銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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キャラの口調を確認するために銀魂やリリなののアニメとかを見返したりするんですけど、フェイトって明確な敵に対して若干口調が荒れません? 特にSts篇のスカさんとの戦いとか。

なので紅桜篇でシリアスを書いている時に、たまにフェイトの口調で悩む時があります。ギャグの時は別に気にしないんですけどね。

つまり何が言いたいかと言うと、今回のフェイトさんの口調でおかしい所がいくつかあると思うので先に言い訳をしておきたかっただけです。




あと悩むといえば桂一派にもリリなのキャラを属させるかどうか。そうすれば色々書ける幅が広がりますし。

候補は……紫天一家(独自設定盛り沢山)か、改心型数の子シスターズの誰かか、まさかのルーテシアか、クアットロ…はないな。あとは大穴でまさかのハルにゃんか……まぁそのうち決めたいと思います。

以上、どうでもいい話でした。


備えあれば憂い無し

 

「なっ…なにィィィ!? な…なんスかこりゃああ!!」

 

 

また子の絶叫の声が響き渡る。

突如として天井を突き破って現れた気を失った銀時と、変わり果てた岡田似蔵。

すでに似蔵の相貌は人の姿からは大きく逸脱しており、両腕は巨大なコードのような触手の集合体で、背中から肩にかけて無機質なパイプが盛り上がっている。

かろうじて人型は成しているものの、その機械(からくり)に支配された異形な姿は…もはや人間とは呼べないだろう。

 

 

「…似蔵、さん?」

 

 

武市が声をかけると、似蔵は虚ろな目で「コオオオ…」と唸り声を上げながら振り向いた。

直後…味方であるハズの武市に強烈な一撃を見舞った。

裏拳のように放たれた触手の腕で殴り飛ばされた武市は、背後の壁に勢いよく激突し、口から血反吐を吐いた。

 

 

「だからこういうの苦手なんだってば」

 

 

そうぼやきながら、寄り掛かった壁からズルズルと崩れ落ちた武市は意識を失った。

 

 

「先輩ィィ!! 似蔵ォォ! 貴様、乱心したっスかぁ!?」

 

 

また子の言葉にも似蔵は反応せず、虚ろな目のまま再び「コオオ…」と唸る。

 

 

「意識が…まさか紅桜に! チッ! 嫌な予感が的中したっス!! 止まれェ似蔵ォ!!」

 

 

二丁拳銃を向け、銃弾を乱射するまた子。

しかし今の似蔵の身体は銃弾などものともせず、また子に向かって触手の腕を伸ばす。

 

 

「!!」

 

 

それに捕まったまた子は、そのまま思いっきり壁に叩きつけられ、呆気なく気を失ってしまった。

 

 

「どうやら、完全に紅桜に取り込まれてしまったようだ。こうなってしまっては、今の似蔵君は敵味方の区別もなくただ暴れ回る怪物だ」

 

 

武市に続いてまた子も気絶してしまった中で、スカリエッティは冷静にそう呟きながら、グローブ型デバイスを嵌めた右手の指を動かす。

すると、スカリエッティの足下から2本の魔力で編まれた赤色の糸が伸びる。

その糸が気絶した武市とまた子の身体の一部に巻き付くと、一本釣りのようにスカリエッティのもとに引き上げられる。

 

 

「ここは退散させてもらうよ。巻き込まれるのは御免なのでね」

 

 

そう言い残し、スカリエッティはまた子を俵のように左肩で担ぎ上げ、右手で武市の首根っこをつかんで引きずりながらその場から走り去って行ってしまう。

 

 

「っ……!!」

 

 

それを追いたい衝動にかられそうになったフェイトだったが、目の前で意識のない銀時を放っておけるハズもなく、その場に踏みとどまったのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「完全に紅桜に侵食されたようだな! 自我のない似蔵殿の身体は全身これ剣と化した!」

 

 

屋根に空いた穴から似蔵を見下ろしながら、鉄矢が叫ぶように言い放つ。

 

 

「最早、白夜叉といえどアレは止められまい! アレこそ紅桜の完全なる姿! アレこそ究極の剣!! 一つの理念の元、余分なものを捨て去った者だけが手にできる力! つまらぬ事に囚われるお前たちに止められるわけがない!」

 

 

鉄矢の言葉に対し、鉄子は何も答えずに眼下に広がる光景を見つめている。そこでふと、銀時が落とした刀が目に映った。

 

