四葉の姫君   作:らふらふ

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4話

日の出前に目が覚めてしまった。せっかくなので体術の鍛錬をしようと庭にでると、お兄ちゃんが鍛錬していた。

 

「おはよう、お兄ちゃん。相手してもらえる?」

 

「おはよう、深咲。もちろんだ」

 

四葉の次期当主たるもの身体も鍛えなければ、ということである程度の体術の鍛錬をしている。たまにお兄ちゃんに稽古してもらうこともあるのだ。もちろん、手加減された上で全く敵わないのだが。

 

私が主にやっているのは合気柔術である。相手の力を利用するこの武術は非力な私にピッタリなのだ。非力とはいえ、さすがにお姉ちゃんよりは力があるはずだが。

 

「やっ、はっ」

 

「踏み込みが浅い」

 

「はぁっ」

 

「もっと腰を落として」

 

 

 

「はぁ…はぁ…ありがとうございました」

 

「お疲れ様、深咲」

 

「やっぱり全然敵わないな〜」

 

「そりゃあ、俺は深咲が当主としての勉強をしてる間も戦闘訓練してるんだから。これで体術が同等だったら立つ瀬がないよ」

 

「それでも、こっちは魔法を使ってるんだから、掠るぐらいはね…」

 

なんだか視線を感じる。誰だろう。

 

 

 

部屋に戻ると、お姉ちゃんがいた。さっきのはお姉ちゃんだったのか。

 

「お姉ちゃん、どうかしたの?」

 

「その、ね……深咲とあの人は仲がいいのかしら?」

 

「うん。人前ではさすがに仲良くできないけどね、二人きりのときぐらいはね」

 

厳密に言うならさっきは二人きりとは言えなかった。本当はお姉ちゃんに見られているのはお兄ちゃんなら気づいていたはずだが、問題ないと判断したのだろう。

 

「そうなの。いつから?」

 

「6歳ぐらいかな?聞いていいかな、お姉ちゃんは、お兄ちゃんのことどう思ってるの?」

 

「それが……分からないの。なんだかあの人のことを考えると胸がざわざわするけれど、どういうことなのかサッパリよ。あの人が体術が得意だってことも知らなかったし、これで私はあの人の妹だと言えるのかしら」

 

どうやら順調に好意を抱いていっているようだ。

 

「まずは話してみることから始めたらどうかな?きっといつか分かるよ」

 

「そう、ね……やってみるわ。そういえば、深咲も結構動けるのね?私には全然動きが見えなかったわ」

 

「お兄ちゃんには全く敵わないけどね。鍛錬してるし、そこそこかな」

 

「深咲さん、深雪さんを知りませんか?」

 

穂波さんが部屋にやってきた。おそらく朝食の準備が出来たのだろう。

 

「あっ、私はここにいます」

 

「部屋にいったらいないから、ちょっとビックリしましたよ。さ、二人とも朝食にしましょう」

 

「「はい」」

 

 

 

食べ終えた頃、穂波さんがお母様に話しかける。

 

「今日のご予定は決めていらっしゃいますか?」

 

「暑さが和らいだら船で沖へ出るのもいいわね」

 

「ではクルーザーを?」

 

「そうね……あまり大きくないセーリングヨットが良いわね」

 

「かしこまりました。4時に出港ということでよろしいですか?」

 

「ええ、それでお願い」

 

慣れたもので、穂波さんはお母様の言葉から意図を汲み取って段取りを組み立てた。

 

「深雪さん、深咲さん、特にご予定が無いのでしたらビーチに出られては如何です?寝転んでいるだけでもリフレッシュ出来ると思いますよ」

 

「……そうですね。午前中はビーチでのんびりすることにします」

 

「私もお姉ちゃんと一緒に行くわ」

 

「では私は深雪さんのお支度を手伝いましょう。うふふ、水着になるのでしたら隅々まで日焼け止めを塗っておきませんとね」

 

「いえ、大丈夫です。自分で出来ますから」

 

お姉ちゃんは慌てている。それを見る穂波さんはなんだか楽しそう。

 

「私も支度しないとね」

 

「お手伝いします」

 

「よろしくね、七波ちゃん」

 

お姉ちゃんのSOSには気づかないフリをする。ごめんね。

 

 

 

穂波さんの手で身体の隅々まで日焼け止めクリームを塗りこまれたのであろうお姉ちゃんは少しぐったりしている。私はお姉ちゃんに近づき囁いた。

 

「せっかくの機会だし、お兄ちゃんとちょっとお話してみたら?」

 

「い、いきなりすぎないかしら?」

 

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは優しいから受け止めてくれるよ。私は七波ちゃんと波打ち際で遊んでくるからね」

 

「えっ……一緒にいてくれないの?」

 

「二人きりの方がお兄ちゃんのことが分かるでしょ。さ、七波ちゃん、遊ぼう!」

 

おずおずと話しかけるお姉ちゃんの声を背に、私は波打ち際に向かう。

 

 

 

たっぷり遊んで戻ってくると、お兄ちゃんが砂まみれになっていた。どうやら喧嘩に巻き込まれたらしい。きっと積極的に巻き込まれに行ったに違いないと、私は呆れた目でお兄ちゃんを見る。目を逸らされたので、想像は正解であろう。

 

別荘に戻ってシャワーを浴びると、お姉ちゃんが来ていた。

 

「お姉ちゃん、どうだった?」

 

「緊張して、あんまり話せなかったのだけど……でも、私を大切に思ってくれているのは分かったわ。もちろん深咲のことも。でもね、なんであの扱いに怒らないのかは分からなかったの」

 

「ああ、お兄ちゃんは気にしてないのよ。お母様のこととかね」

 

「気にしてない……?」

 

「そう。これ以上はお兄ちゃんに直接聞くべきね」

 

「分かったわ。ありがとう深咲。きっかけをくれて」

 

「このぐらい、お安い御用だよ。私達、姉妹じゃない」

 

「うん。深咲、大好きよ」

 

「私も、お姉ちゃんが大好き」

 

 


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