銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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感想覧の返信にて、少々説教じみたことを書いて、皆様に嫌な思いをさせてしまったことを謝罪申しあげます。


陽はまた昇る

 

 

 

 

 

「オイオイオイオイ」

 

 

空中で沈んでいく2隻の船。それを遠目で眺めながら銀時が呟いた。

 

 

「なんかもうおっ始めてやがらァ。俺達が行く前にカタがつくんじゃねーのオイ」

 

 

「それならそれで、ありがたいんだけどね」

 

 

港へと向かう道路を鉄子が操縦するスクーターの後ろに乗る銀時と、銀時が普段愛用しているスクーターに乗るフェイトがその隣を並走しながらそう言った。

紅桜を止める為に赴いたものの、どうやらすでに真選組が乗り出しているようだ。

 

 

「使い込んだ紅桜は、一振りで戦艦10隻の戦闘力を有する。真選組とて止めるのは無理だ」

 

 

「規模がデカすぎてしっくりこねーよ。もっと身近なもので例えてくれる?」

 

 

「オッパイがミサイルのお母さん千人分の戦闘力だ」

 

 

「そんなのもうお母さんじゃねーよ」

 

 

「管理局の白い悪魔10人分の戦闘力だ」

 

 

「そんなんもう悪夢でしかねーよ。つーかお前なんでアイツ知ってんの?」

 

 

「噂で聞いた」

 

 

江戸は一応管理局の保護下にある管理世界だが、その情報は江戸にはほとんど入ってこない。にも拘わらず、この江戸でも異名の噂を轟かせている親友に、フェイトは顔を引きつらせていた。

 

 

「……コイツを」

 

 

「?」

 

 

すると鉄子は、銀時に一振りの刀を差しだした。

 

 

「何コレ?」

 

 

鞘から刃を少し抜きながらそう問い掛ける銀時。鞘から覗かせる刀身はキレイな白銀色に輝いており、その刃を見るだけでそれがなかなか良い刀だということが一目でわかる。

だがそれ以上に銀時が気になったのは、鍔の部分に派手に装飾されている、とぐろを巻いている龍だった。

 

 

「私が打った刀だ。木刀では紅桜と戦えない…使え」

 

 

「…刀はいいけど、何コレこの鍔の装飾? ウン…」

 

 

そう口走った瞬間、鉄子に顔面を殴られた銀時はスクーターから放り出されて地面を転がった。

 

 

「銀時ィィィ!?」

 

 

それを見たフェイトが慌ててスクーターを止めながら叫ぶ。

 

 

「ぐおぉぉぉぉぉ! てめェェェ、何しやがんだァァ…」

 

 

「ウンコじゃない、とぐろを巻いた龍だ」

 

 

「鉄子、気持ちはわかるけど手を出しちゃダメ! 銀時はケガ人だから! 一応」

 

 

「一応って奥さん……つーか、俺がウンコと言い切る前にウンコと言ったということは自分でも薄々ウンコと思っている証拠じゃねーか!」

 

 

そんなどうでもいいやり取りをしている3人。するとそんな中、フェイトの視界にある光景が映った。

 

 

「銀時、アレ」

 

 

「!」

 

 

フェイトに言われて、銀時もそちらの方に視線を映す。するとそこには、道路のガードレールの下に広がる旧市街を数人の浪士がバタバタと慌ただしく動いている光景があった。

 

これは何かあると感じ取った銀時とフェイトと鉄子は、適当な所にスクーターを停めてから集団に近づき、物陰に隠れながら様子を窺うことにした。

 

 

「エリザベスさん!! 船の用意ができました!」

 

 

浪士達の前には、着物にロン毛のヅラを被ったエリザベスの姿があった。

 

 

「しかしホントに行くんですか!? あそこには真選組もいますし……」

 

 

「その真選組もすでに船を1隻落とされてるんですよ! ロクな銃火器も積んでおらんのに!! 一体奴ら、どんな恐ろしい兵器を所有しているか!!」

 

 

【ガキどもを助けなきゃ、アレを死なせたら桂さんに顔向けできん】

 

