Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章   作:純白の翼

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第9話 恐怖から生まれる力

 一足早く朝食を食べていたところ、グリフィンドール生からは思いっ切り心配された。それだけではない。魔法生物飼育学を受講していたレイブンクロー生、ハッフルパフ生、僅かながらにスリザリン生も然りだ。怪我はもう大丈夫だと言っておいて、その話は終わった。

 

 木曜日。魔法薬学の授業が折り返し地点まで差し掛かった時に、ドラコ・マルフォイは来た。奴は愚かにも俺とロン、グラントのいるテーブルの所に来ようとしたので、魔力放出で威嚇して追い払った。俺の魔力の質によって完全にビビったマルフォイは、仕方なくシェーマスとディーンのいるテーブルに向かった。

 

 ちなみにだけど、スネイプに対しても威嚇を忘れなかった。スネイプの奴、足がガタガタと笑っていた。ざまあみやがれ。スネイプよ、貴様が死ぬまでやってやるからよ。お楽しみにしておいてくれ。

 

「スカッとしたよ。」ロンが、俺の肩をポンポン叩いていた。

 

「あいつの性根が気に入らないだけだ。折角仲良くなったバックビークをあんな目に合わせた意趣返しだよ。」

 

 小言で返した。そうこうしている内に、今回のテーマである縮み薬が完成した。ちなみに、シェーマスはマルフォイの芽キャベツを切り刻む様に言われ、ディーンは『萎び無花果』を剥く羽目になった。

 

 スネイプは、俺を永遠にいびれない事への鬱憤を晴らすかのようにネビルの水薬をこれでもかと言わんばかりにボロクソに言い出した。そして、ネビルの人格まで悪く言おうとしたので、魔力放出で再び威嚇してやめさせた。

 

 マルフォイから、シリウス・ブラックの話を聞いた。もう俺は事実を知っているので、とことんまで知らんぷりを決め込んだ。

 

 魔法薬学の授業が終了した。昼食を食べた後、『闇の魔術に対する防衛術』のクラスへ向かった。教科書を広げ、羽ペンと羊皮紙を取り出して、ルーピン先生が来るのを待った。

 

 周りと雑談していると、やっと先生が教室に入って来た。最初に見た時よりは、健康そうに見えた。ちゃんと1日3食、規則正しく食ってんだなと感じた。

 

「やあ、皆。今日は実地練習をするから、教科書は閉まってね。杖だけ持って、私についておいで。」

 

 教室を出て、角を曲がった。すると、丁度ピーブズが手近の鍵穴にチューインガムを詰めている所だったのだ。

 

「ピーブズ、私なら鍵穴からガムを剥がしておくけどね。フィルチさんが箒を取りに入れなくなるじゃないか。」

 

朗らかに言った先生。ピーブズは、言う事を聞くどころかバカにしていた。ルーピン先生は小さく溜息をつき、杖を取り出した。

 

「この簡単な呪文は役に立つから、よく見ておきなさい。逆詰め(ワディワジ)!」

 

 チューイングガムの塊は、勢い良く鍵穴から飛び出した。それは、ピーブズの左の鼻の穴に見事命中した。ピーブズはもんどりうって悪態を突きつつ消える。クラスの皆は、ルーピン先生を尊敬の眼差しで見ていた。

 

「先生、かっこいいです!」ディーンが驚嘆した。

 

 ルーピン先生は、職員室の前で立ち止まる。その後に皆を中に入れた。その中には、スネイプが1人だけ座っていたが、ネビルに対して嫌味を吐いた。ルーピン先生は、ネビルは優秀な助手だと返した。何も言わずに、スネイプは出て行った。あの野郎、まだ懲りてないのか。次はどんな風に甚振ってやろうか。

 

 職員室の奥へと連れて行かれた。奥には、教師の着替え用ローブを入れる古ぼけた洋箪笥が一つだけポツンと置いてあるのみ。俺達が近づくと、ワナワナと揺れ、バーンと壁から離れた。

 

「心配しなくていいよ。中にはね、ボガートが入っているんだ。連中は、暗い所を好む習性があるんだ。それじゃ、このボガートとは何でしょうか?」

 

