銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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闇夜の虫は光に集う

 

 

 

 

 

 

雨は上がり、空を覆う雲の間から暖かな陽光が差し込み始めた。

 

その陽光をスポットライトのように浴びながら船の屋根の上に現れたのは、緩み切った笑顔を浮かべてひらひらと手を振る宇宙一バカな侍──坂田銀時だった。

 

妻のフェイトと鍛冶屋の鉄子を同行させ、龍の装飾が施された刀を抜き、遅ればせながらこの戦場へとやって来たのだった。

 

 

相対するは鉄子の兄・鉄矢に紅桜のメンテナンスをしてもらっていた岡田似蔵。

彼の盲目の目には、銀時の姿はキラキラと光って映っていた。

 

その光は例えるなら刀……鞘から抜き放たれた鋼の刃──鋭く光る銀色だった。

 

そして何故だか似蔵は、その色がどうにも気に入らなかった。

 

 

お互いに顔を合わせると…銀時はニタッと、似蔵はニヤッと笑みを浮かべる。

 

 

次の瞬間──両者の刃が激突した。

 

 

ギリギリと鍔迫り合いする中で、似蔵が口を開く。

 

 

「人がひと仕事してる間に無粋な輩があがりこんでると思ったら、アンタも一緒に来てたとはねェ。火事場泥棒にでも来たかィ。そんな身体で何ができる? 自分のやってる事わかんないくらいおかしくなっちまったか」

 

 

「そういうアンタも随分と調子悪そうじゃないの。顔色悪いぜ、腹でも下したか? ん?」

 

 

「腹壊してんのはアンタだろ」

 

 

似蔵は空いている左手で、銀時の腹をつかむ。そこは前回の戦いで、紅桜に貫かれた場所だった。

 

 

「ぐっ!! んがああああ!!」

 

 

傷を抉られた銀時は苦悶の声を上げつつ、紅桜を押し返して似蔵から距離をとった。

 

 

「クク、オイオイどうした? 血が出てるよ…」

 

 

左手に付着した銀時の血を指で弄びながら軽口を叩く似蔵。だがその瞬間、その左手に一筋の赤い線が刻まれ、己の血が噴き出す。

 

 

「オイオイどうした? 血が出てるぜ」

 

 

お返しとばかりに、銀時がそう言い放つ。

 

 

「……ククク──アハハハハハハ!!」

 

 

奇妙な笑い声を上げながら、似蔵は再び紅桜を振るったのだった。

 

 

「銀時……」

 

 

その銀時の戦いを見守っていたフェイトは、心配そうに夫の名を呟く。本来なら銀時は絶対安静の身…真剣での立ち合いなど自殺行為に等しい。

それでもフェイトはその戦いを止めない。何故ならその戦いは、銀時が己の魂をかけた戦いなのだから。

 

 

「……鉄子、銀時をお願い」

 

 

「え?」

 

 

返事を待たず、鉄子にそれだけ言い残してフェイトはその場から走り出す。

今のフェイトにできる事は…銀時が必ず勝つと信じて、自分のやるべき事の為に行動する事だった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃…真選組の船はようやく鬼兵隊の船に追いつき、空中での接舷を成功させた。

 

 

「よォォォしっ! 乗り込めェェェ!」

 

 

陣頭指揮を執る近藤の声に、隊士達は雪崩れるように次々と鬼兵隊の船に乗り込んでいく。

 

 

そしてこれから真選組と鬼兵隊による戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

──と、思っていたのだが……

 

 

「おーう、お前ら遅かったな」

 

 

そんな真選組を迎えたのは鬼兵隊ではなく……ひと仕事終えたようにスッキリとした顔をしたヴィータであった。更にその後ろには、鬼兵隊と思われる数十人の浪士達が死屍累々と甲板に転がっている。

 

 

「ヴィータ! 無事やったか!?」

 

 

「はやてー! 見ての通りピンピンしてるぜ!」

 

 

心配そうな顔つきで駆け付けたはやてに、元気な笑顔で答えるヴィータ。数十人もの浪士を1人で伸しておきながら元気が有り余っているのは、流石はベルカの騎士といったところだろう。

 

 

「お前…全部片づけちまったのか?」

 

 

