捻くれ者と強すぎる艦娘。   作:ラバラペイン

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遅くなった上にクソ長くなりました。
本当に申し訳ない


青葉ノート、そのふぉーとなう

 真面目な空気が霧散してしまったので、一旦追加で紅茶を二つ注文(司令官はシレッとコーヒーをやめました)し、気を取り直して質問再開です。

 

「司令官的に一緒に仕事がしやすかった艦娘は誰か居ますか?」

 

 まだひと月ですがそれでも色々なタイプの艦娘が秘書艦になりました。これの回答により司令官の好みがわかるかもしれません。

 この質問に対し司令官はふむと少し考え、

 

「――仕事がしやすいのは曙、霞、さっき出てきた加賀と……あと能代とか?」

 

 とか? と聞かれても知りませんが、しかしこのラインナップは……。

 

「司令官、まさかドMなんですか……?」

 

 先程も思ったM疑惑。それを自ら補強していくスタイル。

 能代さん以外どう考えても初心者に優しくない方々なのですが……。

 

「ば、バカちげぇよ! ……曙とか霞は、罵倒を気にしなければ普通に仕事しやすい相手だぞ? 他人に厳しい分自分にも厳しいから仕事がスムーズに進む。定時最高」

 

 あぁなるほどそういう理由ですか。

 確かにその二人はそういう性格してますが……。

 

「罵倒、無視できますかね?」

 

 我々艦娘の中でも結構苛烈なお二人ですよ?

 他所の鎮守府ではその罵倒に心折られてしまう方もいるとかいないとか。

 Mでもなければ厳しいのではないでしょうか。

 そう思ったのですが、司令官はそんな青葉の言葉を鼻で笑いました。

 

「はん、自慢じゃないがあの二人程度の罵倒なら俺にとっちゃそよ風みたいなもんだ」

 

「ちょっとメンタル強すぎじゃないですかね!?」

 

 あの二人がそよ風って!

 

「長いこと罵倒に一家言持ってるやつと一緒にいたからな」

 

「罵倒に一家言!?」

 

「1の言葉に10の罵倒で返してくる奴が居てな。最初こそ嫌な奴だと思ってたが慣れると語彙力も高いし一周回ってやり取りが面白かったまである。まぁ知らんけど」

 

 それむしろMになった原因のエピソードにしか聞こえませんが……? 口ぶりから察するにそれなりに仲のいい相手だったっぽいので、あの写真の中の誰かでしょうか。

 あと最後の照れ隠しは遅すぎると思います。

 わざわざ突っ込むと喋らなくなりそうなのでスルーしますけど。

 

「は、ははぁなるほど。では加賀さんは?」

 彼女は初見だとよく『何を考えているか分からない』と言われがちな艦娘なのですが。

 

「俺自身あんまり喋るタイプじゃないから、最低限の会話しか無くても気まずそうにしないのはありがたい。振れる話題とかないし」

 

 理由が斜め下……。その癖表情とかは見てるんですよねこの司令官は。

 

「そのコミュ力でよく加賀さんの表情見分けられましたね?」

 

「逆だ。ぼっちは普段会話しないせいで少ない情報から相手のタイプを判断出来ないと命取りになるんだよ」

 

 苦手な相手を一目で見分けられないと距離を置くのが遅れるだろ、と司令官は言いますが……。

 

「えぇ……、それはもう普通に高度な技術なのでは?」

 

 要は初見で敵か味方か分かるということでしょう?

 

「取得理由が悲しすぎるけどな。それと敵を見分けることは得意だが、味方を見分けるのは苦手だから実は高度でもない」

 

「? 敵がわかれば味方も分かるでしょう?」

 

「その時敵じゃないだけで味方とは言えないだろ」

 

 うわぁ、一気に微妙な感じに!

 

「それもうただの疑心暗鬼では!?」

 

 青葉が思わず叫んでも、

 

「まぁな」

 

 フッと笑いながら司令官はいっそ誇らしげです。

 

「いやなんでちょっとドヤ顔なんですか」

 

 妙に腹立たしいので止めて欲しいです。

 にしても、先程から「今のところは」と前置きしているのはそういうことだったんですね。……あれ、今測ってるのこちら側ですよね? なんだかこっちが見定められている気がしてきました。いや見てくれるのは嬉しいんですけどね。

 

「何でもかんでもすぐ信じられる程ガキでもお人好しでもないだけだ。お前だって俺が提督に相応しいか見るためにこんな尋問してんだろ?」

 

 ギクゥ!

