FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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> [1/1] 干し草の山には極小確率で針が含まれる。

 

 カルデアゲート。

 それは、『FGO』におけるエリアとエリアを繋ぐターミナルみたいな存在だ。【修練場】等の常設エリアや解放されたばかりの新エリアである第一特異点【オルレアン】への移動は、全てこのカルデアゲートを介して行われる。

 

 そしてこの度、運営によって実装された新要素【使い魔】も、このカルデアゲートで手に入れることが出来るようになったのだ。言ってみれば、運営お膝元の直轄エリアということになるだろうか。

 

 そんなカルデアゲートへのアクセス方法は極めて簡単だ。

 特異点エリア内のプレイヤーなら、「カルデアゲートに行きたい!」と強く念じるだけでいい。すると視界に【Unsummon Program Start(アンサモン プログラム スタート)】というメッセージが表示され、次の瞬間そのプレイヤーはカルデアゲートに立っているだろうし、よく見るとデスペナも一回分付いているだろう。

 便利な移動システムと見せかけて、要は復活地点が変わっただけの死に戻りだ。悪趣味である。

 

 

 ……さて。

 あれからしばらくして、マシュさんと一緒に偵察に出ていたというリツカがクランハウスに戻ってきたので留守番を引き継いだ俺は、オルガに一応tellを入れつつカルデアゲートを訪れていた。実のところ出ずっぱりで帰ってこないメンバーの内2人はここにいるはずなので、後追いで合流を目指す形にもなっている。さっき連絡を入れておいたのだが……

 

「無理だこれ」

 

 ……カルデアゲート。それは、今の『FGO』において最もカオスなエリアでもあった。

 

 その空間は、あまりにも沢山の人々でごった返していた。更に言うなら、人じゃないものも数え切れないくらいいた────【使い魔】だ。

 よって、その人混み(?)をあえて言葉で表現するなら、「人人ワイバーン人ラミア人人ゴースト人ワイバーンワイバーンラミアオートマタ人キメラキメラキメラワイバーンキメラ人人ゴーレムワイバーン人人人……」という感じになる。ここは魔物のサファリパークか。あるいは地獄だ。

 

 

 

 ……『FGO』において、プレイヤーと敵モンスターの戦力差は実に長い間俺たちを苦しめてきた。ひ弱な人間が何の対策もなくモンスターに勝てるはずがない、そういう残酷な現実を運営が極めて素朴にヴァーチャル・リアリティとして反映させたからだ。

 例えば、最初期の戦闘などはこんな感じになる。

 

 ゾンビに挑めば、こちらの攻撃で倒しきる前に組み付かれハグされて死ぬ。

 獣に挑めば、野生の動きに運動神経がついていけず翻弄されたまま死ぬ。

 空飛ぶワイバーンに挑んだならば、攻撃すら届かずただ一方的に死ぬ……

 

 ……そういうシビアなバランスが様々なモンスターへの個別対策法やクラン戦闘などの集団戦術を発展させたとはいえ、根本的にプレイヤーは弱者の立ち位置だった。

 

 そんな中で今回運営が繰り出した奇手こそが、「だったら敵モンスターをプレイヤー側に加えればいいよね?」というものである。対サーヴァント戦でお馴染みの、バケモンにはバケモンをぶつけんだよ! という考え方だ。いいから数で押しきれ戦いは数だよ諸君! だったかもしれない。

 

「──あ、いましたよ!」

 

「遅いぞ、何してたんだ」

 

 ……と、人の声。

 久々に訪れたカルデアゲートの混沌ぶりに(おのの)くあまり壁際に張り付いて動けずにいた俺を、仲間の方がどうにか発見してくれたらしい。ありがたいことだ。人混みの中から俺に歩み寄る男女二人の見慣れた顔を見つけて、俺もやっと人心地着くことができた。

 

「すみません、まさかここまで混んでるとは思わなくて」

 

「ハ、ちょっと考えれば分かることだろ。人間と使い魔で単純に数が2倍なんだからさ。その上、使い魔共は無駄に図体ばかりデカいときてる」

 

「リーダー……わたしたちだって散々迷ったじゃないですか。仕方ないですよ」

 

「……ハァ!? 何言ってくれちゃってんの!? ……この僕が道なんか迷うはずないだろ!」

 

