Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章 作:純白の翼
「ダメだよ!殺しちゃダメ!」
「どういうつもりだ。俺は、全ての真実を知った時から復讐者として、今まで自らの力を蓄えて来たんだ。もう自分に平穏など訪れないというのを覚悟の上でな。それをお前は邪魔するっていうのか?このゲロ以下の臭いしかしないゴミクズ野郎のせいで、父様と母様が死んだんだ。俺達があの時死んでいたとしても、それを平然と見ていた筈だ。所詮そういう奴なんだよ。」
「分かってる。分かってるよ。でも殺して終わりなんて間違ってるよ!」
「その甘さが命取りになるのさ。仮にお前が助けたとしても、こいつは決して感謝なんてしない。」
「…………」エリナは黙って聞いている。
「それどころか、恩を仇で返す。いくらバカと言われてるお前でも、それくらい分かり切ってる事だろうが!!」
だが俺も譲らない。俺がこの日をどれだけ待ち侘びた事か。そう言った事情を知らないから、俺のやろうとする事を邪魔するんだ。どれだけ必死に闇の陣営を憎んで、奴等をこの世から1人残らず消す為に死に物狂いで魔法も、座学も、剣術も、射撃も、身体能力も、ありとあらゆる力を身に付けたってのに。
「それじゃエリナ。お前はこう言いたいわけだ。コイツをのうのうと生かして、この俺には泣き寝入りしろと。そうだろ?」
「生かしておくって言うのは本当だよ。でも泣き寝入りしろなんて言ってない!ボクもこの人は許せないけど!」
「うるさい!どいつもこいつも、俺のやる事なす事否定しやがって!何で俺が闇の陣営に寝返った裏切り者で、両親の仇であるコイツを殺す事に異議を唱える!?お前らが綺麗事をほざいて敵を無駄に生かそうとするから、そいつらはつけ上がって来るんだろうが!!だから俺が代わりに殺してやるよって言っているようなものなのに!!」
これまでの鬱憤を晴らしてやる。俺とお前等じゃ、思考回路が根本的に違うんだよ。ロイヤル・レインボー財団関係者を除けば、ダンブルドアに骨の髄まで駒にされている連中の言葉なんか聞きたくもない!!!
皆、俺の本音を聞いて絶句している。キット達4人は除いてだが。周囲の反応に、俺は大変満足した。思わず笑みがこぼれる。俺とこいつ等の生きる世界なんて全く違う事がな。それに、言いたい事も言えたからスッキリしたぜ。
「ハリー。何故笑っているのですか?」イドゥンが聞いて来た。
「何も失った事が無い奴等に、俺の考えを理解して貰おうとは到底思ってはいないさ。理解出来ないからと恐れ、恐れるから排除する。所詮、人間の本性なんてこんなもんだってのが改めて分かったんだ。今、この俺を殺しさえすれば全て終わるんだ。止めるのをやれば良いじゃないか。」
俺を殺す様に言ってみる。どうせ奴等からしてみれば、俺の思想なんて悪そのものだろうからな。小を殺し、大を生かそうとしてきた、あのダンブルドアのクソジジイに忠実な連中ならやるだろうからな。
だが、俺の前に出たのはエックスだった。杖をイドゥンに渡し、エリナの隣に来た。
「初めて先輩の心が見えましたよ。そんな事を思ってたなんて。」
「同情して貰おうなんて思っちゃいないさ。元から理解なんて出来る筈も無いのだからな。俺を理解出来るのは、俺自身をおいて他にいないのだから。否定の言葉なら幾らでも聞いてやるよ。すぐに記憶の底に忘却してやるさ。」
エックスに吐き捨てる様に言った。ついでに睨み付けた。これに関しては、本当に譲れないからな。
「いいえ。否定はしませんよ、先輩。もしかしたら…………僕はあなたの様になっていたかも知れないですからね。」
「!?」何だと?一体エックスは何を言ってるんだ。
「エックス。」イドゥンが心配そうにエックスを見つめる。
「姉ちゃん。話して良い?」
「どうぞ。」イドゥンが覚悟を決めた様に呟いた。
「先輩。僕等の両親の話をします。父さんと母さんは共に魔法史関係の学者でした。11年前の事です。ブラック家に魔法省から派遣された闇払いがやってきました。司法取引でアズカバンを逃れた死喰い人の告発によって、ブラック家はヴォルデモートに加担したと疑われたんです。」
「……」恐らくレギュラスの事が、曖昧な形で伝わったのだろうな。
「父は闇の陣営の生き残りがやってきたと勘違いして戦いました。案の定、闇払いに勝てる筈も無く、父は無抵抗に殺されたのです。その日の仕事があって、夜に帰ってきた母は大変嘆き悲しみました。祖母に僕達姉弟を託した後に行方を眩ませたのです。今も見つかっていません。」
闇払いに殺された、だと?余りのショッキングな内容に俺は言葉が出なかった。俺の両親は悪と呼ばれたものに殺されたが、イドゥンとエックスの父親は正義の名の下に殺されたというのか?