 ハー子が手を挙げた。

 

「形態模写妖怪です。私達が一番怖いと思うものはこれだ、と判断すると、それに姿を変える事がます。」

 

「正解。私でもそこまでキチンと説明は出来なかっただろうね。だから、中の暗がりに住んでいるボガートは、まだ何の姿にもなっていないんだ。もっと正確に言うと、誰も知らない真の姿、と言うべきだね。それは、私達がボガートに対して大変有利な立場にいることになるわけだ。その理由はハリー、君は分かるかな?」

 

「我々が有利な理由。それは、こちらは人数が多い。だから、ボガートからしてみれば、どんな姿になればいいか分からない。と、いう理由で宜しいでしょうか?」

 

「その通りだ。」

 

 その後、自分の経験を語った。長いので、適当に聞き流した。ルーピン先生は、みんなに『ばかばかしい(リディクラス)』を練習させた。そして、ルーピン先生はネビルに何が一番怖いのかを聞いた。

 

「スネイプ先生。」

 

 教室中にいる俺を含めた殆ど全員が爆笑するが、ルーピン先生は至って真面目な表情だった。ネビルに、おばあちゃんの服装を思い浮かべるように指示した。その後で呪文を唱えると、スネイプがその服装になると聞き、クラスの中は更に爆笑した。洋箪笥が一段と激しく揺れた。

 

「皆も考えてみよう!自分が一番怖いか。そして、それをどうやって面白く変えられるかをね!!」

 

 俺の怖いもの。ヴォルデモート。違うな。2回も遭遇しているから、耐性は身に付いた。吸魂鬼。いいや、すぐに守護霊を放てたから無いか。スネイプ。怖いというよりは、もはやあいつは抹殺対象だ。蜘蛛はロンだし、何だろうか?そう思っていると、ある光景を思い浮かべた。

 

 ここは空中。バイクが空を飛んでいる。バイクに乗っているのは、大男と2人の赤ん坊。何故か分からないが、彼らと対峙しているのは、箒も無しで空を飛んでいる謎の男。いや、滞空しているのか。年齢は20歳代か。銀色の短髪に、虹色の瞳。マゼンダで表現されている太陽の柄がプリントされている白いローブを羽織っていているのだ。

 

『我が名は、マクルト。全知全能の神だ。男の赤ん坊をこちらに渡せ。』

 

 あの時のあいつだ。俺を樹海に突き落とした張本人。だが、我に返った。もう皆、対策は立て終わっているらしく、先生は先にネビルにやらせた。

 

 洋箪笥が、バーンと開く。スネイプが出て来たのだ。ネビルはビビりながらも、杖を振ったのだった。

 

「……り、リ、『リディクラス!』。」

 

 パチンッ!スネイプが躓いた。そこには、緑のドレスにハゲタカ帽子、キツネの襟巻きと赤いハンドバッグをユラユラと引っ掛けた、ピンクのハイヒール姿のスネイプが立ち尽くしていた。

 

 パーバティ、シェーマス、ディーン、ロンの順番で成功させた。続いては俺か。

 

 足の無くなった蜘蛛が姿を変える。銀色の短髪に、虹色の瞳。それを併せ持った若い男。マクルトと名乗る男だ。

 

「……」

 

「だ、誰なのコイツ。」女子達は、俺に聞こうとする。

 

 皆、これは予想外だったらしい。止めようとした先生も、硬直している。ボガート・マクルトは口を開いた。

 

「何故一々他者に答えを求める?この世界には、理不尽な事などごまんと存在するのに。そんな事にさえ気付けない愚かさを持っているのであれば、今ここで消えるが良い。」

 

「黙れ!ばかばかしい(リディクラス)!」

 

 男に呪文を掛けた。女性用の際どいメイドコスチュームを着せた。

 

「き、貴様に痛みを……」

 

「こっちだ!」ルーピン先生が割り込んできた。

 

 銀白色の玉になった。彼は、面倒臭そうに呪文を唱えた。再びネビルにやらせて、ボガートは煙の筋になって消え去ったのだった。

 

