FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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VRMMO設定の歪み! 捏造設定の極み! 本作版マシュ過去編です!


幕間の物語「ローマ前夜①」

 

>>> [1/3] わたしの大切な『先輩』

 

 清姫さんがいつになく浮かれています。

 

「うふふふふ……」

 

 その緩んだ頬と下がり気味の眉は、戦いの場で彼女が見せる気丈さとは程遠く。

 何を思い出しているのかウットリと細められた眼尻は、少女らしからぬ艶めきを乗せて。

 立てばふわふわ、座ればそわそわ、歩く姿は夢心地といったご様子です。

 

 数日前から彼女の変化には気づいていたのですが、あいにく最近のカルデアはあまりにも多忙すぎました。

 第二特異点レイシフトのための一週間の準備期間を忙殺されて過ごしたわたしが清姫さんとお話できたのは、まさに第二聖杯探索(セカンド・グランドオーダー)開始を翌日に控えた夜のことでした。

 

「ご機嫌ですね、清姫さん」

 

「ええ、ええ、マシュさん、お分かりになりまして? うふふふふ……!」

 

 微笑みながら、胸元に挟んだ綺麗な布の包みを愛おしげに撫でています。

 そういった小物はオルレアンでは身につけていなかったように思いますが……。

 

「ふ、ふふふ、ふひ、ふひゅっ……!」

 

「……さすがにその笑い方は淑女的にいかがかと」

 

 先輩に聞かれでもしたら、清姫さんの乙女心が大ピンチになってしまいます。せっかく上機嫌で過ごしてくださっているのに波風を立てたくはありません。

 わたしの言葉に「ハッ!?」といった様子で我に返ったらしい清姫さんは、慌てた様子でパタパタと周囲を見渡し、先輩の姿が無いことを確認するとほぅっと安堵の息を吐きました。

 

「危ないところでした……。このような姿をお見せしてしまっては未来の妻の名折れというもの……!」

 

「……妻」

 

 清姫さんがそういった発言をなさるのは今に始まったことではありませんが──【ワカメ王国】の皆さんによれば、オルレアンで初めて先輩と出会った瞬間からこんな調子だったとのことですが──しかし最近の浮かれぶりはいささか気にかかります。何かあったのでしょうか?

 そう切り出してみると、清姫さんは嬉しそうに胸元の小物を引き抜き、わたしの前で紐解いてくれました。

 美しい刺繍の入った布の中に収められていたのは……短刀?

 

「懐刀ですわ。先日、【とれぇにんぐるぅむ】なる街へ買い物に行った折、安珍様(ますたぁ)に見繕っていただきましたの。懐刀といえば花嫁道具のひとつにも使われるもの。そんな品をお贈りいただいたということは、これはもう結納、いえ、結婚前夜と申しまして過言でないのでは……!?」

 

 事の次第を話しながら、くねくねと照れくさそうに身をよじる清姫さん。

 

 先輩からの贈り物ですか。確かに、それはさぞ嬉しいことでしょう。わたしも予定が空いていればぜひ参加したかったのですが……いえ、いけません。わたしたちカルデアの使命は、7つの特異点を巡って人理焼却を解決すること。わたしがカルデアでどうしても外せない仕事のある日を狙い撃ちするように買い物の予定を突っ込んできた先輩のご友人の空気読めなさぶりを内心恨めしく思っていることなど、おくびにも出すべきではないのです。

 

 とはいえ、勘違いは正すべきでしょう。おそらく先輩は、そういった意図で清姫さんに刀剣を贈られたわけではありません。もっと純粋に──わたしたちの身を守る助けになるようにという考えで最も適した『武装』を選ばれたのだと思います。

 そうお伝えすると清姫さんは少し複雑な表情をされました。

 

「……あなたがそう言うなら、嘘偽りなくそうなのでしょうね。……ええ、認めましょう。確かに私はいささか浮足立っています。なにせマスターが初めて私だけを見て、私だけのために選んでくださった品なのですから。妄想も夢幻のごとく膨らもうというものですわ」

 

