銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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感想欄にて、前回のドライバーのくだりは別作品のネタですか? 的な指摘を受けました。

誤解のないように言っておくと、作者はその別作品の事をまったく知りません。ガチの偶然です。パクったとかオマージュしたとか一切ありません。

かと言ってこのままにしておくのもアレですので、前回のドライバーのくだり部分は、また別のギャグが思いつき次第、書き換えることにします。
今回も少しだけドライバーネタがあるのですが、それもその内書き換えになりますね。とりあえずそれまではこのままという事で。

ご了承ください。

あと出来ればその別作品と作者の名前を教えてください。その人とは趣味が合いそうです(笑)。


感想お待ちしております。


もの食べるときクチャクチャ音を立てない

 

 

 

 

 

「……なんやどっかで見たツラや思うたら、ほーかィ。あの兄ちゃん、お登勢んトコの」

 

 

「万事屋なんたらいうなんでも屋やっとる胡散臭い浪人ですがね、化け物みたいにごっつ強い男いう話ですねん。おまけにそいつの嫁は時空管理局の魔導師らしゅうて、局ん中でもかなりの腕利きの上に、鬼のように強いらしいですわ。お登勢のババァも街でモメ事起こると首突っ込んで節介焼いとるでしょ。仲間も多いが敵も多い。ほでも、あの夫婦がババァの両脇で目ェ光らしてるさかい、誰も手が出せんいうワケです」

 

 

「狂死郎の奴、わしらに対抗するためにアレ雇ったいうこっちゃな」

 

 

「かぶき町四天王とモメんのは厄介ですぜアニキ。ほれにあのババァ、ウチのオジキがホレてる聞きましたで」

 

 

「そら昔の話やろ。わしゃなんや、回覧板回すのが遅れてモメて10年以上口きいとらん聞きましたで──あっ!! アニキ今この子のしぐさ見ました!? まるでぬいぐるみみたいやァァァ!!」

 

 

「デカイ声出すなゆーたやろォォ!! メルちゃんは今一番デリケートな時期なんやでェェ!!」

 

 

場所はかぶき町を拠点とするヤクザ『溝鼠組』の屋敷。その一室では、若頭の黒駒の勝男をはじめとしたのヤクザ数人が、飼い犬のダックスフント『メルちゃん』と、そのメルちゃんが先ほど産んだ仔犬を囲みながらそんな会話をしていた。

強面のヤクザたちが円を描くように並んで寝そべって仔犬を眺めているのは、なかなかシュールな光景である。

 

 

「アニキィィ!! コレ見て下さい! メルちゃんが…」

 

 

「オイオイもう1匹出てきたでェ、4匹目やァァ!!」

 

 

また新たな仔犬の誕生に湧き上るヤクザたちだが、その産まれた仔犬の様子がおかしいことに気付く。

 

 

「アニキ! ほでもこの子、息しとりまへんで!!」

 

 

「なんやコレ、オイ、何? どないしたらエエねんオイ!!」

 

 

産まれたばかりの仔犬が息をしていない。そんな状況に勝男だけでなく、他のヤクザたちも揃ってオロオロとうろたえるばかりである。

 

 

「男がうろたえてんじゃないのォォ!!」

 

 

「ぶべら!!」

 

 

すると、突然そんな叱咤の言葉と同時に強烈な平手打ちを頬に喰らい、勝男がその場に倒れる。

 

 

「アンタがしっかりしないで誰がこの子支えるんだィ! こんな時こそ男はどっしり構えてないとダメでしょーが!!」

 

 

「す、すまん…」

 

 

「ちょっとアンタ、乾いた清潔な布巾持ってきな!」

 

 

「へい!!」

 

 

指示を受けたヤクザは、疑う事無く部屋を飛び出して、すぐに1枚の布巾を持って戻って来る。そしてその布巾を受け取ると、息をしていない仔犬を優しく包み、そのまま「フン、フン!」と上から下へ何度も大きく振り下ろす。

 

 

「オバはん、どないやねん! 助かるんか? メルちゃんの子、助かるんか!?」

 