 

「いやぁ、あっははー!」

 

 痛いとこを突かれ思わず笑って誤魔化してしまいました。まぁバレてますよね!

 

「誤魔化し方雑すぎだろ……」

 

 そんな青葉に司令官が呆れるような視線を向けてきます。 目論見がほぼバレたと言っていい青葉はたははと苦笑いです。

 

「そうは言ってもあまりそういう意図が透けてしまうと身構えられると思っていましたからねぇ。今では司令官がこういう時正直に答えてくれるタイプなのが分かってきましたが」

 

 むしろ正直すぎるくらいですよね。

 普通はこういう時印象を良くしようとするものです。

 しかしこの司令官、見栄を張らないというか……自分をよく見せようとするどころか、むしろダメな所を前面に推し出してくると言いますか。そも最初の自己紹介から「ぼっちだ」でしたし……。

 

「変に期待されるのは嫌だからな。ハードルは下げるに限る。幸い俺が正直になると評価は大抵下がっていく」

 

 もしくはハードルを上げまくって潜るしかないな、なんて阿呆なことを。

 とはいえ司令官の目論みは失敗しているんですけどね。現状青葉からの評価は低くありませんので。

 隠さないこと、嘘をつかないことはなんであれ好印象です(勿論秘密を一切許さないわけじゃありませんよ!)。艦娘全員に好かれる、ということは無いかもしれませんが、逆に先程の望月さんのようにドンピシャでハマる方も少なくないでしょう。

 

「そんなことを幸いと言えるのは司令官だけですよ。それで送り返されたらどうするんですか?」

 

 妹さんにおニートちゃんって呼ばれちゃうんでしょう?

 

「正直送り返されたら本気でやべぇ(就職的な意味で)。でもな、愛想笑いとか出来ないし、場の空気とか読みたくないし、恩師曰く性格も捻くれている、要は社会不適合者だ。それを自覚した上でこの性格を変える気がないのは、ただの俺のワガママだ。そんなワガママに艦娘が無理して付き合う必要は無いだろ。片方が我慢しなきゃ成り立たない関係なんて、俺は願い下げだしな」

 

 兵器である艦娘に対して対等の関係を望む様な発言。やはり、変わったお方です。

 

「ご自分に対して随分厳しくないですか?」

 

 要するに嫌だと思ったらすぐに司令官変更を要請しろってことですよね?

 

「いいや? むしろ激甘だぞ? 自分大好き」

 

 青葉は司令官の目をじっと見つめます。今の発言には嘘を感じました。これまでの発言から考えても説得力が無さすぎです。

 

「な、なんだよ」

 

「なーんでもありませーん」

 

 まぁ今日追求することでもないでしょう。それこそ時間が必要そうです。

 しかし適当に誤魔化す青葉に司令官は渋い顔。

 

「なんだそれ腹立つな」

 

「大丈夫です。司令官のドヤ顔もなかなか腹立つ感じでしたから!」

 

「何が大丈夫なのそれ」

 

 サムズアップして言い放つ青葉に司令官はげんなりした顔。

 多分何も大丈夫じゃないですが話は逸れましたね。逸れた話から逸れました。

 閑話休題です。

 

「えぇと、話を戻しましょうか。仕事がしやすい艦娘に霞さんや加賀さんが入っている理由は分かりましたが、能代さんはなんでですかね?」

 

 タイプ的には先程の二人と真逆と言っていいと思いますが。

 

「あいつか。いや、明るいし優しいし社交的だし、俺の苦手なタイプのはずなんだが、……なんつーの? 良い意味で普通の奴だったからかね」

 

「明るくて優しくて社交的な方が苦手って凄いこと言いますね司令官! ……って、普通ですか?」

 

「おう。まぁ確かにタイプで見れば苦手ではあるが、例えば19みたいに引っ付いてこないし、時津風のように喧しくもない。今後上手くやれるかは知らないが、仕事はしやすいタイプだったな」

 