「その闇払いは何の処罰も受けておりません。直属の上司であるアラスター・ムーディが責任を取って引退した位です。悔しかったです。何の処罰も受けていない奴を!そいつをけしかけた魔法省の役人も!保身の為に、何の罪も犯していない父を殺すように仕組んだ死喰い人も!」
「あの頃の私達は本当に弱かったのです。」イドゥンも話に割り込む。
「現実は余りにも非情なものなのですよ、ハリー。何も知らず、何も力が無かった。祖母のあの言葉を聞くまでは、本当に今のあなたと一緒でした。今のあなたを見ると、胸の辺りが痛く感じて、とても他人事とは思えないのです。」
イドゥンが感傷に浸る様に言った。エックスに視線を移して、続きを言う様に促した。
「祖母ちゃんは息を引き取る直前に僕と姉ちゃんにこう言いました。母さんが消息を絶つ直前の伝言を。父さんが母さんに死の間際に言った言葉を。『どこの誰であれ、自分の為に怒らないで欲しい。怒りや憎しみに心を支配されないでくれ』と。だから、もう憎んでいません。」
親を殺した奴を憎んでいないだと?たとえ遺言だとしてもそれを受け入れるのは、不可能に近いぞ。それが出来たのは、2人で支え合って来たからなのか。そして、クリーチャーの存在も大きいんだろうな。だから、俺と違って決着を付けられたのか。
だが、それはトーマス・ブラックだからそう言ったのであって、俺の父様と母様は違う答えを出している可能性も捨て切れないんだ。あの2人が死んだ今、その真意を知る事など出来ない。それが出来そうな蘇りの石は、ロイヤル・レインボー財団本部に預けているままだ。そして、エリナとの約束で全てが片付くまで使わないと誓ったんだ。
「俺も、話があるんだが良いか?」今度はゼロだ。
「ゼロ。」エリナは、ゼロの左腕をギュッと掴む。
「俺の父アルバート・フィールドは、生まれる前の俺と母を生かす為に、数えきれない位の死喰い人と3日3晩休みなく戦い、全員を道連れにして立ったまま死んだ。」
「アルバート・フィールド?まさか……漠神アルバートか?俺が卒業してから1年後に、子供がホグワーツに入学したとは聞いていたが…………」
「シリウス。それは、フォルテの方。あの子は、フォルテの母親違いの弟ゼロ。」
シリウスの疑問に、メリンダが答えた。
「話を続けるか。俺の母は、何とか闇の陣営の魔の手から逃れる事が出来た。でも、しばらくしてから手遅れレベルの癌を発症していたんだ……」
ゼロは、母親の事を言う時はかなり苦しそうにしていた。
「俺は思った。奴等がしつこく追って来なければ!父さんは死ぬ事も無く!母さんの癌も早期に発見出来て助かってた筈だ!あの時はガキながらに、連中が許せなかった……」
「ゼロ。お前……」
「だが……どんなに奴等を恨もうが、もうあの2人は戻ってこないんだ。決して……。」
「で、連中を許したのか?」
「いいや。絶対に許さん……何があろうとな……だが、いつまでも深い悲しみに囚われる位なら、自分なりに折り合いを付けて生きていけば良いと思った。今すぐそうしろとは言わない。お前が死に物狂いで努力して来たのは分かる。その動機が復讐の為だとしてもだ。だからこそ、自分の心と向き合ってくれ。」
ゼロはそう言って、後ろに下がっていった。俺は、その光景をぼんやりと見つめる。
そんな俺をエリナがじっと見つめている。彼女は、何かを決心したかのように口を開いた。
「ハリー。まだ迷ってるみたいだから、パパの最期のやり取りを話すけど良いよね?」
「エリナ。何でお前が知ってるんだよ?」
「吸魂鬼に襲われる度に、いつも聞くからだよ。パパはペティグリューを許したんだ。」
「!?それ、どういう意味だよ?」
「落ち着いて聞いて欲しいんだ。『憎んだりしない』って。そして次に『逃げろ』って言ったんだ。」
「父様も人を信じ過ぎだな。まだ、変態ヘビからコイツを解放しようって思ってたのかよ。」
「黙って。ここからが重要なんだから。『シリウスとリーマスに絶対に見つかるな』って言った。」
「!?」何……だと?シリウスもリーマスも大きく目を開けながら聞いている。
「どうしてパパはこの人にそう言ったと思う?ハリー。」
まさか。こんな事が。いや、それしか考えられない。同じ状況なら俺でもそうする。憎しみに囚われるのは自分1人だけで十分だから。
「もう分かった?」
「正しいかどうか分からないが、答え合わせをさせてくれ。」
俺はエリナに思念術で答えを言った。それを聞いたエリナは、満足した顔になった。どうやら正解したらしい。
「正解。分かってくれてホッとしたよ。でもペティグリューの方は理解出来なかったみたいだけどね。というか気付いてたけど、忘れようとしてたっていう方が正しいんだけどね。」
「その答え。聞かせてくれ。」ゼロがエリナに答えを求めた。
「うん。パパがこの人を許したのは、シリウスとルーピン先生に超えてはいけない一線を超えて欲しくないから。確かにペティグリューがパパを裏切った事は許されたかもしれない。だけどね、この人はもう見限られていたんだ。既に愛されてなかったんだよ。」
それを聞いたペティグリューは、壮絶なる叫び声を上げた。もはや発狂寸前まで追い込まれてしまったのだろう。
「だからシリウス。それに、ルーピン先生。どうかこの人は殺さないで欲しいの。お願い。約束してほしいんだ。」
エリナが2人をじっと見ながら懇願した。
「分かったよ。あいつの、ジェームズの最期の遺志を受け入れよう。」
「私もそうしよう。」
シリウスとリーマスは、殺さない事を決めた。でも、ヴォルデモートの復活を手引きしそうなんだけどな。何か複雑だ。厄介な目は摘み取った方が良いんじゃないのか?