 

勝男は不安を隠せない様子でそう問い掛け、他のヤクザたちも黙って成り行きを見守っている。

 

 

するとその時、息をしていなかった仔犬が「くぅ~ん、くぅ~ん」と小さな鳴き声を上げて息を吹き返した。

 

 

「うおしゃァァァ!! 鳴いたでェェェ!! 息吹き返しよったァ!!」

 

 

「奇跡じゃあ!! ミラクルじゃぁぁぁ!!!」

 

 

生き返った仔犬に、勝男を筆頭にしたヤクザたちが大手を振って喜ぶ。

 

 

「オバはんありがとう、ホンマありがとう!」

 

 

「いいんだよ、大事にしてやんだよ」

 

 

勝男は恩人である母ちゃんの両手を握って、心からの感謝を伝える。

 

 

と……そこで勝男は違和感に気付いた。

 

 

 

 

「……………オバはん、何でこんなトコおんねん?」

 

 

 

 

その瞬間、今まであがっていた歓声がウソのように静まり返り、全員の視線が母ちゃんへと集まる。しかし母ちゃんは気にした様子もなく、あっさりと答える。

 

 

「出産だのなんだの言ってたからさ、こういう時は母ちゃんがいないと始まらんだろ」

 

 

「あっ、そーかそーか──そーかちゃうわァァ!! なんやねん! 誰やねんオバはん!」

 

 

「母ちゃん、八郎の母ちゃんだよ」

 

 

あっけらかんとした態度でそう名乗る母ちゃんだが、ヤクザたちは疑問符を浮かべるばかり。

 

 

「八郎って…あの八郎か?」

 

 

「黒板八郎だよ」

 

 

「? 黒板八郎……」

 

 

八郎と聞いて彼らの頭に真っ先に浮かんだのは、先ほどまで乗り込んでいた高天原の巨大アフロの八郎。しかし黒板八郎と聞いては、本当に誰だか分からない。

 

 

するとその時、その部屋に1人の人物が入って来た。

 

 

「黒板八郎……聞いた名やないけ」

 

 

「! オジキ……」

 

 

そして溝鼠組の親分『泥水次郎長』は、不敵に笑ったのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

一方、銀時たち万事屋一行の4人は、居なくなった母ちゃんを探してかぶき町を歩いていた。

 

 

「坂田さーん!」

 

 

するとそこへ、別行動で母ちゃんを探していた八郎率いるホスト軍団が駆け寄って来る。

 

 

「八郎さん! どうでした、お母さんは見つかりました? こっちはダメでした」

 

 

「こっちもです。お母様どころか、お母様を追って店を出て行ったきり、狂死郎さんとも連絡が……」

 

 

あの後、母ちゃんがいなくなったと知った狂死郎は「母ちゃん!」と叫びながら店を出て行ってしまった。恐らく1人で母ちゃんを探しに行ったのだろうが、連絡が取れなくなってしまったらしい。

 

 

「クソったれ、写真(コイツ)のせいですっかり騙されたな。まさか狂死郎がババァの息子、八郎だったとは」

 

 

「無理もないよ、あんなに顔が変わってたんじゃ、いくらお母さんでも気づきようがないよ」

 

 

そう言って八郎の写真を取り出しながら毒づく銀時と、暗い表情で顔を俯かせるフェイト。

 

 

「それというのもお前がんな格好して八郎なんて名乗ってたからアル! まぎらわしいんだヨ、あん!? ジャロに電話したろか!?」

 

 

「それはアナタたちが落書きして勝手に勘違いしただけでしょうが!!」

 

 

八郎に突っかかって責める神楽だが、言い分としては八郎の方が正しい。彼らが勝手に写真を落書きして、勝手に勘違いをしたのに、それを責められたのでは溜まったものではないだろう。

 

 

「でも何故、お母様を目の前にして、狂死郎さんは何もおっしゃらなかったんでしょう。狂死郎さんは5年前から欠かさず、お母様に向けて仕送りをされていたといいます。誰よりも会いたかったに違いないのに」

 

 