土方が床に転がる浪士達を見回しながら呆れた風にそう言うと、ヴィータは「まーな」と得意気に頷く。これから決戦だと思って意気揚々と乗り込んできた彼らにしてみれば、肩透かしもいいところである。

 

 

「けど、晋助やスカリエッティとか他の幹部には船の中に逃げられちまったけどな」

 

 

「まァ…こっちとしても余計な手間が省けたのは助かるけどな。つーか、先に潜入させてた山崎はどうした?」

 

 

「ああ、山崎なら……あっちでミントンしてるぜ、ミントン」

 

 

そう言ってヴィータが指差す方向には、「ふん! ふん!」と声を上げながらバトミントンラケットを振り回す山崎の姿があった。

 

 

「山崎ィィィ!! てめっ戦場で何やってんだァァァ!?」

 

 

「ギャアアアアア!!」

 

 

それが土方の怒りに触れてボコボコにされたのは言うまでもない。

 

 

「ま…まァ何はともあれ、ヴィータちゃんが無事でなによりだ。このまま倒れている浪士を捕縛しつつ、高杉を追うぞ」

 

 

苦笑を浮かべた近藤がそう指示を出しながら締めくくる。それを聞いた隊士達が頷き、行動に移そうとしたその時……

 

 

「!! 待て!!」

 

 

突然、ザフィーラが声を張り上げて待ったをかけた。滅多に大声を出さない彼の叫びに、近藤や土方は何事かと思い動きを止める。

そしてザフィーラは狼ゆえの動物的な勘で何かを感じ取ったのか、険しい表情を浮かべている。

 

 

「……来る」

 

 

ザフィーラが静かにそう囁いた瞬間──突如として血のような紅色に輝く魔法陣が出現し、甲板全体に広がった。

 

 

「これは……!?」

 

 

「転送魔法です!!」

 

 

その魔法陣を見て、はやてとリインが声を上げる。

すると…甲板に倒れていた浪士達が魔法陣に吸い込まれるように消えて行き、それと入れ替わるように別のものが出現する。

 

 

「アレは……ガジェット!?」

 

 

出現したそれを見てシャマルが叫ぶ。魔法陣から現れたのは、数十体ものカプセル状の形をした機械兵器と、それより一回りほど大きい数体の球形の機械兵器だった。

 

 

その兵器の名は『ガジェットドローン』。

スカリエッティが開発した自律型の機械兵器で、魔力を使用していない内蔵電源によるレーザーなどが搭載されている。今では鬼兵隊が保有する命なき兵士である。

因みに複数のタイプがあり、カプセル型が『Ⅰ型』、球形が『Ⅲ型』である。

 

 

「スカリエッティの機械(からくり)兵器か。うじゃうじゃと」

 

 

「どうやらまだ、俺達の見せ場は残っていたようだな」

 

 

それを見た近藤と土方がいの一番に刀を抜いて、戦闘態勢に入る。それに続くように他の隊士達も次々と刀を抜いて構える。

 

 

「ガジェットには魔力を無効化するAMFがある。シグナムとヴィータとザフィーラは物理攻撃でガジェットの殲滅、シャマルとリインはAMFの範囲外からサポートに回りつつ負傷兵の回復や!」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

真選組魔戦部隊隊長であるはやてが、騎士杖シュベルトクロイツを手にしながら指示を飛ばし、それを受けたヴォルケンリッターの騎士達もそれぞれの武装を手にして戦闘態勢に移る。

 

 

そして真選組局長の近藤が、刀の切っ先をガジェット群に向けながら高らかに叫んだ。

 

 

 

「あんな粗末な機械(からくり)人形どもに遅れをとるなァァ!! 侍の力を見せてやれェェ!!」

 

 

 

その言葉に隊士全員が「おおおおおおっ!!」と鬨の声を上げて応えながら、土方を筆頭にして勇猛果敢にガジェット群へと向かって行った。

 

 

今度こそ……真選組と鬼兵隊による戦いの火蓋が切って落とされたのであった。

 

 

 

 

 

「……あれ? 沖田隊長は?」

 

 

そんな中で山崎がポツリと零した疑問の声は、戦いの喧騒の中にかき消されていった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「アレが真選組……高杉らが幕府の犬と呼ぶ連中か」

 

 

そう言って屋根の上から文字通り高みの見物を決め込んでいるのは、ナンバーズ3のトーレであった。

 