 

「銀時ィィ!!」

 

 

フェイトの叫びが木霊する中で、似蔵は左腕の触手で絡めとった銀時の身体をゆっくりと持ち上げる。

 

 

──…エナイ…メザワリナ光ガ…消エナ…

 

 

もはや自分が何者かすらもわからなくなった朧気な頭でそんな言葉を反復しながら、左腕で持ち上げた銀時に向かって右腕の刃を振り上げる似蔵。

 

 

だがその時…天井の穴から飛び降りてきた鉄子が、似蔵の左腕に龍の装飾の刀を深々と突き立てた。

 

 

「鉄子ォォ!!」

 

 

鉄矢が叫ぶ。

 

 

「死なせない! コイツは死なせない!! それ以上その剣で、人は死なせない!」

 

 

鉄矢は呆気に取られた。今までボソボソとしか話さず、自己主張も控えめだった鉄子が、力強くそう叫んだのだから。

 

 

「がアァァァァ!!」

 

 

「!!」

 

 

すると似蔵の右腕の刃が、狙いを鉄子へと変えて振るわれる。

 

 

巨大な刃が鉄子を斬り裂こうとした瞬間……その間に割って入ったフェイトがライオットブレードで刃を受け止めた。

そしてギリギリと鍔迫り合いをしながら、フェイトは似蔵を睨みながら叫んだ。

 

 

「お前ェ!! 人の旦那捕まえて──なに触手プレイしてんだァァァ!!」

 

 

そんな怒号と同時に、ライオットブレードを振り抜いて刃を弾き返す。

 

 

「で~か~ぶ~つ~!」

 

 

すると神楽が似蔵の両足を蹴り払い、その巨体を地面に倒した。

 

 

「そのモジャモジャを──」

 

 

「離せェェェェェェ!!」

 

 

続けて新八が似蔵の右腕に刀を突き刺した。

銀時を助けようと、4人が似蔵の巨躯にしがみついて奮闘する。

 

 

「がアアアア!!」

 

 

自我のない似蔵は咆哮を上げながら、それらを振り払おうと暴れ回っている。

 

 

その光景を見ていた鉄矢には、鉄子がとった行動の意味が理解できなかった。

 

 

──何故…何故だ。鉄子、何故理解しようとしない。私はこれまで紅桜に全てを捧げてきた。他の一切、良心や節度さえ捨てて。それは私の全てなんだ、それを失えば私には何も残らん。

 

 

脳裏に蘇るのは、父が亡くなってすぐのこと。鍛冶屋を継いだ鉄矢は少しでもいい刀を作ろうと日々努力してきた。しかし先代の父は稀代の刀工と謳われていた…当然、その腕の差は歴然だった。

次第に今まで鍛冶屋を訪れていた客もすっかり鉄矢の腕を見限り、遠のいてしまっていた。

 

そしてその先代である父も生前は、息子の鉄矢ではなく娘の鉄子の鍛冶を褒めていた。

「鉄子は鉄矢にはねェもんをもってる。鉄矢もいつかわかってくれるといいんだが」と父は言っていたが…その言葉の意味を、鉄矢は今でも理解できなかった。

 

 

──親父を超える為、剣だけを見て生きてきた。全てを投げうち、剣だけを打ってきた。いらないんだ、私は剣以外何もいあらない。それしかないんだ、私にはもう剣しか……

 

 

そんな物思いにふけっている間に、似蔵の身体にしがみついていた4人が振り落とされた。大勢を崩し、床に倒れてしまう。

そしてその中の1人である鉄子に、似蔵は狙いを定めていた。刃を高々と掲げ、振り下ろそうとしていた。

 

 

「てっ…!!」

 

 

その光景を見た鉄矢は狼狽するように身を乗り出した。

 

 

刹那…容赦なく振り下ろされる紅桜の刃。一直線に下ろされたそれは床を叩き割り、その衝撃で砂塵を巻き上げた。

 

 

結果的に言えば、鉄子は無事だった。しかし砂塵が晴れるとそこには、鉄子を庇って代わり斬られた鉄矢が血だまりの中で倒れていた。

 

 

「あっ…兄者ァァァ!!」

 

 

すぐさま鉄矢に駆け寄り、抱き起す鉄子。そこへまたもや、似蔵の凶刃が迫る。

 

 

「うっ…うああああああああああああ!!」

 

 

