EX-AID・A・LIVE ~SPIRITS LOVERS~ 作:エルミン
第一話 第二精霊・Hermit
五月上旬のある日、この日は生憎の雨。
「シドー!クッキィというのを作ったぞ!」
「クッキーを?・・・あぁ、調理実習か」
「うむ、シドーの為に作ったのだ!」
十香の持っている箱の中には、手作りのクッキーが作られていた。
形は少々良くないが、十香は士道の事を想って作ったのだ。
絶世の美少女である十香が、士道の為を想い作ったという事に、士道はかなりドキッとしていた。
嬉しいに決まっている、食べない事はあり得ない。
「もちろん、私達も」
「だよ♪」
十香の後ろから、折紙と栞がピョコッと出て来て十香の隣に並ぶ。
二人も調理実習で作ったクッキーが入っている箱を持っている。十香と違い形が綺麗に整っている。
「私達も、士道君に食べて欲しくて作ったの」
「十香さん、折紙さん、私の三人でね」
「うむ!」
折紙と栞も、十香に匹敵するほどのかわいい美少女。
三人の美少女が一人の男の為にクッキーを作ってプレゼントする。
ちょっと恥ずかしいが、嬉しい気持ちの方が大きい士道は、一人一人にお礼を言って受け取る。
十香達から受け取ったクッキーを食べる士道。
それぞれはちゃんと美味しく出来ていて、士道は三人のクッキーの出来の良さを誉め、少女達はとても喜んだ。
来禅高校の三大美少女(士道以外の男子陣命名)である三人の愛情を独り占めしている士道。
他の女子は、五河のどこがそんなに良いの?と疑問に思っており、男子は・・・。
「「「「「オノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレ・・・」」」」」
嫉妬に狂い、黒いオーラを纏って士道を睨んでいた。視線だけで人を殺せる勢いで。
その中には、士道の友である殿町 広人も含まれていた。
しかしその殺意の波動は、十香達三人の桃色オーラによって防がれ士道には全く届いていない。士道は十香達によって守られていた。
すると、美九からメールが届く。
『だーりん!今日、調理実習でクッキーを作ったので、放課後は一緒にお茶にしませんか?美味しい紅茶もありますよぉ』
(・・・・・・今日はクッキー尽くしだな)
士道は十香達に美九がお茶会を従っている事を話すと、皆が賛成したので美九に賛成の返事を送り、お茶会の知らせを琴里にも知らせた。
琴里もお茶会に賛成したため、開催は確定した。
ーーーーーーーーーー
放課後。士道は食材の買い出しの為にスーパーへ。女子達はお茶会準備のために一足先に五河家に集合している。
そんな士道だが、帰り道の途中で突然雨が降りだしたのだ。傘を持っていなかったので、手でガードしながら走る。
途中であった神社の木の下に入り雨宿りをする。
(最近の天気予報は外れてばかり・・・。よく降るな最近)
士道がそんなことを思っていた時だった。
バシャッっと水しぶきが飛び散る音が聞こえ、士道はそちらの方に視線を送る。
「・・・女の子?」
士道の目に写っていたのは、可愛いらしい意匠に身を包んだ小柄な少女だった。意匠の頭にはウサギの耳のようなのもついていた。
フードを深く被っているが、水色の長い髪と綺麗な瞳が見える。
そして、もう一つの大きな特徴は左手。
眼帯のようなものをつけたウサギのパペットを彼女は左手につけていた。
「もう片方の手に、戦車のパペットは付けてないのか・・・」
何故かそんな事を呟いてしまった士道だが、目は少女の方を見たままだ。
少女は誰もいない神社で楽しそうに跳ねていた。この雨の中なのに傘をささずに遊んでいる。
すると、少女が水たまりを踏んだ時に泥に足を取られたのか盛大に転ぶ・・・前に士道は慌てて少女に駆け寄り、素早く抱き抱える。
「大丈夫か!?」
士道が抱き抱えた少女が顔を上げる。そこで少女の顔が見えた。
ふわふわした青い髪に桜色の唇、透き通った蒼を思わせるような綺麗な瞳だ。
「・・・・・・!」
少女は士道に目を合わす。特に怪我をしている様子も無い。
「大丈夫みたいだな。ほら、立てるか?」
士道は優しく言い、そっと地に下ろす。
「は・・・い・・・・・・ありがとう、ございます・・・」
少女は細く小さく、しかしハッキリと感謝の言葉を言った。しかしその直後、今度は・・・。
「いやあ!ゴメンねお兄さん、助かったよ」
「しゃっ、喋ったぁ!?」
少女の手に付いているパペットが喋り出した。少女とは違い、大きくハッキリとした声だった。
士道はパペットが喋った事に驚いた。しかしその音声は青い髪の少女ではないことはすぐに気付いた。