 

「顔向けもなにも、桂さんはもう……」

 

 

【感じるんだ。あの船からなにか懐かしい気配がする】

 

 

エリザベスがプラカードでそう語った瞬間、先ほどまで反対していた浪士達の目の色が変わった。

 

 

「エリザベスさん! まさかっ…」

 

 

「それって…ウソォ、マジで!」

 

 

「こうしちゃいられねー! 早くあの船に!」

 

 

「エリザベスさんの勘はよく当たるんだ! こないだ俺も競馬で…」

 

 

途端、大急ぎで船へと向かう為にその場から走り去っていくエリザベス率いる浪士達。

 

 

そしてその様子を物陰から窺っていた銀時たちも、コッソリとその後に続いたのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

数隻の船が飛び回る曇天の空の上では、シグナムと似蔵による空中戦闘が繰り広げられていた。

 

シグナムは似蔵の振るう紅桜を受け止めるのではなく、見切って回避することで接触を避ける。攻撃に転じた際に防御で受け止められるのは仕方ないが、そうやって紅桜に魔力を奪われるのを最小限に抑えている。

 

紅桜に魔法が通じない以上、物理攻撃で似蔵を斬るしかない。

とは言え、前回やり合った時よりも紅桜の一撃が速く、そして重いものになっている。攻撃を見切って避けるだけでも相当な集中力を要する。更に隙あらば似蔵の右腕を覆うコードが伸び、捕えようとしてくるので、そちらにも注意を向けなければならない。

 

魔力の消費を抑えているとはいえ、少々防戦一方な展開となっている。対戦艦用の兵器である紅桜をたった1人で相手しているのだ、無理もないとも言える。

 

 

「やるねェ、だがいつまで持つかな?」

 

 

剣を振るいながら、似蔵はそう言ってほくそ笑む。

 

 

「ナメるなァァ!!」

 

 

シグナムはそう強く吼えるものの、やはり防戦一方なのは変わらない。どうする…と、シグナムが策を練ろうとしたその時……突如、似蔵に異変が起こった。

 

 

「ぐぅぅぅぅ!!」

 

 

機械(からくり)と化している右腕が、スパークを迸らせながら膨張しており、似蔵はそれを左手で押さえながら苦し気に呻いた。

 

 

「こ、これは……こんな時にィ……!!」

 

 

よほどの激痛が走っているのか、似蔵は額に脂汗を滲ませながら顔を歪める。すると似蔵はホバーバイクをUターンさせてシグナムに背を向け、自陣の船へと向かって飛び去って行く。

 

 

「ま、待て!!」

 

 

シグナムがそれを追おうとしたその時……彼女の頭の中に、直接第三者の声が響く。

 

 

《シグナム、深追いは無用や》

 

 

「主はやて!?」

 

 

その頭に響く声の正体は離れた相手に言葉を伝える魔法『念話』による、はやてからの連絡だった。

 

 

《岡田似蔵が退いた今がチャンスや。すぐに体制を立て直して、一気に敵の船を攻め落とす! シグナムも一旦こっちに合流や》

 

 

「…了解」

 

 

はやてからの指示を聞いたシグナムは似蔵を追わず、そのまま真選組の船へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

一方…上空に浮かぶ船の上では、意外な人物が姿を現していた。

 

 

「晋助様!! しっかり! 晋助様ァァ!! 晋助様ァ!!」

 

 

「……ほう、これは意外な人とお会いする。こんな所で死者と対面出来るとは……」

 

 

「ふむ…これはこれは、興味深いね」

 

 

一太刀を受けて倒れる高杉にまた子が駆け寄り、武市が落ち着いた様子でそう声を洩らし、スカリエッティが物珍しそうに呟く。

 

 

「て……」

 

 

「てめーは……!!」

 

 

ヴィータと山崎も、その男の姿を見て大きく目を見開いている。

 

 

「あ…ああ、ウソ……」

 

 

そして愕然とした様子の新八が、声を大にしてその男の名を叫んだ。

 

 

「桂さん!!」

 

