銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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日に日にどんどん伸びる評価を見て、嬉しい反面少しプレッシャーを感じるのは作者の心が捻くれているからでしょうか。

ランキングに載ったのを見た時は目を疑いました。評価してくれた皆様、ありがとうございます!!


とりあえず今回からは銀魂原作の1話、2話完結の話を書いていきたいと思います。その際、時間系列などは基本無視です。

今回は登場しませんが、フェイト以外のリリカルキャラもふわっと出すつもりです。気づいたら居た、みたいな感じで。


感想お待ちしております。


そんなに松茸って美味しいものなのか一度よく考えてみよう

 

 

 

 

 

場所はかぶき町から遠く離れた山の中。綺麗な紅葉に包まれたこの山に、銀時たち万事屋一行はキノコ狩りに来ていた。

 

事の切っ掛けは、銀時がふと「松茸ご飯食いてーな」とぼやいたのが始まりだった。それを聞いてまずいの一番に神楽が賛同し、続いてフェイトや新八も同意した。そしてどうせなら、山でキノコ狩りをしようという話になったのだ。

 

そうすれば、松茸以外にも色んなものが採れるし、食費は浮くし、何より松茸が大量に採れれば金になる。ぶっちゃけ最後の理由が本音なのだが……そういう理由で彼らはこの山に松茸を求めてやって来ていたのだった。

 

 

「おっ、見ろよ新八。これなんて食えそうじゃね?」

 

 

全員で手分けして散策していると、何かを見つけた銀時が新八にそう言った。だが銀時が見つけたそれは、あからさまに毒々しい紫色をしたキノコだった。

 

 

「いやいやいやいや、これは無理ですよ。どう見ても毒キノコですもん」

 

 

「何度も同じことを言わせんな。グロいものほど食ったらウメーんだよ。塩辛然り、かにみそ然り」

 

 

「この奇怪な色は警戒色ですよ。『俺は毒持ってるぜ、近寄るな』っていう」

 

 

どう見ても毒キノコなそれに新八は止めとくように言うが、頑なに譲らない銀時。

 

 

「そーゆー尖ったロンリーウルフに限って、根は優しかったりするんだよ。ガキの頃のフェイトなんかまさにそんなんだったよ。お人好しのくせに無理に悪ぶったりしたりしてよォ」

 

 

「いやフェイトさんの子供の頃なんて知りませんから。どんな幼少期を送ってたんですかフェイトさん」

 

 

「色んなトコ飛び回って散らばった宝石を集めたりしてたな」

 

 

「本当にどんな幼少期!? フェイトさんトレジャーハンターか何かだったんですか!!?」

 

 

「いやいや、実際はそんな大層なモンじゃねーよ。宝石集めてたのだって母ちゃんに頼まれたからだからね、ほとんどお使いみたいなもんだったからね」

 

 

「どこの世界にお使い感覚で宝石集めさせる母親がいるんですか!?」

 

 

「まぁ確かに、あのババァは普通じゃなかったよ。いい歳こいて悪の組織の女幹部みてーな痛々しい格好したある意味お登勢のババァよりも恐ろしいババァだっ──これ以上はやめとこう、雷落ちてきそうだ」

 

 

「?」

 

 

そう言って途端に話を終わらせた銀時に、新八は疑問符を浮かべる。その際、晴れやかだった空の天気が一瞬だけ曇ったように見えたのは気のせいだろう。

 

 

「って言うか、子供の頃のことまで知ってるなんて、銀さんとフェイトさんってそんなに付き合い長いんですか?」

 

 

「お互いガキの頃には面識あったかな。おっ、採れた。どーだ定春?」

 

 

新八の問いに適当に答えながら、銀時はそのキノコを引き抜いて定春に嗅がせる。

 

 

「くんくん………クシッ」

 

 

定春がキノコを嗅いだ途端、嫌そうに顔を歪めながらクシャミをした。

 

 

「クゥ~いい香りだ。これは松茸に勝る極上品だぜ、さすが銀さんだ(銀サン裏声)」

 

 

「何勝手に訳してんの。明らかに拒絶してるでしょ」

 

 

「メガネうるせーよ、既婚者の銀さんに逆らうなよ童貞が。どーせ椎茸しか食ったことねーんだろ、あっちのサイズも椎茸レベルだろ(銀サン裏声)」

 