鉄子の悲痛な絶叫。

その時だった…その叫びに呼応するように目を覚ました銀時が、即座に似蔵の左腕に刺さっていた刀の柄をつかみ、似蔵の顔を横一閃に斬りつけた。同時に似蔵の顔から鮮血が噴き出し、その場に倒れ込む。

 

 

「銀時!!」

 

 

そんな銀時に、フェイトを始めとした万事屋3人が彼の元へ駆け寄る。流石に体力が限界のようで、銀時は床に片膝をついて肩で息をしている。

 

 

「兄者ッ!! 兄者しっかり! 兄者!」

 

 

力なく横たわる兄の身体を抱き上げながら必死に呼びかける鉄子。それに対して鉄矢は、口から血を吐きながらも、なにか悟ったような顔で笑みを浮かべていた。

 

 

「クク、そういうことか。剣以外の余計なものは捨ててきたつもりだった。人としてよりも、刀工として剣を作ることだけに生きるつもりだった」

 

 

今までのような大声ではなく、今にも消えてしまいそうなか細い声でそう言いながら、涙を流す鉄子の頬に右手を添える。

 

 

「だが最後の最後で──お前だけは……捨てられなんだか。こんな生半可な覚悟で、究極の剣など打てるわけもなかった…」

 

 

「余計なモンなんかじゃねーよ」

 

 

「!」

 

 

そこへ、ヨロヨロと立ち上がった銀時が口を挟む。

 

 

「余計なモンなんてあるかよ。全てを捧げて剣を作るためだけに生きる? それが職人だァ? 大層なことぬかしてんじゃないよ。ただ面倒くせーだけじゃねーか、てめーは」

 

 

見れば、似蔵も立ち上がって再び戦闘態勢をとろうとしている。そんな相手を見据えながら刀を握り、銀時は続ける。

 

 

「色んなモン背負って頭抱えて生きる度胸もねー奴が、職人だなんだカッコつけんじゃねェ。見とけ、てめーの言う余計なモンがどれだけの力を持ってるか」

 

 

手に握った鉄子の刀の切っ先を似蔵に向かって突きつけながら、銀時は強く言い放つ。

 

 

 

「てめーの妹が魂こめて打ち込んだ(コイツ)の斬れ味──しかとその目ん玉に焼き付けな」

 

 

 

言うや否や、似蔵が咆哮を上げながら銀時に向かって突進してくる。それを銀時は真っ向から立ち向かう。

 

 

「銀さん!! 無茶だ! 正面からやり合って紅桜に…」

 

 

「大丈夫」

 

 

鉄子の言葉を遮るように、フェイトが静かにそう言った。

 

 

「銀時なら…大丈夫」

 

 

何の根拠もなくそう断言するフェイト。しかしその顔には不安や焦燥などは一切なく、ただ一心に銀時を信じている顔だった。

 

 

高速で振り下ろされる似蔵の紅桜…そしてそれを上回るほどの速度で振るわれる銀時の刀。

 

 

両者の剣が交差した次の瞬間には……もう両者はお互いに剣を振り切った状態で背を向け合っていた。

 

 

一瞬の静寂の中で…その光景を見ていた鉄矢は、ふと昔のことを思い出していた。

それは生前の父・仁鉄がまだ幼かった妹に尋ねた言葉だった。

 

 

──おめーはどんな剣を打ちたい?

 

 

──…護る剣

 

 

──あ? 声が小せーよ

 

 

──人を、護る剣

 

 

打ち合いの衝撃に耐えられなかったのか、銀時の刀は真っ二つに折れ、その剣先は回転しながら宙を舞ったあと床に突き刺さった。

 

 

同時に紅桜の刀身にも大きな亀裂が入った。ピシピシと音を立てながら亀裂はみるみる内に広がっていき、最後には粉々に砕け散った。

紅桜を失ったことで似蔵と融合していた機械(からくり)は粒子となって崩れていき、残った似蔵はそのまま力なく倒れ伏したのだった。

 

 

「護るための…剣か…お前…らしいな、鉄子……どうやら私は…まだ打ち方が…足りなかった…らしい」

 

 

鉄子の打った刀が見事に人を護ったところを見届けた鉄矢は、薄れゆく意識の中で呟く。

 

 

「鉄子、いい鍛冶屋に…な……」

 

 

最後の力を振り絞り、鉄子の手を強く握ったあと……鉄矢のその手はスルリと床に落ちていった。

 

 

「……聞こえないよ……兄者」

 

 

