銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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紅桜篇が終わり、ようやく思う存分ギャグが書けるとテンションが上がって最初からフルスロットルで飛ばそうとしたらエンストした上に道に迷ってなんやかんやあった末にスタート地点に戻るを数回繰り返した……そんな感じで完成した話です。


日常篇
久しぶりにギャグ回やると何が面白いのかよく分からなくなるよね


 

 

 

 

 

「先の一件で、高杉一派の被害は甚大で、死者・行方不明者、五十数名。あの人斬り似蔵も…おそらく死亡したものだと思われます。奴らが開発していた兵器、紅桜も船と共に海に消えました……以上が、先日の事件の顛末です。」

 

 

場所は江戸のとある定食屋。

そこの席の一角では、真選組副長の土方十四郎と監察の山崎退が向かい合って座っていた。

高杉晋助率いる鬼兵隊による紅桜の事件から数日後……その事件の内容をまとめた報告書を、山崎が読み上げて報告していたのだ。

 

 

「ご苦労。これでしばらく高杉一派は動けねーだろ。だがまさか、桂の野郎が生きていたとはな」

 

 

そう呟きながらカツ丼に大量のマヨネーズをかける土方に、山崎は顔を引きつらせる。

決して土方のマヨネーズの量に気分を害したわけでは──いやそれもあるのだが、それだけが理由ではない。

 

 

「他の隊士からの報告によると…俺達が撤退したあと、船に残った万事屋の野郎とテスタロッサの2人以外に、もう1人いたらしい。そいつは髪型は異なっていたが、間違いなく桂だったとのことだ」

 

 

「へ…へぇ~、そうだったんですかぁ~……」

 

 

冷汗を滝のように流しながら、相槌をうつ山崎。

あの日、高杉の船に潜入していた山崎は桂に遭遇しているのだが、それを土方に報告しなかったのだ。

理由は桂に借りのあるヴィータに口止めされているからだ。

もし喋ればアイゼンの頑固な汚れにされ……バレれば土方に切腹を言い渡される……どちらにしろ殺される未来しか見えないのなら、土方にバレないことを祈りながら隠し通すことにした山崎だった。

 

 

「まぁ今は桂のことはいい。問題はその桂と一緒にいた野郎だ」

 

 

「万事屋の旦那ですか?」

 

 

「確かあの野郎は以前、池田屋の一件の時も桂と関わっている風だったが、うまい事逃げられたんだったな。高杉とも何か因縁があるようだったし……洗うか」

 

 

「副長、旦那は今回の事件解決における立役者ですよ。高杉一派に大打撃を与えられたのだって、旦那の活躍があったからこそで……」

 

 

「それとこれとは話が別だ」

 

 

山崎の反論をバッサリと切って捨て、口に咥えたタバコに火を着けながら話を続ける。

 

 

「元々うさん臭ェ野郎だ、探れば何か出てくる奴だってのはお前も前からわかってただろ。派手な動きもせなんだから捨ておいたが…潮時かもな」

 

 

「これで、もし旦那が攘夷活動に関わっていた場合は」

 

 

「んなもん決まってるだろ」

 

 

紫煙を吐きながら、土方は山崎に指令を下した。

 

 

「事件解決の立役者だろーが何だろーが、俺達の敵には違いねェ──斬れ」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「……ここか……意外に広いな」

 

 

その夜、山崎は忍者のような黒装束というスタイルで、志村家である恒道館道場へとやって来ていた。

なぜここに足を運んだかと言うと、昼間に銀時のもとを訪ねた際に、銀時はケガの療養の為に新八の家にいるという話を万事屋の大家であるお登勢から聞かされたのである。

 

 

──確かに旦那、ボロボロだったもんなぁ。しかし斬れとは…副長も無茶を言う。自分も旦那に負けたくせに、俺が勝てるワケないだろ。何考えてんだ…それに旦那に何かあったら、奥さんが黙ってないだろーしなぁ……どうしろってんだよ。あーヤベ、帰りて。

 

 

内心で愚痴りながらも敷地内に忍び込み、足音すら立てずに潜入を成功させるところは流石監察と言ったところだろう。

そして屋敷で灯りのついている部屋の様子を伺おうとすると……

 

 

「クク…来たか」

 

 

──!? バレた!?

