FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

49 / 50
2-0(前)

「……炎上騒動?」

 

 半ば思いつきで始まった資料検索から、意外なものが見つかってしまった。

 

 

>>> [1/3] その過去は既に

 

 医務室に設置された仕事机には、大量の本と書類が積み上げられている。

 マシュ・キリエライトはマスターであるリツカと共に、机の主であるロマニ・アーキマンから身体検査(バイタルチェック)の結果を聞いているところだった。特に用事はないながら、例によっていつものごとく清姫もマスターの隣で静かに話を聞いている。

 

「検査結果、全て良好。異常なし。宝具使用時の負荷も許容範囲に収まってるし、安心して第二特異点に出発してくれ!」

 

 細かな数字がびっしりと並べられた検査結果の書類。マシュにしてみれば、もう何度となく受けてきた検査だから今更ひとつひとつに解説などいらないのだけれど、それでも万全を期すためかドクター・ロマンはお互い多忙にも関わらず口頭での伝達を希望していたのだった。

 付添でやって来たリツカにとっては特異点Fに続いて二度目の医務室訪問であり、清姫にとっては初めて訪れる場所だ。

 

「フォウ!」

 

 マシュの肩でフォウが嬉しそうに声を上げた。白い毛並みが綺麗な、犬のような猫のような不思議な生き物である。普段はドクターと医務室で過ごしている彼だが、マシュがカルデアにいるときはこうして肩や頭に乗って一緒に行動することも多い。マシュのマスターになったリツカにも初対面からよく懐いていて、今では会って一月ほどとは思えない仲良しぶりだった。

 

「あ、フォウも喜んでるみたいだ。良かったね、マシュ」

 

「はい先輩。どうもありがとうございます、フォウさん」

 

「フォーウ!」

 

 答えるように鳴いて、フォウがリツカの膝に飛び乗った。横から清姫が頭を撫でるのを気持ちよさそうに受け入れている。

 

「……ただ、ひとつだけ注意をさせてほしい」

 

 満面の笑みで「問題なし」を告げたドクターが、その表情を真面目なものに切り替えた。

 システム関係に呼び出されて超過勤務を強いられているとき以外はいつも柔和な笑みを浮かべている──シリアスさが足りないと言う人もいるが──ドクターがそういう顔をすると、自然とマシュも姿勢を正して話を聞かなければという気持ちにさせられる。

 

「君たちはオルレアンで、ファヴニールの放った宝具級の龍炎【ニーブルヘイム】の連射を防いだだろう? 特異点Fで交戦したアルトリア・ペンドラゴンの【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】もそうだが、あのレベルの攻撃を宝具で防ごうとすると、やはり瞬間的な負荷は大きいみたいだ。シールダーというクラスの役割上、そういった場面自体は避けられないだろうけど、せめて宝具使用後は長めの休息をとって回復に努めてほしい」

 

「わかりました。ありがとうございます、ドクター」

 

 リツカも生真面目な顔で頷いた。反比例するように、ロマニの雰囲気がいつものフワフワしたものに戻る。

 

「──さて、僕からの話はこれで終わりだ! お茶も出さずに悪かったね。あ、そこの冷蔵庫に胡麻饅頭があるから良かったら食べていって。僕はちょっと奥のベッドの様子を確認してくるからさ。旅の無事を祈るよ、また通信で話そう」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 椅子から立ち上がり、医務室の奥の扉に消えていくロマニを三人と一匹は見送った。あの奥の部屋のベッドでは、今も意識不明の竜の魔女が治療を受けているはずだ。容態そのものは順調に回復しているそうで、あるいは今日にも目覚めるのではという話だったが、目覚めた彼女をカルデアがどう処遇するかという問題は未解決のままだった。敵対していた以上は無力化して拘束するべきだという声が多数派を占める一方、シュヴァリエ・デオンの遺志を汲んで人理修復のために彼女を運用することを考えるべきだという声もそれなりにある。

 結局のところ争点は、敗北し強制(ギアス)の呪いを掛けられた彼女がカルデアに対してどのような態度を取るのかという点であり、それは彼女が目を覚ましてみなければ分からないことなのだ。

 