少女ではなくパペットが士道に告げる。
「んじゃあお兄さん、バイバーイ!」
「え、あ、ちょっと君!?」
少女とパペットは走って行く。士道が少し遅れて少女の走っていった方向へ向かったが、少女の姿は無かった。
「パペットが無いと喋れないってことは無いよな・・・まさかあの子って」
士道はあの少女に少し思うことがあったが、いない以上聞くことも出来ない。士道は帰ることにした。
ーーーーーーーーーー
士道が家に帰ると既に家の中には十香、折紙、琴里(黒リボン)、美九、栞と女子陣が全員揃ってお茶会の準備を終えていた。
全員、学校から直接五河家に寄ったため制服姿だ。
ちなみに、琴里は令音にも声をかけたが、ラタトスクでの仕事が忙しく行けるかどうかわからないとの事だ。
「ただいま、遅くなってごめん」
「おぉ、お帰りなさいだシドー!」
「じゃあ、士道君が来たから今からお湯を沸かすね」
「茶葉は皆さんで決めましたよー」
「余った分の茶葉は譲ってくれるそうよ。太っ腹ね」
「えっへん。家はお金持ちですし、アイドル業で稼いでますからねー」
「シドーの席は、私と栞の間だぞ!」
「ジャンケンで決めたんだよ」
「くっ・・・あそこでチョキを出していれば!」
士道は一旦自室に戻り通学用の鞄を置いてから、十香がポンポンと叩く椅子に座った。
「うーん・・・この女の子だけの空間に男の俺がいて良いのか・・・」
「何を言うのだシドー?シドーと一緒の方が良いに決まっているではないか!」
「そうだよ。士道も一緒で私達は嬉しいよ」
そんな会話の間にお湯が沸き、全員に紅茶が行き渡る。
始まったお茶会は、個人が作ったクッキーの感想を言い合ったり、紅茶を楽しんだり、美九がお茶を楽しむ女子を見てニコニコしていたり。
士道も皆と一緒に楽しんでいた所で、士道は皆に神社での出来事を話した。
「・・・という事があったんだけどさ。あの女の子はもしかして・・・」
「精霊ね」
琴里は断言した。美九は「その子の話を詳しく!というか会わせてください!」と言ってたがスルーした。
「士道の話と特徴が一致する精霊がいるの。その精霊は"ハーミット"ね」
「ハーミット?」
「極めて大人しい性格の子よ。ASTに攻撃されても一切反撃せず常に逃げ回っているみたい」
「だから、現界数こそ多いものの危険度は比較的小さい。でも精霊である以上は排除しないといけない、と言われているの」
琴里と折紙の話を聞いて、士道は険しい表情になる。
「・・・十香の時と同じじゃねぇか。空間震を自分の意思で起こしている訳でもない。なのに人間の都合で勝手に悪者扱いされて、攻撃されている・・・」
「シドー・・・・・・私はシドーに会えて、助けてもらえて、本当に嬉しく思う。だからシドー、そのハーミットという精霊も・・・」
「もちろんだ、必ず助ける」
十香の言葉に頷く士道。そんな士道を少女達は嬉しく、また好ましく思っていた。
すると、チャイムが鳴ったので士道が出ると、令音が立っていた。
「・・・仕事が終わったから来たよ。お茶会はまだ続いているなら、私が加わってもいいかな?」
「もちろんですよ。さぁ、どうぞ」
士道は快く迎え入れた。令音の分の紅茶も用意して、これで誘った人数は全員揃った。
そして、士道は令音にもハーミットの事を話した上で、琴里と令音に聞いた。
「丁度良いから聞こうと思う。琴里、令音さん。ラタトスク機関について、詳しく教えて欲しい」
この問いに皆が驚いたが、同時に納得した。
十香にも折紙にも栞にも美九にもラタトスクについては十香の霊力を封印し、ゲンムやコラボスバグスターとの戦いの後で説明があった。
しかし、その説明は必要最低限だけであり、詳しくは語られていなかった。
協力関係を築く際に、直接出会ったCRの責任者は信頼出来る人物であったため詳しく説明したが。
士道はラタトスクの他にも、なぜ琴里が秘密結社の司令を務めているのかが気になっていたのだ。
士道の問いに琴里は頷いてから、紅茶を一口飲んで、喉を潤してから話始めた。
「わかった、話すわね。ラタトスク機関は簡単に言えば一種の保護団体みたいなもの。秘密結社だから世間には公表されていないけど」
「保護団体なのに秘密結社?」
「・・・十香のような"精霊"という存在自体が極秘事項だからね。
それ故にそれを保護し、一般の生活を送らせるということが存在理由なら、尚のこと世間に知れた企業では色々と不味いんだ」
「成る程・・・。それで、お前はいつから司令官に?」