 

 

その部屋の開け放たれた戸の向こうから銀時の聞こえた。

潜入がバレたと思った山崎は、ビクッと身体を震わせながら物陰に隠れるが、部屋から聞こえてくるのは銀時の見透かしたような声。

 

 

「そろそろだと思ったぜ。だが、俺にはお見通しだ」

 

 

──なんてこった、さすが旦那だ。こっちの行動は全て予測済みってワケか…

 

 

潜入が看破されたことに畏怖の念を抱きながら、大人しく物陰から出てきてからそっと開いている戸から部屋の様子を覗き込む山崎。

 

 

「これで終めーだァァ!!」

 

 

同時に部屋から高々と響く、銀時の叫び声。

そして部屋を覗き込んだ山崎の目に飛び込んで来たのは……

 

 

 

 

 

「革命じゃァァァ!!」

 

 

 

 

 

布団の上でトランプの大富豪をやっている銀時達だった。

 

 

──トランプやってたんかい…まぎらわしいマネを。

 

 

ズッコケる山崎。

そして布団の上に絵柄の揃ったカードを叩きつけた銀時は、得意気に高笑いをしながら対戦相手であるフェイトと神楽に宣言する。

 

 

「ブワハハハハ!! 見たか富豪共、大貧民の底力を!! これでてめーらを引きずり落として……」

 

 

「じゃあ私、革命返しね」

 

 

「え、あ、ちょっ……!!」

 

 

しかしそれもほんの束の間で、フェイトの出した札によって一瞬にして銀時の優位は崩れ落ちたのだった。

 

 

──とにかく軒下へもぐろう

 

 

そんな銀時達に呆れながら、山崎は縁側から軒下へと潜り込んで部屋の床下へと向かう。

 

 

「はい、あがり」

 

 

「私もあがりアル」

 

 

「クソがァァァ!! これで俺8連敗だぞォ!! おかしくね!? おめーら何か仕組んでね!?」

 

 

「それは言い掛かりだよ銀時」

 

 

「そうアル。所詮銀ちゃんなんてゲームでも現実でも大貧民になる悲しい運命ネ」

 

 

「うるせェェ!! もう1回だ!! こうなったら俺が大富豪になるまで……」

 

 

銀時が勇んで布団から立ち上がったその時……部屋の襖が勢いよく開かれた。

 

 

「何勝手に動いとんじゃあああ!!」

 

 

そこから現れたのはこの家の家主である志村妙。

彼女は鬼の形相で部屋に飛び込んでくると、手に持った薙刀の刃先を銀時に向かって振り下ろす。

 

 

「「ぎゃあああああああああ!!」」

 

 

股の間に薙刀を突き立てられて悲鳴を上げる銀時。

しかし悲鳴を上げたのは彼だけではない。お妙が突き立て刃は布団と床を貫通し、その床下に潜んでいた山崎の目と鼻の先に突き出たのだ。幸いにも山崎の悲鳴は銀時の悲鳴にかき消されたので、存在がバレることはなかった。

 

 

「もぉー銀さんったら、そんな怪我でハシャいだらダメって言ってるでしょ──死にますよ(殺しますよ)

 

 

「すいませんけど、病院に入院させてもらえませんか。幻聴が聞こえるんですけど。君の声がね、ダブって殺すとか聞こえるんだけど。いやいや君が悪いんじゃないよ、俺が悪いのさ」

 

 

「ダメですよ。入院なんてしたら、どーせスグ逃げ出すでしょ。ここならすぐ仕留められるもの」

 

 

「ホラッ! また聞こえた! 仕留めるなんてありえないもの! 言う訳ないもの!」

 

 

「銀さん、幻聴じゃありませんよ」

 

 

居間のテーブルに頬杖をつきながら煎餅をかじる新八がやんわりとツッコミを入れる。

 

 

「つーか何でおめーがそんなやる気(殺る気?)に満ち溢れてんの!? 今回お前関係なくね?」

 

 

銀時がそう言うと、お妙は床に刺していた薙刀を抜いてから、どこか憂いを帯びた表情で口を開く。

 

 

「……関係ないなんて言わないでください。これでもとても心配したんですよ。新ちゃんから銀さんが大怪我をしたって聞いて…すぐに万事屋へ向かったら、もう銀さんもフェイトさんも家を出た後で……結局私は何も出来な手くて……」

 

 

「…………」

 

 

「お妙……」

 

 

「姉御……」

 

 

顔を伏せ…身体と声を震わせながら語るお妙を、銀時達は複雑そうな表情で見やる。

 

 

「なんで…なんで……」

 

 

そして……

 

 

 

 

 

「なんで紅桜篇における私の出番が丸々無くなっとんのじゃあァァァ!!」

 

 

「そっちィィィィィ!!?」

 

 

 

 

 

お妙が青筋を浮かべた怒りの表情で振り回す薙刀を、銀時は身体を床に這いつくばらせて回避しながら絶叫に似たツッコミを入れた。

 

 