「皆、良くやったね。ボガートと対決をした子に1人につき5点をあげよう。ネビルは10点だ、2回やったからね。あ、そうそう。ハーマイオニーは質問に正確に答えたから5点、ハリーはそれに加えて対決もしたから10点だ。」

 

一呼吸してから、言葉を続けた。

 

「よーし。皆、良いクラスだったよ。宿題を出そう。教科書の、ボガートに関する章を読んだうえで、まとめを提出する事。月曜までにね。今日はこれでおしまい。」

 

 授業の終了が告げられた。皆は興奮してぺちゃくちゃ言いながら、教員室を出て行った。どうして俺だけ、あの見知らぬ男だったんだ。奴は、マクルトとは一体?12年前に何が起きたんだ。密かに、それを探る事にした俺であった。

 

ルーピン視点

 何故、ハリーの場合はあいつの姿に?虹の目を持ってたのは、あいつじゃない。3学年後輩の、アルフレッドだ。エリナの時と同じ様に止めようとしたけど、全くの想定外だった。

 

 エリナの出番になった時、ヴォルデモートの姿になるかと思ったから割り込んだ。結果的に吸魂鬼だったけど。彼女は、何でやらせてくれなかったんだろうと言う気持ちになっていた。

 

 ふと、ハリーとエリナが生まれて1週間後の事を思い出す。シリウスと共に、ジェームズとリリーの所に行った時の記憶が蘇ってきた。

 

*

 

1980年8月7日

 生まれたばかりの双子の兄妹。ベビー用のベッドでぐっすりと眠っている。

 

「はあ。あいつら遅いな。」

 

 クシャクシャした黒髪の男性、ジェームズ・ポッターが溜息を突きながら、まだかまだかと双子の周りをグルグルと回っている。

 

「もうそろそろ来る筈よ。」

 

 彼の妻である女性、リリー・ポッターが焦るジェームズを案じている。

 

 すると、来た。2人も。黒髪で、瞳の色は灰色。ジェームズの親友、シリウス・ブラック。ライトブラウンの髪で、少し顔が青白いが元気そうな顔を見せるリーマス・ルーピン。

 

「来たぜ、プロングス。2人も生まれたんだってな。」

 

「いやあ、実にめでたい事だよ。」

 

 シリウスとリーマスは、家に入って早々土産を渡しながら親友夫婦の幸せを称賛していた。

 

「あら、ワーミーはどうしたのかしら?」

 

「この頃、こんな感じなんだよな。付き合いが悪いんだ。」

 

 シリウスが溜息をつきながら言った。

 

「いつもパッドフットと一緒にいたのにね。」

 

 リーマスが茶化した。

 

「取り敢えずワームテールの事は放っておいて、今日来て貰ったのは他でもないんだよ。」

 

 ジェームズが、改まった表情で2人に告げる。

 

「僕等の子供達の後見人になって欲しんだ。」

 

「お、俺がかよ。まあ、親友の頼みならやるけどさ。」

 

「私は、体の事が……」

 

「何言ってるのよリーマス。あなた以上に適任者はいないわ。お願い。」

 

 シリウスとリーマスは、ジェームズにリリーの子供2人の後見人をそれぞれ務める事になったのだった。

 

「こっちの男の子がハリーだ。」

 

「ジェームズにそっくりだね。でも、目はリリーだ。」

 

リーマスがハリーを抱き上げながら言った。少しして、スヤスヤと寝始めた。

 

「女の子の方が、エリナって言うのよ。」

 

「逆にエリナは、リリーにそっくりだ。ただ、目はジェームズだな。将来リリーに似て綺麗になるだろうね。」

 

 シリウスが、エリナを抱きあげる。キャッキャッと笑うエリナ。

 

「えらく懐かれてんな。パッドフット。家族以外でここまでエリナが懐いたのは初めてだ。」

 

「そ、そうなのか。良くは分からないが。」

 

 一方のリリーとリーマス。リーマスは、双子の片割れを抱き上げている。起きている妹とは対照的に、兄の方はスヤスヤ寝ている。

 

「リリー。ハリーは、いつもこんな感じなのかい?」

 