 一応の対策として、彼女が敵対行動を取ったときのためクー・フーリンを待機させることにしたそうで、同じくカルデア待機となった彼のマスターから【ワカメ王国】のクランチャットへ謝罪のメールが入っていた。……もっとも詳細を書くことは(はばか)られたのか、理由については「激ウマなバイト見つけたから特異点よりそっち優先するわ」などという妙に無責任感漂う印象のそれだったが。

 

「じゃあ、せっかくだしお饅頭いただいていこうか」

 

 リツカが冷蔵庫から菓子箱を取ってくる。和菓子好きであるらしいロマニは、しばしば食堂の職員に頼んでこうした甘味を作ってもらっては医務室の冷蔵庫に確保していた。

 

「いただきます。……あ、美味しい!」

 

「甘みが上品ですわね。あら、フォウさんもお食べになります?」

 

「フォウ!」

 

 特異点の開放、すなわち探索(オーダー)開始時刻までにはまだ余裕がある。今回はオルレアンと違い、最初からリツカも個人行動でカルデアと連携する予定になっていた。【ワカメ王国】の方も、リーダーはリーダーで普段から協調行動など取る気がないし、セオさんは別に特異点に降りなくてもいくらでもやることがあるタイプのゲーマーだ。オルレアンで特異点攻略のノリを掴んだ以上、あとは各人好きにやろうという空気がクラン全体にも流れていた。

 

「……そういえば、先日【とれぇにんぐるぅむ】に出向いた際に【ワカメ王国】の皆様にはご挨拶させていただきましたが、あれで全員なのでしょうか?」

 

 清姫がフォウに小さくちぎった饅頭を分けながら問う。リツカも頬張っていた饅頭を飲み込み答えた。

 

「いや、実は籍だけ置いてる人が他にもいるんだよね。特異点まで降りようってプレイヤーは、清姫が会ったメンバーだけだけど。元々すごいVRゲームってことで始まったわけだから、別に戦闘なんてやりたくないしレベルもいらないって人はそれなりにいるんだよ。でも、もしイベントに参加したくなったときとか、クランに所属してると便利だからさ。以前のウチみたいな最前線攻略!って感じじゃないクランはそういうプレイヤーも受け入れてるんだ」

 

「……? ますたぁはこれまでずっと最前線で戦っていたのではないのですか?」

 

「どっちかっていうと今の状況の方が特別かな。それでもオレは、これからもずっとマスターとして最前線で戦っていくつもりだけど、他の皆がどうするかは皆の自由だよ。『彼』にしたって、オルレアンみたいに最前線へ来るかは分からないけど、それでも彼なりにオレたちを助けてくれると思うしさ」

 

「先輩はそれで良いんですか?」

 

 思わずマシュは尋ねていた。リヨンで過ごした決戦の夜、『彼』が魔女を捕らえたと聞いたとき。そしてその後、ファヴニールとの戦いの最中に『彼』がジークフリートを連れ出したと聞いたとき。リツカの表情に浮かんだ安堵と信頼の色を、マシュはよく覚えている。あの表情をいつか自分にも向けてほしいと思ったことも。クー・フーリンのマスターである彼はマシュにとって未だによくわからない人物であるのだが、リツカとの関係という意味ではひとつの目標でもあった。

 

「もちろん。オレたち一人ひとりに出来ることには限りがあるからね。例えば『彼』が魔女を見ていてくれるから、オレたちは安心して第二特異点に向かえる。ファヴニールとの戦いのときも、オレたちがファヴニールを抑えている間にジークフリートを復活させてくれたから、なんとか倒すことが出来た。特異点での戦いはさ、オレたちだけでも駄目だし、『彼』だけでも、他の誰かだけでも駄目なんだ。みんなが自分のやりたいことや出来ることをやって、それで最後に勝てればいいと、オレは思うよ」

 

 リツカは穏やかに答える。そういう、人の善性を心から信じられる姿が皆に好かれるのだとマシュは思う。事実、カルデアの職員たちにも、マシュの知る限り一個人としてのリツカを悪く言う人は誰もいなかった。……反面、魔術師でない彼のマスターとしての力量を不安視する声は根強いが、それはサーヴァントである自分たちが結果を出すことで覆せば良いだけの話だ。

 

 清姫はよく分かったという表情でひとつ頷く。

 

「……なるほど。ならば孫子の兵法に習って『敵を知り』、と参りましょう。マシュさん、あの御友人のデータを教えていただいてよろしいですか?」

 