「原作じゃ毛ほども出て来なかったゴリラ共が出張って来てるのに、私の出番がなくなってるってどういうことだ!? あァん!?」

 

 

「知らねーよ!! それ俺ら関係ねェだろ!! 八つ当たりすんなら作者にしてくんない!?」

 

 

「八つ当たりじゃありません、腹いせです」

 

 

「それ同じ意味だろーが!!」

 

 

そんな物騒なやり取りを、山崎は床下で聞いて顔を引きつらせていた。

 

 

──これ見つかったら俺も殺されるかもしんない。あ、でもおかげでのぞき穴が。これで部屋の様子も見て取れるぞ。

 

 

先ほどお妙が薙刀を突き刺したことで生まれた床穴。山崎はそこから目を覗かせて部屋の様子を伺う。

 

 

「さて、冗談はこれくらいにして、そろそろお腹が減った頃でしょ?」

 

 

「冗談じゃなかったよね? 完全に殺る眼をしてたよね?」

 

 

「お料理作りましたよ」

 

 

「……お妙、なにソレ? 何その黒い物体?」

 

 

「卵がゆです。消化にいいと思ったんで」

 

 

「うん、たぶんソレ消化にも体にも悪いと思うからやめとこうか。代わりのおかゆなら私が作るから」

 

 

「大丈夫ですよフェイトさん、確かにちょっとだけ焦げちゃいましたけど味には問題ありませんから」

 

 

「焦げたっていうか消し炭になってるよねソレ。むしろ卵の焼死体だよねソレ。原型がなくなるくらい燃え尽きてるよねソレ」

 

 

「あ、でも動けないから食べさせてあげないとね。フェイトさん、妻として銀さんに食べさせてあげてますか?」

 

 

「お妙、お願いだから話を聞いて。それ遠まわしに私に夫を殺せって言ってるようなものだから」

 

 

お妙が卵がゆと称して持ってきたのは、禍々しいほどに真っ黒に焦げたナニか。通称『かわいそうな卵』又は『暗黒物質(ダークマター)』と呼ばれている代物である。当然、口にして良いのものでは決してない。銀時も顔を真っ青にして「なんの拷問だよ」と呟いている。

フェイトがやんわりと銀時に食べさせようとするのを阻止しようとするが、自分の料理(?)に絶対の自信をもっているお妙は頑なに譲ろうとしない。それどころか自分で夫にトドメをさせと言ってきた。

 

 

──なんだ、メシか?

 

 

「姐御、フェイトがやらないなら私にやらして」

 

 

「ハイハイ、神楽ちゃんはお母さんね」

 

 

すると、フェイトの代わりに自分がやると言い出した神楽。お妙はそんな彼女を微笑ましく思いながら、卵がゆ(ダークマター)の入った器を神楽に手渡そうとする。

 

 

「あっ」

 

 

しかし神楽はその器を受け取り損ない、銀時の布団の上に落としてしまう。

 

 

「ん?」

 

 

しかもその落ちた先は山崎が覗いている穴の真上であり、そうなると必然的に器から零れた卵がゆ(ダークマター)は、山崎の右目の上に振りかかった。

 

 

──ギャアアアアアアアアア!! 目にィィィィ!! 目に何か…刺さったァァァァ!!

 

 

右目を両手で押さえながら、声を出さずに悶絶する。右目を抑えている手の隙間からは、ジュウウという聞こえてはいけない音と共に黒い煙が洩れている。

 

 

──焼けるゥゥゥ!! 目が…目がァァァ!! 劇物だ!! 間違いない、これは何らかの兵器だ!

 

 

いいえ、卵がゆ(黒)です。

 

 

──間違いない、あいつら、俺の存在に気付いている!! 早く逃げないと殺され…

 

 

潜入していることが気づかれたと勘違いした山崎は、急いで軒下から這い出て逃げ出そうとする。

 

 

「向こうに残りがあるんで取ってきます」

 

 

「……今だ!」

 

 

「え、ちょっ、銀時!?」

 

 

だがちょうどそのタイミングで、銀時もまたお妙の看病という名の拷問に耐えかねて部屋から逃げ出した。しかもフェイトも巻き込んで一緒に。

 

 

「動くなっつってんだろーが!!」

 

 

「「「ぎゃあああああ!!」」」

 

 

すかさず薙刀を振り回すお妙。フェイトと山崎は完全にとばっちりである。

 

 

「冗談じゃねェ! こんな生活、身がもたねェ! 帰ってフェイトに看病されたほうがマシだァ!!」

 

 

「帰るって今から!?」

 

 

「待てコラァァァ! 天パ―!!」

 

 