その時、イーニアス義兄さんが俺に話しかけてきた。
「私の話を聞いて貰って良いかな?」
「どうしましたか?」
「ハリー、君は最初、ペティグリューを殺すつもりだった様だから断言しておこう。」
イーニアス義兄さんは、深呼吸をしてから自らの意見を言い始めた。
「ピーター・ペティグリューという男が今までやってきた悪行が余りにも罪深い。君が手を下さずとも、彼は死ぬまでこの世界という生き地獄を味わう事になる。敵味方双方から忌み嫌われ、ずっと孤独だ。強大な力を前に死ぬまで怯え続ける事になるだろう。そして、その死に方も碌なもんじゃない。今までの所業が、全部自分に跳ね返って来る。」
そうか。それは考えてなかったな。上手く闇の陣営に収まったとしても、シモンズの勢力アルカディア。そしてTWPFの、その気になれば世界を破壊出来る組織の強大な力にも怯える羽目になるのか。ここで死んだ方が、俺に殺された方が幸せだと思える位の。結局、ペティグリューにこの世での安全な場所は全く無いのか。奴に安息の日なんて、永久に存在しないわけだ。
友を死に追いやり、その罪を別の友に擦り付けた結果が人間以下の生活。今度は、不死鳥の騎士団以外の敵対勢力の力にも怯えなくてはならない……か。そう考えると、ひたすらペティグリューが哀れに思えるな。こんな生き方しか残されていないとは。
「それを聞いてなお、両親をヴォルデモートに売ったこの男を殺したいなら、私はもう止めない。」
「どうしますか?ぺティグリューに復讐をしますか?それとも、アズカバンに送って、今ここで死んだ方がマシだと思える程の生き地獄を味わうのを見届けますか?」
エイダ義姉さんが、俺に最後の選択を求めてきた。俺は考える。今までの会話。ブラック姉弟の体験談。イーニアス義兄さんの考察。そして、エリナを通して分かった父様の最期の言葉が。父様や母様の、俺達兄妹を案じる思いが。それらが全て、俺の心の中で再生される。
遂に俺は決心した。それを表すかのように目を開ける。
「……分かったよ。真実を……この世に明かそう。俺はペティグリューを殺さない。アズカバンぶち込む。許したわけじゃない。生かして、更なる苦しみを与える。そして、究極の地獄もな。父様の最期の遺志を、無にはさせない。」
それを聞いた周囲。思わずホッとしていた。ロン、ハー子、グラントは大変喜んでいる。アドレー義兄さんが、俺の肩に手を置いた。
「よく頑張ったね。負の感情に振り回される事無く、ペティグリューの命を救う決断をしたんだ。そんな事、そうそう出来ないよ。エリナちゃんも含めて、君達兄妹にはいつも驚かされる。」
何か、自然と涙が滲み出てくる。リーマスが俺の方に駆け寄ってきた。
「立派だったよ。ジェームズも、リリーも喜んでいる筈だ。」
「立派なのはエリナの方です。俺って、性格悪いですよ。寧ろ、ろくでなしだと自覚している位ですし。それにしてもペティグリューの奴、随分と大人しくなりましたよね。」
「どんな形であれ、あいつはジェームズに愛されていると思ってたんだ。今までの逃亡生活も、それだけで正気が保てたんだからね。」
エリナはシリウスと話している。仲が良さそうだな。まあ、親子の会話の様なものだろうか。それに、ゼロと話している時はやけに強く意識している様な気がする。それはゼロの方も然りなわけなんだが。
……まさかね。でもまあ、俺がどうこう言う事じゃないから、そっとしておいてやろう。俺自身、自由を掲げるわけだから他人の恋愛の自由を邪魔する気は全く無いけどね。余談だが、仲良さそうにエリナと話しているシリウスとゼロを見て、スネイプは2人をずっと睨み付けていたのだった