八郎のその言葉を聞いて……銀時、フェイト、新八は、高天原で狂死郎が言っていた言葉を思い出した。

 

 

 

『この街でのし上がるには、キレイなままではいられない。得たものより失ったもの方が多い──恥ずかしい話……親に顔向けできない連中ばかりですよ』

 

 

 

狂死郎が言っていたあの言葉は、高天原のホストたちに向けていたものではなく……狂死郎自身に向けられていた言葉だったのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃……狂死郎は走っていた。かぶき町の大通りを歩く人ごみをかき分け、時に人とぶつかろうとも止まることなく走り続けた。

 

 

その理由は、先ほどケータイにかかってきた黒駒の勝男からの電話だった。

 

 

内容はこうだ。

 

 

『もしもし狂死郎はん? 勝男ですけど、まいどォ。なんや~困った事になってましてな。あのオタクのトコに変なオバはんおったやろ。アレ、どーいうワケかわしらに勝手についてきよってなァ、困っとんねん。

 

なんや八郎の母ちゃんです、八郎の母ちゃんです、騒ぎよってな。コレどないしたらエエねん。

 

こっちで勝手に処理してもええか? 問題あるんやったら、スグ引き取りにきてや。グズグズしとったら、わしら何するかわからんよって。

 

ほなな──黒板八郎はん』

 

 

その電話を受けてから、狂死郎は指定された場所へと向かって一心不乱に走り続けたのだった。

 

 

そして狂死郎がやって来た指定された場所は、建設途中の工事現場だった。恐らくこの建物も溝鼠組のものなのだろう。人気のないその中に足を踏み入れると、頭上から声が聞こえた。

 

 

「こっちやこっち。狂死郎は…ちゃうわ、八郎はん」

 

 

見上げると、建物の2階となる土台から狂死郎を見下ろしている勝男とその部下数十人の姿があった。

 

 

「びっくりしたでェ、ホンマは黒板八郎いうねんな。オジキから聞いたで。なんや田舎くさい名前しとったんやなァホンマは…親近感わいたで」

 

 

「……あの人は!?」

 

 

「心配いらんで、大事な人質や、なんもしとらん。約束通り、アンタが息子いうのもふせとる。ヤクザは筋は通すで」

 

 

勝男がそう言うと、奥から目と耳と口をガムテープでふさがれ、体をロープで縛られている母ちゃんが連れて来られた。

 

 

「ほいでも、なんでそないに必死になって隠すかわからんわ。ワシなんかこないグレてもうたさかい、絶対オカンとなんて会われへんけどな。シバき殺されるさかい。アンタこの街のNO,1ホストやん、出世頭やん。胸はってオカンと会うたらエエやんか」

 

 

そう問い掛ける勝男に対して、狂死郎は顔を俯かせたまま語り始める。

 

 

「……どのツラ下げて会えというんですか。もう母の知っている顔は、文字通り捨ててしまった。この街でのし上がることと引きかえに、私はもう八郎であることを捨ててしまった。NO,1ホストといったところで、私はしょせんハタから見れば女性を騙し、金を巻き上げている輩にしか見えぬでしょう。それに、私が生きるのはあなたたちと同じこの街です。私がいくらもがいたところで、汚れた世界で生きてる事に変わりはない」

 

 

「いやいや、立派なモンやったで。わしらの要求拒んでこないにねばった奴、アンタが初めてや。まァそれも今日で最後やろけどな」

 

 

勝男がそう言うと、突然狂死郎は持って来ていたトランクケースを地面に置き、中が見えるように開いた。そこには決して多くはないが、大判やお札の束が入っていた。それを見た勝男は、怪訝な顔で問い掛ける。

 

 

「? なんやその金?」

 

 

「私の私財です。店を大きくするために使ってしまって、あまり残ってはいませんが」

 

 

「なんやァァァ!! まだもがく言うんかいな!! ワシらそんなはした金欲しいんやないでェ!! お前の店でクスリ捌け言うとんねん! もっとデカイ金動かしたいんじゃ!!」

 

 