縁側を飛び越えて庭に着地した銀時は、戸惑うフェイトの手を引いて一目散にその場から逃げ出す。そんな2人を神楽が追いかける。

 

 

「新ちゃん! 要塞モード…ONよ!」

 

 

「ふぁい」

 

 

するとお妙が居間に向かって叫ぶと、新八が気の抜けた返事を返しながら、テーブルに出現したスイッチを押した。

 

 

その瞬間、屋敷の塀の上には槍のような鉄柵が出現し、出入り口には丸太で出来た格子が降りて来て門を固く閉ざす。更には屋敷のいたる所に数多の罠が出現する。

 

 

「フハハハハハ!! 逃げられると思うてか!? この屋敷はなァ、幾多のストーカー被害を受け、賊の侵入を阻むため、コツコツ武装を重ね、もはや要塞と呼べる代物になっているんだよ。ネズミ1匹逃げられやしない! 鋼の要塞にね!!」

 

 

「道場の復興は?」

 

 

高らかと得意気に笑うお妙に対し、新八は色々と諦めたような表情で煎餅をかじりながらツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

 

「ぎゃああああ!! 局長(バカ)かァァァァ!! あの局長(バカ)の日頃の行いのせいで…」

 

 

一方で完全にとばっちりを喰らっている山崎は、身に襲い掛かるいくつもの罠から逃げまどいながら、お妙がこれらの罠を作る要因の大部分となっているであろう自らの上司に対して叫ぶ。

 

 

「アッハッハッ! お妙さん、甘いですよ! 絶対に出られないということは、裏を返せばお妙さんと俺の絶対不可侵領域の愛の巣ができるということ!」

 

 

「!」

 

 

すると…偶然通りかかった落とし穴と思われる大穴の中から、聞き覚えのあるバカの声が響いてきた。

思わず山崎は足を止め、その穴の中を覗き込む。

 

 

「そうだ! そういう事なんでしょ。ポジティブだ、ポジティブなことだけを考えろ勲。この状況で一瞬でもネガティブな事を考えてみろ勲。あのバーゲンダッシュの二の舞勲(まいさお)

 

 

「やっぱりいたんかいィィィ!!」

 

 

その中には予想通り、真選組局長の近藤勲の姿があった。

穴の底から突き出ている竹槍に貫かれないよう、両手両足を壁に張りつけて必死に踏み止まっていた。因みにその下には、竹槍の餌食となったバーゲンダッシュが落ちていた。

 

 

「その声はザキ! 山崎かァァ!! よりによって死の呪文みたいな奴が助けにきやがった!」

 

 

「それじゃ座男陸(ザオリク)さん呼んできますね」

 

 

「ウソ! ウソウソ!! 更木(ザラキ)君でなくてよかった! 剣八君でなくてよかった勲!」

 

 

一瞬見捨てようかと考えた山崎だったが、近藤の必死な呼びかけによって思いとどまる。

 

 

「早く引き上げてェェ!! ヤバッ…もう手足がガクガクで…生まれたてのゴリラ…」

 

 

「子馬です局長」

 

 

「違う違う! 今の間違ってないからね! 俺が言ってんのは精神的な意味だから! 誰だって生まれたては不安じゃん!!」

 

 

「アンタは生まれて30年近く経ってんのに不安定ですよ」

 

 

そんなやり取りをしながらも、近藤を引き上げようとする山崎。

 

 

「フフ、甘いわね」

 

 

するとその近くで空いていたもう1つの落とし穴から、女性と思われる声が聞こえた。気になった山崎は引き上げ作業を止め、その穴を覗き込む。

 

 

「こんなワナで私の銀さんへの想いが折れるとでも思った? お妙さん。裏を返せば、これはあなたが私を恐れてるって事でしょ? 銀さんを取られるかもって思ってるワケでしょ? そうよ、そういう事よ。ポジティブよ、ポジティブな事だけ考えるのさっちゃん。この状況で一瞬でもネガティブな事考えてみなさっちゃん。あの眼鏡の二の舞さっちゃん」

 

 

「ここにもバカがいたよォォ!!」

 

 

その中にはナース服の女性が近藤と同じように両手両足を壁につけて踏ん張った状態でいた。

彼女の名は『猿飛あやめ』。元・御庭番衆の忍者であり、現在は『始末屋さっちゃん』として活動するくノ一の殺し屋。

ひょんなことから銀時に惚れて以降、忍者の能力を活用して銀時をつけ回すストーカーでもある。因みに超がつくほどの近眼であり、普段から愛用している眼鏡はすでに竹槍の餌食となっていた。

 

 

「その声は銀サン! 助けにきてくれたのね! ごめんなさい、私、銀サンを看病しようと忍び込んだらこんな事に…」

 