 

「この世界で侍と呼ばれる剣士達……どれほどの実力か見極めさせてもらおうか」

 

 

トーレは大量のガジェット群を相手に奮闘する真選組の戦いを、腕を組んで静かに見下ろしながらそう呟いた。

 

 

「だったら、直接確かめてみたらどうですかィ?」

 

 

「!?」

 

 

突然背後から声をかけられ、反射的に振り返るトーレ。するとそこには、いつの間にか屋根の上にのぼって来ていた沖田の姿があった。

 

 

「貴様は……!」

 

 

「アンタ、はやて姐さんが言ってた戦闘機人とかいう改造人間だろ? ちょいと俺と遊んでみねーかィ?」

 

 

僅かに目を見開くトーレに対して、刀の柄に手をかけながらそう言い放つ沖田。

 

 

「ホントは紅桜とかいう化け物とやり合ってみたかったんだが、どうやら先客がいるようでねィ。仕方ねーから、俺はアンタで我慢するとしまさァ」

 

 

「……あまり舐めた口を利くなよ小僧。後悔するぞ?」

 

 

まるで自分を低く見ているかのような発言に、トーレは殺気の篭った鋭い眼光で沖田を睨む。だがその殺気を向けられても沖田は一切怯む事無く…それどころか、ニッと口角を吊り上げて好戦的に笑う。

 

 

「そいつァ面白れェや、試してみやすかィ?」

 

 

そう言うと…沖田は刀を抜き放った。抜身になった刀身が鋭い光沢を放つ。

 

 

「いいだろう」

 

 

対するトーレも両腕から虫の羽に似た紫色に発光するエネルギー状の刃『インパルスブレード』を伸ばす。

 

 

「真選組一番隊隊長──沖田総悟」

 

 

「鬼兵隊所属ナンバーズ3──トーレ」

 

 

互いに短くそう名乗った次の瞬間……両者は目の前の敵に向かって駆け出したのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

沖田とトーレの戦闘が始まった頃……ジェイル・スカリエッティは船内の部屋にいた。

 

ここは開発室。爆破された紅桜を製造していた工場区画とはまた別の、スカリエッティが個人的に兵器の設計・開発を行う為の部屋である。また、緊急時に船のあらゆるシステムなどを操作できるコントロールルームでもある。

 

何本ものコードが壁や天井に張り巡らされ、立ち並ぶ様々な大きさのカプセルの中にはエイリアンのような生き物が培養されている。部屋の薄暗さも相まって、言い知れぬ不気味さを醸し出している部屋の奥では、壁一面に取り付けられた巨大モニターの画面だけが部屋を照らしていた。

 

そしてその巨大モニターの前で、スカリエッティがコンソールを動かしていた。

 

 

「浪士達の回収、及びガジェットドローンの転送完了。これで、真選組は十分に足止めできるだろう」

 

 

甲板での騒動のあと、高杉と1人別れて行動したスカリエッティはこの開発室に足を運んだ。そして転送装置を起動させて戦闘不能となった部下達を回収し、同時に乗り込んで来た真選組を妨害する為に自身が制作したガジェットのⅠ型とⅢ型を大量に送り込んだのである。

その思惑通り、巨大モニターに表示されている真選組は大量のガジェットを相手取るので手一杯になっている。

 

 

「あとは……」

 

 

そう言いながら手元のコンソールを操作するスカリエッティ。するとその時、そんな彼の背後から……コツコツという足音が聞こえた。

 

 

「!」

 

 

その音を耳にしたスカリエッティは、一瞬だけコンソールから顔を上げると、何か感じ取ったのかすぐにフッと笑って目を伏せた。そしてその足音の主に対して、静かに口を開く。

 

 

「久しぶりだね……フェイト・テスタロッサ」

 

 

振り返りながら、その名を口にする。振り返ったスカリエッティの視線の先には、バルディッシュを片手に持ったフェイトが立っていた。ただしバリアジャケットは装着しておらず、いつもの動きやすい着物姿だった。

 

 

「いや…今は坂田フェイトと名乗っているんだったかな? ここは君の出生に関わった者の1人として、結婚おめでとう…と言っておこうか」

 

 

「……それはどーも。じゃあついでにご祝儀も欲しいな──お前の首級(くび)で」

 

 