 

「結婚してるくらいで勝ち組気取ってんなよなめこ汁が限界の貧乏侍が。みんなまだ結婚詐欺だって疑ってっからな(新八裏声)」

 

 

「……何やってるの?」

 

 

銀時と新八が定春の言葉を翻訳(という名の罵倒)をしていると、そこに籠を両手で抱えたフェイトがやってきた。

 

 

「おうフェイト、なんか見つかったか?」

 

 

「うん。流石に松茸は見つからなかったけど、色々食べられそうなもの見つけたよ。ほら」

 

 

そう言ってフェイトが見せた籠の中には普通のキノコだけでなく、山菜や筍などの山の幸が多く入っていた。

 

 

「うわぁ~、どれも美味しそうじゃないですか!」

 

 

「よくこんなに見つけたな。どっかの超生物が担任やってる3年E組にでも分けてもらったのか?」

 

 

「この山に暗○教室ないから。そんなわけないでしょ、ちゃんと探して見つけたの。これだけあれば、今日の夕飯は豪勢にできると思うよ」

 

 

「マジでか、そりゃあ楽しみだな」

 

 

「ですね。フェイトさんが作るご飯はすごく美味しいですからね」

 

 

「フフ、ありがとう」

 

 

今から夕飯が楽しみだと、心を躍らせる銀時と新八。フェイトも2人の反応に嬉しそうに微笑みながら、頭の中で献立を考えていた。

 

 

「銀ちゃん、フェイト、新八、見て見て!」

 

 

するとそこへ、何かを見つけた神楽がそんな声を上げながらやって来た。

 

 

「コレ、すごいの見つけたよ。コレも食べれるアルか?」

 

 

だがその背には、何故か頭にキノコを生やした大きな熊が担がれていた。当然、それを見た銀時とフェイトと新八、そして定春までもが驚愕で目を剥いた。

 

 

「どっ…どっから拾ってきたんだそんなモン! こっちに来んなァァ!!」

 

 

「神楽、そんなもの今すぐ捨てなさい! すぐにポイしなさいィィ!!」

 

 

「もしくはそのまま故郷に帰れ! そのまま所帯をもて! そのまま幸せになれ!」

 

 

「アラアラ3人ともはしゃいじゃって。大丈夫ですよ、みんなで平等に分けましょーね」

 

 

慌てふためく銀時たちだが、神楽は構わずその熊を担いだままやって来る。

 

 

「いらねーよそんなの…ってゆーか何それ? 死んでるのそれ?」

 

 

「わかんない。なんか向こうに落ちてたアル」

 

 

「お前なんでも拾ってくんのやめろって言ったろ」

 

 

そう言いながら神楽は担いでいた熊の死骸を地面に置き、それをフェイトが恐る恐ると覗き込む。

 

 

「これ、熊だよね。頭にキノコ生えてるけど」

 

 

「アレだろ、あんまり頭使わなかったから。ほら、フェイトも知ってんだろ三丁目の岸部さん。あそこのジーさんも生えてたから」

 

 

「マジアルか、気をつけよ」

 

 

「銀時、失礼だよ。確かに岸部さんはよくどこから仕入れたのか分からないキノコをお裾分けに来てくれるけど」

 

 

「フェイトさん、それフォローになってないです。ってゆーか食ったんか? そのキノコ料理して食ったんか?」

 

 

フェイトにきっちりツッコミを入れながら新八は熊の死骸を軽く調べる。

 

 

「猟師にやられたのか…そんなに長居できそうにないですね。わざわざこんな遠いトコまでキノコ狩りに来たのに」

 

 

「バカヤロー、怖気づいてんじゃねーぞ。まだ松茸の1本も手に入れてねーんだぞ。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。熊が怖くてキノコ狩りができるかコンチキショー」

 

 

「そうアル! コンチキショー!」

 

 

「「ま~つ~た~け~、ラララ、ま~つ~た~け~♪」」

 

 

そう言って神楽と共に奇妙な歌を歌いながら、山の奥地へと向かって行く銀時。

 

 

「銀時、神楽……」

 

 

「うえうえ!」

 

 

「「?」」

 

 

すると、フェイトと新八の妙に上擦った声が聞こえた銀時と神楽は、顔を上げて上を見上げた。

 