「え? な、何が『なるほど』なんですか!?」

 

 孫子兵法といえば、有名な『敵を知り己を知れば百戦(あや)うからず』のことだろうが、なぜ今それを? マシュは困惑する。というか清姫的には『彼』は敵なのか!? ……清姫は事も無げに言った。

 

「ますたぁから厚い信頼を受けているかの御仁を理解することで、私もますたぁの絆を一層深めるのです! ますたぁの思い出話は既に色々伺っておりますし、あと百遍でも是非お聞きしたい所存ですが、その裏側の客観的情報として……!」

 

 ……なるほど。そう言われてみると、思わずマシュも頷いてしまった。

 

 とはいえ、プレイヤーの情報を勝手に開示するわけにはいかない。マシュには職務上プレイヤーに対する一定の情報閲覧権限や機密保持の義務があるものの、それはあくまでカルデア職員と外部の人間を想定してのものであり、サーヴァントとしてマスターや仲間にどれほど情報を共有して良いものかは不明であった。少なくともそんなことを定めた規則は今の所ない。

 

「わかりました。では、わたしが自分の端末で『彼』の情報を検索し、伝えて良さそうだと判断できるものはお伝えします。それで構いませんか?」

 

「ええ。よろしくお願いしますわ」

 

「うわぁ……。それ、オレが聞いて良いのかな」

 

「ええと、ではセキュリティと友情にも配慮してお伝えしますね。先輩」

 

 端末を取り出し、クー・フーリンのマスターのプレイヤー名を打ち込んで検索する。

 思えば特異点Fで『彼』と知り合って以降、こうしてきちんと情報を調べたことはなかった。ずっと以前『藤丸立香のクランメンバー』を調べたときに目を通したことはあったはずだが、当時は大して興味もなかったし、特筆するような何かを見た記憶もない。

 

 やや間をおいて、端末の画面にずらりと検索結果が表示される。

 他のプレイヤーと比べて、ヒットする情報が格段に多い。よく見れば、それらはほぼ全て特異点Fと第一特異点に関する解析データや報告書だった。それぞれでの事態への彼の関わりぶりを思えば、その結果も当然ではあるだろうか。

 

 しかし一方で、それらは既に清姫も知っているような情報だ。彼女が今知りたがっているのは、以前からの友人である『彼』とリツカの過去に関する話だろう。マシュは検索結果を古い順にソートする。『彼』とリツカは一緒に『FGO』を始めたはずなので、最初期の、まだ【ワカメ王国】も発足していない頃の彼らの情報が見られると思ったのだが。

 

「……あれ? 一番古いデータの日付が…………『FGO』のサービス開始前?」

 

 なぜか、『彼』がプレイヤーとして登録する前のデータがヒットしていた。

 

「ああ、アレじゃない? リリース前にオレたち献血に行って機材一式もらったんだよ」

 

 端末を見てしまわないよう少し離れていたリツカがフォローを入れる。

 だが、それは違う。なぜなら、

 

「いえ、その献血情報は別にあります。プレイヤー名とアカウント作成時に登録した本名が紐付けられているんですね。ただこれは、もっと古いんです。それも年単位で……」

 

 まだ『FGO』がゲームとして形になる前のレポートだった。タイトルを見る限り人事資料だ。確かに当時、カルデアのスカウトは世界中から人材を集めようとしていたが、まさか『彼』がその候補に挙げられていた……?

 

「とりあえず見てみますね。お伝えできない内容だったらすみません」

 

 一言断りを入れて、ファイルを開いてみる。やはり人事からの採用情報だ。だが、彼のものではない。

 

(殺生院祈荒(キアラ)……?)

 

 知らない名前の日本人女性だった。どうやらセラピストとしてスカウトが検討されていたようだ。簡単に流し読んでみる。

 

 日本で生まれ育ったその女性は「まるで聖人のような」人間であったらしく、個人的あるいは慈善団体を通じた様々な慈善活動によって多くの人々を助け、慕われていたのだという。だがその活動の一部が既得権益団体と利害対立を起こしてしまい、それらの関係者から激しい攻撃を受けていたらしい。

 カルデアは彼女の能力を高く評価しており、もし殺生院祈荒(キアラ)が日本国内に居場所を無くした場合、海外のサイトにセラピストとして彼女をスカウトしようと考えていたようだ。

 

 ……しかし資料を見る限り、結果的にカルデアは彼女のスカウトを見送ったようだが。

 

(……? でも、なぜこんな資料に『彼』の名前が?)