 

「ちげーよバカ! 眼鏡取れたら耳まで遠くなるのか!?」

 

 

「ウフフやっぱり銀サン! 私を喜ばせるそのサドっぷりは銀サンだけだもの、私は騙されないゾ!」

 

 

「なんだ? この落とし穴に落ちるバカが人を腹立たせるバカばかりか!?」

 

 

「コラァァ死の呪文! 何してんだァ!! 早くしないと生まれたてのゴリラが死にたてのォォォ!!」

 

 

「うるせェェェ!! マジで更木さん呼んで来てやろうか!!」

 

 

「やっぱり銀サンだわ! そうやって焦らして楽しんでいるのね、いいわよ乗ってあげるわよ!」

 

 

「お前も黙れ!! 漸羅鬼威魔(ザラキーマ)さん呼ばれたくなかったら黙れェェ!!」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その後……そんなバカ2人の相手に辟易しながらも何とか2人を落とし穴から引き上げた山崎は、近藤とついでにさっちゃんに事情を説明した。

 

 

「なにィィィ!? 万事屋の野郎が一つ屋根の下、お妙さんに看病されているだとォォォ!!」

 

 

「どこに食いついてんですか! 調査! 万事屋の旦那を調査しにきたの!」

 

 

「ふざけんなよう! そんなさァ、だってさァ、野郎とお妙さんがどうこうなるとは思ってねーけどさァ、ズルイよ! 俺なんてさァ、何回もアタックしてんのにさァ、竹槍ルームで寝てろ的なさァ」

 

 

「ダメだコレ、全然聞いてないよ」

 

 

山崎の言葉に耳を貸さず、銀時を羨ましがる近藤。

銀時にはフェイトという嫁がいるので、お妙とそう関係になる事はないと重々承知しているが、それでも羨ましいものは羨ましいのだ。

 

 

「何アナタ、そんな事でヘコんでるの? ストーカーの風上にも置けない人ね」

 

 

「何だァクソ(あま)ァ!!」

 

 

「オイオイ、もうなんかストーカー談義になっちゃってるよ」

 

 

同じストーカーであるゆえの同族嫌悪なのか、お互いに敵意むき出しで語り始める。

 

 

「この世界にその人が存在することだけで感謝しなさいよ。少しマゾっ気が足りないんじゃなくて? 私なんて、銀サンは子供がいるって聞いた時も平気だったわ。むしろ興奮したわ」

 

 

「さっきから人をストーカーストーカーと…アンタと一緒にしないでくれるか! 俺はね、人より恋愛の仕方が不器用でしつこくて陰湿なだけだ!」

 

 

「それがストーカーです」

 

 

「お笑いね、自分がストーカーという事も気づいてないんだ」

 

 

「断じてストーカーじゃありません! しいて言うなら追跡者(ハンター)です、愛の」

 

 

局長(ハンター)、もういいでしょ。んな事言ってる場合じゃないんですって」

 

 

ストーカー同士の会話をムリヤリ終わらせ、山崎はうんざりしたような表情で近藤に対して口を開く。

 

 

「正直な話…いくら副長の指示でも、俺はこの調査に乗り気じゃないんです。確かに旦那にはうさん臭い所もありますけど、それ以上に色々世話になってることもありますし……」

 

 

「むぅ……まァ確かに、先の事件でもアイツのおかげで高杉の野望を阻止できたという借りもあるしなァ」

 

 

山崎の訴えに、近藤も思うところがあるのか難しい表情で頷く。

 

 

「それに旦那にはあの奥さんがいるんですよ? 結婚して嫁さんがいる身で、攘夷活動に加担するとは思えな──」

 

 

「……………は?」

 

 

「──あばァ!?」

 

 

そんな山崎の言葉を、口周りを鷲掴みにして物理的に遮ったのは、さっちゃんだった。

しかも彼女の両目はこれでもかというほど見開かれており、瞳の焦点がまったく定まっていなかった。傍から見ても動揺しているのが見て取れる。

 

 

「え? 今なんて言ったの? ごめんなさい、ちょっとよく聞き取れなかったわ。銀サンが、何? 結婚してるとか聞こえた気がするんだけど気のせいよね? え? 今なんて言ったの?」

 

 

「むがががががが!!」

 

 

ピキピキと顔中に青筋を浮かべた恐ろしい形相で山崎に迫るさっちゃん。しかし当の山崎は顔を鷲掴みにされているのでそれどころではない。

そこで近藤が代わりに口を開いた。

 

 

「何だ知らなかったのか? 万事屋は実は既婚者で嫁さんがいたらしいぞ」

 

 