スカリエッティからの心の籠っていない形だけの祝いの言葉に対して、フェイトはバルディッシュの先端を向けながらそう言い放つ。

そんなフェイトの態度に、スカリエッティは「ククク…」と笑い声を洩らしながら言葉を続ける。

 

 

「随分と物騒な言い回しだね。そんなにまた私を捕まえたいのかい?」

 

 

「……今の私にそんな権限はない。それは真選組にでも任せるよ」

 

 

フェイトは小さく首を横に振り、静かな口調で淡々と答える。

 

 

「私は私の護りたいものの為に戦う……その為に、お前と高杉を止める!」

 

 

言葉の最後に力を込めてそう言い放つフェイト。

それに対しスカリエッティは一瞬だけ目を見開くと、すぐに可笑しそうに笑いを零した。

 

 

「クク…面白い考えをするようになったね、フェイト・テスタロッサ。それもこの男の影響かな…」

 

 

そう言いながら軽くコンソールを操作すると、巨大モニターの画面の一部に銀時と似蔵の戦いを映したウィンドウが開かれた。

 

 

「坂田銀時……君の夫も相変わらず面白い男だ。たった1人で紅桜を相手にするとは、生身で戦艦一隻に立ち向かうようなものだよ」

 

 

スカリエッティの言葉を他所に、フェイトもモニターの映像に目を向ける。そこに映し出されている銀時と立ち会う似蔵の動きは、常人のそれを遥かに超えているレベルだった。

 

 

「……アレはもう人間の動きじゃない。岡田似蔵の身体はもう紅桜についていけなくなってボロボロになってる……このままじゃ」

 

 

「死ぬね、確実に」

 

 

フェイトの言葉にスカリエッティはあっけらかんと言い切った。

 

 

「戦いを学習し急速に成長する紅桜に、ただの人間の身体がついていけるわけがないからね。いずれ壊れてしまうのは最初から目に見えているさ」

 

 

「わかっていて、それを仲間に使わせたっていうの……お前はまたそうやって…人の命を……!!」

 

 

「勘違いしないでくれ、フェイト・テスタロッサ。あれは似蔵君が自ら望んだ事だ。たとえ死んだとしても本望だろうね」

 

 

「本望…?」

 

 

スカリエッティは薄ら笑いで応える。

 

 

「彼は望んでいたのさ、文字通り己が刀となって高杉晋助という篝火を護るという事をね」

 

 

映像には銀時と似蔵の激しい撃ち合いが映し出されている。すでに似蔵の呼吸は乱れ、顔色もとてつもなく悪い。もはや肉体が限界を迎えていることはモニター越しに見ても明らかだった。

 

 

「再び闇に戻るくらいならば、自ら火に飛び込み、その勢いを増長させることも厭わない……あれこそが似蔵君が望んだ結果だよ」

 

 

仲間といえど、スカリエッティに同情の念はない。あれこそが似蔵が選んだゆえの末路なのだから。

 

 

「スカリエッティ……お前の目的はなんだ? 高杉と手を組んで、一体何を企んでいる?」

 

 

相手を睨んだまま、フェイトは問い掛ける。

自分の知るジェイル・スカリエッティという男は極めて傲岸不遜な自信家で、誰かの下につくような奴ではない。ゆえに高杉が率いる鬼兵隊にいることも、何か野望があってのことだと考えていた。

 

 

「ふむ……私の目的か……そうだね」

 

 

そして問われたスカリエッティは、両手を大きく広げて言い放つ。

 

 

「私は私の世界を作りたいのさ」

 

 

「!?」

 

 

その答えにフェイトは大きく目を見開いた。

 

 

「生み出された時から私の中には無限に湧き出る欲望が渦巻いている。どれほどの知識を得ても、どれだけ欲しいものを手に入れても、欠片も満たされることもなく、ただ虚しく渇くばかりなのさ。一体どうすればこの欲望を満たすことができるのか、私にもわからない」

 

 

無限の欲望(アンリミテッドデザイア)

管理局最高評議会によって生み出されたジェイル・スカリエッティの開発コードネームで、その名の示す通り無限に等しい欲を持って生まれた存在である。

だがその無限に湧き出る欲望が、スカリエッティを次元犯罪者たらしめている動機なのだ。

 

 