 

 (いぶか)しがるマシュに清姫が声をかける。

 

「口に出せない情報を無理にとは申しませんので、お悩みになる必要はありませんよ?」

 

「いえ、そういうことではなく。……その、とある慈善活動家の方の採用情報らしいのですが、どうしてそんな資料がヒットしたのかなと」

 

 曖昧にぼかして伝えようとするマシュに、リツカが驚いたような声を上げた。

 

「え! それって……もしかして殺生院さん?」

 

「先輩、ご存知なんですか!?」

 

「うん、まあね……。そっか。あの人がカルデアに……今も?」

 

「いえ。採用は見送られたようですが」

 

「……そう、か。それなら、彼女はもう…………。ええと……」

 

 リツカは悩ましげに眉をひそめる。

 

「……とりあえず、そのことは『彼』には言わないでおいてほしい。マシュも、清姫も。いいね?」

 

「はい」

 

「それは構いませんが。その殺生院という女人はますたぁのお知り合いなのですか? ……あら。お綺麗な方ですわねぇ……!」

 

 清姫がにゅっと首を伸ばしてマシュの端末を覗き見る。咄嗟に画面を隠そうとしたマシュだったが、サーヴァントの本気の前ではあまりに遅い反応だった。油断していたと悔しがる彼女の横で、清姫の全身からパチパチと火の粉が音を立てて舞い上がる。

 

「フォフォウ~~!」

 

 フォウがリツカの膝から飛び降りベッドの下へ避難した。

 リツカもファヴニール級のプレッシャーを感じている。このままでは命の危険が危ない……!

 

「ち……違うんだ清姫! この殺生院さんは『彼』の命の恩人で! 数回しか会ったことはないけど話はよく聞いてたし……あと、結構な騒ぎにもなったから!」

 

 慌てて弁解の言葉を並べ立てる。それが功を奏したのかは不明だが、清姫の炎の勢いは弱まった。思わず安堵するリツカへ、清姫が更に問いかける。

 

「騒ぎとは?」

 

「あ」

 

 ……言わなくていいことを言ってしまったようだ。リツカがしまったという顔をした。

 

「ああ、カルデアの資料にもニュース記事がありますね。……炎上騒動?」

 

 マシュの手元のファイルには、参考資料として日本の雑誌や新聞、ネット記事と思われるPDFが添付されていた。

 

 

『今週のネットニュース:女性慈善活動家に浮上した黒い疑惑』

 

『「私は彼女に命を救われた」「彼女は悪人じゃない!」支持者が訴える慈善活動家の真実』

 

『「慈善活動なんて嘘っぱち」「あの女は魔女ですよ」某団体職員が語る慈善活動家の裏の顔』

 

『【闇資金疑惑】「無償奉仕」の裏側……慈善活動の背後に流れる多額のカネとその黒幕』

 

『5分で分かるニュース解説:女性ボランティア不正疑惑 炎上騒動をイチからおさらい』

 

『【コラム】世界が唖然……。ボランティアの地位が低すぎる国・ニッポン』

 

『【写真あり】ネットで炎上中の美人ボランティア・殺生院祈荒の素顔とは!?』

 

『【密着取材】仏心の聖女か? 獣心の魔女か? 大炎上中の殺生院祈荒の本性に迫る!』

 

『【本誌独占公開】重病からの生還、カルト宗教との決別……関係者が語る噂の美女の涙の半生!【殺生院祈荒】』

 

『【スクープ】慈善活動を妨害する既得権益団体の闇! 内部からの秘密告白文書を完全公開!』

 

『【社説】慈善活動と営利事業の埋められぬ溝』

 

『【新刊予告】「殺生院祈荒騒動とは何だったのか──迫害されるマイノリティとSNSの反乱──」(■■出版)』

 

 

 ……タイトルを見るだけでも、相当な騒ぎになったのだろうと推察される。

 

「昔、『彼』が不審者に襲われたところをその殺生院さんが助けてくれたらしくてね。学校でも色々注意されたし、それから『彼』が熱心に殺生院さんのボランティア活動とかお手伝いに行くようになってさ。オレも何度か誘われて行ったことがあるんだ。……うん。すごく良い人だったよ。現代の聖女とか聖母とか呼ばれるのも分かるなってくらい」