 

 

そこには──周囲の木々よりも頭1つ抜けるほど巨大で……頭頂にキノコを生やし、左目が潰れている熊が銀時たちを見下ろしていた。

 

 

 

「「…………ぐふっ」」

 

 

その瞬間、銀時と神楽はその場に倒れ込んで死んだフリを試みる。

 

 

「イカンイカン! 死んだフリはイカンよ! 迷信だから、迷信だからそれ!」

 

 

フェイトや定春と共に草葉の陰に隠れた新八が小声でツッコミを入れる。

 

 

「……銀ちゃん、迷信だって……」

 

 

「……………」

 

 

「あっ、ズルイよ! 自分だけ本格的に死んだフリして! 熊さーん、この人生きてますヨ!」

 

 

死んだフリしているにも関わらず、大声で叫ぶ神楽の頭を銀時がはたく。

 

 

「ホラ生きてた」

 

 

「ガタガタ騒ぐな。心頭滅却して死んだフリすれば熊にも通ずる。さあ目をつぶれ」

 

 

「ウン、おやすみ銀ちゃん」

 

 

だがそんな半端な死んだフリが通じるわけもなく、巨大な熊は木を薙ぎ倒しながら2人に襲い掛かった。

 

 

「銀さん! 神楽ちゃん!」

 

 

「大変、どうにかして2人を助けないと……」

 

 

「そうだ! フェイトさんの魔法ならあの熊を倒せるんじゃ……!」

 

 

以前フェイトが銀時をブッ飛ばすのに使っていた魔法、アレならば熊を倒すこともできるのではないかと、新八は期待を込めてそう言うが、フェイトは首を横に振った。

 

 

「ごめん、ダメなの」

 

 

「ど、どうしてですか!?」

 

 

「江戸の幕府と管理局の間にはいくつかの条約が結ばれててね、その中の1つに、江戸にいる魔導師は幕府と管理局の許可無く魔法を使用することを禁じる規則があるの。デバイスを起動させるだけだったり、警察や執務官として使用するならその限りじゃないんだけど、今日の私は非番だから今魔法使ったら普通に罰せられちゃうの」

 

 

「なにその取って付けたような設定!? つーかアンタ前回銀さんブッ飛ばすのに魔法使ってたでしょーが!!」

 

 

「アレもあとで管理局に弁解するのが大変だったんだよ。『初めてのギャグシーンだったからつい』って言ったらなんとか誤魔化せたけど」

 

 

「それで誤魔化せたの!? 判断ゆる過ぎだろ管理局!!」

 

 

「チッ……うるさいな新八のくせに。そんなに文句言うなら自分で行けばいいのに」

 

 

「オイィィィ!! 今ボソッと毒吐いたよこの人ォ!? アンタそんなキャラじゃないでしょーがァァ!!」

 

 

フェイトのボケと新八のツッコミの応酬が繰り広げている間にも、銀時と神楽は巨熊に襲われて逃げ回っている。

 

 

「「ぎゃああっ!! 待て待て待て!! タンマタンマ!!!」」

 

 

「ってこんな事してる場合じゃない!! どうするんですかこの状況!!」

 

 

頼みの綱のフェイトの魔法も使えず、どうするのかと頭を抱える新八。

 

 

「オイオイ、今どき死んだフリなんてレトロな奴らだねぇ」

 

 

「「!」」

 

 

するとそこへ、1人の男が現れた。編み笠を深く被ったその猟師風の男は猟銃を構えると、銀時と神楽を襲う巨熊に向けて引き金を引いた。

しかし発射されたのは銃弾ではなく煙幕弾。巨熊に命中すると同時に、真っ白な煙を巻き上げて巨大熊の視界を封じた。

 

 

「煙幕!?」

 

 

「オーイ、こっちだァ!」

 

 

「!」

 

 

突然張られた煙幕に銀時が目を丸くしていると、猟師の男が銀時たちを呼ぶ。それを聞いて、銀時と神楽はすぐさまフェイトと新八がいる草葉に隠れたのだった。

 

それからしばらくして煙幕が晴れ、銀時たちを見失った巨熊は、そのままドシドシと地面を鳴らしながら山の中へと引き返していった。

 

 