大粒の涙を頬に伝わせながら、鉄子は嗚咽の入り混じった声で呟いた。

 

 

 

 

 

「いつもみたいに…大声で言ってくれないと…聞こえないよ」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「高杉、俺はお前が嫌いだ。昔も今もな。だが仲間だと思っている。昔も今もだ」

 

 

船の甲板で、背を向ける高杉に桂がそう言い放つ。

 

 

「いつから(たが)った、俺たちの道は」

 

 

「フッ、何を言ってやがる」

 

 

高杉が笑みを浮かべながら懐から取り出したのは、刀傷のついた教本だった。

 

 

「確かに俺たちは始まりこそ、同じ場所だったかもしれねェ。だが、あの頃から俺達は同じ場所など見ちゃいめー。どいつもこいつも好き勝手、てんでバラバラの方角を見て生きていたじゃねーか」

 

 

そしてそれこそが、彼らの恩師の教えでもあった。

 

 

「俺はあの頃と何も変わっちゃいねー。俺の見ているモンは、あの頃と何も変わっちゃいねー。俺は──」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「副長ォォ!! コイツらどんどん湧いてきてキリがないんですけど!! どうすんですかァ!?」

 

 

「泣きごと言ってんじゃねェ山崎!! 戦場で弱音吐く奴ァ、士道不覚悟で切腹させんぞ!!」

 

 

「トシィィ!! もう無理だァ!! 刀も俺の心も折れそう!!」

 

 

「なんで局長のてめェが真っ先に弱音吐いてんだァ!!」

 

 

甲板の上での真選組とガジェット群との戦いは未だに続いていた。

ガジェット自体はたいしたことないのだが、斬っても斬っても次々と自動転送されてくるのだ。そんな数にものを言わせた戦いに、隊士達の疲弊はたまっていく一方だった。

時折土方が隊士達を叱咤して士気を落とさないようにしているが、それも付け焼刃にしかならないだろう。

 

 

そしてその一方で、屋根の上で繰り広げられる沖田とトーレの戦闘は未だに決着がついていなかった。

自身の能力で高速戦闘を得意とするトーレに対し、沖田は持ち前の天才的な剣術と研ぎ澄まされた直感力で対抗していた。

その結果…両者ともに身体中に刻まれた斬り傷が目立ち、その様子だけでも互いに拮抗した戦いだということが容易に想像できた。

 

 

「正直、ナメてやしたぜィ……まさかここまでやるたァ……」

 

 

「……お互い様だ」

 

 

そんな軽口を叩き合いながらも、お互いに得物を構える手は緩めない。そしてもう何度目になるかわからない激突を繰り返そうとしたその時……

 

 

「な…なんだアレは!?」

 

 

屋根の下にいる真選組隊士のそんな声が聞こえた。

 

 

「!」

 

 

その声に釣られて見てみると、今自分達がいる高杉の船の隣に、巨大な戦艦が迫ってきているのが見えた。

 

 

「……来たか」

 

 

その戦艦を横目で見ながら、トーレは呟く。

 

 

「おい見ろ! あの旗は……」

 

 

「バ…バカな、何故奴らがこんな所に!?」

 

 

その戦艦が掲げている旗を見て、真選組全体に動揺が走る。そしてその中の1人である山崎が声を大にして叫んだ。

 

 

「春雨!! 宇宙海賊、春雨だ!!」

 

 

その戦艦は……天人によって構成される銀河系最大のネットワークを持つ犯罪シンジケートである宇宙海賊『春雨』の船であった。

 

 

「どうやらここまでのようだな」

 

 

春雨の戦艦を見た途端、トーレは腕のインパルスブレードを収めて構えを解く。

 

 

「決着は次に持ち越しだ……ではな」

 

 

そう言い残すと同時に、トーレは持ち前の高速移動でその場から消えるように立ち去っていった。

 

 

「……チッ」

 

 

それに対して沖田は舌打ちを一つ洩らしてから、近藤達と合流すべくその場を後にして行ったのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「ヅラぁ、俺はな、てめーらが国を護るためだァ、仲間のためだァ剣をとった時も、そんなもんどうでもよかったのさ」

 

 

高杉が薄ら笑いを浮かべながら続ける。

 

 

「考えても見ろ。その握った剣、コイツの使い方を俺達に教えてくれたのは誰だ? 俺達に武士の道、生きる

術、それらを教えてくれたのは誰だ? 俺達に生きる世界を与えてくれたのは、まぎれもねェ──松陽先生だ」

 