 

「聖女というと……ジャンヌ・ダルクさんのような?」

 

「うん。彼女みたいに戦う人ではなかったけど、どんな人も分け隔てなく助けようとする人だったんだ。

 ……だけど殺生院さんのボランティア活動が別の団体がお金を取ってやってた仕事と被っちゃったみたいで、それで揉め事になったんだよ。殺生院さんは活動を()めようとしたんだけど、それまで助けられた人たちが『それはおかしい』ってネットとかで声を上げ始めてさ。

 そこから一気に話が大きくなって、全国ニュースにもなるような大騒ぎ。

 既得権益団体の利権がどうとか、女性の権利問題とか、ボランティアの社会的地位とか、病気の人の社会復帰とか宗教問題とか、とにかく滅茶苦茶いろんな問題に飛び火して……」

 

 リツカはため息を吐いた。

 

「『彼』もネットの炎上騒動に絡んでたみたいだ。流石に詳しい話は聞いてないけど、たぶん騒動のかなり初期から」

 

 ……そういうことか。マシュは、これまでぼんやり抱いていた疑問が解けたような気がした。

 なぜオルレアン特異点であんなにも聖女とその反転存在を疑われた魔女にこだわっていたのか。

 それはおそらく、排撃された聖女という存在が、彼の中でこの殺生院祈荒(キアラ)という女性を思い起こさせたからではないかと。

 

「……まあ、そういうことだからクー・フーリンと『彼』は竜の魔女を悪いようにはしないと思うよ。カルデアがどう考えるかは分からないけどさ」

 

「戦力として期待できるなら、拒める状況ではないとは思いますが……」

 

 マシュは言葉を濁した。おそらく、その意思決定はカルデアの所長と『FGO』プロジェクトの実質的牽引者であるディレクター・エジソン、そしてエルメロイⅡ世の三者によって為されるはずだ。ただでさえ世間に疎い自覚があるマシュからすれば、彼らがどのような情報からどんな判断を下すかなど、リツカ同様、推察しようもないことだった。

 

「さてと。ドクターはまだ戻らないみたいだけど、ずいぶん長居しちゃったね。二人共、そろそろお(いとま)しようか」

 

 リツカがそう言って二人を促し、席を立つ。そのまま医務室から出ようかというところで、部屋の反対側、奥の扉が勢いよく開いた。白衣を翻して駆け寄ってくるドクター・ロマンが、慌てた様子で彼らを呼び止める。

 

「──リツカ君、魔女が目を覚ました! すぐに上へ伝えてクー・フーリンを呼ぶから、ちょっとだけここで待っててくれないか!?」

 

 




後編に続く。


◆殺生院祈荒(キアラ)
 FGO世界の西暦日本に生きる聖人のような女性。多くの人々を救うが既得権益者との利害対立に巻き込まれてしまい、激しい攻撃を受けて居場所を失いかける。
 しかし本作においては、彼女に助けられた人々が声を上げたことで、その名誉は回復された。
 彼女はその後も幸せに日本で暮らし、更に多くの人々を救い────そして、人理焼却により燃え尽きた。

 ……というわけで、本作主人公の出自は「FGO世界で殺生院キアラに救われた様々な人々」の一人でした。救われモブ!


(原作ゲーム中で語られていない設定のため、以下に竹箒日記からCCCコラボイベントで登場した『FGOにおけるキアラの素性』の記述を引用します)

・FGOにおけるキアラの素性
 14歳まではCCCと同じ素性で、そこからが別展開となります。
 山の外からやってきた医者の治療で回復した彼女は山に囚われる事なく下山、幸福な学生時代を送ります。
 その後、持ち前の聖母性から様々な人々を救いますが、「なにうちの分野でうちより成果をあげてんじゃいワレ、しかも料金をとらないだとぅ!?」と既得権利団体から攻撃を受け、気がつくと悪者にされて居場所をなくし、行き着いた先があの油田基地という話でした。でも本人はその手の迫害とかまったく気にしていなかったので不幸という訳でもなく。
 ゼパルさえ現れなければセラフィックスの職員たちの荒れた心はキアラさんに癒やされていたと思われます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。