「あの熊は〝正宗〟って言ってなァ、いわばこの山のヌシよ」

 

 

「アンタ……」

 

 

「俺は魔理之介。奴を追う者だ」

 

 

そう言って銀時たちの窮地を救った猟師の男──魔理之介はそう名乗ったのであった。

 

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

それから巨熊〝正宗〟から逃げてきた万事屋一行は、魔理之介と共に川の近くまでやって来た。そこで神楽が「お腹減ったアル」と言った為、急遽フェイトが持って来ていた鍋と採ってきた山の幸の一部を使った、鍋スープを作っていた。

 

 

「あ? キノコ狩り? 今この山がどれだけ危険か知らんのか」

 

 

「そんなこと言って、松茸独り占めする気アルな!?」

 

 

「神楽、命の恩人にそんなこと言っちゃダメだよ。あ、魔理之介さんもどうぞ召し上がってください」

 

 

暴言を吐く神楽を諫めながら、フェイトは作った鍋スープを魔理之介にも振る舞う。魔理之介も断る理由はない為、ありがたくそれを頂戴した。

 

 

「ん、美味いな。これだけの食材でこれほどの料理を作るとは……」

 

 

スープを一口飲むと、その美味しさに魔理之介は素直に絶賛する。

 

 

「そりゃそうだろ、俺が唯一自慢できる嫁が作るメシだぞ。マズイわけがねえ」

 

 

「も…もう銀時ったら。あ、おかわりもありますから」

 

 

「フッ、できた嫁さんだな。羨ましいことだ」

 

 

そんな会話をしながら、全員がフェイト特製の鍋スープに舌鼓を打っていると、銀時が先ほどの巨熊〝正宗〟について尋ねる。

 

 

「山のヌシだっていうあの巨大な熊……ありゃあ一体どうかしちまったのか?」

 

 

「お前らも見ただろう、正宗の頭に生えた奇妙なキノコを。どこの星から来た亜種かは知らんが、アイツに寄生された奴はみーんなキノコを育てる為の生きた肥料となる。自我を失い、栄養をキノコに送る為だけに狩猟を続ける化物になっちまう。おそらくさっきの熊も、正宗にやられたんだろう」

 

 

「仲間の熊さえ殺しちまうってのか」

 

 

「下の里じゃ、畑は荒らされるわ、人は喰われるわで壊滅的な被害を受けてるそうだ。そこで俺の出番ってわけだ。俺は(こいつ)の名手でな、巨熊ごときにひけはとらねぇ」

 

 

「報酬目当てか?」

 

 

「そんなんじゃねーさ。まァ、奴とは色々あってな」

 

 

意味深にそう語る魔理之介。そこに何かを感じたのか、銀時はそれ以上追及せずに溜息を漏らした。

 

 

「……ハァー、あんな化物がいるんじゃ松茸なんて言ってる場合じゃねーな。少し減っちまったが、山菜やら筍やらは採れたことだし、今回はコレで良しとして俺たちは山をおりるとするか」

 

 

松茸を諦めて下山することに決めた銀時は、少々残念そうにしながらもそう言ったのだった。

 

 

──頭にキノコを生やして。

 

 

「……って銀さァァん! 頭からキノコ生えてますよォォォ!」

 

 

「え? あれェ!!?」

 

 

「プフッ、頭ちゃんと使って生活しないからアルよ~」

 

 

「いやお前も生えてるぞォォ! ってアレ? 僕もォォ!」

 

 

「ウソ!? 私にも生えてる!!?」

 

 

銀時だけでなく、新八や神楽、フェイトの頭にも同様にキノコが生えていた。

 

 

「言わんこっちゃねェ…奴に寄生されたな。素人が山をナメるからそんなことになるんだ」

 

 

「「「「お前もな!!」」」」

 

 

さらには魔理之介の頭からも、キノコが編み笠を突き破って生えていた。

 

 

「アレェ!? なんでェェェ!? ちょっ…お前らこの鍋に何入れた!!」

 

 

「失礼アル! フェイトが作った鍋にケチつけてんじゃねーぞ!! 私も協力して熊に生えてたキノコとか入れた自信作アルヨ!!」

 

 

「ちょっ、神楽ァァ!!? 私聞いてないよ!? いつの間にそんなの入れたの!?」

 

 

「お前何してくれてんだァ! 死体に生えてたキノコ入れる奴があるかァァ!!」

 

 

どうやら原因は、神楽がこっそりと鍋に入れていた熊の死体に生えていたキノコを入れ、全員それを知らずに食べてしまったからのようである。

 

 

「最悪だァァ! 僕らどうなるんだァ!」

 

 

「このままじゃ奴らの仲間入りだ。だが慌てるな、初期段階なら里におりて治療すれば間に合う。だがそれまで頭のキノコには決して触れるな! 何が起こるかわからな……」

 

 

ブチィ!