 

その人物の名は桂小太郎。〝狂乱の貴公子〟と呼ばれる伝説の攘夷志士の1人だった。

件の辻斬りに斬られたと言われていたが、ロン毛だった後ろ髪が短くなっていること以外は普段と変わらない様子で佇んでいた。

 

 

「この世に未練があったものでな、黄泉帰ってきたのさ。かつての仲間に斬られたとあっては、死んでも死に切れぬというもの。なァ高杉、お前もそうだろう」

 

 

そう言いながら、桂は今しがた斬ったばかりの旧友に目を向ける。

 

 

「クク…仲間ねェ。まだそう思ってくれていたとは、ありがた迷惑な話だ」

 

 

高杉が笑いながら起き上る。その懐からは、1冊の本が覗いていた。それが先ほどの一太刀を受け止めたのだろう、表紙部分が切り裂かれていた。

 

 

「まだそんなものを持っていたか。お互いバカらしい」

 

 

桂もまた、懐から同じ本を取り出した。その本には、深い刀傷と血が染み込んでいた。

 

 

「クク、お前もそいつのおかげで紅桜から護られたてわけかい。思い出は大切にするもんだねェ」

 

 

「いや、貴様の無能な部下のおかげさ。よほど興奮していたらしい。ロクに確認もせずに髪だけ刈り取って去っていったわ。たいした人斬りだ」

 

 

「逃げ回るだけじゃなく死んだフリまで上手くなったらしい。で? わざわざ復讐に来たわけかィ。奴を差し向けたのは俺だと?」

 

 

「アレが貴様の差し金だろうが奴の独断だろうが関係ない。だがお前のやろうとしていること、黙って見過ごすワケにもいくまい」

 

 

その瞬間…船内で大爆発が起こった。

 

 

「なっ!!」

 

 

「おやおや、工場区画を爆破したか」

 

 

その爆発に目を見開くまた子と、冷静に呟くスカリエッティ。

 

 

「貴様の野望──悪いが海に消えてもらおう」

 

 

それから何度も爆発音が響く。その爆音が、製造していた紅桜が破壊されていく音だとわかると、また子を始めとした鬼兵隊の怒りが桂へと向けられる。

 

 

「貴様ァァァ! 生きて帰れると思うてかァァ!!」

 

 

あっという間に鬼兵隊の浪人に囲まれる桂。だが彼は特に狼狽せず、十字架に磔にされている神楽の両手両足の金具を刀で切断して彼女を解放する。

 

 

「江戸の夜明けをこの眼で見るまでは、死ぬ訳にはいかん。貴様ら野蛮な輩に揺り起こされたのでは、江戸も目覚めが悪かろうて。朝日を見ずして眠るがいい」

 

 

桂は鬼兵隊に向かって刀を掲げながら、高らかに言い放つ。

 

 

と、その時……そんな桂の身体を磔から解放された神楽が両手でガッチリホールドする。

 

 

「眠んのはてめェだァァ!!」

 

 

「ふごを!!」

 

 

そのまま華麗なバックドロップで桂の脳天を床に叩きつける神楽。

 

 

「てめ~~~、人に散々心配かけといて、エリザベスの中に入ってただァ~?」

 

 

続いて新八が、木造の十字架を手にしてズルズルと引きずりながら桂に歩み寄る。

 

 

「ふざけんのも大概にしろォォ!!」

 

 

それを振り回して思いっきり桂をぶん殴って吹き飛ばす。それでも2人の怒りは収まらない。

 

 

「いつからエリザベスん中入ってた? あん? いつから俺たち騙してた?」

 

 

「ちょ、待て、今はそういう事言ってる場合じゃないだろう。ホラ見て、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だよ」

 

 

「うるせーんだよ!! こっちも襲い掛かりそうな雰囲気!」

 

 

怒り心頭の2人を見て、桂は弁明を始める。

 

 