勝男の恫喝にも動じず、狂死郎は目を伏せて静かに口を開く。

 

 

「私はホストという仕事に誇りを持っています。だからあなた達の要求は呑めないし、母に名乗り出るつもりもない。ホストは女性を喜ばせるのが仕事です。だから──」

 

 

そして狂死郎は伏せていた顔を上げ、真っ直ぐと勝男たちヤクザを見据えながら強く言い放つ。

 

 

「この世で最も大切な女性を悲しませるようなマネは──私は絶対にしない」

 

 

その言葉と彼から発せられる迫力に、ヤクザたちは一瞬気圧された。

 

 

「なっ…なんやとォォォ!! お前、オカンがどうなっても……うぎゃああ!!」

 

 

そんな中で1人のヤクザが怒鳴り声を上げたその時、そのヤクザを勝男が蹴り落とすことでそれを止めた。

 

 

「……狂死郎はん、たいした男気や。さすがかぶき町NO,1ホストいうだけあるわ」

 

 

そう言って先ほどまでとは違い、どこか穏やかな口調で話し始める勝男。どうやら今しがた見せた狂死郎の男気を認めたらしい。

 

 

「ワシもぶっちゃけ、クスリいうのは好かん。新規事業に躍起になっとるオジキに言われて、仕方なくこんな事やっとる……天人来てから、ヤクザも形が変わってしもうた。せやけど、その金あればなんとかオジキを説得できるかもしれん。今日はアンタの男気と、その七三ヘアーに免じて勘弁したるわ。それこっちによこしィ。オカンはそのあと返したる」

 

 

「……………」

 

 

そう言う勝男の言葉に従い、狂死郎はトランクの蓋を閉め、そのまま大きく振り被ってトランクケースを勝男に向かって投げ渡す。そして投げられたそれをキャッチしようと、勝男は両腕を広げて伸ばす。

 

 

だがその時──どこからか飛んできた1本の木刀がトランクケースを貫き、そのままケースごと壁に突き刺さった。

 

 

「なっ…なんやァァァ!?」

 

 

突然の出来事に動揺するヤクザたちの声が叫ぶ。すると、薄暗いその場所を、外からの白く眩い光が差し込む。そしてその光をバックにして立つ……1人の男の姿があった。

 

 

「んなうす汚ねー連中に金なんざくれてやることねーよ。そいつは大事にとっとけ。母ちゃんにうまいモンの1つでも食わせてやりな」

 

 

「お…お前はァァァ!」

 

 

その男……銀時の登場に、ヤクザの1人が叫ぶ。だがその時、轟音と共に壁や柱を破壊しながら、外から鉄骨の束が突っ込んできた。

 

 

「「「わぎゃあああ!!」」」

 

 

その鉄骨の束によって弾き飛ばされるヤクザたち。因みにその外では……

 

 

「僕機械(からくり)苦手なんですけどォォ!!」

 

 

機械音痴の新八が四苦八苦しながらクレーン車を操縦していたのだった。

 

 

「わァァァァァァァ!! アカン、ひとまずココから……」

 

 

逃げろ…と、瓦礫が崩れ落ちるする建物の中でヤクザが悲鳴を上げながらそう言おうとしたその時……鉄骨の束が巻き上げた煙幕の中から、金色の影がそれを突き破って現れる。

 

 

「お客様~、スクリュードライバー……お待たせ致しましたァァ!!!」

 

 

そして金色の影──フェイトが両手の指の間に挟んだ数本のドライバー(+)を一斉に投擲し、ヤクザたちの着物の裾を地面や壁に縫い付けることで、彼らの動きを封じた。

だが、フェイトの攻撃はまだ終わらない。

 

 

「そしてこちらが、特別サービスのォ──!」

 

 

「うおォ…!?」

 

 

そう言いながら動きを封じたヤクザの1人の襟首を両手で掴み、振り子の要領で思いっきり空中に投げ飛ばす。

すると、それに合わせるように銀時が勢いよく地面を蹴って飛び上がり、投げ飛ばされたヤクザの体を掴む。そして……

 

