Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章   作:純白の翼

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第16話 ドビーとの再会

1994年11月27日。金曜日。俺は今、空き教室にいる。午前中で授業は終わり、自由時間なのだ。

 

「そろそろ来る筈なんだが。」

 

時計を見る。2時になるだろうか。第一の課題が終わった後、始まる前とは打って変わってエリナとグラントに好意的になっているホグワーツの連中。本当に掌返しが好きな奴等だ、と心の中で毒を吐いてやったよ。

 

そう思っていると扉が開いた。エリナ、そしてマリアがやって来たのだ。エリナは、金の卵を持っている。クワノールが不思議そうに見つめていた。

 

「ハリー。先日はありがとう。」

 

「まだそれを言う気か?ちゃんとアクションを取ったのはお前だろう?俺は、それをただ後押ししただけ。礼には及ばない。それよりも、次の課題に取り組んだ方が良いんじゃないのか?」

 

「そ、そうなんだけど……」それでも、エリナはどこか浮かれていた。

 

「お姉ちゃん。少しずつでも良いから取り組んだ方が良いと思う。」

 

マリアも、普段見せない優しい感情を見せながらエリナを諭した。

 

「この卵がヒントだって言うけど、開けると金切り声が聞こえるんだ。」

 

金の卵を見せるエリナ。一見何の変哲もない作られたものだ。

 

「1度ハッフルパフの談話室で開けてみたんだよ。開けると綺麗さっぱりの空っぽ。その代わり、世にも恐ろしい大きなキーキー声の噎び泣きみたいな音が部屋中に響き渡ったんだ。」

 

「それで、相談か。マリア、君はどうした?」

 

「魔法薬学の課題が出たからアドバイスを貰おうと思って……」

 

「そうか。学校生活はどう?」

 

「悪くない。でも、1人でいたいのに皆話しかけてくる。しつこい。」

 

「まあ、この学校の奴らって結構自己中なのが多いからな。寮監のフィールド先生に掛け合ってみようか?俺、あの先生には結構世話になってるし。」

 

「ありがとう。」

 

マリアが微笑んだ。俺としては、もう少し人に慣れて欲しいがな。だけどなぁ、無理強いさせると、かえって逆効果だろうし。難しいぜ、全く。

 

マリアの秘密を知ってるのは、この学校では俺だけだ。エリナにはショッキングな内容なので話してない。ダンブルドアのジジイや魔法省にも教えてない。彼女のイヤリングに強大なプロテクトを掛けておいたので、バレる心配はない。

 

マリア・テイラー。アメリカ出身。7歳の時にリチャード・シモンズに誘拐され、人魚の特性を持つDNA改造人間と化した。何故か、改造手術後の副作用が起こらなかった唯一の少女でもある。3年後に必死に逃げ切り、日本でロイヤル・レインボー財団に保護された。出会った時よりは随分と明るくなった。だけど、未だ人間に対しての恐怖心と不信感が勝っている状態なのだ。

 

「オーケー。と、その前にだ。耳塞ぎ(マフリアート)。」

 

会話を聞こえなくした。

 

「エリナ。卵を開けてくれ。周囲に被害は出ないから。」

 

「良いよ。」

 

エリナが卵を開けた。すると、キーキー声が空き教室に響き渡った。思わず、耳を塞いだ。エリナも然りだ。クワノールは、もっと苦しそうにしている。だが、マリアは何故か平気そうにしていた。

 

「もう無理!」エリナが卵を閉じた。

 

「バンシー妖怪の声みたいだったぜ。にしても、マリアが平気そうな顔をしているけど。」

 

「ばんしーばんしー。」クワノールが連呼している。

 

「途中で閉じちゃったんだ。聞こえてたのに。」

 

「何て言ってたんだ?」

 

「『探しにおいで、声を頼りに。地上じゃ歌は歌えない。探しながらも考えよう。我らが捕らえし大切な物。探す時間は……』ここで止まったの。」

 

「成る程。このキーキー声。れっきとした言葉だったってわけだ。しかも、地上ではまともな言葉にすらならない。あれ?どこかでそんな文献があったような……」

 

確か、何処かで読んだ筈なんだが。う~ん。人魚の特性を持ってるマリアが問題無く聞こえたって事に意味があるのだろう。人魚って、普通水に棲む種族だ。ヒトたる種族として認知されている。このキーキー声。もしかして、水の中で聞けって事か?

