ほぉん、提督ね…………。
!?
「は、はぁあぁあ!!?? げ、元帥!? 提督!? か、カンムスが何かはよく分かりませんが、元帥の持ち物を俺が引き継ぐって事ですか? まだ俺軍学校卒業すらしてないんですが!」
そう俺が大声を出してしまうのも無理からぬことだろう。元帥といえば海軍でも大将より上に位置する、実質最高位の階級である。
そんな人間からーーカンムスが何かはわからないがーー引き継いだらどうなるか、想像するだに胃が痛くなってくる。例えるなら料理を始めたばかりの人間にプロのシェフが一級品の調理道具一式を渡すような物だろうか。な? 重いだろ?
「それは勿論知っている。だがそもそも、軍学校に入れたのは君をキープする為でな。あの時既に何らかのポストが空いていたならすぐに入って貰ったくらいだ。軍に関する最低限の知識さえあれば、艦娘の提督は出来るからな」
そのぐらいの知識なら数ヶ月の座学でどうとでもなる、と笑いながら言う大将にぞっとした。俺2年間通っててまだ覚えてないこと沢山あるんだけど……。っとそれよりも。
「あの、話の腰を折って申し訳ないんですが、その……カンムスって何ですか?」
何であれ面倒ごとは断り早く帰る腹積もりだったので敢えて聞かなかったが、なんかもう断れる空気じゃないし、そうなら知っている前提で話されてもこれから困る。
俺が質問すると大将は今気づいたという顔をした。
「おぉ、そうだったな。まずはそこから説明せねば。折角の資料も無駄になる」
そう言いながら彼は自分の鞄を開き、中から資料らしきものを一部渡してきた。カラー印刷だ。タイトルはシンプルに『艦娘について』。
俺はそれを受け取り、パラパラと捲る。
「カンムス、艦娘ですか。なんか女の子がいっぱい載ってますが、軍人なんですか?」
にしては随分幼く見える者も多い。軍艦を操作する少女だから艦娘、とかか?
「いや、その少女達こそが艦娘であり、戦時下の軍艦の記憶を保有する、深海棲艦に対する唯一の対抗手段たる兵器そのものだ」
資料を流し見ながら何だ深海棲艦って、とか思っていたら丁度深海棲艦の説明をしているページを開いた。
……俺は言葉を失った。
そこには駆逐イ級と名付けられた、文字通りの化け物の写真が載っていた。
えぇ……なんか怪獣映画の敵みたいなのが写ってるんですけど。え、何? 今海にこんなの棲んでんの?
更にページを捲っていく。駆逐ロ級、ハ級、軽巡ホ級、へ級。写真を見れば腕や顔、脚など人のパーツが付いている物も多い、というか人パーツの割合が多い方が危険度は高いようだ。うわ、空母ヲ級なんか普通に人間にしか見えんぞ。その癖記述された危険度はかなり高い。商業船や漁船、海外の軍艦まで沈められたりしている。外見に騙されてはいけないようだ。
…………ん? 待って、艦娘自体が兵器なの?
「艦娘が兵器そのもの、って、どう見ても女の子なんですが。彼女達が深海棲艦を倒すんですか?」
にわかには信じたいが……。
「そうだ。というよりも彼女達しか倒せない。どういうわけか我々人間が作った兵器では、深海棲艦に傷一つつける事が出来なかった。某国が核を利用して攻撃した事があったが、そこまでやって漸く駆逐が一体倒せた程度だ。敵一体につき最低1発なんて頻度で核を撃てば、海は死ぬ。そんな中唐突に現れたのが、艦娘、というより妖精だ」
俺はいつの間にか右肩に乗っていた妖精さんを見る。何故白鳥の湖を踊っているかは不明だ。
「そこに居るのか? ……まぁいい。現れた妖精は瞬く間に多数の艦娘を『建造』し、戦線海域を押し上げた。その後は妖精を見る事が出来る者が艦娘を管理し、各方面の鎮守府に送り、また建造を行い増やしたりしながら日本の制海権は現在まで維持されてきたというわけだ」
ここまでで何か質問は? とこちらを見る大将。
「んじゃ提督っていうのは……」
「お察しの通り、艦娘を指揮する提督だ。彼女達は兵器だが自我が有り感情があり、誇りがある。その艦娘とどう接していくかは提督永遠の命題だ」
なるほどな。…………いや、無理無理無理! こんな女子の集団を指揮する提督になれとか、この人俺に噴死して欲しいの?
「いやいや、俺なんかより適した人間がいるでしょう。提督ってことは艦隊指揮とかあるんでしょう? 俺はそういうの全く覚えてないですよ!」
なんだったら駆逐艦とか軽巡とか言われてもよくわからないレベル。ふーん、軽いのね、くらいの浅さ。
「その心配は最もだが、今回は本当に特殊なパターンでな。君は艦隊指揮をする必要はないぞ。書類仕事をしながら艦娘とコミュニケーションを取るだけ、……ではないが、まぁ大体そんな仕事内容になるだろう」
えっと、それって提督って呼べるんですかね。
「えぇと、どういうことです?」
「では説明を続けよう。ここまでは世界の海の話。ここからは日本海軍の話だ。安心しろ、そこまで長い話じゃない」
よくわからないけど平均評定7超えに戦慄してます。
感謝の極みです。
大丈夫、下がっても文句言わないよ!