 

「──パイルドライバーじゃァァァァ!!」

 

 

空中でヤクザの頭を自分の膝の間に挟み込んで、そのまま頭から真っ逆さまに地面が叩き割れるほどの威力で落としたのだった。その際、その衝撃でドライバーに衣服を縫い付けられて動けないヤクザ集団もまとめてふっ飛ばした。

 

 

「調子こいとんちゃうぞォ!!」

「極道モンなめんなやァ!!」

「数で袋にしたれやァ!!」

 

 

すると、念のためにどこかに潜んでいたのか、外から更に十数人のヤクザが押し寄せてくる。

 

 

「チッ」

 

 

流石に丸腰でこの数は厄介だと判断したのか、銀時は鬱陶しそうに舌打ちを漏らす。

 

 

「バルディッシュ!」

《Yes sir》

 

 

それは見たフェイトは、すぐにバルディッシュをセットアップする。

 

 

「銀時ィ!!」

 

 

「!」

 

 

そしてそのまま、バルディッシュを銀時目掛けて投げるフェイト。空中で斧のような形状『アサルトフォーム』となったそれを、銀時は咄嗟にキャッチすると……

 

 

「オラぁぁぁ!!!」

 

 

回転切りのように片手でバルディッシュを振り回し、周りにいたヤクザたちを薙ぎ倒すと、そのままバルディッシュでヤクザを殴り飛ばしていく。器用ゆえに刀以外の武器もそれなりに扱える銀時ならではの威力である。

 

 

一方でバルディッシュを手放したフェイトは、襲い掛かって来るヤクザをいなしながら、瓦礫を蹴って跳躍すると、その先にあるトランクケースと一緒に壁に突き刺さった銀時の木刀に向かっ右手を伸ばす。

 

 

「やァァァァ!!!」

 

 

そして木刀の柄を強く握るとそれを勢いよく引き抜き、そのままの思いっ切り振り抜く。その威力と風圧でヤクザたちが吹き飛ばされると、フェイトはそのまま木刀でヤクザを斬り伏せていく。

 

 

銀時とフェイトがお互いの武器を振るってある程度のヤクザを打ち倒すと、2人は背中合わせになりながら口を開く。

 

 

「オイオイ奥さん、どっかで剣術でも習ったか? 見覚えのある良い太刀筋じゃねーか」

 

 

「まーね。どっかの誰かさんのめちゃくちゃな剣術を、ずっと隣で見てきたからね」

 

 

「ケッ、我ながら恐ろしい嫁だぜ。またカカア天下に拍車がかかっちまう」

 

 

「そ、そんなに威張ってないでしょ!」

 

 

そんな会話をしながら、銀時とフェイトは息の合った動きで襲い掛かって来るヤクザをまるで無双ゲームのように次々と伸していった。

 

 

「なんちゅー無茶しよる連中や。どっちがヤクザかわからんで……」

 

 

その光景を見て驚愕半分、呆れ半分でそう呟く勝男。しかしこのまま黙ってやられるわけにはいかないので、人質にとった母ちゃんを使おうとする。

 

 

「オイ、そこまでにしときィ。このオバはんどーなっても…」

 

 

だがその時、勝男の隣にいたハズの母ちゃんの姿が消えた。

 

 

「!!」

 

 

「このオバはんはもらったぜ! フゥ~」

 

 

見ると、鉄骨の束に体を縛り付けられていた神楽が、かっさらっていた。

 

 

「のおおおおおお!!」

 

 

しかし勝男は負けじとそれを追いかけ、逃がすまいと母ちゃんの足にしがみついた。

 

 

「このォボケコラカス! なめとったらあかんどォ!」

 

 

「逃げた女を追うなんて未練だぜ、フゥ~」

 

 

「何勝手な解釈しとんねん!」

 

 

それに対して神楽は、勝男を叩き落そうとゲシゲシと蹴りを入れる。しかし勝男は体制を変えたりなどしてそれに耐えていた。

 

 