 

 

「人の話を聞けェェ!」

 

 

魔理之介の話を無視して自分の頭のキノコをむしり取る神楽。だがその瞬間、生え変わるように新たなキノコが数本出現した。

 

 

「うわァァァ! なんか増殖しちゃったよォォ!」

 

 

「フフン」

 

 

「オイ、何嬉しそーな顔してんだ? いっぱいあっても別に偉くねーんだよ」

 

 

「魔理之介さん! このキノコどうにかできないんですか!? 何か知らないんですか!?」

 

 

「人をキノコ博士みてーに言うな!」

 

 

そうやって一同が慌てふためいていたその時……騒ぎ過ぎたのか嗅ぎつけられたのか、巨熊の正宗が草陰から飛び出してきて銀時たちの目の前に現れた。

 

 

「ウソォォォォ!? 最悪だァァァ!! なんでよりによってこんな時にィィ!!」

 

 

「チッ」

 

 

魔理之介は舌打ち混じりに猟銃を構え、正宗に向かって発砲する。特殊な銃弾を使っているのか、当たると同時に爆発を起こす。普通の熊ならひとたまりもないだろうが、キノコに寄生された影響で頑丈になっているのか、正宗はビクともしていなかった。

 

 

「オイ、俺がこいつ引き付けとくから、その間にお前らは里に逃げな。男の喧嘩は神聖なモンだ、邪魔はいらねー。なァ? 正宗よ」

 

 

そう言うと、やはり何か因縁があるのか、単身で正宗と対峙する魔理之介。すると正宗が「ガァァァアア!!」と吼えながら魔理之介へと襲い掛かる。

 

 

その瞬間……魔理之介の視界は反転した。

 

 

「アレ?」

 

 

それは正宗にやられたからではない。いつの間にか魔理之介の服を咥えて持ち上げた定春が、そのまま魔理之介を連れて正宗から逃げ出したからである。

 

 

「なっ!? オイオイオイ、どこ連れてくつもりだ!? 離してくれ! 俺ァ奴と決着つけなきゃならねーんだよ!」

 

 

「何考えてんだ! おっ死ぬぞアンタ!」

 

 

「ここは一旦逃げて、頭のキノコをなんとかする方が先決です!」

 

 

「うるせー! ほっといてくれ! オメーらには関係ない!」

 

 

魔理之介の言葉に耳を貸さず、とにかく一緒に逃げる銀時たち。

 

 

「銀さん! あそこあそこ! あそこに隠れましょう!」

 

 

そう言って新八が見つけたのは、大樹の根元にできた大きな洞。全員すぐさまその洞の中に逃げ込んだが、直後に正宗に出入り口を抑えられてしまった。

 

 

「こりゃ長くは持ちそうにねーな」

 

 

「ここも、俺たちもな」

 

 

正宗は彼らを引き釣り出そうと外から腕を伸ばしてくる。更には洞全体がミシミシと音を立てている。ここが崩壊してしまうのも時間の問題だろう。

 

 

「……ったく、余計なことしてくれやがって。お前らのせいで予定が狂わされっぱなしだぜ」

 

 

「なにかい? 熊に喰われるのがアンタの予定だったのかよ?」

 

 

銀時がそう問い掛けると、魔理之介は沈黙する。そしてしばらくすると、まるで昔話を聞かせるように静かに語り始める。

 

 

その昔、ある所に狩人の村があった。

 

彼らは自然を殺して生きる、それゆえに誰よりも何よりも自然を重んじた村だった。

 

その村には掟があった。神聖な狩り以外では、一切の生殺与奪に関わらないという鉄の掟が。

 

しかしある男が、情に流され掟を破り、1匹の子熊を育てることにした。

 