 彼女の表情が一体どういった感情を表すものなのか、わたしには分かりませんでした。

 そんなわたしの様子を見て清姫さんは薄く微笑むと、再び懐刀を胸元に収めて言いました。

 

「誤解しないでいただきたいのですが、贈り物の意図はどうあれ、マスターに私の身を案じていただけるのは大変に嬉しいのです。むしろ私が気にしているのはあなたのことですよ、マシュさん。……はしたない話になりますが、私は先ほどあなたにマスターからの贈り物を自慢しようとしました。当世風に言えば、『まうんと』を取ろうとしたのです。……結果的には意味のない空回りでしかありませんでしたが」

 

 マウント……? いえ、プレイヤーの皆さんがしばしば使う言い回し(スラング)ですので意味は分かります。しかし、清姫さんがわたしにそういった態度を取ろうとした理由が分かりません。それをこの場で告白した意味も。

 

「理由ですか? それはもちろん、マスターにいつも気に掛けられているあなたが羨ましかったからですわ。どうやら今のあなたに『その気』はないようですけれど」

 

「羨ましい、ですか……?」

 

「ええ、とても」

 

 清姫さんは真顔でそう言います。確かに、先輩がわたしのことをきちんと考えてくれているという実感はありました。けれど、それは清姫さんにも同じくらい振り向けられているものです。どちらが上などというものではありません。わたしたちは共に先輩というマスターのサーヴァントなのですから。

 

「……ところで。前々からお聞きしたかったのですが、どうしてマシュさんはマスターを『先輩』と呼ぶのですか? こことは別のどこかでそういった関係にあるとか?」

 

 突然、清姫さんがそんなことを聞いてきました。

 あの特異点Fでの戦いの後、先輩と契約したわたしは自然と彼のことを『先輩』と呼ぶようになり、特に誰からも理由を問われることなく今に至っています。……案外、あえて聞かないだけで実は気にかけている方もおられるのでしょうか?

 

「いえ。わたしと先輩の接点はこの『FGO』を介したものだけです。先輩をそう呼ぶ理由というのは、どう説明すればよいものか難しいのですが……」

 

 わたしの答えに、清姫さんはニコリとうなずきました。

 

「時間はあるのですから、ゆっくりで構いませんわ。嘘さえつかなければ……ね?」

 

 彼女の笑顔からプレッシャーを感じます。これはきちんとお話しなければならないでしょう。

 わたしは数分かけて頭の中を整理し、話し始めました。

 

「まずお話しておかなければならないのは、わたしは先輩をサーヴァントとして契約する以前から知っていたということです──」

 

 

 ◆◇◆

 

 

 ──清姫さんの前で嘘はつけませんので、正直に申し上げますね。

 

 最初、わたしは先輩のことを──つまりリツカというプレイヤー、あるいは藤丸立香という日本人男性のことを好ましく思っていませんでした。ああ、いえ。当時の先輩に人間的問題があったとか、そういうわけではありません。第一、その頃のわたしは一方的に藤丸立香という人間の登録データを知っていただけで、直接お話したことすら無かったんですから。

 

 清姫さんはご存じないかもしれませんが、元々カルデアは、現在のような形で人理継続保証を行おうとしていたわけではありませんでした。所長が代替わりし、トーマス・エジソン氏が召喚される前。カルデアが目指す人理継続保証とは、世界中から集められたレイシフト適正者によるレイシフト計画を主眼とするものだったんです。わたしはその計画の一員になるべくデザインベビーとして生を受け、カルデアの無菌室で育てられてきました。デミ・サーヴァント実験には被験体として参加しましたが、当時の結果は半ば失敗のような扱いでしたから、役に立っていたとは言いにくいですね。

 

 ……あの頃のわたしは、カルデアの外のことを何も知りませんでした。カルデアで生まれカルデアで育ったわたしは、当然のようにカルデアによって決められた人生を送るものだと思っていたんです。

 

