スランプ&多忙&病気の三重苦でして……
今回の番外編は悶えながら書きました。これが限界です。
あの夢のような温泉旅行から数ヶ月たった。つまりあの人に出会ってから数ヶ月だ。
俺の、天使。
あの時は本当に地上に天使が舞い降りてきたのかと思った。神なんか信じちゃいなかったが、本気で神に感謝したくなった。
彼女は突然目の前に現れた。あれは旅館のフロントに強盗が入ったときのこと。俺はとっさに魔法を使って倒そうとしたのだが、彼女と被り相克が起こってしまったのだ。その後彼女は颯爽と
それから警察が来るまで至福の時間を過ごした。なんと彼女も三高に入学するらしい。素晴らしい。同じクラスになれるように祈った。
あの旅行中に何度か彼女と会えて話をしたが、家族には何も話していない。話すようなことじゃあないしな。茜にはからかわれそうだし。
「……さき!将輝ってば!」
「っああ、悪いなジョージ」
「最近ずっと上の空だよね。やっぱり彼女のこと?」
「ジョージに隠し事はできないな」
「メールのやりとりはしてるんでしょう?仲良くなれたの?」
「まあな……初対面のときよりは仲良くなったと思う。だけど個人情報とかは全然……」
「普通に聞けばいいのに。世間話の中で聞き出すとかできるよね?」
「その……なんだ。俺の個人情報も全然話してないしな。一方的に聞き出すってのはどうも……」
「話してない!?なんで?魔法師なら一条家の次男だっていうのはプラスの情報だと思うけど?」
「初対面でもないのに自分から言い出すとか恥ずかしくないか?」
「分からないでもないけど……それじゃあ進まないよね」
「そうだが……まあ、入試か入学式か、会えたらその時にな」
「わかったよ。意外と将輝ってヘタレだったんだね……」
「ヘタレってなんだよ!俺はちょっと遠慮してるだけだ!」
「はいはい」
「楽しそうだね、真紅郎くん。なんのお話をしてるの?」
ノックと同時に扉が開いて、茜が部屋に入ってきた。
「茜……ドアを開けるのは返事を確認してからにしろって、いつも言ってるだろ」
「真紅郎くんだから良いじゃない。兄さんが連れ込んでいるのが女の人だったら、あたしだって遠慮するよ」
「ぐっ……あのなぁ」
「そんなことより、お父さんが呼んでるよ。書斎だって」
「そんなことって……まあいいか。今行く」
書斎に呼ばれるということは、二人だけで話さなければいけないということだろう。書斎についてノックをして待つ。
「将輝です」
「おう、入れ」
「失礼します」
「そこにかけて楽にしろ」
言われて親父の正面に座る。
「年初にあった四葉家の通達は知っているか?」
「四葉家?知らないな。四葉がうちに一体何の用だったんだ?」
「当家に対するものではない。十師族、師補十八家、及び百家の一部。日本魔法界の主要な各家に対する、まあ、挨拶みたいなものだ」
「挨拶?まさかあの無愛想な四葉家が新年の挨拶を送ってきたというわけでもないだろう?一体何を言ってきたんだ?」
「四葉家の次期当主は四葉
なんだか嫌な予感がする。名前が一緒なだけ……だよな?
「深咲嬢の写真は手に入れられなかったが、四葉真夜殿の写真を見せておこう。似ていれば見れば分かるだろう。似ていなければ無意味だが……」
「俺は次男だから、その四葉家次期当主とはあまり関わることはないだろう?それとも同じ学年だから九校戦とかで関わるだろうということか?」
「ここからがお前を呼んだ本題だ。件の深咲嬢はなぜか第三高校に入学予定らしい。四葉殿が当家にメッセージを送ってよこした」
「三高に入学だって!?」
「そうだ。だから必然的に関わることになる。ほら、これが四葉殿の写真だ」
ほう、これが夜の女王の写真ね……って司波さんじゃないか!?
「これはっ……!」
「どうしたんだ将輝?」
「そっくりなんだ!俺が去年の温泉旅行で会った女の子と!」
「ほう。その子の名前は?」
「司波深咲。そういえば三高に入学するって……」
「お前が会ったのは四葉深咲嬢である可能性が高いな。まあ、顔見知りなら4月からも大丈夫そうだな」
「ああ。仲良くなった……と思う」
「ふむ。顔が赤いが、もしかしてお前……深咲嬢に惚れているのか?」
「なんで親父にそんなこと言わなくちゃいけないんだよ!」
「まあ言いにくいのも分かるがな。もしサポートが欲しければうちから四葉家に申し込むこともできるぞ?」
「待ってくれ。俺は……その……申し込みはいい」
「そうか。してほしい時は言ってくれよ」
その後どうやって親父の書斎から部屋まで戻ってきたのか記憶が曖昧だ。
司波さんが……四葉だなんて。それも次期当主だなんて。救いは婚約者がまだ決まっていないってことだな。ジョージに相談しないと。
「あ、お兄ちゃんが帰ってきた」
「将輝?どうしたの?」
やっぱりジョージには分かるか。
「茜。俺はジョージに話があるから……」
「はいはい。じゃあね、真紅郎くん」
「本当にどうしたの?」
「司波さんが……」
「ん?剛毅さんと話してきたんじゃ?」
「そうなんだよ。それで司波さんが四葉かもしれないって」
「四葉!?」
「ああ。それも次期当主らしいんだよ。正確に言うなら四葉家次期当主と司波さんの名前が同じで、四葉真夜殿の写真が司波さんにそっくりだった」
「それじゃ……あの出会いはワザとかもしれないね」
「ワザと?」
「そう。なんらかの伝手で一条家の旅行先の情報を知っていたとしたら、彼女は将輝に会うためにあの場にいたのかもしれない」
「俺に、会うために……」
「何を喜んでるんだよ……策略かもしれないって話をしてるんだよ!」
「言いたいことは分かるが……俺に会ってなんの役に立つんだ?」
「それはまだ分からないけど……とりあえず警戒は忘れないでよね」
「ま、大丈夫だろ。俺にはジョージがいるんだし。それに、惚れたっていう意味でもう手遅れだしな!」
「しょうがないなぁ……」
「それで、彼女は高校生の間に婚約者を決めるらしい」
「じゃあ、今はいないってことだね。これはチャンスだよ!一条家の次男ともなれば家柄も十分だし、彼女自身とも仲良くなってるだろう?」
「あんまり家柄に頼りたくはないんだが」
「そんなこと言ってる場合じゃないって!彼女の場合、優秀で家柄のいい魔法師を婿に迎えなければならない立場なんだ。だから、それを示さないと恋愛対象にも入れてもらえないんじゃない?」
「そう……か。ここは一条でよかったって言う場面だよな」
「まずは入試のときに何とかして会おう」
「分かった」