 あぁ、時津風さんも秘書艦をやっていましたね。確か司令官への評価は高かったはずです。

 そう考えると、艦娘から司令官への評価と司令官から艦娘の評価が反比例する傾向にありますね。

 押しが強い艦娘が苦手な癖に押しに弱いのでそりゃそうなりますが……なんなんでしょう。もしかして妹さんの影響でしょうか? 年下に弱そうな感じがしますし。

 それで言うと押しの強い艦娘と弱い艦娘の、丁度中間地点ギリギリが能代さん、といったところでしょうか。

 

「青葉はいま司令官の特殊さを改めて噛み締めていますよ……」

 

「いいじゃねぇか特殊。英語で言えばスペシャルだ、なんか優れてるっぽいだろ? ってなんか既視感……」

 

「あれ意外とポジティブですね!?」

 

 でも基本は後ろ向きっぽいですし、司令官がポジティブなのかネガティブなのか分からなくなってきました。

 

「いや、後ろ向きに前向きなだけだから結局ネガティブだぞ」

 

 ぐぬぬ、後ろ向きであることに誇りすら持ってそうな顔を……。

 

「それ回れ右出来ません?」

 

「無理」

 

「ですよねー」

 

 極めて端的な二文字の返答。

 性格は簡単に変わりませんし、何より変える気が無いと明言してますからね。

 なんて、色々言いましたが青葉的にも、司令官に性格を変えて欲しいとは思ってなかったり。今のままでも問題ないでしょう。この性格なら艦娘に無理に迫ることも無いでしょうから。……まぁ同意があれば良いんですが、むしろ司令官が拒否しそうな勢いですねこれ。

 

 さて、では最後の質問に行きますかね。

 

「では次ですが、出来れば思ったままを正直に答えて欲しいです」

 

 この人には不要なお願いかもしれませんがそう前置いて。

 

「なんかこえぇな……」

 

 青葉の雰囲気が変わったことを察知し、本気の質問だと理解したのか司令官も居住まいを正します。

 

「別に怖がるものでもありませんが……、いえ、既に怖がられているかもしれませんね。――ご存知の通り、ここ艦娘鎮守府の艦娘は非常に強いです」

 

 たった一カ月ですが、演習や実戦をほんの少しでも見れば、嫌でも理解できる我々の異常なまでの強さ。

 

「あーまぁ、そうだな。お前らが戦ってるのを初めて見たとき、深海棲艦が気の毒になるレベルだったし」

 

 蹂躙。対深海棲艦においては、まさにその表現が当て嵌まるでしょう。現在、鬼級だろうと姫級だろうと青葉達であれば誇張無しに鎧袖一触です。

 

「そうです。問題なのは数くらいで、現状において我々の脅威となる深海棲艦の個体は存在しないと言えるでしょう」

 

 説明する青葉に司令官が続きを促します。

 

「おう。それで?」

 

 さてここからが本題。

 ――あぁ、こればっかりは聞くのに勇気がいりますね。

 

「その…………し、……司令官は我々が怖くはありませんか? 他の鎮守府では苦戦するような相手を片手間に撃破するような、そんな我々のような化け物をいきなり相手にする羽目になって、恐怖や後悔はありませんか?」

 

 色々質問しましたが、結局はこれが聞きたかっただけなのです。先程の『艦娘をどう思うか』という質問が、艦娘という存在を知ったことについての質問なら、これは我々の異常な強さに関しての問いです。

 我々艦娘にとって司令官とは、無くてはならない存在です。司令官の居ない艦娘は徐々に弱体化し、最後には消えてしまいます。勿論強くなることに否やはありません。ですがその結果として、司令官に恐れられることだけは耐えられない。他の誰にどう思われても、これと決めた司令官だけには恐れられたくないのです。

 そんな青葉の真剣な気持ちを察したのか、司令官はゆっくりと話し始めます。

 

「そうだな……。さっきも言ったが俺は他所の、所謂一般的な艦娘を見たことがない。その上で答えるなら――当然怖い、だ」

 

 青葉の心が深い落胆に包まれます。

 

「そ、そうですか……」

 

 やはりここまで強くなってしまっては、分かり合えないのでしょうか。いえ当然ですよね、いくら外見が人間に似ていてもその正体は兵器です。むしろ人間に似ているからこそ違和感を強く感じてしまうかもしれません。不気味の谷現象……、とは少し違いますか。と、一人で落ち込んでいると。

 

「なんせ、うっかりセクハラ紛いの事故でも起こそうものなら速攻で簀巻きにされて送り返されるだろうことが想像に難くないからな」

 

「…………へ?」

 

 気分がどん底に落ちていた青葉は、一瞬司令官が何を言ったのか分かりませんでした。

 

「この女所帯だ、どんな事故があってもおかしくないし。いやマジで注意しねーとな」

 

 うんうんと一人で頷く司令官に青葉は付いていけておりません。

 この人全然察してませんでした!

