反省会も終わったので次はMVP決めである。各チーム一人ずつ選び出す。
今回の演習はどちらのチームもかなり見所が多く、それはつまり活躍した艦娘が多いということでもある。なので当然選出は難航するーー
ーーなんてことは無く。普通にサクッと木曾と島風に決まった。
木曾は島風を相手取りながらBチームを狙撃し、かつ戦艦と真っ向から戦って勝つ戦闘力、そして長期の撃ち合いを二度続けて行ったにも関わらず中破止まりの生存性能。これでダメなら一体どんな化け物がMVPを取れるのかという話になるので即決定。
島風はまだ木曾や加賀の領域に達していないのに一人で木曾を抑えてみせた。砲撃を止められていないと思うかもしれないがそもそも木曾の前に長時間立っていられるだけで凄いのに、あろうことか中破にまで持っていった。ということで島風に決定。
青葉が推していた空母二人は、
「そのMVPは余力を残して加賀の艦載機を落としきれる様になった時まで取っておくわ!」
と大変男前な台詞を発していた瑞鶴と、
「うちは実戦の方でいつもMVP貰っとるから別にいらんよー」
と大変身も蓋もない台詞の龍驤の対比が印象的だった。
まぁそんな訳でMVP決めも終わったので。
「はい、じゃ解散。さっさと入渠してこい。あ、旗艦は報告書を忘れるなよ?」
はーいと返事をしながらぞろぞろと入渠施設に向かう艦娘達。あれだけ騒がしかった発着場は鳴りを潜め、しんとした空間に残っているのは俺と青葉、それから望月だけとなった。ん? なんで帰らないのん?
「おら、お前らも散った散った」
そう言って手をしっしっと振る俺に対して、何言ってんだこいつみたいな顔をする二人。
「えー」
「司令官。さっきの約束、もうお忘れですかぁ?」
え? ……あっ。
「いやすまん青葉、素で忘れてたわ」
写真撮らせるって言ったんだったな。……面倒くせぇけど。
「まぁ青葉は分かった。望月はなんで残ってんの?」
視線を向ければ、未だ艤装を背凭れにだらけきった少女がいる。
「あー、歩いて帰るのめんどくせーから司令官に負ぶってって貰おうかと」
「ふざけんな」
いやもうホントに。
「望月さんすみませんねぇ。青葉が先約なので、今日の所は歩いて帰って下さい!」
「うへぇ、まじかよぉ、めんどー……」
いやそんなうげぇって顔しなくても。言っちゃうけどそんな距離ないからな? 五分もかからないからな? だがこうなると望月は動かない。どうしたものか……。
「まぁまぁ望月さん。……ごにょごにょごにょりん………」
どうするか考えていると何やら耳打ちを始めた青葉。何話してんだ?
話の内容はさっぱりだが、望月は怪訝な表情の後驚いた顔となり、その後何故か赤面し、そして最後には、
「しょ、しょーがねぇなー。しょーがねぇから今日は歩いて帰る。青葉、約束忘れんなよ!」
そう青葉に念を押してから本当に歩いて帰っていった。バカな……!
「あぁなった望月が素直に帰る、だと……!?」
あいつが秘書艦になった時にもあんな風に梃子でも動かなくなって、一日鎮守府の機能が停止したことがある位なんだぞ!? 俺も一緒になってサボっていたのはさて置いて。さて置いて!!
尚後日二人とも大和にこってり絞られ、望月は秘書艦出禁になった。
「ふふん! 青葉の交渉術の賜物ですっ! ささっ、司令官、着いてきて下さい! 写真を撮る場所は決めてあるのです!」
一体どうやって望月を説得したのか非常に気になるが、青葉が俺の手を引っ張り始めたのでそれどころじゃなくなった。手を掴まれた事がまず恥ずかしいし、この歳(21歳)になって手を繋いだ程度で恥ずかしがっている事実がまた恥ずかしいという負の連鎖。ダサい。
俺が童貞力を発揮して思考回路をバグらせていると、いつの間にか目的地に到着していたようで青葉の手がスルリと離れていった。
どこだよここ、と辺りを見渡す。
移動したとはいえここも変わらず海岸で、先程と違うのは人の手が入っておらず一面がゴツゴツとした岩場であること。要はグラビアアイドルがイメージビデオの撮影に使いそうなロケーションだという事だ。おい、撮られるの俺だぞ。
手を離した青葉は更にスイスイぴょんぴょん岩の上を移動し、ある程度まで進んだ所でこちらに向き直る。
「あれ? 司令官! こっちです! ここですよ!」
どうやらあの場所が青葉の目的地らしい。俺が着いて来ていない事を不審に思ったのか手をブンブン振ってアッピルする青葉。なるほど、岩場の中でもより海沿いで撮るわけか。大丈夫? 踏み外すと結構深そうだよそこ。
とはいえ行かないことには始まらない。こんな面倒なことはさっさと終わらせるに限るのだ。書類の山残ってるし……。
俺もスイスイぴょーーあっぶね! 足挫くとこだったわ! 無茶せず慎重に行こう……。ところどころ屁っ放り腰になりながらも青葉の側に向かう。
青葉の前に辿り着くと、見渡す限りの海が視界に広がった。この海が深海棲艦に脅かされているとはな。まぁウチの艦娘のおかげでここらは安全だが。