直後、ピシリと何かがヒビ割れたような音が聞こえた気がした。そしてさっちゃんは山崎を解放すると、壊れたブリキのようにギギギと首だけを動かして近藤を見た。

 

 

「ハァァァァァ!!?」

 

 

そしてワナワナと身体を震わせると、絶叫に似た叫び声を上げた。

 

 

「ふざけんじゃないわよォォォ!! どこのどいつよそいつはァ!? 私の銀サンを奪った泥棒猫は誰なのよォォ!?」

 

 

「フェイト殿と言ってな。器量良し、気立て良しのとても美人なお方だよ。正直、万事屋にはもったいねー位の出来たお人だ」

 

 

「フェイトォォ? 誰よソレ? 銀魂にそんなキャラがいるなんて聞いたことないんですけど~?」

 

 

「そりゃそうだろ、フェイト殿はリリカルなのはのキャラだからな」

 

 

「ハァァ!? なんで他所のキャラが銀サンと結婚なんてしてんのよ? 意味わかんないんですけどー!!」

 

 

「いやだってコレ、銀魂とリリカルなのはのクロスオーバー小説だし…」

 

 

「冗談じゃないわよ!! クロスオーバーだからって何でも許されると思ってんの!? こちとら原作の40話あたりからずーーっと銀サンの事を思い続けてんのよ!! それが何? 他所からしゃしゃり出てきたキャラに銀サンを掻っ攫われたですって? んなもん許されるワケないでしょーが!! 銀サンの雌豚に相応しいのはこの私よ!!」

 

 

「最後のはオメーの願望じゃねーか!!」

 

 

「だいたいリリカルなのはのフェイトってアレでしょ、原作じゃ男っ気0な上に親友の女の子と一緒に寝たり、一緒にお風呂入ったり、一緒に暮らしたりしてる百合女じゃない。少女時代とかだったらまだしも、二十歳超えてそれやってたらもう親友じゃなくてただの百合カップルよね。だから二次創作とかでも百合キャラ扱いされたり、主人公にちょっと優しくされただけで落ちるチョロインみたいな扱いされるはめになるのよね」

 

 

「おいィィィィ!! 色んな世界のフェイトさんをディスり始めたよこの人ォォ!!」

 

 

「やめろォォォ!! それ以上は止めるんだ!! この世界を崩壊させる気かァァ!?」

 

 

「その点、私ならたとえ二次創作だろうと銀サンへの愛がブレる事はないわ! 誰にも私の愛を捻じ曲げることなんてできないのよ!!」

 

 

「そりゃそうだよ!! おめーみてーなストーカー女の愛なんて誰もいらねーよ!! 少なくともココの作者はそんな作品見たことねーもの!!」

 

 

「やめて!! マジやめて!! この小説終わっちゃうから!! そんな事しても万事屋とフェイト殿が夫婦なのは変わんねーから!!」

 

 

発狂したように色々と危ない発言を叫ぶさっちゃんに対して、ただならぬ危機感を感じた近藤と山崎はツッコミを入れながら彼女を阻止しようとする。

すると、突然さっちゃんの狂言がピタリと止み…糸が切れたように頭や両腕をダランと垂らす。

 

 

「……ウフフ……そうよ、終わらせればいいのよ。銀サンを奪った泥棒猫を抹殺して、このクソみたいな世界(しょうせつ)を終わらせて……私と銀サンによるSF人情なんちゃって時代劇ラブコメ小説に生まれ変わるのよ!! 始末屋さっちゃんの名にかけて、この世界に蔓延るリリカルなのはの要素を全て消し去ってくれるわァァァァ!!」

 

 

「病んでるゥゥゥ!! 病んじゃってるよこの人ォ!!」

 

 

そう宣言してどこからか取り出したクナイを握り締めながら顔を上げたさっちゃんの瞳は、とてつもない(病み)が渦巻いていた。

 

 

「イカン!! このままあの女にリリカルなのは要素が抹消されれば、この小説の存在意義がなくなってしまう!! ただの原作丸パクリ小説に成り下がってしまうぞ!!」

 

 

「ただでさえギリギリなのに、そうなったら運営が黙ってませんよ!! マジでこの小説消されますよ!! どうするんですか局長ォォ!!」

 

 

「え、これ俺達が阻止しなきゃいけないの? 俺あんなダークサイドに堕ちた奴を止められる自信ないんだけど……」

 

 

発狂して今にも事を起こしてしまいそうなさっちゃんを前にして、戦々恐々としている近藤と山崎。

 

 

その時だった……

 

 

「おいフェイト、大丈夫か? 顔色悪ィぞお前」

 

 