 

「い、いやいやいや、強さについては!?」

 

 化け物じみた強さが怖くないかという質問なのですが!!

 

「あぁん? 強さに関して言えば、俺からしたらもっと強くなっても良いんじゃねーの、とか思うくらいだぞ」

 

 更にこちらの不安なぞ知らんと言わんばかりに、耳を疑うようなことを言いました。

 

「もっとですか!?」

 

 現状でも古参が二人も居れば連合艦隊を蹴散らせるんですが!!

 そう思い司令官の目を見ますが、そこには嘘が含まれていません。本当に、セクハラで送り返されること『のみ』を恐れています!

 

「おう、もっとだ。なんでかっつーと…………その、なんだ、轟沈って要するに死ぬと同義なんだろ?」

 

 話題に出すのも申し訳なさそうな表情で轟沈について聞いてくる司令官。青葉もいつの間にか乗り出していた身を戻します。

 

「え、えぇまぁ」

 

 艦娘にとっての轟沈は、仰るとおり人間で言うところの死を意味します。ごく稀に轟沈した艦娘がドロップ艦として帰ってくることはありますが……、それは極めて稀な事例です。植物状態になった人間が奇跡的に眼を覚ますくらいに稀です。

 

「仮にも軍属が情け無いことを言うとな、…………俺にはまだ覚悟が出来ていないんだよ。見知った奴が死んで帰ってこないかもしれない、なんてことに対する覚悟がな」

 

「それは……」

 

 甘い、そう言われてもおかしくないことを言いますが一方で、彼は一般からスカウトされてきた人間ですから仕方ないところでもあります。

 

「甘いと言われればそれまでだ。俺だっていずれ覚悟を決める時が来るだろうことは理解している」

 

 今の司令官の眼は真剣そのもので、腐っているだなんてまかり間違っても言えません。

 

「だがまだ、まだ覚悟なんて出来てない。むしろ来たばかりで、お前らの命の重さをわかった気になるなんてそれこそ戦っている奴に対する冒瀆だ」

 

「司令官……」

 

 後から思えば、その言葉を聞いた時だったのでしょう。青葉がこの司令官なら大丈夫だと、本当の意味で感じる事ができたのは。

 だって、知ろうとしてくれているのです。わかった気になって満足するのではなく、かと言って理解することを諦めるわけでもなく。随分と不器用ですけど、真剣に向き合おうとしてくれている。それだけでも、それが分かっただけでも、この場を設けて正解でした。

 

「だからこそお前達がやたら強いことに俺は安心したくらいだ。慢心じゃなく『あぁこいつらは大丈夫だ』と、納得せざるを得ない程の強さだったからな」

 

 恐がるどころか、安心ですか。

 青葉達が深海棲艦を倒す様を見て、そう言えてしまうこの方は中々だと思います。殆どの人は、やり過ぎだと言うでしょうから。

 

「安心したなら、何故もっと強くなって欲しいと?」

 

 正直、強くなり過ぎて自分で自分が怖いのですが。

 

「まぁ、なんつーの? 出る杭は打たれるからな。俺にはリスクが深海棲艦だけとは思えんし」

 

 恐らく、大本営から見た我々の立場のことを仰っているのでしょう。

 

「それならより一層力を抑えた方が良いのでは?」

「今のままならな。だが出てるのが杭じゃなくてビルなら、流石に打とうとも考えないんじゃねーの。それに甘かろうがなんだろうが、こちらに被害が出ないに越したことはない。ここの艦娘一人一人がいかに強くても、数だけはどうしようもないだろうからな」

 