 

「試しに、水の中で聞いてみろよ。風呂の中なら大丈夫だろう?」

 

「うん。分かったよ。試してみる。」

 

「それじゃあ、マリア。課題を見て見ようか。」

 

「お願い。」

 

課題の内容は忘れ薬の事だった。これに関しては、かなり詳しい説明をした。そう、この薬はスネイプが好んで試験問題として出してくるからだ。マリア。流石レイブンクローに入っただけあって、知識の吸収と呑み込みが早い。俺の言った事を、あっさりとモノにしちゃったよ。

 

3時間後、空き教室を後にする。マリアとは、ここで別れた。早速課題に取り組んでいきたいと言い出したのだ。本当なら、厨房の場所を教えるつもりだったんだがな。

 

「マリアちゃん、行っちゃったね。」

 

「心を開いてるのは、俺に、エリナ。そして、何故かスピカとリブラ・マルフォイだけなんだよな。」

 

「スピカちゃんは、3年生までのドラコよりも第一印象は良いんだ。でも、どうしてハッフルパフなんだろう?リブラ君も、分からない所はゼロとシエルに聞いているみたいだし。」

 

「断言は出来ないけどな。恐らく、トンクスの母親の因子が強く働いたからじゃないかな?あの人はスリザリンでありつつも、純血主義を嫌ってたって、トンクス本人が言ってたし。」

 

「そう言えば、トンクスのママと、スピカちゃんとリブラ君のママは姉妹だったんだよね。絶縁してるけど。」

 

「そこにベラトリックスも入るけどな。黒姉妹って所か。3人共、シリウスとレギュラス、それにイドゥンにエックスの母親の従姉達だし。」

 

そう言いながら、果物が盛ってある器の絵まで辿り着いた。

 

「屋敷しもべ妖精さんからお菓子を貰うんだ。」梨をくすぐるエリナ。

 

隠し戸が出現。中に入った。そこで、沢山の屋敷しもべ妖精から歓迎を受けた。

 

「おい皆!ハリー様とエリナ様のお二方が見えたぞ!」

 

1人の妖精がキーキー声で周囲に呼びかける。

 

「ポッター兄妹がお見えだ!何かを渡すんだ!!」

 

5分後、俺とエリナの前に大量のお菓子と紅茶のセット、その他諸々の山が出来た。

 

「いつもありがとう、妖精さん。」エリナが言った。

 

「忙しいのに、邪魔しちゃってごめんよ。」

 

「いえいえ、とんでもございません!私達にはもったいない言葉でございます!」

 

折角なので、2人で平等に分け、魔法のバッグに仕舞った。そして、帰ろうとする。

 

「ハリー・ポッター様!エリナ・ポッター様!お久しぶりでございます。」

 

ある屋敷しもべ妖精が俺達の所に来た。

 

「ああ!た、確か!」

 

「ドビー!?」エリナが絶句した。

 

「はい!ドビーでございます!」

 

聞き覚えのあるキーキー声が聞こえた。

 

「ドビーめはあなた方に会いたくて、会いたくて。そうしましたら、あなた方の方からドビーめに会いに来てくれました!」

 

ドビーは俺達から少し離れた。そうしてエリナ、俺の順番に見上げ、ニッコリした。

 

「再就職先がここで決まって良かったな。」

 

「ありがとうございます。ハリー・ポッター。」

 

「何かこう、見た目が派手になったというか、何というか。ティーポッド・カバーの帽子って言ったら良いのかな?」

 

エリナは、今のドビーの容姿を分析している。

 