 けれど、状況は変わりました。

 もう何年前でしょうか、カルデアのトップが現在の所長へ代わり、エジソン氏が召喚されて少ししてからのことです。エジソン氏の企画した『Fate/Grand ONLINE』プロジェクトがカルデアの主流に取って代わり、元のレイシフト計画チームは解散、人員も別部署へ異動ないしカルデアを去る道を選びました。カルデアの外からプレイヤーとして関わりを続けようとする奇特な方もいましたが。

 

 ……わたしですか? わたしは、何も考えずただカルデアの意向に従いました。その先でどんな変化が待っているか、想像もせずに。

 

 今だから言えることですが、方針転換後のカルデアにわたしの居場所はありませんでした。ネットワーク回線を使用し全世界からレイシフト適正に関わらずプレイヤーを集めようとする『FGO』プロジェクトにおいては、マスター適正とレイシフト適正、そしてデミ・サーヴァント適正に特化したわたしのデザインは活かしようがなかったからです。

 

 それでも、自由は与えられました。ドクター……Dr.ロマンとエジソン氏の働きかけによって、わたしは無菌室を出る許可を与えられ、カルデアの中を動き回ることが出来るようになりました。

 

 カルデアを恨まなかったか、ですか? ……そうですね。正直分かりません。当時のわたしは、目まぐるしい状況の変化にただただ振り回され困惑していたように思います。

 

 それからしばらくはカルデアの施設を使って勉強をしたり身体訓練をしたりしていたのですが、ある日エジソン氏から『FGO』プロジェクトのプレイヤー担当ナビゲーターを打診されました。ゲームのこともナビゲーターという仕事のこともまるで分かりませんでしたが、やはり流されるようにそれを引き受けました。『FGO』が発売される少し前のことです。そして『FGO』が発売され、たくさんの、本当にたくさんのプレイヤーの皆さんが『FGO』にログインし……。

 

 

 …………それから、いろいろなことがありました。

 

 ひとつひとつを数え上げるのは到底不可能なほどの、いろいろなことが。

 プレイヤーの皆さんは、わたしが『人間』というものに対して抱いていたイメージよりずっと……何と言えばいいのか、多様でした。良い意味でも、悪い意味でも。と言っても、わたしが直接プレイヤーの皆さんと接する機会はそう多くありませんでしたが。

 想定していなかったトラブルは山程ありました。運営にもいくらか関わることになり、結果として業務上必要な権限としていくらかの情報へのアクセス権を与えられました。

 

 ……その中に、プレイヤーの情報が含まれていたのです。

 そうしてわたしは藤丸立香というプレイヤーの存在を知りました。わたしのたった一人の『先輩』の存在を。

 

 清姫さんは、先輩のレイシフト適正が100%であることをご存知ですか?

 もちろん、現在の『FGO』においてレイシフト適正は不必要な能力です。エジソン氏に言わせるなら、照明にあかあかと照らされた夜道を行くのに夜目が効くかどうかは関係ないということになるでしょうか。けれど、わたしはそのために生まれてきました。マスターとして、レイシフト適正者として、デミ・サーヴァントの素体としてデザインされ、それ以外のいろいろなものを削ぎ落として生まれきたんです。だから…………わたしは、自分の生まれてきた意味を証明したかった。今はもう叶わない、いえ叶わなくても良いとさえ思える願いですが。

 

 話を戻しましょう。『藤丸立香』という100%レイシフト適正者の存在を知って、わたしは動揺しました。

 わたしが命の在り方を歪めてまで手に入れたデザインを、その人はごくごく自然に持ち合わせていたのですから。そして、仮に当初のレイシフト計画が続いたとしても、魔術協会と縁のない彼はその無二の才能を一切発揮することなく人生を終えただろうということに気づいたとき、わたしは……正直、この世界というものが分からなくなりました。

 

 今思えば、自分と『藤丸立香』を比較したわたしは、嫉妬と憐憫の入り混じったような感情を抱いていたのでしょう。

 当時のわたしは、あまり良い精神状態ではありませんでした。

 フォウさんにも距離を取られてしまって……今ではまたすっかり(なつ)いてくださっていますが、今日ここにフォウさんがいらっしゃらなかったのはラッキーでしたね。こんな話をしているのを聞かれたら、きっと良い気はなさらないでしょうし。