「私がラタトスク機関に加入したのは、五年前。そこからの五年間は研修みたいなものだったから司令官になったのは最近なの。
五年前のことは私も記憶がほとんど無いけど、私がラタトスク機関を知ったのも、同じく五年前」
五年前の事については、士道も琴里も記憶がハッキリしないのだ。
「俺はいつ精霊の霊力を封印する力を身につけた?」
「士道はキスをすることで精霊の霊力を封印する力がある。この事は士道を保護した時に観測機で検査をしてわかった事。でも、どうして士道にそんな力があるのかはわからないの」
「そっか・・・ラタトスクでもわからないか」
「えぇ、ごめんなさい。今後も調査は継続するわ、協力してもらえる?」
「OKだ、わからないままよりはマシだ」
「・・・さて、話はこれで終わりかな?」
「今のところは。今後わからない事があったら、その時に聞きます」
「・・・わかった、その時は遠慮なく聞いてくれ」
そして、琴里は十香達にラタトスクの事を口外しないように念を押して、ラタトスクの説明は終わった。
その後はお茶会を再開したが、士道は心の中で今日出会った精霊、ハーミットについて考えていた。
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同時刻、幻夢コーポレーション社長室。
檀 黎斗は十本目のガシャットの調整作業を終えて、刺していた端末から抜き取った。
十本目のガシャットは金色で、グリップ後部にドラゴンの頭部のような装飾が施されている。
タイトルは、「ドラゴナイトハンターZ」。
最大四人でプレイする、強力なドラゴンを討伐するハンターゲームだ。
「ここまでにしておくか」
黎斗はガシャットをしまいパソコンの電源を切って社長室を後にした。
無人となった社長室。そこに現れたのはグラファイト。
グラファイトは机の上に置きっぱなしになっている黒いケースを開けて、中に入っているプロトガシャットを見る。
そして、プロトガシャットの内の一本、「プロトドラゴナイトハンターZ」を抜き取って持ち去っていった。
グラファイトは、ドラゴナイトハンターZの敵キャラ。故に、自身のゲームと同じプロトガシャットを持ち去ったのだ。
そして、グラファイトはプロトドラゴナイトハンターZを持ったまま屋上へ。
「このプロトガシャットの力で、俺は・・・!」
呟き、覚悟を決めたグラファイトは、プロトドラゴナイトハンターZを起動。
《ドラゴナイトハンターZ!》
モノクロのタイトルが表示され、ガシャットが起動した。それをガシャコンバグヴァイザーのスロットに入れる。
《ガシャット!》
バグヴァイザーの画面にモノクロで「DRAGO KNIGHT HUNTER Z」と表示され、データが反映された。
その状態でバグヴァイザーのAボタンを押して・・・。
「培養!」
今まで通り、バグヴァイザーをグリップと合体させる。
《INFECTION!》
「ウオォォォォォォォォォォォ!!!」
《Let's Game! Bad Game! Dead Game! What's Your Name!?》
《THE BUGSTER!!》
プロトドラゴナイトハンターZの強大な力がグラファイトに流れ込み、雄叫びを上げる。
そして、グラファイトは黒い光と共に、黒色の龍人の様な怪人体に姿を変えた。
右腕も赤から黄色に変わっており、今まで露出していたバグヴァイザーは右腕に同化しており、外見上は見えなくなった。
プロトドラゴナイトハンターZの力で、グラファイトはレベルアップした。
黒龍戦士・・・ダークグラファイトバグスターへと。
「この力で、今度こそ・・・・・・!」
そんなグラファイトの様子を、パラドが見ている事に気付かぬまま・・・。
「グラファイト・・・・・・無理するなよ」
パラドの呟きは誰にも聞こえる事なく、静かに溶けていった。
次回予告
CRに、CRの責任者と衛生省の幹部がやってくる。黎斗が新たなガシャットを持ってきて、グラファイトは行動を起こす。
様々な事が動き出す中、新たな精霊"ハーミット"は・・・。
第二話 集結するLeaders!
「俺が必ず止める、そして・・・あの子を救う」
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原作と違い、ダークグラファイトへの「培養」は、プロトドラゴナイトハンターZのガシャットを刺したバグヴァイザーで行いました。
普通に使うより、せっかくバグヴァイザーがあるから使うようにしたいと思い、このようにしました。
次回でCRの責任者と衛生省の幹部を出します。