Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章 作:純白の翼
「兄さん。この瓶の中に、昨日、冬にいるのが珍しいコガネムシを見つけたんだ。」
ゼロは、兄であり、呪文学の教師でもあり、レイブンクロー寮監でもあるフォルテ・フィールドに、コガネムシ入りの瓶を引き渡した。
「この時期にコガネムシ?そいつは妙だな。冬眠してるか、幼虫のままだろうに。寮監の先生に相談してみるよ。」
「頼んだよ。」ゼロは、退出しようとした。
「グラントは、卵の謎は解けたのかな?」
「いいや。エリナはもう見つけたってのに、あいつはやろうしないんだよ。」
「ハリーかエリナから聞こうとはしないんだね。」フォルテが苦笑する。
「まあね。いつもウンウン唸ってるよ。じゃ、そろそろ行くよ。勉強会を兼ねた説教をしてくるからさ。」
「程々にな。」
ゼロは、退出した。
「さてと。」フォルテは、瓶の中のコガネムシを見る。
「興味深い実験材料が手に入ったんだ。早速に実験に使ってみようかな。」
凶悪な笑みを浮かべるフォルテ。コガネムシ、もといリータ・スキーターは全身をガクブルさせた。
『何なのコイツ。とんでもないのに捕まったザンス!折角の特ダネを手に入れたのに!こんな事が!フィールド兄弟、末恐ろしい存在ザンス!』
*
「どうしてこんな事に。誰か、誰か助けなさいよおぉっ!!」
ドローレス・アンブリッジは、収監された見知らぬ監獄にて泣き叫ぶ。収監されているのは、彼女だけではなかった。魔法族もマグルも関係ない。各国、人種、老若男女。そんなものは問わず、拉致されて収監されていたのだ。
今までの事を思い出すドローレス。自分の提案した『反人狼法』は、法案が通りかける寸前まで来ていた。だが、それはすぐに白紙となった。ハリー・ポッターが、新しい脱狼薬を複数種製作し、人狼が差別されない様にしたのだ。半人間が気に入らないドローレスからしてみれば、その障壁を取り除いたハリー・ポッターの存在が憎たらしかった。
そのハリーが齎したのは、それだけではなかったのだ。法案が通れば、確固たる地位が築かれる筈だった彼女の栄光。それが脆く、儚い形で崩れ去ってしまったのだ。ファッジから、人狼を迫害する理由も無くなったから、『反人狼法』の存在は邪魔以外の何物でもないと言われ、却下された。責任は、自分が全て取らされたのだ。
しかも、左遷された後の所属は、よりにもよってケンタウルス担当室であるのだ。あの汚らわしき半獣を自分が管理及び担当するなんて、屈辱でしかない。ますます、ハリー・ポッターが憎くて憎くて堪らなかった。
しかも、かつての同僚からは嫌味を言われ、父の事も掘り返される始末。
「あの小僧が憎い。私のキャリアを粉々に砕いた、あの小僧が。」
いつか復讐してやる。そう思っていた。そして、ホグワーツで第一の課題が行われていた日の事だ。その日も、帰宅時間となり、家に帰ろうとした。尤も、ケンタウルス担当室は暇であるのだが。
突然、後ろから強い力で頭に衝撃を受けた。何が起こったのか分からなかった。次に目を覚ました時には、この監獄にいた。杖も取り上げられており、脱出は出来なかった。自分が見下している筈のマグルと同じ状態にされるなんて。悔しくて悔しくて堪らなかった。
何故か、低い役職の父、マグルの母、スクイブの弟の事を思い出した。自分のコンプレックスの象徴なのに。どうして今になって?
