心へのダイレクトアタックをした大将は、俺が回復するのを特に待つことなく話を続ける。
「話を戻すが、まぁつまり君は艦娘と軍の望む条件を全て満たしてしまったわけだ」
なんてことだ。
まぁ確かに? 艦隊指揮とか分からないから任せていいなら艦娘にお任せするし、出世にも興味が無いから野心とか皆無だし、ヘタ……げふん紳士だから艦娘には絶対に手を出さないだろうけども。紳士だから!
と、そういやもう一個要望あったな。
「えーと艦娘を他者に利用させないってのがよくわからないんですが」
「その項目に関しては艦娘もあくまで可能性を考慮しての追加だろうな。だが実際、表面上はいい顔をしながら悪意を持って近づいてくる他所の提督がいるかもしれん。それを口八丁手八丁で追い返してくれればいいんだ。弟に聞いたぞ? ぼっちは悪意に敏感らしいな」
あー、先輩とそんな話をした覚えあるわー、超あるわー。
先輩にドヤ顔でぼっち論を語ったあの時の俺をぶん殴りてぇ。
しかも表面上はいい顔しながら近づいてくるってのが簡単に想像出来るあたりがすごく嫌だ。具体的には文化祭の時奉仕部に来た相模みたいな(あいつは誰が見ても悪意を隠せていなかったが)。
「まぁそうですね。視線や悪意に気づけないと、後で取り返しのつかないことになるのがぼっちですし。とはいえ追い返せと言われても、俺にできることは少ないですから、何するか分かりませんよ」
土下座とか? だが手段がそれしか無いなら俺はやる。
「君のやり方ついては話を聞いたぞ。君をスカウトした後、君について少し調べたからな」
スカウトした後ってことは、本当に突発的スカウトだったんだな……。
って話を聞いたって誰にだ。
「えっと、誰に聞いたんでしょう?」
親? いやそれは無いか。
「君の卒業した総武高校の、確か平塚さんといったかな。その人に聞いたよ。色々と、な」
平塚先生ぇぇぇ!!!
よりにも寄ってあの人か!
全部知ってる人じゃねぇか! 赤裸々だよ!
「君は随分と手段を選ばないらしいな。まぁ、それも何かを守る為だと、平塚さんは言っていたがな」
「……誰かの為じゃなく、いつだって自分の為ですよ」
いつだって俺は出来ることをしただけだ。やらなかったことで後悔したくないから。そう思い大将を睨もうと思ったら。
「おぉ……」
なぜか凄い感心した表情を浮かべていた。
「あの、どうしたんでしょうか?」
上官に向かって生意気なことを言ったわけだから怒られると思ったのだが。
「あぁいやすまん。平塚さんの予想がドンピシャだったものでな。私が先のような事を言えば、捻くれた答えで返してくるだろうと言っていたのだ。いやはや、よく見ている先生だ」
平塚先生、俺のこと話しすぎです……。
こうなっては俺ももう赤面するしか無かった。
「まぁともあれ、君のその目で艦娘を悪意から守ってやってくれ。手札が足りんのなら私を頼っても良い。その為の強欲な壺にくらいはなってやれるさ」
唐突にネタぶっ混んできた!?
「あ、あぁ、はい。よろしくお願いします……」
なんでここまでしてくれるのか分からないのが凄い怖い。悪意は無いみたいだから良いけど。
「む? 通じなかったか……」
通じました! 通じましたが上官の唐突な遊○王ネタに困惑しているだけです。さっきまでのちょっとシリアスな空気を返して!
いきなりこの手のネタ差し込んでくるとか、この人平塚先生と相性良いんじゃ……? まさかな。
そんなことを考えていたら大将は話は終わったとばかりに立ち上がる。
「まぁいい、では行くか」
「はっ? 行くってどこにでしょう?」
色々とあるだろう手続きとかしに行くのかね?
「君のこれからの職場だ」
「えっ、今からですか?」
応接間を出る大将を追いながら問う。
「あぁ。といっても私が行くのは途中までだが」
「いや、どこに行くか知らないですが色々と手続きとかあるんじゃ……」
「終わっている」
「えっ」
「最初の方に言ったはずだぞ? 私の権限で『ねじ込んだ』と」
あーはいはい、言ってましたねそんなことを確かに。成る程ねー。
…………完全に事後承諾じゃねぇか!
「さっきまでのやり取りは何だったんだ……」
そう独り言を呟く。
主に俺の健気な抵抗とか無駄じゃん。
「ま、最後の面接といったところかな。良かったな、合格だよ」
そう言ってニッと笑う大将。う、嬉しくねぇ……!
…………はぁ。
ま、仕方ないか。給料良いしな。この面倒な性格だ、艦娘と仲良くなれるとは思っていないが、最低限の接触でなんとか……。
「あ、そうそう、艦娘と仲良くなれとは言わないがせめて嫌われないようにな。あそこで嫌われたら針の筵だぞ」
悪意を追い返すよりも高難度な指示が後から追加された件について。畜生、だから働きたくなかったんだ!
「あの、俺の職場ってどこにあるんですか? というか今どこに向かって……」
「もう着くぞ」
そう言われ、大将が連れてきた所を見渡す。
そこは海軍兵学校の裏手にある小港で、その中でも殆ど使う者の居ないエリアだった。そして狭い停船場には一隻の小型クルーザーが停めてあり、その側にセーラー服を着て茶髪をアップに束ねた髪型の小柄な少女が一人立って居た。
その少女に対し大将が手を上げ、言う。
「電、待機ご苦労。で、こいつが新しい提督だ」
大将に目線で挨拶しろと言われたので挨拶する。挨拶必要? 必要ですか……。
「ど、どうも。比企谷八幡です……」
やっぱり吃っちゃったよ。
「そして比企谷君、この子こそが前元帥の育てた艦娘の一人、電だ」
「暁型駆逐艦四番艦、電です。どうか、よろしくお願いいたします」
戸塚のようなオーラを感じた。
すみませぬ、ギリ孤島に届きませんですた。