 確かに数の少なさは問題点の一つです……。我々が鍛えれば、一般的な艦娘でも我々レベルまで上がってくることが不可能ではありませんが、それは我々を脅威に感じている大本営が許さないでしょう。だからこそ既にある戦力を更に強化するというわけですか。

 

「それにお前らがいい奴なのを知っちまった今、沈まれると後味が悪すぎる。…………ハッ、結局これも自分が辛い思いをしたくないだけの自己中で、お前らのことなんて考えてないのかもしれないがな」

 

 そう言って自嘲ぎみに笑う司令官のその顔には、本気の自己嫌悪が見て取れます。

 ……ですが。

 

「大丈夫です。本当に自己中心的なら、そもそもそんな言葉が出てきません。そういう方は他人がどうなろうと気にしないはずなのですから。そんな発言が出てくる時点で司令官は優しいのだと青葉は思います」

 

 そう伝えると、司令官は居心地が悪そうに顔を顰め、

 

「優しくはねぇんだけどな…………まぁ、あれだ。とにかく沈むなよ? 戦力が足りなくなったら困るからな。千葉が」

 

 と話を終わらせようと今更すぎる小悪党アピールを始めました。ある意味これは一周回ってデレですね。というか心配するのは千葉だけですか!

 

「ふふふっ、勿論そう簡単に沈む気はありませんよ!」

 

「えぇ……なんで今ので笑顔になるの?」

 

「いえいえ。ただ司令官とならこれから上手くやっていけそうだなと思っただけですよ。司令官は嘘が下手みたいなので!」

 

 司令官が本気になったらどうかは、まだわかりませんが。

 

「うへぇ、理由が悲しすぎる。――って嘘とかつ、ついてねーし? 本当に俺が心配してんのは千葉だけだ。より言えば小町」

 

「ふむ。ダウトダウトちょっと本当、ですかね」

 

 嘘付いてないから数えて。

 

「おい精度高すぎるだろ……何、嘘発見機か何か?」

 

「や、今のは流石に誰でもわかりますよ?」

 

「はははまさか。………………マジかよ」

 

 奇しくも先ほどの青葉のような反応をする司令官。

 

「目が泳いでましたし」

 

 指摘すると司令官は両手で目を覆いました。

 

「俺嘘を上手くつけるように頑張るわ」

 

「何面白いこと言ってるんですか……」

 

 まぁ流石に冗談でしょうけど。

 と、質問にも一区切りが付き。ふと壁に掛かっている時計を確認すると、なかなか良い時間になっていました。

 

「さて、質問はこんなとこですかね。青葉の我儘にお付き合いいただきありがとうございました!」

 

「おう。あー疲れた、今日はマジ頑張ったわ。お疲れー」

 

 そう言って席を立とうとする司令官を青葉は慌てて止めます。帰るとなると動きが速い!

 

「ってちょっと! これからお仕事ですよ!!」

 

 そう指摘すれば、司令官は顔全体で絶望感を露わにします。すごい! 目が死んでます!

 

「チッ、駄目か……今の問答でもう大分疲れたんだけど、これから仕事ってマジ?」

 

 ここに来て1時間半ほど経ちますが、問答だけなら30分も話してないですよ? あとは食事中の雑談です。

 

「まぁまぁ。今日はそんなに忙しくないですし、青葉も頑張りますから!」

 

 そう言うと、司令官は渋々、本当に渋々ですが仕事に向かってくれる気になったようです。面倒そうな態度とため息を隠しもしませんが。

 

「はぁ、しゃーねぇか……。そういや、今日の質問の回答ってどうすんの?」

 

 メモってたけど、と司令官。

 

「わかりやすく纏めてから新聞に載せますよ? 艦娘専用の新聞なので司令官は読めませんが」

 

 まぁどうしても読みたいと言われれば渡すのも吝かではないです。ないですが、司令官は艦娘専用の新聞の内容にはさほど興味がないようです。もちょっと興味持っていいんですよ? よ? とチラチラ視線を送りましたがガン無視されました。

 

「ほー、そんなのがあるのか。正直目立ちたくないから載りたくないが今回に関してはそういう訳にもいかんだろうし……そうだな、『仕事苦手な提督なので是非執務を手伝ってあげましょう!』とでも書いといてくれ」

 

「いやいやダメです!」

 

 それとなく自分の仕事を減らす気満々じゃないですか!