「うん、大丈夫……なんか変な悪寒がして……銀時こそ大丈夫なの? そんな怪我で動き回って」

 

 

「大丈夫なわけねーだろ、ったく。まいったぜ、なんでこんな目に」

 

 

「銀時が大人しく療養しないからだよ」

 

 

「大人しくしてても殺されかけたんだけど」

 

 

あろうことか、最悪のタイミングで話題の張本人である銀時とフェイトが揃って通りかかってしまったのだ。

しかも2人は肩を並べて会話しながら歩いている。本人たちは決してイチャついているわけではないが、今のさっちゃんから見れば仲睦まじくキャッキャウフフしながら歩いているようにしか見えない。

それが火に油……否、火事場に灯油タンクをぶち込む結果となった。

 

 

「あんの泥棒猫がァァ!! 誰の許可得て銀サンの隣を歩いとんのじゃァァァ!!」

 

 

「あっ、ちょ待っ……!!」

 

 

山崎が止めようとするも間に合わず、さっちゃんは(病み)と殺意が渦巻く瞳を更に妖しく光らせながら2人目掛けて走って行く。

 

 

「死ねェェェ!! 泥棒猫ォォォ!!」

 

 

「うおおおお!? お前、納豆女…!?」

 

 

「えっ!? なに!? 誰!?」

 

 

殺気立っているさっちゃんの出現に、銀時は驚愕し、彼女と面識のないフェイトは驚きながら戸惑う。

 

 

「見ィーつけたァァ!!」

 

 

「天パ―!!」

 

 

そこへ更に背後の茂みの中から、薙刀を持ったお妙と神楽が現れた。こちらも同じく殺気立っている。

 

 

「うおわァァァァ!!」

 

 

一斉に標的に向かって飛びかかる3人の女豹。銀時も堪らず叫び声を上げる。

 

 

 

──Sonic Move!!

 

 

 

だが次の瞬間……銀時とフェイトの姿が消えた。

 

 

「「「!?」」」

 

 

突然目の前から標的が消えたことに驚愕する女3人だが、飛び掛かった勢いは止まらない。

そのまま、お妙の空ぶった薙刀の柄の部分が神楽の顔面に直撃し、神楽の蹴りはさっちゃんの顎をかち上げ、さっちゃんの蹴りはお妙の腹部に深く減り込んだ。

同士討ちするような形で攻撃を喰らった3人は白目を剥いて気を失い、そのまま地面に落下する。するとその下に仕掛けられていた落とし穴が空いてしまい、女豹3人はその穴の中へと落ちて行ったのだった。

 

 

「「……………」」

 

 

ほんの一瞬の間に起きた一連の出来事を見ていた近藤と山崎は、顔を引きつらせながら呆然としていた。

 

 

「あービックリしたぁ……」

 

 

「オエ…気持ち悪……」

 

 

そして視界の端には、あの場を高速移動魔法『ソニックムーブ』で離脱したフェイトと、彼女に肩を借りた銀時の姿もある。ただし銀時は慣れない高速移動を体験したせいか若干酔い気味だった。

とそこで、フェイトが近藤と山崎の存在に気がついた。

 

 

「あれ? 近藤さんに山崎さん?」

 

 

「ど、どーも」

 

 

「お邪魔してます……」

 

 

未だに顔を引きつらせているが、なんとか片手を上げて挨拶だけは返す。

 

 

「2人はどうしてここに?」

 

 

「え、えーと…その……」

 

 

流石に万事屋の身辺調査とストーカーをやってましたなどと正直に話すわけにはいかず、フェイトの問いに近藤が言いよどんでいると、山崎が助け舟を出す。

 

 

「だ、旦那のお見舞いですよ!! ね、局長!?」

 

 

「そ、そうなんだよ! 先の事件で万事屋には世話になったんでな! それで礼も兼ねてお見舞いでもと……」

 

 

「そうなんですか? わざわざ主人の為にありがとうございます」

 

 

近藤の言葉をそのまま信じたフェイトは、深くお辞儀をしてお礼を述べる。その際に2人の良心が少々痛んだのは余談である。

 

 

「ホントかァ? お前らみてーなチンピラ警察がお見舞いなんて殊勝なことするたァ思えねーな。どーせアレだろ、いつもみてーにストーカーしてたゴリラをジミーが連れ戻そうとしたらココに閉じ込められたとかいうオチだろ?」

 

 

「し…失敬だな君はァ!! この俺がストーカーをやっていたという証拠がどこにあると言うんだ!?」

 

 

「今までの人生を振り返って来い」

 

 

そう言って真選組2人を疑ってかかる銀時。しかも言っている事の半分は合っている為に否定し辛い。

 