「待て、落ち着け。何も知らせなかったのは悪かった、謝る。今回の件は敵が俺個人を標的に動いていると思っていたゆえ、敵の内情を探るにも俺は死んでいる事にしていた方が動きやすいと考え、何も知らせなんだ。何より俺個人の問題に他人を巻き込むのも不本意だったしな。ゆえにこうして変装して──」

 

 

「「だからなんでエリザベスだァァァァ!!」」

 

 

「ふごをををををを!!」

 

 

だが桂の弁明も虚しく、新八と神楽に両足を掴まれてそのままジャイアントスイングを決められる。その際に敵の浪士も何人かまとめて吹き飛ばしているのはついでである。

 

 

「……ヴィータ姐さん、どうします?」

 

 

「知らん。とりあえずアタシの拘束具外せ」

 

 

その様子を呆れたような表情で眺めていたヴィータと山崎は、十字架の拘束具を外す作業に取り掛かった。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

 

「近寄れねェ! まるでスキがねェ!!」

 

 

「何やってんスかァ!!」

 

 

「!! ん、アレは」

 

 

振り回れている桂に怯んでいる浪士達に対して、業を煮やしたまた子が怒鳴りながら銃を取り出す。するとその時、武市の目に……何やらこの船に向かって接近してきている物体だった。

 

 

「オイ、アレ、なんかこっちに──!!」

 

 

それは……エリザベスが率いる桂一派の攘夷志士たちを乗せた船だった。その船は一切スピードを緩めずに接近し、そのままの勢いで鬼兵隊の船と衝突した。

 

 

「うわァァァ!!」

 

 

「船が突っ込んできやがった!」

 

 

「なんてマネを!」

 

 

直後、凄まじい衝撃と揺れが船を襲い、浪士達のほとんどがその場でひっくり返る。

 

 

【うおぉぉぉぉ!】

 

 

「「「ワァァァァ!!」」」

 

 

その瞬間、突っ込んで来た船からエリザベスや攘夷志士たちが雄叫びを上げながら、刀を手になだれ込んで来た。

 

 

「高杉ィィィィィ!! 貴様らの思い通りにはさせん!!」

 

 

「チッ!! 全員叩き切るっス!!」

 

 

また子の号令で浪士達も迎え撃つ為に剣をとる。

 

そして桂一派と高杉一派による戦いが繰り広げられる中…エリザベスと桂一派の数人が、桂と新八と神楽を護るように囲む陣形をとる。

 

 

「エリザベス…みんな」

 

 

「すみません、桂さん。いかなる事があろうと勝手に兵を動かすなと言われておきながら、桂さんに変事ありと聞き居ても立ってもいられず」

 

 

「かような事で桂さんが死ぬ訳がないと信じておりましたが、最後の最後で我らは」

 

 

「やめてくれ。そんな顔で謝る奴らを叱れるわけもない」

 

 

涙を流しながら謝罪する部下に、桂は優しくそう言う。

 

 

「それに謝らなければならぬのは俺の方だ。何の連絡もせずに」

 

 

「桂さん、あんた1人で止めるつもりだったんでしょう。かつての仲間である高杉を救おうと、騒ぎを広めずに1人で説得に行くつもりだったんでしょう」

 

 

「それを我らはこのように騒ぎ立て、高杉一派との亀裂を完全なものにしてしまった。これではもう…」

 

 

「言うな……奴とはいずれ、こうなっていたさ」

 

 

目を伏せ、静かにそう言いながら桂は、何を思ったのか未だに拘束を外すのに四苦八苦しているヴィータと山崎に歩み寄る。

 

 

「!?」

 

 

そして桂がそっと刀を振るい、ヴィータの拘束具を切断して彼女を介抱した。

 

 

「桂…お前……」

 

 

「……どーいう風の吹き回しだ? ヅラ」

 

 

敵であるハズのヴィータを助けた桂に、山崎は目を見張り、助けられたヴィータは桂を睨みながら問い掛ける。

 

 

「ヅラじゃない桂だ。今はお互い敵同士とはいえ、八神殿らとはかつては友と呼び合った仲……それを見捨てては眼覚めが悪い」

 

 

そう言いながら桂は懐から何かを取り出し、それをヴィータに向かって下手投げで放った。

 