「そうよ、リーマス。殆ど寝ているわね。食べる時以外はいつもこんな感じよ。本当にハリーってば、マイペースなんだから。」

 

その後、4人は共に食事をした。誰がそれぞれの後見人になるかを話し合う。

 

「エリナが家族を除いて他人に懐くのは初めて見たわ。ねえ、ジェームズ。」

 

「そうだね、リリー。だから、エリナはシリウスに後見人をやって貰おう。」

 

「良いのか!?」あっさりと決まった事に驚きを隠せないシリウス。

 

「ハリーの後見人は、リーマスが相応しいわ。気持ち良さそうに寝てたんだもの。」

 

「わ、分かったよ。引き受けるよ。」

 

 こうして、シリウスはエリナの、リーマスはハリーのゴッド・ファーザーになったのであった。

 

*

 

 やはり、ダーズリー家に護送される途中で突き落とされた記憶が深層心理の中で覚えているのだろうか。ゲブラーと名乗る男よりもそいつの方が怖いわけか。赤ん坊の時にそんな経験をしたら、誰だってそうなる。

 

 何とかそのトラウマを拭ってやらなければ。シリウスがエリナの後見人であるように、私はハリーの後見人なのだから。今まで、ローガーさんやロイヤル・レインボー財団に任せっぱなしであったのだから、この1年だけでも何とかハリーの力になろう。その決意を再確認し、私は授業の片付けに取り掛かったのであった。

 

*

 

 その後の闇の魔術に対する防衛術の授業について。レイブンクローの場合。

 

 パドマが成功させ、次はゼロだ。ボガートが姿を変えた。それは……

 

「マックのドナルド!?」

 

「いや違う!ペニーワイズだ!!」

 

「うわあああああっ!!!ばかばかしい(リディクラス)!!」

 

 唱えても、ホラー映画のキャラになって無限ループしたのだった。

 

*

 

スリザリンの場合。

 

 グラントは殺戮を好む自分自身を、イドゥンは無力な幼い頃の自分に姿を変えたボガートを撃退し、次はドラコの番だ。彼はもう、簡単にボガート撃破している自分を思い浮かべている。そして、ボガートは姿を変えた。

 

「ククククク。」

 

 それは、金属バットを持ち、不敵な笑みを浮かべているグラント・リドルそのものだった。

 

「!?」

 

 動揺を隠せないドラコ。だが、すぐに気を取り直した。目の前の奴は所詮偽物だ。あんな穢れた血如きに何を恐れる必要がある。呪文を唱えて撃退すれば良いだけの話だ。ドラコは杖を構えた。

 

 だが、ドラコを凝視している視線を感じ取った。

 

『こ、これは!』

 

『成る程な、フォイ。テメエは、この俺に恥をかかせないと気が済まないらしい。そうとらえて良いんだな?』

 

 グラントは至って無言だが、そう言う風に聞こえた。そ、そうだった。本物もいたんだった。迂闊な事が出来なかった。

 

『ドラコ。お前の判断1つで、俺達まで巻き添えを食う羽目になるんだぞ!』

 

『お前だけリドルから制裁を受けるならまだしも!!』

 

 3年生の男子たちは、ドラコに対して目で会話をしていた。

 

『じゃあどうすれば良いんだよ!このまま襲われろとでもいうのか!?』

 

『お前が何もしなければ、お前だけが偽物から襲われるんだ。そうなれよ。』

 

 前には偽物、後ろには本物。このままだと襲われる。かと言って、反撃をすれば本物から確実に報復される。スネイプとの訓練により実力を上げたとは言うが、まだまだグラントには遠く及ばない。

 

 ピリピリとした雰囲気を察知したルーピン先生は、ドラコの前に来た。

 

「ドラコ、私の後ろに来てなさい。」

 

 ボガートは球体になった。

 

ばかばかしい(リディクラス)!!」

 

 球体は風船となってトランクの中に入って行った。

 

「取り敢えず、授業はここまでにしておくよ。対決した子には、それぞれ5点ずつあげよう!」

 

 以上が、各寮のボガートの授業風景である。

 


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