「お登勢ババァの回し者やなんや知らんが、この街でワシら溝鼠組に逆ろうと生きていける思うとんのかボケコラカス! 次郎長親分敵に回したら……」

 

 

──ブッ

 

 

と、その時……母ちゃんのケツからそんな音が発せられた。まごうことなき屁である。しかも運悪く、ちょうど勝男と目と鼻の先……つまり直撃である。

 

 

「(むがァァァァァァァ!! クリーンヒットやァァ!! アカン…めまいが…このババァ何食うとんねん!!)」

 

 

あまりの臭いに顔を真っ青にして悶絶する勝男。意識が飛びそうになりながらも、必死で母ちゃんの足にしがみつく。その際ふと、母ちゃんの方を見てみると、恥ずかしいのか頬を赤くしていた。

 

 

「何頬赤らめとんねん!」

 

 

そんな母ちゃんの反応に思わず怒鳴る勝男。すると、そんな勝男の耳に……2人の男女の声が聞こえてきた。

 

 

「溝鼠だか二十日鼠だか知らねーけどな」

 

 

「たとえ泥の中でも、必死に泥をかき分けて、ただ懸命に生きている鼠を──」

 

 

その声の先には、木刀とバルディッシュを交換して本来の武器を手にした銀時とフェイト。2人は左右対称のバッターのように並び立ち、手にした武器をバットのようにして構える。

 

 

そして……

 

 

「邪魔すんじゃねェェ!!」

 

 

銀時の咆哮と共に木刀とバルディッシュを振り抜き、勝男の腹に打ち込まれる。勝男は下の床に吹っ飛ばされ、少々床を抉らせて倒れた。

 

 

「兄貴ィィィ!!」

 

 

「おんどりゃああ!!」

 

 

そこに、子分達が集まり、怒りの矛先を銀時に向ける。しかしそれを制する手があった。

 

 

「ほっときほっとき、これでこの件から手ェ引いてもオジキに言い訳立つわ」

 

 

「あにっ……!」

 

 

それはこともなげに立ち上がった勝男だった。コキコキと首を鳴らし、自慢の七三ヘアーを正しながら、勝男は続ける。

 

 

「溝鼠にも溝鼠のルールがあるゆーこっちゃ。ワシは借りた恩は必ず返す。7借りたら3や。ついでにやられた借りもな。3借りたら7や。覚えとき、兄ちゃん」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

翌日……ホストクラブ『高天原』では、いつもと変わらない光景があった。そう…いつも通りホストたちが接客で女性を喜ばせる、何1つ変わらない光景が。

 

 

「いつもと変わらないな、狂死郎さん。聞いたかアレ、結局名乗らなかったって」

 

 

いつも通りの狂死郎を眺めながら、1人のボーイと八郎が会話していた。

 

 

「私はまだ胸を張って母に会えるほど立派な人間じゃないってさ。あの人は恥ずべき事なんて何もしちゃいないのに」

 

 

「本当ですよ……」

 

 

「オラは知ってるよ、あの人がどれだけキレイな心持ってるか。ずっと隣で見てきたから……」

 

 

「八郎さん」

 

 

すると別のボーイが、何やら重箱のようなものを持ってやって来た。

 

 

「ちょっと、表に変なモノが置いてあったんですけど」

 

 

「! これは……」

 

 

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

一方で万事屋では……

 

 

「アレだよ! 砂糖とお酒入れて煮て食べるんだよ! そのカボチャ!」

 

 

「しつけーな、何回同じこと言うんだよ!!」

 

 

「大きい声出すんじゃないのォ!! アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェェ!!」

 

 

風呂敷包みを抱えた母ちゃんが、玄関前で銀時と言い争っていた。

 

 

「アレだよ! あんまり煮すぎてもダメだよ! グズグズになるから! 適度に!」

 

 

「しつけーな、何回同じこと言うんだよ!!」

 

 

「大きい声出すんじゃないのォ!! アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェェ!!」

 

 

そんな言い争いを、もうすでに何度も繰り返している。

 

 

「アレだよ! よく噛んで食べるんだよ!」

 

 

「しつけーな、何回同じこと言うんだよ!!」

 