「そこで私は考えたのさ……もしかしたら、どこの次元世界にも私の欲望を満たすものはないのかもしれない。人の手で腐り切った次元世界に私の求めるものはないのかもしれない。ならば……穢れのないまったく新しい世界を、私自身の手で作ろうと……」

 

 

広げていた両腕をおろし、天井を仰ぎながら語るスカリエッティの顔は……どこか憂いを帯びているように見えた。

 

 

「晋助君が壊したあとの世界は私の自由だ。その時こそ私が思い描く理想の世界を一から作り直せばいい。そんな大法螺が実現できれば……私の中の無限の欲望を満たすものが、見つかるかもしれないね」

 

 

フェイトは絶句する。己の欲望を満たす……ただそれだけの理由で世界を壊し、自分自身が創り直すというとんでもない思想を掲げているのだから。

 

 

「バカげてる……そんなこと……」

 

 

「もとより君に理解してもらおうなどとは思ってはいないよ。私を理解してくれるのは…鬼兵隊だけだ」

 

 

「スカリエッティ……お前は一体……!?」

 

 

「私は私さ。鬼兵隊機械(からくり)技師…ジェイル・スカリエッティさ」

 

 

そう言いながら肩に羽織っていた白衣に手をかけ、そのまま振り払うように脱ぎ捨てる。

 

 

「さて…話はここまでにしよう。晋助君の邪魔になるものには退場願わないとね」

 

 

発言と同時に、スカリエッティの右腕が淡い光に覆われる。そして次の瞬間には、その右手には指先に爪を装着した黒基調に赤いラインが入ったグローブ型デバイスが嵌められていた。

スカリエッティは科学者ではあるが、実はその戦闘力はかなり高い。

だからこそフェイトも、最初から本気で立ち向かう。

 

 

「バルディッシュ」

《Yes sir》

 

 

フェイトの囁きに呼応するように、バルディッシュの形態が変わる。

バルディッシュの数ある形態の中でもっとも出力のある『ライオットフォーム』。その中で2つモードの内の1つ……片手剣型の《ライオットブレード》へと変形した。

 

 

「悪いが、あの時のようにはいかないよ」

 

 

「それでも止めてみせる……お前も──高杉も!」

 

 

フェイトとスカリエッティ……数年ぶりとなる2人の因縁の戦いが、再び幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「光に目を焼かれ、最早それ以外見えぬ! なんと…哀れで愚かな男か…しかしそこにはその善も悪も超えた美がある!!」

 

 

銀時と似蔵が戦う場に立つ村田鉄矢が、妹の鉄子に対して腕を組みながら言う。

 

 

「一振りの剣と同じく、そこには美がある!!」

 

 

「アレのどこが美しい。あんなものが兄者の作りたかったモノだとでもいうのか」

 

 

鉄子は悲しげな表情で兄に説く。

 

 

「もう止めてくれ、私は兄者の刀で血が流れるところをもう見たくない」

 

 

「ならば何故、あの男をここに連れてきた!? わざわざ死ににこさせたようなものではないか!! まさかお前の打ったあの鈍刀で私の紅桜に勝てるとでも……」

 

 

と、言いかけたその時…鉄矢の後ろで鈍い音が響いた。

見るとそこには…壁に叩きつけられて倒れる似蔵と、息を乱しながら立っている銀時の姿があった。その光景に鉄矢は目を疑った。

 

 

「なっ…バッ、バカな! 紅桜と互角…いやそれ以上の力でやり合っているだと!!」

 

 

鉄矢は信じられなかった。紅桜の侵食で似蔵の体力が衰えているとはいえ、紅桜そのものの能力はデータを重ねて数段向上しているハズなのだ。

だというのに、現状はこの有様だ。

 

 

──まさか!!

 

 

「うおおおおおお!!」

 

 

立ち上がった似蔵が銀時に突進していく。

紅桜による猛攻を、銀時は真っ向から刀で弾く。刀同士が衝突するたびに金属音が木霊している。人の動きを超えた攻撃を、銀時は全て見切って捌いているのだ。

すでに戦況は銀時の圧倒的優位に傾いていた。

 

 

──あの男…紅桜を上回る早さで成長している!? いや…あれは……極限の命のやり取りの中で、身体の奥底に眠る戦いの記憶が甦ったのか……!!