 

その言葉に対して桂は否定しなかった。彼もまた…その松陽の弟子なのだから。

 

 

「なのに世界は、俺達からあの人を奪った。だったら俺達はこの世界に喧嘩を売るしかあるめェ、あの人を奪ったこの世界をブッ潰すしかあるめーよ」

 

 

静かにそう語る高杉。

 

 

「なァ、ヅラ。お前はこの世界で何を思って生きる? 俺達から先生を奪ったこの世界を、どうして享受し、のうのうと生きていける? 俺はそいつが腹立たしくてならねェ」

 

 

「高杉…俺とて何度この地を更地に変えてやろうかと思ったかしれぬ。だがアイツが…アイツらそれに耐えているのに──銀時(やつ)が…一番この世界を憎んでいるハズの銀時(やつ)が耐えているのに、俺達に何ができる。それにフェイト殿も…あの優しさゆえに、俺達の攘夷活動(おこない)に一番心を痛めている。俺にはもうこの国は壊せん。壊すには…江戸(ここ)には大事なものが出来過ぎた」

 

 

そう言って目を伏せる桂の脳裏には、江戸で出会った新八や神楽などの親しい人々の顔が思い浮かんでいる。

 

 

「今のお前は、抜いた刃を収める機を失い、ただいたずらに破壊を楽しむ獣にしか見えん。この国が気に食わぬなら壊せばいい。だが、江戸ここに住まう人々ごと破壊しかねん貴様のやり方は黙って見てられぬ。他に方法があるはずだ。犠牲を出さずとも、この国を変える方法が。松陽先生もきっとそれを望ん…」

 

 

高杉にそう言いかけたその時……桂は背後から、人ならざる者の気配を感じ取った。

 

 

「キヒヒ、桂だァ。ホントに桂だァ~」

 

 

「引っ込んでいろ。アレは俺の獲物だ」

 

 

「天人!?」

 

 

振り向いてみれば、そこには孫悟空のような風貌と猪八戒のような風貌をした2人の天人が、桂を見ながらニタニタと嗤っていた。

驚愕する桂に対し、高杉はゆったりとした姿勢で船の縁に腕を乗せてもたれかかりながら口を開いた。

 

 

「ヅラ、聞いたぜ。お前さん、以前銀時と一緒にあの春雨相手にやらかしたらしいじゃねーか。俺ァねェ、連中と手を組んで後ろ盾を得られねーか苦心してたんだが、おかげで上手く事が運びそうだ。お前達の首を手土産にな」

 

 

「高杉ィィ!!」

 

 

「言ったハズだ──俺ァただ壊すだけだ、この腐った世界を」

 

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃…高杉の船の横についた春雨の戦艦は、2隻の船の間に橋をかけ、そこから天人の軍勢を次々と送り込む。

そしてその乗り込んで来た軍勢と真選組が衝突し、激しい戦いを繰り広げている。しかし数の差で僅かに真選組が押されていた。

 

 

そしてその光景を、戦艦の甲板から眺める3人の人間と1人の天人。

 

 

「万斉殿、我らは桂と件の侍の首がもらえると聞いて…万斉殿?」

 

 

すると天人がサングラスとヘッドフォンを着用し、ロングコートを羽織って三味線を背負った男…鬼兵隊の〝人斬り万斉〟こと『河上万斉』に話しかけるが、当の万斉はヘッドフォンから流れる音楽を聴きながら「フ~ンフ~ン」と鼻歌を歌っていた。

 

 

「ちょっと! 聞いてんの万斉殿!?」

 

 

「聴いてるでござる。これね、今江戸でイチオシの寺門…」

 

 

「そっちじゃなくてこっちの話!!」

 

 

まったく話を聞いていなかった万斉に天人が怒鳴る。

すると、その隣に立つピンク色の長い髪に額を防護するヘッドギアを装着した少女…ナンバーズのNO,7『セッテ』が万斉に声をかける。

 

 

「万斉、私も聴きたい」

 

 

「いいでござるよ。ではセッテ殿にはこっちのウォークメンとイヤホンを貸すでござる」

 

 

「ん…」

 

 

「何コイツら!? 高校生の休み時間か!! ちょっとウーノ殿!! なんでこんな奴らを交渉によこしたワケ!?」

 

 