「……。はいはい、そうですね。極めて順調な使い魔選びの旅でしたねー」

 

「ッ……」

 

 今口ごもった方の男性が、我らがクランリーダー。その名も高き【GOD CHILD】さんである。直訳して神児(シンジ)、すなわち神の子……しかしゲーム開始後しばらくしてからは、クランメンバーたちにリーダーと呼ぶことを強く命じるようになった御方だ。尚このゲームに名前変更は存在しない。

 そんなリーダーは、相当なゲームの腕前に中の人由来と思われる優れた運動神経、そして屑運まで併せ持つ中堅クランにはもったいない実力者でもある。今日も海藻(ワカメ)めいてウェーブする髪が、どこからともなく吹いてくる風に揺れている……。

 

 で、もう一人の女性が【CEO】さん。通称セオさんだ。聞けばゲーム会社の人らしく、仕事でフィニス・カルデア社の人と会ったこともあるという。そんな彼女──現実(リアル)の性別も女とは限らないが──は、同業者としての偵察の意味も込めて『FGO』を遊んでいるのだとか。経営者を意味する名前は駄洒落とのことだが、俺にはちょっとよく分からない……ユニークなセンスを持っているとも言えようか。ともあれ、我がクランの良心とも言える存在である。

 

 ……そして。ここでようやく、俺は二人の背後にいるモノたちが二人の選んだ使い魔だということに気付いた。

 リーダーの後ろには羽を畳んだワイバーンの姿が。そしてセオさんの背後に立つのは、

 

「セオさん。そいつ、【SHADOW SERVANT】……!」

 

「はい。わたし、【ファーストオーダー】はほとんど参加できなかったんだけど、すごく強かったって聞いたから」

 

「ああ、それは確かに……」

 

 穏やかに笑む彼女の背を守っているような……そんな印象を与える墨を流したが如き黒い影は、俺たちが先のイベントで戦った弓兵【エミヤ】の姿を取っていたのである。

 

 ……思い出す。

 あのイベントで、近接戦闘も遠距離射撃も両方繰り出してくる強敵エミヤをプレイヤー勢力が正攻法で倒すことはできなかった。

 諸々の試行の末、結果的には自前のスキルで飛び道具に回避補正を持つらしいクー・フーリンに直接戦闘を任せ、カルデア戦闘服を装備した俺達が遠巻きから【ガンド】をひたすら絶え間なく撃ち続けて支援するという……通称【ガンド15段撃ち】戦法によって何とか打倒したのである。まあ、なんというか互いに釈然としない決着ではあった。

 ちなみに、アルトリアにはガンド自体が気休め程度にしか通じなかった。何か耐性でもあったんだろう。まさに大ボス……

 

 で、そんなエミヤの【SHADOW SERVANT】だって! これは大きな戦力ではないだろうか……!

 

「あのディレクターさんの影もモフモフで良さそうだったんだけどね。わたしは戦闘じゃさっぱり役に立てないから、代わりに頼れるのはありがたいかな」

 

 俺の知る限り言葉を発しない【SHADOW SERVANT】だが、そう言われたエミヤの仕草は、なんだか「任せておけ」と胸を張っているように思われた。心強いね。

 

「おい、僕のワイバーンも見ろよ! この鱗! この翼! 空を制する王者の風格だろ!?」

 

「あー、リーダーその子マジ良いっすねー」

 

 そっちはフランスで死ぬほど見た。

 

 まあ、実際ワイバーンはこれまでの【修練場】でも何度となく殺されてきた相手であるから、その強さは身に染みているのだけれど。カルデアゲートを行き交う混雑の中に使い魔ワイバーンの姿が多いのは、そういう実感を伴う頼もしさが理由なのかもしれなかった。

 

「アッハハハハ! なんだ、お前もたまには良いこと言うじゃないか! ヨォーシいい子だぞぅ……! これがVRじゃなきゃ、僕の彼女をコイツの背中に乗せて新宿の空を飛び回ってやるのにな……!」

 

 ……少なくともこの人は違うみたいだが。聞いた話じゃそのワイバーン乗れないらしいっすよ。

 

 

 

 でも、リーダーの考え方が分からない話じゃないのも確かで。

 

 使い魔の召喚に必要なのは、所定の数のマナプリズムだ。それをプレイヤー自身がカルデアゲートに持参することで使い魔を得る手続きが出来る。

 