 

 それから、わたしはこっそりと『藤丸立香』に関する情報を集め始めました。

 現所長が『FGO』をテストプレイするにあたって偶然【ワカメ王国】に所属したこともあり、段々と先輩の人となりを知るようになったんです。

 

 ……先輩は、本当に自然体の人でした。

 ただ在ることを在るがままに、けれど自分にとって正しいことは正しいと言うことができる──どこまでも善良でありながら悪を憎まず、悪にそそのかされながらも善を為す。そんな人です。……もっとも先輩をそそのかす悪というのは、たいてい隣りにいる先輩のご友人を起点とするものでしたが。

 

 とにかく先輩は、レイシフト適正などとは一切関係なく素敵な人でした。

 そしてわたしは……自分の出生デザインと現状のミスマッチをどうすればよいのか分からなくなっていたわたしは、いつしか先輩のようにありたいと思うようになりました。

 自分に与えられたデザインを無視して生きようと思ったわけではありません。そうですね……「どう生まれたか」より「どう生きるか」の方が大事なんだと気づいたんです。どちらも今のわたしを形作る大切なものですが、過去に囚われるよりは未来を()て生きたいですから。

 

 

 それからも、『FGO』運営の中ではいろいろな問題が起こり続けました。それらに対処する中で、わたしはデミ・サーヴァントとしての力を行使できるようになり、戦闘サポートという形でも貢献を求められるようになりました。

 デミ・サーヴァントとしての力を得たわたしが以前のまま在り続けることができたのも、やはり先輩のおかげだったと思います。先輩を知る前のわたしだったら、与えられた力に振り回され、今とは全く違う有様になっていたかもしれません。

 

 ただ、だからといって先輩と直接コンタクトしようとは考えませんでした。当時の先輩は普通のプレイヤーとしてゲームを楽しんでいましたから、運営(カルデア)に属するわたしが関わるのは気が引けましたので。

 それだけに、あの【特異点F】の地下大空洞で先輩に助けられ、そしてサーヴァントとして契約することになったのは、今でも奇跡みたいな偶然だなと思っています。

 

 ……本当に、本当に大切な偶然の奇跡です。

 

 

 ……すっかり長くなってしまいましたね。改めてお答えしましょう。

 わたしが先輩を『先輩』と呼ぶのは、わたしにとって先輩がひとつの憧れだからです。

 限りなく希少な……けれど人生の中で決して活かすことのできない能力を持って生まれながら、その能力に振り回されることなくただ善なるものと未来を信じて進むことができる藤丸立香という人間の在り方を、わたしがわたしの至るべき場所、すなわち『先輩』として定義したからです。

 

 

 わたしが先輩と全く同じように生きることは出来ないでしょう。

 それでもわたしは、先輩と同じ方向を向いて歩んでいきたい。

 この人理修復という長い道のりを、先輩と同じ景色を見ながら旅していきたい。

 

 ……清姫さん。

 明日からは第二の聖杯探索(セカンド・グランドオーダー)が始まります。きっとまた沢山の困難がわたしたちを待ち受けていると思います。これからも一緒に、先輩のサーヴァントとして最後まで戦い抜いていきましょう。

 




長いので分割。明日に続く。


◆今回出てきた、原作マシュと本作マシュの主な相違点
・原作より早い時点で無菌室を出ることを認められ自由行動できている。
・自由行動できるようになった時点でレイシフト計画チームが解散してしまっているので、いわゆるAチーム含めたマスター候補者との面識がない(原作の流れ次第で今後捏造するかもしれませんが……)
・良くも悪くも原作マシュより色々人間を見てはいる。カルデア内外ともに。
・オルガマリー・アニムスフィアとの関係がたぶん原作より悪い。
・藤丸立香/リツカとの関係性

などなど。まだ他にも色々あるよ。VRMMO化の影響を一身に受けている……まさに盾キャラ。

あ、フォウ君との仲は、色々ありつつも現時点では原作とほぼ同じくらいだと思ってください。
フォウ「フォウ!(マシュリツいいよね……)」
ロマニ「いい……」

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