そんな2人の態度に天人はツッコミを入れながら、自分の左隣に立つ紫のロングヘアーの女性…ナンバーズのNO,1にしてスカリエッティの秘書を務める『ウーノ』に怒鳴る。

一方でウーノは、極めて冷静に言葉を返す。

 

 

「申し訳ありません。ですが、ご心配には及びません」

 

 

「その通りでござる」

 

 

そんなウーノに続いて、一応話は聞いていたのか万斉が口を開く。

 

 

真選組(やつら)など取るに足らない幕府の犬(ザコ)でござる。スグに片が付きますよ」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「くそっ!! なんで春雨がここに!?」

 

 

「高杉め! 幕府を潰すために宇宙海賊と手を組んだのか!!」

 

 

春雨の船から流れ込んでくる武装した天人と、未だに湧いて来るガジェットを次々と斬り倒しながら毒づく土方と近藤。

 

 

「くっ…ガジェットだけでも厄介やのに……!」

 

 

そしてはやても苦々しい表情で、迫り来る天人とガジェットをシュベルトクロイツを用いた棒術で薙ぎ倒す。

本来なら広域殲滅魔法による中・遠距離での戦闘が主のはやてだが、近距離戦ができないわけではない。

今回のようにAMFで魔法を封じられた場合や、相手に肉薄された場合も想定して、シグナムやザフィーラから手ほどきを受けた『棒術』を心得ていた。

 

 

するとそこへ…また新たな乱入者たちが現れた。

 

 

「おーーう邪魔だ邪魔だァァ!!」

 

 

「万事屋銀ちゃんがお通りでェェェェ!!」

 

 

「いででで…元気いーなおめーらよ~」

 

 

「フフ、頼もしいね」

 

 

その乱入者とは…先陣を切って天人を薙ぎ倒す新八と神楽、そしてフェイトと鉄子に支えられて歩くボロボロの姿の銀時。見慣れた万事屋一行であった。

 

 

「て、てめーらは…!?」

 

 

「万事屋!?」

 

 

「フェイトちゃん!?」

 

 

万事屋一行の登場に近藤と土方、そしてはやては驚いたように声を上げる。

 

 

「てめェ、なんでこんなところに……」

 

 

「おう、税金ドロボー共。ちょうどいい」

 

 

なぜ彼らがここにいるのかと土方が問い掛けようとする前に、銀時が口を開いた。

 

 

「悪ィけどよ、こいつら連れてここから逃げてくれ」

 

 

「お願いします」

 

 

そう言って銀時が指差したのは、新八、神楽、鉄子の3人。それに続いてフェイトも真選組に頭を下げる。

するとそんな夫婦を見て、近藤が声をかけて話し始める。

 

 

「……どうやら俺達がここでモタクサしてる間に、全部片付いちまったみてーだな」

 

 

「そーだよ、成り行きとはいえオメーらの仕事を片付けといてやったんだ。だからせめてコイツらをここから逃がすくらいやり遂げやがれ、チンピラ警察共」

 

 

「オメーはどうすんだ? そんな死にかけの身体で」

 

 

「安心しろよ、死ぬつもりはねェから」

 

 

「私は夫が無茶した時のストッパーです」

 

 

それを聞いた近藤は呆れたような…それでいてどこか納得したような笑みをフッと口元に浮かべた。そしてすぐに、隣に立つ土方に指示を出す。

 

 

「トシ、退くぞ」

 

 

「いいのかよ、近藤さん?」

 

 

「このまま春雨を相手にやり合っても勝ち目はない。時には退くことも大切だ。それよりも今は一般市民を安全な場所まで避難させることを優先するんだ」

 

 

近藤の言葉に土方はため息をつき、不承不承ながらも「わかった」と頷いた。

 

 

「撤退だァ!! 全員船に乗れェ!!」

 

 

「ほら、さっさと行くぜィ」

 

 

「さわんじゃねーヨ、チンピラチワワがァ!! さっきの事を忘れたとは言わせないネ!!」

 

 

「そうだった総悟ォ!! お前あとで覚えとけよ!!」

 

 

「安心してくれ新八君! 未来の義弟(おとうと)はこの俺が護る!!」

 

 

「誰が義弟だゴリラァァ!!」

 

 

「志村、近藤局長、バカをやってないでさっさと退くぞ」

 

 

土方が指示を飛ばし、それに従って撤退を始める隊士たち。そして沖田とヴィータ、近藤とシグナムに連れられて、新八と神楽も真選組の船へと向かう。

 