「はい!生徒の皆様が処分なさった物を、ドビーめがいただいているのでございます。そして、靴下が好きでございます。」

 

「エリナが吐いてた靴下か。もう1つは、ピンクとオレンジの縞模様。」

 

「今度、着られなくなった服を持ってくるよ。上半身ネクタイじゃ寒いだろうからね。」

 

「!ああ、エリナ・ポッター様。あなた様はなんとお優しい方なのでしょう!」

 

「そうだ、どうしてホグワーツに?」

 

ドビーは語る。エリナのお陰で自由にして貰った後、仕事を探していたと。イギリス中を旅していたようだ。各地での話もついでに聞いた。仕事が見つからなかった理由は、給料が欲しいからという理由で雇って貰えなかったそうだ。

 

「何か、周りの屋敷しもべ妖精達の視線が痛いんだが。まるでドビーを、未知のウイルスに感染した病人の様に見てるよ。」

 

「お仕事は、中々見つかりませんでした。しかし1週間前の事です。ウィンキーと共に、働き始めたのでございます!しかし、バタービールを飲んでばかりで全く仕事をしません。」

 

「そんなにアルコール度数は無かったはずだが?」

 

「いいえ。ハリー・ポッター様。人間は酔いませんが、屋敷しもべ妖精にはきついのでございます。」

 

「へえ。」

 

「お仕事の話に戻るのですが、ダンブルドア校長の所に行きました。あの方は、ドビーが望むなら支払おうと言ってくれたのでございます。」

 

あの爺さんも粋な所があるじゃん。

 

「給料の内訳は?」

 

「1週間に1ガリオンと、1ヶ月に1日のお休みでございます。」

 

「少な過ぎだよ。」即座に返した。

 

「うん。」エリナも同意見だ。

 

「校長先生はドビーめに、週払いで10ガリオン、週末を休日にするとおっしゃいました。」

 

だがドビーは、そこまでの暇やお金が出来たら恐ろしいとでもいう様に、ブルッと震えた。

 

「でも、ドビーめは値切ったのです。ハリー・ポッター様……。ドビーは、確かに自由が好きでございます。しかしそれ以上に、働く方が好きなのでございます。なので、そこまで欲しくないのです。」

 

「ウィンキーはどれ位貰ってるんだろう?」エリナが疑問を口に出した。

 

「多分貰ってないんじゃないか?あれだけクラウチが好きだったし。俺、個人の主義主張には口出ししないタイプだからさ。ただ、1つだけ分かった事がある。」

 

俺は、改まった表情でエリナとドビーだけに分かる様に言った。

 

「わ、分かった事?」

 

「それは何でございましょうか?」

 

「知れた事。屋敷しもべ妖精解放前線、いわゆる『反吐』に、特にハー子にここの存在を知られちゃいけないって事だ。」

 

高らかに宣言した。エリナ、何とも言えない表情になる。

 

「う、うん。ハーミーが知ったら、ここの妖精さんに何かとんでもない事が起きそうだよ。今の現状を何とかしたいってのは大いに賛成だけどさ。ハーミーのやり方は、ちゃんと救う対象を知ろうとしないで、ただ単に解放してあげるって言ってるようなものだもん。かえって逆効果だよ。」

 

「だな。人間的に言えば、とある宗教を信仰してる人間に、『その宗教の教えは邪道だ。だから、私の信仰する宗教に変えなさい』って言う独善的な改宗を無理やり迫ってる様なもんだ。だから俺は、あいつのその部分はダメだと思ってる。ドビーが特殊過ぎるだけだがな。」

 

まあ、何かのアクションを起こすってのは悪くない事だがな。と、心の中で付け足しておいた。

 

「そう言えばドビー。」

 

「何でしょう。エリナ・ポッター。」

 

「今ホグワーツにいるって事は、校長先生がご主人様って事だよね?」

 

「そうでございます!」

 

「という事はだ。以前は言えなかったフォイ家の暗部についても、好き放題言えるってわけだ。」

 