 その選択肢は、【修練場】に登場する敵モンスターたち、そして【SHADOW SERVANT】だ。

 【修練場】エネミーは望みのモンスター種を選べるものの、【SHADOW SERVANT】については誰が来るのかランダムだと噂されている。運営が発表した具体的な内訳は、【ファーストオーダー】で俺たちが倒した連中(残念ながらアルトリアは含まれない)+ディレクターのライオンマンらしい。

 味方だったクー・フーリンやマシュさんは含まれていないので、女性型1(メドゥーサ)に対して残り全てが男という悪夢の底なし沼みたいなラインナップになっている。

 

 ……そして、そんな俺たち男性陣に残された唯一の希望たるメドゥーサさんも、『FGO』では性的なアクションが基本的に制限されているせいで眺めて喜ぶくらいしか出来ない上に、眺めようにも文字通りの影一色だ。だったらラミアのほうがまだマシだろ。本当どうしろってんだ。

 

 

 ──というわけで、考えてみてほしい。

 

 もしもこんなゲームの中で、プレイヤーが一体だけ相棒を選べるとしたら。

 それはどういう基準で選ぶことになるだろうか。

 

 

 ……現状におけるその答えを反映しているのが、このカルデアゲートの光景だと言えるだろう。

 特に目立つのはワイバーンとキメラの姿である。

 

 

 結論を言えば、やはりカッコイイ(ワイバーン)モフモフ(キメラ)は強かった。あと影人間の闇鍋ガチャに特攻する人はそんなに多くなかった。端的に言うなら、愛着を持てそうかどうかが勝負を決めたという感じ。ドラゴンと一緒に戦うのは男の子の夢だもんな。よくわかるぜ。

 

「──ってことで、俺もワイバーンをもらってこようと思うんですが」

 

「ハァ!? 駄目だ駄目! そんなの僕と被っちゃうだろうが! だから他のにしろよ、ほら見ろあっちのゾンビとかお前にスッゴクお似合いだと思うけどなァー!」

 

「行ってきまーす」

 

「お、おい、わかったのか!? おい!」

 

 俺はそんな声を背にしながら人混みに混じり、その向かう先へと流されていく。

 まあ実際、発言の意図はともかくリーダーの言葉に一理あるのも事実だ。つまり、被りってのは単純に面白くないのである。ただ、じゃあどうするかという話になると……他のモンスターたちにも血生臭い思い出こそ沢山あるものの「これだ!」という相手がいない。

 

 使い魔との【契約】……。

 なまじあの地下大空洞で劇的な経験をしてしまっただけに、どうにもピンとこないのであった。

 

「はぁー……」

 

 どうせだったら、半端に選ばせるんじゃなく完全ランダムのガチャ形式だったら良かったのに。

 

 そういう思考に耽っていたせいだろうか。

 俺は、人混みに紛れて俺を狙う意思の存在に気づかなかったのだ。いや、気づけと言う方が無理だったと個人的には主張したいんだけど、要するに何が起きたかと言えば。

 

Unsummon Program Start(アンサモン プログラム スタート)

 

 混雑に揉まれる俺の視界に突如現れたシステムメッセージ。

 それが意味するのは、ワープという名の死に戻りで──

 

「えっ……ちょっ!?」

 

 かくして、そんな間抜けな声を残して俺は消失し、その場に残された空隙もきっと一瞬後には人々の波に押し潰されたのだろう。

 

 

 

 ……以上が、俺がカルデアゲートから拉致されるまでのあらましである。

 




現在までの【ワカメ王国(キングダム)】メンバー
・主人公
・リツカ
・リーダー【GOD CHILD】
 海藻系プレイヤー。端的に言ってワカメ。
 通称はワカメ国王、もしくは(ゴッド)ワカメ。
 平行世界ではゲームチャンプになっていたりする彼ですが、GrandOrder世界でどうなっているかは(ロンドン編に登場する『M』のこともあり)不明。今後特異点F絡みで言及されるかもしれないので、とりあえず限りなく彼に近いオリキャラだと思ってください。

・セオ【CEO】
 『空の境界 未来福音』より瀬尾静音。未来視能力者(『FGO』では基本的に使用できない。説明はまたどこかで)。2010年時点ではゲーム会社を経営しているらしい。☆4概念礼装『夏の未来視』のイラストの人。



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