銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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1つ言い忘れてました。

詳しく描写はしてないのですが、フェイトもはやても江戸での普段着は基本的に着物という設定です。

因みに作者のフェイトの着物のイメージは……


黄色い花の模様があしらわれた黒い生地の着物で、帯は赤色。あと動きやすいように腕の部分は半袖で、右足部分にはスリットが入っている。因みに靴はヒール付きのブーツ。


そんなイメージで書いています。皆さんもぜひ、ご自分の脳内でお好きな着物を着せてあげてください。


外見だけで人を判断しちゃダメ

 

 

 

 

 

 

──ジリリリリリリッ!!

 

 

場所は江戸にある住宅街にある、とある一軒家。和風な作りをしたその家でけたたましく鳴り響く、目覚まし時計の音。

 

 

「う…ん……ふわぁぁ……」

 

 

そのけたたましい音に晒されて、和室に敷かれた布団で眠っていた、この家の家主が目を覚ます。

 

 

彼女の名前は『八神はやて』。時空管理局特別捜査官にして、現在は江戸の治安を守る特殊警察『真選組』に出向して局長補佐、兼、特別に設立された魔法戦闘部隊の隊長に任命されている。

 

因みにこの家は江戸に住むにあたって、流石に男ばかりの真選組屯所で暮らすのはマズイということで、家族全員でお金を出し合って購入した和風家屋である。

 

 

「ん~……」

 

 

寝惚け眼でのそのそと布団の中の身体をうつ伏せにして、伸ばして手で鳴り響く目覚まし時計の音を止める。それと同時に、現在の時刻もぼんやりと確認する。

 

 

「9時30分……休みやなかったら普通に遅刻やなぁ……」

 

 

真選組の朝は8時の早朝会議から始める。遅れれば鬼の副長と恐れられる土方が定めた局中法度に違反してえ切腹を迫られるのだが、幸いにも今日のはやては公休なのでその限りではない。

ついでに言えば、彼女の家族である守護騎士たちは今日も普通に出勤なので、この家にははやてしかいない。

 

 

「……もっかい寝よ」

 

 

そう言ってはやては再び枕に顔を埋める。いつもなら休みの日でも炊事なり洗濯なりの家事に勤しむ彼女だが、あいにく彼女が24時間勤務を終えて帰ってきたのは明け方の5時頃……睡眠欲が勝るのも仕方ないだろう。

 

 

ということで…はやては再びまどろみに身を任せて、夢の世界へと旅立つ──

 

 

 

 

 

「いつまで寝てんだチビダヌキィィィィ!!」

 

 

「ひゃあァァァァァア!!?」

 

 

 

 

 

──ことは出来なかった。

 

 

突如として寝室のふすまを蹴破って襲来してきた1人のオッサン。それに驚いて布団から飛び起きたはやては、その襲来したオッサンの姿を見て、目を見開いて叫んだ。

 

 

「ま…松平のおっちゃん!?」

 

 

そのオッサンの名は『松平片栗虎』。ヤクザのような風貌ながら、幕府の治安組織を束ねる警察庁長官に就く男である。要するに、真選組に所属することになったはやての上官にあたる。

 

 

八神(タヌキ)、立てコノヤロー。仕事の時間だ」

 

 

「は? いや、仕事って…私今日は休みなんやけど」

 

 

「バカヤロー、警察に休みなんてねーんだよ。たとえ休みの日だろーが、オジさんが仕事だって言ったら仕事なんだよ」

 

 

「なんやそれェ!? いくらなんでも横暴すぎるやろ!」

 

 

「横暴じゃねーよ。ゲンヤの奴にだってなァお前のことは馬車馬──じゃねーや……馬車狸のように働かせてやってくれって言われてんだよ」

 

 

「なんで言い直したん? そのまま馬に乗って行ったらよかったやん? なんでわざわざ狸に乗り換えたん?」

 

 

──つーかあのオッサン何余計なこと言うとんねん!!

 

 

松平の発言にツッコミを入れつつ、内心では自分の師匠にも当たる上官に怒りを燃やすという器用なことをやってのけるはやて。

 

 

「わかったらさっさと支度しやがれ。3秒以内だ、じゃねーと(ドタマ)ブチ抜く」

 

 

そう言いながら何故か懐から取り出した拳銃を、はやてへと向ける松平。

 

 

「ハイ、いーち」

 

 

──ドォン!!

 

 

「2と3はァァァ!!?」

 

 

3秒と宣告しておきながら、松平はわずか1秒で発砲した。はやてはそれを素早く身を翻して躱しながらツッコミを入れる。

 

 

「知らねーなそんな数字。男はなァ、1だけ覚えときゃ生きていけるんだよ」

 

 

「前から思っとったけど、あんたホンマに警察のトップか!? ただのテロリストやろ!!」

 

 

あまりの理不尽さに、顔に青筋を浮かべて力の限りツッコミを入れながら怒鳴るはやて。しかし松平はまったく意に介さずに言葉を続けた。

 

 

「いいからさっさと支度しろってんだよ。もうすでに近藤たちも動いてんだからなァ」

 

 

「! 近藤さんが……?」

 

 

「あとはトシと総悟、それからお前んトコの赤いお嬢ちゃんもな」

 

 

「ヴィータまで!?」

 

 