 

「銀時、ダメだよ。せっかくお見舞いに来てくれた人にそんな事言ったら」

 

 

「いやいや、だってよー」

 

 

「銀時」

 

 

「……へいへい、わーったよ」

 

 

そんな銀時を、フェイトが叱咤する。

 

 

「そうだ、ちょうどこれから夕飯の仕度をしようと思っていたところなので、もしよければお2人も食べていきませんか?」

 

 

「えっ!? いいんですか奥さん!?」

 

 

「もちろん。腕によりをかけて作りますね」

 

 

「そうですか! ならお言葉に甘えてご相伴に預からせて頂こうかなァ!」

 

 

「おいおい、いいのかよ? 勝手にこいつらを招待しちまって」

 

 

「お妙と新八からは私から言っておくから」

 

 

フェイトからの夕飯の誘いに、近藤と山崎は快くそれを受ける。

銀時は勝手に志村家の食卓に2人を招いていいものかと口にするが、フェイトが頼めば新八はもとより、お妙も渋りはするかもしれないが了承するだろう。

 

 

「ハッ、そうだお妙さん!! 早く落とし穴からお妙さんを救出せねば!!」

 

 

「あ、そうだった。お妙も神楽も大丈夫かな? あと、あのナース服の人」

 

 

「大丈夫だろ、あいつら無駄に頑丈だし」

 

 

ふと思い出したように叫ぶ近藤に、フェイトは落とし穴に落ちた3人の身を案じ、銀時はいつもの調子で応える。

 

 

「山崎!! 金は俺が出すから新しいバーゲンダッシュを買って来い!! もちろん人数分な!!」

 

 

「あ、はい」

 

 

近藤は早口でそう指示を出しながら、自らの財布を山崎に投げ渡す。

 

 

「それと……例の件は俺からトシに言っておくから、お前はテキトーに報告書を書いて提出しておけ」

 

 

「! 了解です!! バーゲンダッシュの買い出しに行ってきます!!」

 

 

最後にコソっと山崎にしか聞こえないような声量でそう告げると、山崎は元気よく返事を返してから、まるで肩の荷が下りたような軽い足取りで買い出しへと出かけて行ったのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

──副長、やっぱりあの旦那は俺如きが推し量れる人じゃないようで。なんだか掴みどころがなくてね、愛されてんだか憎まれてんだか。周りを騒ぎに巻き込むくせに、人が集まってくるようで。

 

──その旦那の奥さんも不思議な人でね。時空管理局の執務官だなんて職業についている割には普通に主婦やってますし、あのほのぼのとした笑顔を向けられると、何だか毒気が抜かれちゃうんですよね。

 

──え? そんなこと聞いてないって? 攘夷志士? いや…あんま…わかんなかったんですけど、でもね…

 

 

「あの…」

 

 

「!」

 

 

近藤から頼まれた買い出しに行くために、塀の壁に空いていた穴から志村家を脱出した山崎。するとそこに、頭にバンダナを巻いた気の弱そうな少女に声をかけられた。

そして少女……村田鉄子は、ボソボソとした声で山崎に尋ねる。

 

 

「す…すいません。あの…銀さん…と、フェイトさん…いますか?」

 

 

「は?」

 

 

「…ここの家の人ですよね? ここに銀さん達がいるって聞いて来たんだけど、開かなくて」

 

 

どうやら鉄子は山崎がこの志村家の人間だと勘違いしているらしい。そして志村家の門が開かないのも、未だに要塞モードが解除されていないからだろう。

それを察した山崎は、鉄子に背を向けながら応える。

 

 

「ああ、今入んない方がいいよ。危ないから。じゃ、拙者は買い出しがあるので」

 

 

「あの…じゃあせめて、言伝を」

 

 

それを聞いて、振り返る山崎。

 

 

「私、色々あったけど、今は元気にやってます。本当にありがとう──て」

 

 

そう言って銀時達への言伝を伝えながら、鉄子は微笑んだ。

そしてその微笑みを見た途端……山崎はなんとなくだが、なぜ銀時が先日の事件に首を突っ込んで来たのか分かった気がした。

 

 

 

 

 

──……攘夷活動だなんだ、あの(バカ)は考えとらんでしょう。あの人はきっと……

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

   『報告書』

攘夷活動とか

旦那はしてないと思います。

それは女の子がやっていないと

言っていたからです。

あの娘の笑顔が見たかったんだろうなと

僕は思いました。

 

追伸

奥さんがご馳走してくれた夕飯は

とても美味しかったです。

           山崎 退

 

 

 

 

 

「作文んん!?」

 

 

 

 

 

つづく


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