 

「させるかァァ!! 全員残らず狩りとれ!!」

 

 

彼らを逃がすまいと襲い掛かって来る天人達。その瞬間、銀時とフェイトが同時に動いた。

銀時は襲ってきた天人から即座に奪い取った刀で、フェイトはバルディッシュを変形させたライオットブレードで、それぞれ天人を斬り伏せた。

 

 

「退路は私達が護る」

 

 

「行け」

 

 

夫婦そろって並び立ち、そう言い放つ。

 

 

「でも…!!」

 

 

「銀さん!! フェイトさん!!」

 

 

「ゆくぞ」

 

 

「わっ!! 離すネ、ザッフィー!!」

 

 

「フェイトちゃん、無理したらアカンで!!」

 

 

銀時とフェイトがこの場に残る事に新八と神楽がなにか言おうとしたが、その前にザフィーラが2人を両脇に抱えてその場から船に向かって走って行った。

それに続いて近藤や沖田、はやてやシグナムたちなどの他の隊士たちも撤退していく。

 

 

「死ぬなよ…万事屋」

 

 

そして土方も2人の背中に向かってそう言葉を洩らしながら、その場から去って行った。

 

 

「あっ…あれは!! 間違いない、あの時の侍…」

 

 

以前、春雨の計画を妨害した銀時の存在に気付いた天人がそう声を上げる。

しかしその瞬間、それを言った者も含めた数人の天人が斬られて床に倒れる。

 

 

「どけ。俺は今虫の居所が悪いんだ」

 

 

そこには刀を持った桂が立っていた。

 

 

そして自然とこの場に残った3人で背中合わせになり、天人とガジェットで構成された春雨の軍勢に向き合う。

 

 

「…よォヅラ。どーしたその頭、失恋でもしたか?」

 

 

「黙れ、イメチェンだ。貴様こそどうしたそのナリは。フェイト殿と夫婦喧嘩でもしたか?」

 

 

「バカ言え、フェイトと夫婦喧嘩してこの程度で済むワケねーだろ」

 

 

「ちょ…銀時、私喧嘩でそこまでボコボコにしたことないよね?」

 

 

「喧嘩でボコボコにしていることは否定せんのか」

 

 

そんな軽口を叩き合いながらも、目の前の軍勢からは目をそらさずに真っ直ぐに見据える。

 

 

「行けェェ!! あの2人の首をとれェェ!! 傍にいる女も皆殺しだァァ!!」

 

 

天人の1人の号令で、軍勢が一気に3人に向かって押し寄せる。

それを合図に、たった3人による春雨との戦いが始まった。

 

 

銀時は型に嵌らない剣術で敵を斬り、時には敵から奪い取った刀以外の武器も使い、更には蹴りなどの体術も使って天人を薙ぎ倒す。

 

桂は荒々しい銀時の剣術とは違い、素早く且つ急所を正確に狙った剣技で天人を斬り捨てる。

 

フェイトは非殺傷設定を解除したライオットブレードを振るう。加えて『ブリッツアクション』と呼ばれる腕の振りや動きなどの全体の動作を高速化する魔法を使用し、瞬く間に幾人もの天人を鮮血に染めていく。

 

 

「ひっ…ひるむなァァ!! 押せ! 押せェェ! たたみかけろォォ!!」

 

 

負けじと春雨軍も人数差を利用して休むことなく襲い掛かるが、3人は圧倒的な人数差をものともせずに天人の軍勢を無双していったのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その光景を、春雨の戦艦の甲板から眺めていた万斉は、呟くように口を開く。

 

 

「あれが坂田銀時と桂小太郎。強い…一手死合うてもらいたいものだな。そしてあれがフェイト・テスタロッサか……」

 

 

そう言いながら最後に万斉が視線を向けたのは、フェイトだった。そして彼女の戦いぶりを目にして、自然と口角が吊り上がった。

 

 

「フッ…流石は白夜叉の伴侶でござる。まるで金と銀──2匹の夜叉(おに)がいるようでござるな」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「銀時ィ!! フェイト殿ォ!!」

 

 

「あ?」

 

 

「なんですか!?」

 

 

天人を斬り捨てながら、桂が銀時とフェイトに向かって叫ぶ。

 

 

「世の事というのはなかなか思い通りにはいかぬものだな! 国どころか、友1人変えることもままならんわ!」

 

 

「ヅラぁ! お前に友達なんていたのか!? そいつぁ勘違いだ!」

 