取り敢えずの確認という意味で、ドビーに聞いてみた。

 

「そうだと思います。今仕えているご主人様の事で、言いたい事が言えません。それが、屋敷しもべ妖精制度の一部でございます。私共は、ご主人様の秘密を守る為に沈黙するのでございます――でも、ダンブルドア先生はドビーめに、そんな事にこだわらないとおっしゃいました。」

 

ドビーが急にそわそわし始めた。もっと俺達に近くに来るように合図した。身をかがめて、ドビーが囁いてくれた。

 

「ダンブルドア校長先生は、私共に――その――ダンブルドア様は、私共がそう呼びたければ――老いぼれ偏屈ジジイと呼んでも構わないとおっしゃいました。」

 

流石に、それはここの妖精達、呼びたくは無いだろうなぁ。

 

「ですが、ドビーはそんな事はしたくないでございます。ドビーは、校長先生を尊敬しております。校長先生の為に、秘密を守るのでございます!そして……」

 

「そして?」エリナが言った。

 

「ドビーの昔のご主人様は、悪い闇の魔法使いだったでございます!例外はスピカ様とコーヴァス様の双子だけ!あの家を去る事になって、ドビーめの唯一の心残りはあのお二方がちゃんと幸せにやっているかどうかでございます。去年のクリスマスの事もありましたし。」

 

ドビーは、自分の大胆さに恐れながらも、本当にスピカとコーヴァスの事だけは心配そうにしていた。

 

「平気だ。ちゃんと生きてる。今年、入学してきたぜ。スピカはエリナと同じ、ハッフルパフに組み分けされた。コーヴァスはレイブンクローだけどな。君の、元ご主人の奥様の姉の1人の性質が、彼らに反映された結果だって俺は思ってる。」

 

「今度連れて来るよ。」

 

「エリナ・ポッター様!ありがとうございます!勝手に出て行った事を謝らなければ。前に元旦那様から罰を受けた後に、治療をしていただいた事もあります。その時のお礼もしなければなりません!」

 

「よっぽど、スピカちゃんとコーヴァス君の事は大切な存在だったんだね。」

 

エリナがしみじみとドビーを見つめる。

 

「ドビー。君から見て、スピカとリブラってどんな奴だった?」

 

「はい、ハリー・ポッター様。お教えします。お2人共、大変お優しい方々でございます。他の方と違って、屋敷しもべ妖精を卑しい存在だと認識せず、残酷にも扱わず、それどころかご家族と同じ位に丁重に扱っていました。スピカ様とコーヴァス様だけは、闇に行かずに幸せな人生を全うしていただきたいのです。」

 

「俺、あの2人はブラック家で言う所のシリウスみたいな奴かと思ったよ。でも、屋敷しもべ妖精にも愛情をもって接する姿勢は、レギュラスみたいだと思った。」

 

「言われてみると、確かにそうとも言えるね。ハリー。」

 

エリナも、的を射ているといった感じに表情になった。

 

「とにかくだ。そろそろ夕食を食べに行くよ。また時間があったら来るよ。ドビー。」

 

「ウィンキーにも宜しくって言っといて。」

 

「はい!ハリー・ポッター様。エリナ・ポッター様。」

 

「それじゃあ、屋敷しもべ妖精の皆、今日はどうもありがとう!夕食、楽しみにしてるよ。」

 

俺達は、厨房を後にした。後日、エリナはスピカとリブラを連れてきたようだ。2人とドビーは、出会った瞬間に再会を喜び合ったという。

 

ドビーが今までのお礼と勝手に出て行ったことに対する謝罪をしたそうだが、スピカは大して気にしてなかったようだ。コーヴァスは、幸せそうで何よりだし、いつでも会えるから大丈夫と言ったそうだ。

 

エリナ曰く、スピカはドビーに対して、今度は主従関係ではなく、対等な関係として交流を続けていこうと言ったらしい。コーヴァスもそれに頷いた。ドビーも、それに了承したとの事だ。

 


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