だが男は幸せだった。奪うことしかしてこなかった血塗られた己の手で、小さくはあるが1つの命を確かに支えていることが。

 

そして男は気づく。己もまたその子熊の小さな命に支えられていることに……

 

しかし掟は容赦なく男から支えを奪った。

 

子熊を深い谷底に捨てられ、男は怒りと悲しみに打ちひしがれるが、何も出来なかった。

 

男はあの時から、銃を何かに向けることができなくなっていたのだった。

 

 

「その後、男は人づてに噂を耳にする。片目の巨熊が里を荒らしていると。アイツは人間に復讐しようとしている。無慈悲に親を奪われ…身勝手に人間に捨てられた。奴を化物にしちまったのはまぎれもねェ──この俺だ」

 

 

そう語り終えた魔理之介は、強く握った猟銃を構える。

 

 

「奴の苦しみも、里の奴らの苦しみも、俺が掟を破ったことで生まれた。アイツを止めるのは俺しかいない。俺が止めなきゃならねーんだ。たとえ止められなくとも、奴の手にかかって死ぬ。それくらいしか…俺のしてやれることはねーんだよ」

 

 

そして魔理之介は猟銃の銃口を正宗に向け、引き金を引いた。

 

 

「うおらァァァァ!!!」

 

 

爆発で正宗が怯んだすきに、魔理之介は洞から飛び出す。だが見る限り正宗にダメージは無かった。

 

 

「やっぱ効かねーか。そのドタマのキノコぶっ飛ばすしか、お前を救う道はなさそーだな」

 

 

魔理之介はそう言って再び猟銃を撃ち、今度は正宗の頭部に命中させて爆発を起こす。

 

 

「(……殺ったか!?)」

 

 

確かな手応えを感じたことで、そんな考えが頭をよぎる。だが次の瞬間、爆煙から伸びてきた正宗の腕が魔理之介を殴り飛ばす。

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

その衝撃で魔理之介はふっ飛ばされ、体を地面に打ち付けられる。さらに猟銃まで手から放れてしまい、窮地に立たされてしまう。

 

 

「ゲホッ、ゴホッ……!」

 

 

そんな魔理之介に、容赦なく襲い掛かる正宗。

 

 

ここまでかと、魔理之介が諦めかけたその時……正宗と魔理之介の間に割って入った銀時、フェイト、神楽がそれぞれ木刀と傘、そしてバルディッシュを叩き込んで正宗を怯ませた。

 

 

「お前ら、何で!」

 

 

「魔理之介さーん!」

 

 

思わぬ助っ人に戸惑う魔理之介。そこへ新八が、落ちていた彼の猟銃を投げ渡す。

 

 

それを受け取ろうと手を伸ばす魔理之介。銀時たち3人を払い除け、魔理之介に迫る正宗。

 

 

そして一瞬早く猟銃を手にした魔理之介が、その銃口を正宗に向けると、正宗は突き付けられた銃口の前に止まった。

 

 

「!」

 

 

両者が睨み合うこと僅か数秒……正宗は抵抗することもなく、まるで(こうべ)を垂れるように、己の頭を銃口の前に差し出した。

 

 

「………すまねぇ………」

 

 

魔理之介の膝元に、僅かな水滴が落ちる。

 

 

──あばよ、正宗……

 

 

その直後──乾いた銃声が、まるで誰かの鳴き声のように山に響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

それから万事屋一行と魔理之介は、里で頭のキノコを除去してもらったあと、里の入り口前に集まっていた。

 

 

「何だか色々迷惑かけちまったなが、これからお前らはどうするんだ?」

 

 

「もうキノコ狩りはウンザリだからな。とりあえず帰って、フェイト特製の山の幸料理でも食うわ」

 

 

「その次はブドウ狩りアルよ!」

 

 

「フフ、懲りねェ連中だ」

 

 

苦笑を漏らし、魔理之介は銀時たちに背を向けて歩き始める。

 

 

「アンタはどうすんだ?」

 

 

「フン、俺も掟だ何だってのはもうウンザリなんでな。これからは自由に生きるさ、あいつの分までな……」

 

 

そう言い残して去って行く魔理之介の顔は、山の空のように晴々としたものだった。

 

 

 

 

 

つづく


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