルデモートは、またボクの方を向いた。
「ただ14年前との相違点は、たった1つだ。小娘の血を使った事だ。それが俺様に変化を齎す。そして、それこそが全ての間違いを正す。今、ようやく小娘を相応しい姿に出来る。惨めな、あるべき姿に。即ち死に。」
その言葉と同時に、ボクを縛っていた縄が解かれた。足元には、いつの間にかボクの杖が置かれていた。杖を手に取る。何とか切り抜けないと。隙を突いて、優勝杯を手に取ろう。勿論、グラントも一緒に。
*
エックス・ブラックと2体のパンテオン・エースとの戦い。パンテオン・エース達は自由自在に飛び回っている。エックスも箒に乗る。右手に杖を構える。いつでも攻撃が出来る様にする為であった。
「
パンテオン・エースの片割れに呪文をぶつける。少し仰け反った様だが、特にこれと言って異常は無いらしい。
「
攻撃をしていない方に失神呪文をかける。だが、失神する気配が無い。
「少しダメージは受けているみたいだけど、全く倒れる気配が無い……ウワッ!」
パンテオン・エースに触れた瞬間、急に力が抜ける様な感覚に襲われたエックス。それは一瞬だけであるが、危うく箒から落ちそうになったので、強く印象に残った。
「ロイヤル・レインボー財団がスネイプ先生やペティグリューに使ったのと同じ、奇妙な手錠と鎖みたいな効果を持った様な感じだ。」
エックスは魔封石の存在を知らない。去年、聞く機会は幾らでもあった筈なのだが。波乱万丈な出来事ばかり起こって、聞くどころではなかったのだ。
「迂闊には近付けないのか……厄介な技術を持ってるな。PWPEってのは。」
パンテオン・エースの1体が、腕を砲弾が発射出来る様に形態変化させた来た。その腕から、オレンジ色のエネルギー弾を乱射しまくった。
エックスは、ハリーから教わった箒のテクニックを駆使して、エネルギー弾を避け続ける。
「グワッ!」
エネルギー弾の1発が、エックスの左腕に着弾した。当たった箇所から出血している。危うく箒から落ちそうになった。
「1発当たっただけでここまでの……」
崩れ落ちそうになるエックス。パンテオン・エースは縦横無尽に空を駆け巡り、そして気まぐれにエネルギー弾を発射してくる。1回につき、3発であるのだ。しかも、3方向に来る。
魔法を使ってはいるけど、どれも有効打にはならない。それどころか、半減をされている様な感じだ。
「後は、先輩直伝のあの魔法しか出来そうに無いか。」
神の怒り。又の名をデイ・デイーラ。虹色の破壊光線を放つ。最大出力ならば、あれを粉砕出来るかも知れない。
「だけど……」
*
必要の部屋での修業。この日、エックスの修行を付きっきりで見ているハリー。
「
虹色の破壊光線を甲冑に当てるエックス。しかし、周囲の物まで壊してしまう。
「またか!上手くいかない!」声を荒げるエックス。
「う~ん。」何か考え込んでいる様子のハリー。
「エックス。どうやら、調整とかコントロールに難があるみたいだな。」
「それは、分かってはいます。」
「いや。得意不得意があるのは問題無いんだ。もっと別の方法を考えるかい?何なら、俺に発明した肉体強化でも……」
「いいえ!このまま続けて下さい!!」
「……オーケー。この呪文に必要な魔力の消費量は難無くクリアしている。だけど、余計な魔力の分まで消費するから、撃てるとしても精々2発だな。」
「それ以上は?」
「出ない。というか、無理に出そうとすると魔力が本当に枯渇して死ぬよ。それだけは覚えておく事。良い?死んだら元も子もないから。」
*
『ハリー先輩。いつも、あなたには助けられてばかりですよ。僕は。』
エックスは、これまでの3年間を振り返る。ハリー・ポッターとの出会いは偶然だった。組み分けでグリフィンドールとなり、彼の隣になったのだ。話をしてこう思った。姉以外で、目標になる人物が出来たと。
邪魔にならない様に、分からない所を教えて貰った事も多々ある。これで何度救われた事か。それどころか、成績が更に上がった。
秘密の部屋の事件。親友のコリンが、バジリスクの片割れに石にされた。それだけでなく、ジニーまで学生時代の闇の帝王に攫われてしまったのだ。1人では何も出来なかった。無力だった。でも、当時の2年生5人と一緒に戦えた。
去年の事。2人の伯父の事を教えられた。1人は無実の罪で囚われている事を知り、後に救われた。もう1人は、愛すべき者達の為に闇の陣営を命がけで裏切った事も知った。
全て、ハリー・ポッターが主に解決したのだ。友人の仇を取り、伯父を過酷な運命から救ってくれた。もう1人の伯父の悲痛な覚悟を知らせ、その遺志を引き継ごうと思えた。返し切れない程の恩を貰ったのだ。今は、その恩人が苦しんでいる。次は自分が助ける番だ。
「だからこそ。僕は負けられない。ここでお前達なんて倒してやる!!
最高威力の破壊光線をパンテオン・エースの片割れに向けて放つエックス。
エックスは、魔力の調整やコントロールが苦手だった。だから、余分な魔力消費が頻発してしまい、ブラック家の高い魔力が無駄になっているのだ。
だが、言い換えるならば手加減不要な相手に対しては一切抑える事無く魔法を使えるわけだ。なので、この状況での弱点は逆に強みとなっている。
「ぶっ潰れろおおおおおおおお!!!」
光線は、1体のパンテオン・エースに命中した。生物であれば即死だ。何故なら、大きな怪物でも木っ端微塵に出来るのだから。パンテオン・エースの耐久力が高い。だが、全く効いてないわけではない。現に、所々にヒビが入り始めているのだ。
「もっとだ!!!」
エネルギー弾が命中するが、そんな事は関係ない。構わず呪文を放ち続ける。そして…………パンテオン・エースの片割れを完全撃破した。
「次はお前だ!
残っているパンテオン・エースに、またも破壊光線を放つ。だがその前に、エネルギー弾を3発全て受けてしまったのだ。思わず倒れそうになるエックス。今の彼を動かしているのは肉体ではない。精神だけで動いているのだ。
「行っけえええええええええええええ!!!」
限界を超えて、魔法の威力を最大限まで跳ね上げた。杖に負担が生じるが、それは今、どうだって良い。ただひたすら、敵を倒す。それこそ、エックスが自分に課した使命であるのだから。
長い時間を掛けて、パンテオン・エースを撃破した。だが、その代償に彼自身の杖が全壊してしまった。
「……」申し訳ないという表情を浮かべるエックス。
ニンバス2001から降り、次の道を限界が来た身体でゆっくり突き進んでいく。ある程度歩くと、立札が置いてあった。『皆。早く来いよ。俺は先に行ってるぜ。だけど、無理すんなよ。ハリー・ジェームズ・ポッター』と書かれていた。
「先輩。今、そっちに行きます。僕も……応援に…………。そっ……ち……に…………」
エックスは倒れてしまった。壊れた杖を、杖腕である右に大切そうに持ちながら。その顔は、どこか幸せそうであった。