「では司令官、早速撮っていきましょう。時間は有限です!」
そう言ってカメラを構える青葉。カメラに詳しくはないから何とも言えないが、中々値が張りそうな見た目をしている。少なくとも安いデジカメではないようだ。
「つっても俺に出来ることなんて立ってることぐらいだ。ポーズとか要求されても困るぞ」
「だいじょーぶです! 撮影の練習なのですから、それこそ腕の見せ所です! さ、そこで普通に立ってみて下さい!」
青葉の勢いが凄い。その勢いに乗せられて撮影が始まった。なかなか長い撮影だったのでその様子をダイジェストでお送りしよう。
【五分経過】
ものっそい撮られてるんだけど。シャッター音が鳴り止まない。青葉も撮りながらも常にポジションを変えていて、『ありとあらゆる角度から沢山』と言っていたのは誇張でもなんでもないことを態度で示している。
「いいですねー、司令官って意外と写真映り良いんですね!」
「マジで? そんなこと言われた事ないんだけど」
「いやぁ、良い練習になります!」
【十五分経過】
「しっ、司令官! この角度! この角度やばいです! 凄くカッコいいです!」
「は? いやお世辞とかいいから」
「青葉は写真でお世辞は言いません!」
クワッと目を見開き怒るように言う青葉。
「お、おう、すまん?」
むしろそう言い切るお前がカッコいいな。
「凄いですよこれは大発見ですよぉ! ちょっと腰に手を当ててみてくれませんか?」
青葉のテンションに押されるように腰に手を当てる俺。まぁ他は変わらず直立だが。
「はぅわっ! 殺人的です!」
何が?
【三十分経過】
「いいです良いです、凄く良いです! ちょっとそこの岩に片脚を乗せて、そうです! クール!」
「そ、そうか?」
アオリで撮るためにローアングルに構える青葉。
「あっ、顔は動かさず視線だけください!」
「あーっと、……こうか?」
「痺れるぅ! カッコ良いですよー!」
さっきからどストレートに褒めてくるのでだんだんと頭がぼーっとしてくる。褒められ慣れてなさ過ぎて辛い。
というかこんなに撮ってフィルム切れを起こさないのかと不審に思っていたが、妖精さんがちゃっかり運んで来ていた。青葉がフィルムを交換するタイミングでサッと妖精さんから渡される新しいフィルム。連携がバッチリすぎる。
というか、あっちにいる妖精さん、いつの間にかレフ板持ってない?
【一時間経過】
「こんなポーズとかどうだ」
「その発想は無かったです! 天才ですね司令官!」
なんか俺も変なテンションになってポーズを取り始めていた。
良い時間になってきたことにより太陽は海に沈み始め、空の色は橙色に染まり、それがまた青葉のテンションを上げる。明るさによって撮影の仕方も変わるんだそうだ。
「ひゅう! 司令官、サイコー!」
「ふっ、やめろ照れる」
ーーそして。
「なんで俺はあんなにノリノリでポーズ取っちゃってるんだ……」
撮影終了後、俺は頭を抱えていた。あんなにノリノリな俺は俺じゃない。
というか青葉の乗せ方が上手すぎる。え? お前が乗せられやすいだけだろって? 分かってるよチクショウ黒歴史確定だよ。妖精さん、後で思いっきり悶えたいから俺の部屋防音にしてくんない? ダメ? そう……。
対して青葉はツヤツヤした笑顔で、
「司令官、今日は有意義な時間をありがとう御座いました! ……いやー、凄い収穫でした。これは、売れますよぉ」
と後半何を言っているのか聞き取れなかったが、まぁ非常に喜んでいることは分かった。
「そ、そうか。喜んでくれたなら何よりだ」
この疲労感の甲斐があったなら、良しとする。したい。
「はい! では青葉には現像の作業がありますので、これにて失礼しますぅ。長らく引き止めてしまいすみませんでした! でわっ!」
よほど早く現像したいのか、足早に去って行く青葉を見送る。
まぁ後で冷静になってなんで俺なんか撮ったんだと後悔しないことを祈ろう。
さて、俺も帰って仕事しよ。もう日が沈んじまったよ。
そう思って歩き出そうとした瞬間、背後の海からバシャァ! と何かが飛び出してきた様な音。続けてビシャっとすぐ後ろに着地した気配。そして、
「海の中からこんにちは!」
初めて会った時も聞いた、この特徴的なセリフ。
「お、お前は、5--」
「--なのね!」
「19かよ!」
姉妹艦のセリフ盗るんじゃありません。
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【望月と青葉】
「まぁまぁ望月さん、……これから青葉は司令官を撮影するのです。今引いてくれたらその時のベストショットをタダで進呈しましょう」
「なっ!? あ、あたしは別に写真とか、いや……うー、欲しい」
「では契約成立ですっ。いやー、司令官愛されてますねぇ」
「愛とかじゃねぇし!」
※ここまで八幡には聞こえない高度な小声。
カメラよく知らないのでぼっけぼけな描写です。ごめんね。