 

「これはまだ1回目だよ!! 騙されないよ私ゃ!」

 

 

大きな風呂敷包みを抱えているのを見て察するに、どうやらこれから田舎に帰るところのようである。

 

 

「それじゃ私いくけど、私いったらちゃんとカギしめんだよ! 最近物騒なんだから!!」

 

 

「しつけーな! もういいから早く行けよ!」

 

 

「あばヨ、オバはん。いい夢みろヨ」

 

 

「オメーもなクソガキ!」

 

 

そう言うと、母ちゃんは玄関の引き戸に手をかける。

 

 

「それじゃあね」

 

 

「あのっ…お母さん…」

 

 

それを新八が呼び止めた。その隣には、申し訳なさそうな表情をしたフェイトもいた。

 

 

「あのっ…結局力になれなくて……すいませんでした」

 

 

「ごめんなさい……あなたを息子さんに会わせることができなくて……」

 

 

フェイトと新八が頭を深く下げ、謝罪する。そんな2人に対して母ちゃんは……

 

 

「なに言ってんのさ」

 

 

ニタ、と笑った。

 

 

 

「会わしてくれたじゃないのさ」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

場所は戻って高天原。そこではいつもと変わらない接客で女性と笑っている狂死郎の姿。

 

 

「お待たせしました」

 

 

するとその狂死郎が座っている席に、八郎がかぼちゃの煮物が入った重箱を置いた。

 

 

「……何コレ……煮物?」

 

 

「ちょっとォ、こんなもん頼んでないわよ! ちょっ…何笑ってんの?」

 

 

突然置かれたそれに女性客は難色を示しているが、八郎はニッと笑って席を離れて行った。

 

 

「何なの、何なのコレ、カボチャ?」

 

 

「こんなダッセーもん誰頼んだの? もしかして狂死郎さん?」

 

 

「んなワケないじゃん、狂死郎さんがこんなイモいもん食べるわけないでしょ」

 

 

そんな女性客たちの声を聞きながら、狂死郎は重箱に挟まれていた1枚の紙に気がついた。

 

 

手に取ってみると……それは『八郎へ』と書かれた母ちゃんからの手紙だった。

 

 

 

 

 

八郎へ

 

 

まず1つ。アンタまだ箸の使い方がなってませんね。直しなさいっていったでしょう。母さんスゴく気になりました。

 

 

あとものを食べる時、クチャクチャ音をたてない。母さんスゴクイライラしました。

 

 

最後に……

 

 

細かい事はよくわからないけども、母さん、アンタが元気でやっててくれればそれでいいです。

 

 

たとえどんなんなったって、アンタは私の自慢の息子です。

 

 

 

 

 

それを読み終えた狂死郎は、すぐに箸を手に取った。そして拙い箸使いでカボチャの煮物を掴み、それを口に運んだ。

 

それも1つだけではなく2つ3つと口いっぱいに頬張り、クチャクチャと音を立てながら咀嚼する。

 

 

──か…母ちゃん!

 

 

たとえ女性客が怪訝な顔をしようとも、目や鼻からみっともなく涙や鼻水を流そうとも……狂死郎は……黒板八郎は、母の愛情が詰まったそれを口いっぱいに詰め込んだのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「ようやくうっとーしーのがいなくなったな。アレだな、母ちゃんなんていてもうっとーしーだけだっつーのがよくわかったわ」

 

 

「そうアルな」

 

 

「そうですね……」

 

 

「みんな、カボチャの煮物、できたよ」

 

 

そう言ってフェイトは、母ちゃんから教わった作り方で調理したカボチャの煮物をテーブルの上に置いた。

 

 

そして4人は誰からともなく、同時にカボチャの煮物を箸を伸ばして、それを口に運んだのであった。

 

 

 

 

 

「「「「1、2、3、4」」」」

 

 

 

 

 

母ちゃんから教わった20回噛んでから飲み込むということを忘れずに……

 

 

 

 

 

つづく




このままフェイトにはドライバーキャラになってもらう手もありだったなコレは。

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