 

「!! アイゼン!?」

 

 

それを反射的にキャッチして確認すると、それは捕まった際に敵に奪われたハズのグラーフアイゼンであった。

 

 

「ここへ来る途中で拾ったものだ。ちょうど警察に届けようと思っていたところでな」

 

 

「……へっ」

 

 

桂のその言葉に、ヴィータは思わず笑みを浮かべた。

 

 

【桂さん、ここはいいから早く行ってください】

 

 

するとそんな桂に、エリザベスがプラカードで語り掛ける。

 

 

【まだ間に合います】

 

 

「……エリザベス」

 

 

【今度はさっさと帰って来てくださいよ】

 

 

「──すまぬっ!」

 

 

エリザベスの気遣いに礼を述べ、桂は走り出す。この騒動に紛れて、また子と武市、そしてスカリエッティを連れて船内へと去って行った高杉を追って。そしてそれに続くように、新八と神楽も船内へと向かって行った。

 

 

そんな彼らの背中を、ヴィータは何も言わず…何もせずに見送った。

 

 

「ちょ…ヴィータ姐さん! 桂を追わなくていいんですか!?」

 

 

「桂ァ? 誰が?」

 

 

「え?」

 

 

突然そんな事を言い始めたヴィータに、山崎は目を丸くする。

 

 

「山崎、手配書をよく思い出してみろ。桂ってのは見てて鬱陶しいくれーのクソロン毛が特徴だ。さっきのスッキリ短髪ヤローとは似ても似つかねェ。だからアイツは、アタシの落とし物を親切に届けてくれたただの一般市民だ……いいな?」

 

 

「えェェ!? いやでも、さっき思いっきり桂って名乗って……」

 

 

──ドガァァン!!

 

 

「 い い な ? 」

 

 

「……ハイ」

 

 

ヴィータに反論しようとした矢先……彼女が一瞬で起動させたグラーフアイゼンを足元に叩き蹴られ、射殺しそうなほどの視線で睨まれる。こうなってはもはや山崎には、頷く以外の選択肢は存在しなかった。

 

 

「よし。じゃあ山崎、お前先帰ってろ。アタシはひと仕事してから行くから」

 

 

「ハァ!? ひと仕事って何を……つーかこの状況でどうやって帰れって言うんですかァ!?」

 

 

「知るか。んなもん自力で何とかしろ。あーそれと、さっきの一般市民の事をトシとかはやてにチクったら殺すから」

 

 

「そんなムチャクチャな!!」

 

 

かなり理不尽な事だけ言って、後ろで騒ぐ山崎を無視してヴィータは歩き出す。グラーフアイゼンを肩に担ぎ、同時にバリアジャケットを身に纏って戦闘態勢に入る。

 

 

「オイ、そこの白いの」

 

 

そしてヴィータが声をかけたのは、プラカードを武器にして戦っているエリザベスだった。

 

 

【白いのじゃない、エリザベスだ】

 

 

「エ…エリ…エリズベ……あーめんどくせェ! なげーからエリーな!」

 

 

エリザベスの名を上手く発音できないヴィータは、少々ヤケクソ気味にそう言うと、すぐに本題に入った。

 

 

「もうじきこの騒ぎに乗じて真選組が乗り込んでくる。捕まりたくなけりゃ、エリーは仲間連れてさっさとこの船から撤退しろ」

 

 

【バカを言うな。桂さんを置いて逃げるわけにはいかん】

 

 

「ヅラなら心配しなくても大丈夫だ。アイツの逃げ足の速さは昔から知ってるし、お前らもよく知ってんだろ?」

 

 

【だが、高杉一派の連中が……】

 

 

「安心しろ、お前らが逃げるまでの時間は稼いでやる。つーか、あんな雑兵どもアタシ1人で十分だ」

 

 

【……何故そこまでする? お前も真選組だろう?】

 

 

「バーカ、知らねーのか? 落とし物を拾ってくれた奴には1割の謝礼をしなくちゃいけない決まりなんだぜ」

 

 