 

「仮にいたとしてもきっとロクでもない友達だね!!」

 

 

「斬り殺されたいのか貴様らは!!」

 

 

そう言いながら敵を斬り続ける3人の顔は、口角を上げて笑みを浮かべていた。

 

 

「銀時ィィ!! フェイト殿ォォ!!」

 

 

「あ"あ"あ"!?」

 

 

「なに!?」

 

 

そしてまたもや桂が叫ぶと、3人は再び背中合わせになる。

 

 

「お前達は──変わってくれるなよ」

 

 

肩で息をしながらも、ハッキリと背中を預ける2人にそう言い放った。

 

 

「お前たち夫婦を斬るのは骨がいりそうだ。まっぴら御免こうむる」

 

 

「ヅラ、お前が変わった時は、俺が真っ先に叩き斬ってやらァ」

 

 

「じゃあ私か銀時が変わった時は、お互い壮絶な夫婦喧嘩になりそうだね」

 

 

そう言うと3人は…左からフェイト、銀時、桂の順で並びながら、それぞれが手にしている刃を掲げる。

 

その掲げられた刃の切っ先は……春雨の戦艦の上で、万斉やスカリエッティと共に高みの見物でキセルをふかす高杉に向けられていた。

 

 

「高杉ィィィ!! そーいうことだ!」

 

 

「次に会った時にはもう容赦しない!!」

 

 

「そん時ァ仲間もクソも関係ねェ!」

 

 

「「「全力で…てめーをぶった斬る!!」」」

 

 

桂、フェイト、銀時が声高々に叫ぶ。

かつて同じ師を仰いだ4人が、完全に袂を分かつ瞬間であった。

 

 

「せいぜい街でバッタリ会わねーよう気をつけるこった!」

 

 

「スカリエッティ、お前もだ! 次は絶対に逃がさないから!!」

 

 

そして言うや否や3人は一斉にその場から走り出し、そのまま船の縁を飛び越えてダイブしていった。

 

 

「なっ…!?」

 

 

それを見た敵の天人は目を見開きながら、すぐに船の縁から身を乗り出して下を見る。

 

 

するとそこには……上着の下に隠し持っていたエリザベスの顔が描かれたパラシュートを広げる桂と、それにしがみつく銀時、そして飛行魔法でゆっくりと降下していくフェイトの姿があった。

 

 

「ブハハハハハ! さ~らばァァ!!」

 

 

「逃がすなァァァ!! 撃てェェェ! 撃てェェェ!!」

 

 

高笑いを上げる桂を逃がすまいと、船の側面の大砲で彼らを撃ち落とそうとする。

しかし不思議とその砲撃は当たらず、見当違いの方向で虚しく爆散するだけであった。

 

 

「パラシュートまで持ってたなんて、用意周到だね桂さん」

 

 

「ルパンかお前は」

 

 

「ルパンじゃないヅラだ。あっ間違った桂だ。伊達に今まで真選組の追跡をかわしてきたわけではない」

 

 

そんな会話をしながら、桂は自分の懐から刀傷のついた教本を取り出した。

 

 

「しかしまさか奴も、コイツをまだ持っていたとはな……」

 

 

「そっか……高杉もコレを……」

 

 

それを見て、フェイトも懐から同じものを取り出した。傷などはついていないが、色あせて古ぼけた教本だった。

 

 

「フェイト殿もか。どいつもこいつも、思い出を大切にしているのだな」

 

 

そしてその教本に視線を落としながら、桂は溜息まじりに言葉を続ける。

 

 

「……始まりはみんな同じだった。なのに、随分と遠くへ離れてしまったものだな」

 

 

物憂げな表情で、頭上に浮かぶ2隻の船を見上げる桂。

 

 

「そうだね……みんな、同じだったのにね……松陽先生」

 

 

フェイトも手にした教本をギュッと胸に抱え込みながら、呟いた。

 

 

「銀時…お前も覚えているか、コイツを」

 

 

「ああ」

 

 

教本を示しながら尋ねる桂。

それに対して……銀時はぼんやりと目の前で広がっている、綺麗に澄み渡るような青い空と白い雲を眺めながら静かに応えた。

 

 

 

 

 

「──ラーメンこぼして捨てた」

 

 

 

 

 

『真伝・紅桜篇』

―完―




ようやく紅桜篇完結です。

やっとシリアスから解放される…ギャグが書ける……!!(感泣)

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