 青葉は両手をバツにしてダメアピール。

 

「嘘は書きませんよ! というか大和さんが認めてる時点で執務能力が高いのはバレてます!」

 

 全く、隙あらば仕事を減らそうとしますねこのお方は。

 

「大和め、余計なことを」

 

「いや褒められてるんですよ!?」

 

「仕事が増えるなら嬉しくねぇな……もっとゆっくりやるか。いやそうすると休憩時間減るしなー……」

 

 声、声が漏れてます。

 

「あの本気でサボる方法を検討するのやめて貰って良いですかね」

 

「あっ、いや冗談だ」

 

 絶対嘘です。目が泳いでますもん。

 

「とにかく、これから一緒にお仕事へ向かいますよ!」

 

 言いつつ、青葉も席を立ちます。

 望月さん並みに仕事嫌いなようですので、逃げないように腕を掴みます。

 

「お、おい、そんなことしなくても逃げねぇよ」

 

 途端に挙動不審になる司令官。相変わらず接触に弱い模様。

 

「お気になさらずー」

 

「いやなさる、なさるよ。……ねぇ聞いてる?」

 

 司令官の言葉をスルーしながらお店を出ます。

 あ、勿論鳳翔さんに朝食のお礼を言うのは忘れません。

 

「今日も美味しかったですよ!」

 

「ありがとうございます。提督はどうでしょう? お口に合ったなら良かったのですが……」

 

 訊かれた司令官は、

 

「いや美味かったよ。超美味かった。あれが口に合わないとか言う奴が居たらそいつはただの味音痴だ。なんなら毎日でも食べたいね。ごちそうさまです」

 

 ものすっごいべた褒めでした。

 鳳翔さんも、「まぁ、ありがとうございます」なんて言って嬉しそうにしており、青葉も我がことのように嬉しく思いうんうんと頷いてました。

 

 ――因みに余談ですがこの司令官がここまで素直に、しかも本人を前にノリノリで褒めたのは後にも先にもこの時くらいで、実はかなりレアな場面を目撃していたわけですが、残念ながらこの時の青葉は知る由もありません。鳳翔さんの料理、おそるべし。

 

 

 さてその後は、予定通り執務室で業務を開始し、司令官の予想以上の書類処理能力の高さに驚いたり(休憩時間を伸ばす為に爆速で処理するんですよこの人)、なんだかんだ言いながら不測の事態が起これば残業してくれることに驚いたり、まぁ色々ありましたが恙無く、本日のお仕事を終えることが出来ました。

 

 そして――

 

 

 [現在]

 

 青葉は先程撮影した司令官の写真の現像を終え、自室で一息つきつつこれまでのことを思い返していました。

 あの時のインタビューで感じた通り、彼は色々言いながらも青葉達の司令官をやってくれています。仕事は早く、戦術に関してもなんだかんだ少しずつ覚えてくれていますし、司令官の表面上のやる気のなさとは裏腹に結構真面目(社畜)で驚いたくらいです。勿論艦娘に手を出したりもしていません。

 

 そう。一年一緒に居て、司令官の良さを知った艦娘は少なからず居ますが、そうした者達がそれとなく好意を示そうと、割と素直に好意を伝えようと、なんならPolaさんのように酔って全裸であろうと、凄まじい理性により絶対に手を出しません。

 

 それとなく、同意であれば良いんですよ的なことを大和さんが伝えたそうですが、返ってきたのは『ほーん、まぁ俺には関係ないな。俺にそういう場面が来たとしたら艦娘に手を出さないかどうか試されてるだけだろ』だそうです。他人不信、というか普通に女性不信すぎます……。過去に何があればそんなことに……。

 

 しかしまさか、『艦娘に手を出さない』という項目で艦娘が困ることになるとは……。

 司令官のガードが固すぎて一部艦娘のモヤモヤがやばいです。

 

 青葉? 青葉は――

 

 せいぜいケッコンできたらなと思う程度ですよ!




めっちゃ描くのが大変だった話でした。
面白くなかったらすまぬ

次回の予定としては、しばらくのほほんとした話を上げようかと。
サンマネタ
水着ネタ
カッコカリネタ
あたりを考えています。プロットが出来たやつから上げてこうかな。
予定は未定

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