【……そういうお前も大概バカだと思うがな】

 

 

「うっせ。さっさと行きやがれ」

 

 

【恩に着る】

 

 

そんなやり取りを繰り広げたあと、エリザベスはヴィータに背を向けて走り出す。そして近くにいた仲間に【撤退するぞ】とのプラカードを見せる。

 

 

「て、撤退! 撤退だァァ!!」

 

 

その指示に桂一派の志士が全員に聞こえるように叫ぶ。それに桂一派は一瞬戸惑ったものの、すぐにエリザベスに続いて自陣の船へと走り出して撤退していった。当然、高杉一派の浪士は逃がすまいとしてそれを追う。

 

 

「追えェェ!! 奴らをここから生きて帰──ごはァァ!!」

 

 

そんな高杉一派の先陣を切っていた浪士をヴィータがグラーフアイゼンの一撃でぶっ飛ばし、更に後続に続いていた数人も巻き添えにした。

 

 

「あーあ、攘夷志士を庇って逃がしたって知られたらトシとはやてに叱られんだろうなァ…近藤のオッサンは笑って許してくれそうだけど。けどまァ……謝礼1割分の仕事はさせてもらうぜ」

 

 

ぼやくようにそう言いながら…ヴィータはグラーフアイゼンをを肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべ、声を高らかにして目の前の高杉一派に対して言い放った。

 

 

「真選組魔戦部隊…鉄槌の騎士ヴィータ。アイツらを追いたきゃ、アタシを倒してみな」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃、高杉を追って船内へと入り込んだ桂。そしてその後ろを、新八と神楽が続く。

 

 

「ここまで来たら最後まで付き合いますからね!」

 

 

「ヅラぁ、てめっ帰ったらなんか奢るアル!」

 

 

「お前ら……」

 

 

新八と神楽の言葉に桂が呆気に取られたような表情をする。とその時、ドンっと銃声が響くと同時に桂の足下に銃弾が減り込み、それによって桂は足を止める。

 

 

「晋助様のところへは行かせないっス」

 

 

「悪いがフェミニストといえど、鬼になることもあります。綿密にたてた計画…コレを台無しにされるのが一番腹立つコンチクショー」

 

 

そう言ってまた子と武市の2人が往く手を阻む。

それに対し桂が「チッ」と舌打ちを洩らすと…刀を鞘から抜いた新八と、手をポキポキと鳴らしている神楽が前に出る。

 

 

「ヅラぁ、私酢昆布1年分と『渡る世間は鬼にしかいねェチクショー』のDVD全巻ネ。あっ、あと定春のエサ」

 

 

「僕、お通ちゃんのニューアルバムと写真集とバーゲンダッシュ100個お願いします。あっ、やっぱ1000個」

 

 

「あっ、ズルイネ! じゃ私酢昆布10年分!!」

 

 

「おい、何を」

 

 

「「早く行けボケェ」」

 

 

戸惑う桂に怒鳴るようにそう言う新八と神楽。

 

 

「待て! お前たちに何かあったら俺は…銀時に合わす顔がない!」

 

 

「何言ってるアルか!!」

 

 

「そのヘンテコな髪型見せて笑ってもらえ!!」

 

 

そう言いながら新八は武市に、神楽はまた子へとそれぞれ攻撃を仕掛ける。攻撃自体は防がれたものの、それでも桂の往く道を切り開くのには十分だった。

 

 

「読めませんね…この船にあってあなた達だけが異質。攘夷浪士でもなければ桂の配下の者でもない様子…勿論、私達の味方でもない」

 

 

「なんなんスかお前ら! 一体何者なんスか!! 何が目的スか! 一体誰の回し者スか!?」

 

 

武市は目の前の子供2人の存在に疑問を抱き、また子は銃を突きつけて叫ぶように問い掛ける。

 

 

それに対して新八と神楽は揃ってニタッとした笑みを浮かべ、声を揃えて同時に言い放った。

 

 

 

 

 

「「宇宙一バカな侍だコノヤロー!!」」

 

 

 

 

 

つづく


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