 

 

似蔵が横薙ぎに大きく紅桜を振るう。それを銀時は跳躍で回避し、振り切った紅桜の刀身に飛び移ったのだった。

 

 

──あれが、白夜叉…!!

 

 

その光景を愕然と鉄矢は眺める。右腕の根元に刀が深々と突き立てられ、似蔵は苦悶の表情を浮かべる。刺された箇所からバチバチと電気が迸る。その放電はまるで紅桜が悲鳴を上げているようだった。

 

 

──消えねェ、何度消そうとしても、目障りな、光が、消えね……

 

 

似蔵の身体からメキメキと耳障りなが音が鳴り始めたのは、その直後だった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「ふんごををを!!」

 

 

新八の刀を武市の刀が受け止め、鈍い金属音を響かせながら鍔迫り合いをする。そのあとすぐに新八はバックステップで離れて距離を取る。

 

 

「ふむふむ、道場剣術はひとしきりこなしたようですが真剣での斬り合いは初めてのようですね。震えていらっしゃいますよ」

 

 

相手の剣を観察していた武市の指摘通り、新八の刀を握る手はカタカタと小刻みに震えている。

 

 

「これは酔剣と言ってなァ! 酔えば酔うほど強くなる幻の…」

 

 

「フフ、無理はせぬほうがいいですよ」

 

 

新八の虚勢を笑いながら、武市も刀を構える。ただしその手は新八と同じくカタカタと震えていた。

 

 

「ちなみに私の剣技は志村剣と言って、あの志村けんがコントの時によくやるあの…」

 

 

「お前もかいィィィ!!」

 

 

人の事を偉そうに言えない武市に新八のツッコミが入る。

 

 

「私はね、どっちかっていうと頭脳派タイプだから、こういうのはあの猪女にいつも任せてるんです」

 

 

「誰が猪っスかァァ!! そのへっぴり腰に一発ブチ込んでやろうか!」

 

 

近くで神楽と戦っているまた子の怒鳴り声が響く。

 

 

「実践は度胸っス先輩!! こっちが殺らなきゃ殺られるのみっスよ!」

 

 

二丁拳銃を構えて引き金を引くと、神楽にまた子の銃弾が降り注ぐ。

 

 

「うがァァァァ!!」

 

 

神楽は夜兎の持つ恐るべき身体能力で銃弾を回避しつつ、そのまままた子に飛び掛かろうと大きく宙に飛び上がる。

だがそれこそが、また子の狙いだった。

 

 

──かかった! 空中では自由もきくまい!

 

 

「死ねェェェェ!!」

 

 

また子の二丁拳銃が空中にいる神楽に向かって火を噴き、当然避けようもない神楽は上体を大きく仰け反らせた。

確かな手ごたえを感じ、また子は「殺った…」とほくそ笑んだ。

 

 

しかし、神楽は無傷だった。また子の銃弾を、なんと両手の指先と歯を使って受け止めていたのだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

あまりのことに驚愕で目を剥くまた子。その間に神楽は落下の勢いのまま、また子を床に押し倒す。

 

 

「私を殺ろうなんざ百年早いネ小娘ェェェェ!!」

 

 

怒号を上げる神楽が拳を振りかぶり、また子に叩きつけようとする。

だがその時……

 

 

──ドゴォォォ!!

 

 

「「「!?」」」

 

 

不意に通路の奥から轟音が響き、何事かと神楽は振り下ろそうとした拳を止め、新八と武市を含めた全員がそちらの方へと目を見やる。

すると同時に、通路の奥の扉が吹き飛び、何かが飛来してくる。

 

 

「うごっ!!」

「ぐえっ!!」

 

 

その何かは一直線に飛来し、その直線状に偶然いた神楽に直撃して彼女を撥ね飛ばすと、そのまま勢いを失った何かはまた子に覆いかぶさるように落下した。

 

 

「神楽ちゃん!! 大丈夫!?」

 

 

「平気アル……でも何が起こったアルか?」

 

 

それを見ていた新八は撥ね飛ばされた神楽に駆け寄ると、そんなにダメージは受けていないようでピンピンしていた。

 

 

「痛ったァ……なんスか一体……!?」

 

 

そしてまた子は顔を歪めながら自分に覆いかぶさった何かを確認すると……同時に目を見開きながら叫んだ。

 

 

「──って、ジェイル博士ェ!?」

 