「ここから出して……誰か助けて……」
ドローレスは、泣きながら助けを求めているのだった。そう。今でも。
*
グリンゴッツに、黒いロングコートを着た男2人がやって来た。
「俺の杖を見せる。そして、鍵もある。我が実家の金庫を開けて欲しい。」
男の1人は、すぐさま受付の小鬼にそう言ったのだ。
「で、ですがあそこは?」
「俺の親族は、皆アズカバンだ。問題は無い筈だぞ。そして俺にも、その権利はあるのだからな。」
躊躇する小鬼に対して、少々強気な口調で言いくるめる男。
「相変わらず、あなたも容赦の無いお人ですね。ゲブラーさん。」
もう1人の、沈黙を貫いていた男が、ゲブラーにそう言い放ったのだ。
「ちょっとばかり、手助けをしようかと思ってな。」ゲブラーが静かに返す。
「鳴子の準備を!」小鬼が叫ぶ。
「では行くか。ティファレト。」もう1人の男にそう言ったゲブラー。
「ええ。そうしましょう。目的地までね。しばしの旅を、楽しもうではありませんか。」
ゲブラーとティファレトは、小鬼に連れられて、グリンゴッツの奥に進んでいった。
*
「リドル。まだ謎は解けないのか。」
ドラコがグラントにそう言った。
「開けたら開けたでよぉ、金切り声が聞こえてくるんだぜ。どうしろって言うんだよぉ?」
「グラント。簡単な事ですよ。エリナか、彼女のサポートに回ってるハリーから聞いてみるというのはどうでしょうか?ハリーから聞いたのですが、もう謎は解けたとおっしゃっていましたわ。」
イドゥンがグラントに、そう提案した。
「う~ん。でもよぉ、ハリーとエリナちゃんに迷惑掛かるんじゃねえか?」
「フィールドを巻き込んでる時点で今更だろう。リドル。とにかく、最初の魔法生物飼育学で聞いた方が良い。お前になら教えてくれるだろうからね。」
「フォイ。お前、いつからそんなに気が利く様になったんだ?」
「1年前から色々あったからな。」
「とにかく2人共。」イドゥンが話に割り込む。
「そろそろ宿題に取り組むべきですよ。ゼロやハリーは早々に終わらせているようです。グラントやエリナのアシストに力を入れる為に。この私も、とっくに宿題は終わらせていますけどね。」
「そうだ。この1週間、宿題を無視してたのは僕らしくなかった。リドル。さっさとやるぞ!」
「おうともよ!」
イドゥンからの解説も聞きながら、何とか宿題に取り掛かり始めるドラコとグラントであった。宿題が終わったのは、新学期の前日である。
*
セブルス・スネイプ。簡易式の憂いの篩いに、自らのソレを流し込んだ。そして、その中に入った。
最初は、コンパートメントだ。姉に拒絶されてしまい、泣いているリリーを慰めている場面だ。その時に、コンコンとノックが聞こえたのだ。
『そこ、空いてるかな?他に席が無くてね。』
茶髪の少年が、ねっとりした髪の少年と赤毛の美少女の総話しかけた。
『まあ、僕は別に。リリーは?』
『構わないわよ。』何とか気持ちを落ち着かせたリリー。
『僕の名前はトーマス。トーマス・グリーングラスさ。言っておくけど、僕の家では、いわゆるノブレス・オブリージュがルールになっていてね。純血主義じゃないから安心してね。』
トーマスが、先にいた2人にそう言った。
『僕の名前は、セブルス・スネイプ。こっちの娘は、リリーだ。』
少年スネイプ、もといセブルスがトーマスに自分とリリーの紹介をした。
『リリー・エバンズよ。宜しくね、トーマス。』
リリーとトーマスは握手した。
『君達、どこに行こうと思ってるんだい?」トーマスが聞いた。
『僕は、スリザリンに行きたい。』セブルスが即答した。
『スリザリン?』思わず質問したリリー。
突然ドアが乱暴に開かれた。
『おいおい、スリザリンだって!あんなクズの集まりに行く位なら、僕は寧ろ退学するよ。』
チヤホヤされて、人を全開で煽ってくる様な声が聞こえてきた。その声の主は、クシャクシャした髪に、ハシバミ色の目をしていた。メガネをしている。
『スリザリンなんかに誰が入るか!そうだろ?』
一緒に入って来た、隣の少年に話しかけるメガネの少年。
『勝手に割り込まないで欲しいな。』トーマスが静かに言った。
『悪いね。そこは謝るよ。でも僕達2人もさ。寮の話で盛り上がってたんだよね。話が弾むかと思ってさ。そんで、スリザリンの話になるってわけだ。あそこに行く奴は、全員まともじゃない。そうだろう?シリウス。』
『俺の一族は全員スリザリンだった。一部を除いて、狂人揃いだったよ。』
『へえ。僕はてっきり……とにかく驚いたよ。』
『俺がその伝統を変える事になるだろうさ。なんたって俺は、あの連中の中で数少ない、まともだからね。』
『そりゃそうさ!僕の親友になれたくらいだもんな!』
メガネの少年が言った。トーマスが口を開く。
『そういう君は、選べるんだったらどこに行く気かな?』
成るべく、乱入して来た2人を刺激しない様にしつつも、トーマスは嫌悪感を露わにしていた。
『そうだなぁ。父さんと同じ、グリフィンドールだな!後はメイナード。僕の兄さんなんだけど、レイブンクローも悪くないな!』
プッと笑い声がした。セブルスだ。
『なんか文句ある?』嘲るような口調で、スネイプを問いただすメガネの少年。
『君は頭脳派よりも、肉体派だと思ってね。レイブンクローは間違い無く似合わないけど、グリフィンドールは案外似合ってるかもと――』