 

その何かとは……着物のあちこちに焦げ目のような痕をつけて、髪も若干チリチリになってボロボロなスカリエッティであった。

 

 

「や…やあ、また子君……変平(へんたいら)君も一緒かい?」

 

 

変平(へんたいら)ではありませんフェミニストです。じゃなくて変平太です、いい加減覚えてくださいジェイルさん」

 

 

「ああ、すまないね……どうにも君は変態という印象が強くてね」

 

 

「他の誰に言われようとも、アナタにだけは変態呼ばわりされたくありません」

 

 

「いや私からすればどっちもどっちっスよ。つーかジェイル博士はなんで飛んできたんスか!?」

 

 

「ふむ、それはだね………っとマズイ、来たね」

 

 

「「?」」

 

 

3人が揃ってのん気に話していると、自分が飛んできた通路の先を見ながら顔を青ざめさせるスカリエッティ。そんな彼にまた子と武市が疑問符を浮かべていると……

 

 

「スカリエッティぃぃぃぃ!!」

 

 

そんな怒号と共に通路の奥から現れたのは、恐ろしい鬼の形相でライオットブレードを振りかざすフェイトであった。

 

 

「逃がすかァァァァ!!」

 

 

「「「ずおォォォォっ!!?」」」

 

 

フェイトはそのまま宙に高く跳躍して、落下の勢いを加えた状態で電気の魔力を帯びたライオットブレードを振り下ろす。

それに狙われたスカリエッティと巻き込まれた武市とまた子は咄嗟に回避するが、ブレードが床に叩きつけられた際に発生した衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 

 

「フェイトォ!」

 

 

「フェイトさん!」

 

 

そんなフェイトの姿を見た新八と神楽は、顔を綻ばせて彼女の名前を叫ぶ。

 

 

「! 新八!! 神楽!! よかった、無事だったんだ!」

 

 

するとそんな新八と神楽の無事を確認したフェイトも、安心したのか先ほどの鬼の形相とは似ても似つかない優しい表情で2人のもとに歩み寄って行った。

 

 

一方でフェイトに吹き飛ばされたまた子は、起き上りながらスカリエッティに食って掛かる。

 

 

「ちょっとォォ! ジェイル博士、アレ白夜叉の嫁っスよね!? なんであんな奴がこんなトコにいるんスかァ!?」

 

 

「どうやら桂一派の船に紛れ込んでいたようでね。それでちょうど真選組の足止め工作をしていた私のところに来てしまってね。一応過去に彼女を追いつめたこともあるから、私が相手をしたのだが……」

 

 

「……こっぴどく返り討ちにされたというわけですか」

 

 

「ハッハッハ──そういうことだね」

 

 

「いや笑うところじゃねーっスよジェイル馬鹿士(バカセ)!!」

 

 

戦う前のシリアスな雰囲気はどこへやら……呆気なく返り討ちにされたスカリエッティは愉快そうに笑い、また子にツッコミを入れられていた。

 

 

「新八、神楽、今のうちにあいつらを仕留めるよ」

 

 

「はい」

 

 

「任せるネ」

 

 

そんな鬼兵隊3人のコントのようなやり取りをずっと眺めていた万事屋3人は、その隙にそれぞれの得物を構えていた。

少し不意打ちで卑怯っぽいが、相手が悪役なら遠慮はいらないだろうという大義名分を口実に一斉に襲い掛かろうとした。

 

 

だがその瞬間──凄まじい轟音と共に天井が崩壊した。

 

 

「「「!」」」

 

 

「うわァァァ!!」

 

 

「な…なにィ!?」

 

 

「天井が……!!」

 

 

突然船室の天井が崩壊したことに、その場の全員が何事かと目を白黒させている。

 

 

そしてふと……その崩壊した天井から落ちてきたものを見て、新八と神楽、そしてフェイトは目を大きく剥きながら叫んだ。

 

 

「銀さん!!」

「銀ちゃん!!」

「銀時ィィ!!」

 

 

そこには……変わり果てた似蔵の身体から伸びる何本もの機械(からくり)の触手に身体を縛り付けられ、血塗れの銀時の姿があったのであった。

 

 

 

 

 

つづく




すみません、あまりにもシリアス展開続きで、つい我慢できず最後に少しギャグを入れてしまいました。

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