『それだったら君は、どこになるかな?肉体派でもないようだし、陰気そうな見た目だし、性格も悪そうだし、見るからに頭脳派でもなさそうだし。どこにも行く価値が無いんじゃないのか?』
シリウスが、すかさずセブルスにそう言った。プルプルと震えるセブルス。
『っぷ。ハハハハハハハハハ!!良いぞ、シリウス!今のは最k……グヘッ!』
メガネの少年の頭が掴まれた。シリウスも然りだ。それをやっていたのは、メガネの少年によく似た人物。彼を大きくしたような外見だ。だが、その雰囲気は余りにも違う。リリーも、トーマスも、セブルスもそう感じ取ったのだ。
その人物はメガネを掛けてない。髪型も整えている。目も、全てを見通すように赤い。語るもの全て、何もかもが違うのだ。
『ジェームズ。シリウス。まだ帰って来ないと思ったら、こんな所で油を売ってたのか。』
『め、メイナード!?」ジェームズが驚愕する。シリウスも同じくだ。
『君達。俺の愚弟と、その親友が迷惑を掛けたね。申し訳ない。』
メイナードは、トーマスとセブルス、リリーに頭を下げた。年上の人間からの謝罪、これは流石の3人も慌てふためいた。
『い、いえ。こっちこそ。』トーマスが返した。
『良いんですよ。』リリーも続けて言った。
『そうか。ありがとうね。俺の名はメイナード。メイナード・ポッターだ。こっちの俺に似てるのが、弟のジェームズ、隣がシリウス・ブラックだ。』
メイナードが、穏やかな笑みで3人に挨拶した。目は、赤からハシバミ色になっている。また、ジェームズもシリウスも頭を下げさせられている。3人も、自己紹介した。
『リリーにトーマス、セブルスか。良い名前だね。それじゃ、そろそろ行くよ。俺の所属はレイブンクローでね。そこで会えるのを楽しみにしてるよ。」
メイナードは、ジェームズとシリウスを連れて出て行った。笑顔で、2人の片方の耳を引っ張りながら。
『……雰囲気が余りに違い過ぎる。』セブルスがボソッと言った。
『色んな意味でインパクトのある人だったわね。』リリーが感想を述べた。
『あの人の居る寮が良いなぁ。』トーマスが、目を輝かせながら言った。
「ここまでにするか。」スネイプは、現実世界へと戻って行った。
ホグワーツに入学した日。様々な体験をした。エックスの後見人を任される程の親友となったトーマス、生涯の想い人のリリー、憎きジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック。ジェームズ・ポッターの兄でありながら、不思議と憎めなかったメイナード。
だが、その殆どは故人となってしまった。自分が引き起こしたケースだって存在する。だが、その過去を否定したり、消し去る事は出来ない。永遠に。
そして、今。その子供達は、ちゃんと友情を育んでいる。寮の隔たり等関係無しに。もしかしたら、自分達の世代とは違う結果を齎してくれるだろう。そう思えてならないのだ。
「ならば、その結果になる様に、我輩が手助けするだけだ。」
そう心に誓ったスネイプであった。
*
「
休暇最終日。眩い光が、エリナも全身を包んだ。細胞分身を使った無茶な特訓を採用してるとはいえ、泡頭呪文、防暑・防寒呪文、圧力軽減呪文は既に修得済みだ。やはり、攻撃よりも補助魔法の方が適性あるな。攻撃呪文も適性も決して低くないけどな。
「やった!出来たよ!」
「よーし。持続時間は、最大12時間になる。後は、じっくりと伸ばしていけばいい。」
「オーケー。で、今まで水中に適応出来る手段を散々やって来たわけだけど、肝心の水中を早く動く方法って具体的に何をすれば良いの?」
とうとう核心を突いて来たか。
「それについてはな。変身術で対応すれば良いんじゃないかと思ってね。」
「変身術?」
「そう。水中に棲む生物になればさ。その4つの魔法の効果も、更に向上するんじゃないか。」
「確かに聞こえは良いけど、お魚になるのはなぁ。ちょっと気が引けるよ。」
魚にはなりたくないエリナ。
「別に。何も魚になれって俺は言ってないぞ。あくまで、水中に棲む生物と言ったんだ。エリナが変身すべきは、これだ。」
俺が1冊の本を取り出し、とある見開き1ページを開いた。それをエリナに見せる。
「え?もしかして、人魚になれって言いたいの?」
「ご名答。アッと言わせるような攻略法を審査員に見せ付ければいい。」
「或いは魅せるって事?」エリナが返した。
「気乗りしないか?もっと別の手段を考えてあるが。」
「ううん。気乗りしないわけじゃないんだよ。確かに、1度でも良いから人魚になってみたいなとは思ったけどね。でもまさか、本当にやるなんて想像しなかったよ。願望を、この課題で実現する事になるなんてね。ハリー。お願い。手伝って。」
エリナが頼んできた。最初から、協力を惜しむ理由が俺にはないからな。幾らでも手伝うさ。それに、ヴォルデモートに殺される事は無くなるとは言え、危険な所に行かせようとする俺の、せめてもの出来る贖罪でもあるんだからな。
「当たり前だ。協力を拒否する理由なんてあるわけないだろ?第一の課題の時から、二人三脚でやって来たんだ。協力は惜しまないよ。じゃあ、明日以降から早速水中でのトレーニングをやってくぞ。水着も、明日には届く筈だからな。」
「ロイヤル・レインボー財団が、夏休みに用意してくれた水着だよね。」
「そう。泳ぎの練習にも慣れておく。あと1ヶ月半なんだ。油断せずに行こう。」
こうして、休暇中に下準備は終えた。次は、人魚化する為の変身術、泳ぎの訓練だ。