赤いお嬢ちゃんとは、間違いなくヴィータのことだろう。だが自分とヴィータに加えて真選組のトップ3まで動かすとは一体何事だろうかと、はやては疑問を覚える。

するとそんなはやての疑問を感じ取ったのか……松平は口に咥えているタバコから紫煙を吐きながら、静かに彼女に告げた。

 

 

「奴が──動き出した」

 

 

「!!」

 

 

それを聞いて、はやては大きく目を見開いた。

『奴』と聞いた瞬間、ある男の顔が浮かんだのだ。先日…ミッドチルダ司法の最高拘置施設から脱獄し、彼女たちが真選組に出向する理由となった……はやてにとっても、この江戸に住む親友にとっても、因縁のある男の顔が。

 

 

「……それはホンマですか?」

 

 

「間違いねェ。俺が張らせていた密偵(いぬ)が掴んだ情報だ。奴もしばらくは大人しくナリを潜めていたようだが、とうとう我慢できずに動き出しやがった。俺ァ後手に回るつもりはねェ、幕府(うえ)の連中がガタガタ言うなら腹切る覚悟だ……」

 

 

「おっちゃん……」

 

 

真剣な表情でそう語る松平の顔は、先ほどまでのふざけた態度など微塵も感じさせず、まさに警察のトップに立つに相応しい男の顔をしていた。

 

 

「決戦だ──奴も、奴の企ても全て潰す」

 

 

そしてそんな覚悟を決めた男の顔を見ては負けていられないと、はやても覚悟を決めた。ゆっくりと布団から立ち上がり、松平に敬礼しながら告げる。

 

 

「なら私も……自分の魔導の全てを持って戦う所存です」

 

 

「フン。だったらすぐに支度しやがれ、時間は待っちゃくれねェぞ」

 

 

「わかってます。ただその前に1つ……頼みがあります」

 

 

「なんだ?」

 

 

そう言うとはやては、真っ直ぐとした視線で松平を見据えながら、静かに言い放った。

 

 

 

 

 

「──着替えたいから部屋から出てってくれへん?」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

場所は移って……江戸でも有数の大型テーマパーク『大江戸遊園地』。

 

 

そこでは1人のおかっぱ頭の少女が誰かと待ち合わせしているのか、出入口まで腕時計を見ながら佇んでいた。

 

 

「おー栗子、ワリィワリィ遅れちまって。待ったァ?」

 

 

そこへやって来たのは、耳だけでなく口や顎、鼻にまでピアス穴を開けてチャラチャラした男がやって来た。そんなチャラ男に対して、栗子と呼ばれた少女は嫌な顔も見せずに応じる。

 

 

「いえ、私も今来たところでございまする。全然待ってませんでございまする」

 

 

「あ、なんだよよかった~、実は電車がさァ~……」

 

 

そんな2人の様子を、離れた草場の影から見張っている集団があった。

 

 

「……野郎、ふざけやがって。栗子はなァ、てめーが来るのを1時間も待ってたんだよバカヤロー。どーしてくれんだ、俺が手塩にかけて育てた娘の人生を1時間も無駄にしてくれやがって。残りの人生全てで償ってもらおう。おいトシ! お前ちょっと土台に──ごぶるァァ!!」

 

 

「何しとんのやおのれはァァァァ!!」

 

 

そんな大シャウトのツッコミと共に、スナイパーライフルを構える松平の後頭部にドロップキックを炸裂させるはやて。

 

 

「ホンマ何やんねんマジで!! 奴ゆうてたんはアレかァ!! アンタの娘の彼氏かァァ!?」

 

 

「彼氏じゃねェェ! 認めねーよあんなチャラ男! パパは絶対認めねーよ!」

 

 

「やかましいわァァ!! 私もアンタが警察のトップなんて絶対認めへんからなァァ!!」

 

 

「はやて姐さん! 俺も土方さんが真選組副長なんて絶対認めねーよ!」

 

 

「俺もてめェが真選組なんて絶対認めねーけどな!!」

 

 

そんな激しい言い合いを繰り広げているのは彼らを招集した松平と、それによって集まったはやてと土方と沖田。そして他にも近藤とヴィータの姿もある。因みに流石に真選組の制服は目立つ為、彼らは全員着物や袴といった普段着姿である。

もちろんはやてとヴィータも町娘のような着物を着ており、それぞれのイメージカラーに沿った色合いをしている。

 

彼らが集められた理由、それは……松平の1人娘『松平栗子』とその彼氏であるチャラ男『七兵衛』とのデートの妨害の為だった。完全に松平の私情である。そんなことに巻き込まれたとなっては、はやてが憤慨するのも仕方ないだろう。

 

 

「あーもー、しょーもな。何でこんなことに私らが駆り出されなアカンねん。ちょっと前のシリアス返せっちゅーんや」

 

 

「八神の言う通りだ。こっちは仕事休んでまで来てやったってのに、娘のデートの邪魔するだァ? やってられねェ、帰る」

 

 

「オイ待て、俺がいつそんなこと頼んだ。俺はただ、あの男を抹殺してほしいだけだ」

 

 

「もっとできるか」

 

 

そう言って帰ろうとする土方だが、松平に止められてしまう。

 

 

「あんなチャラ男が栗子を幸せにできると思うか? いや俺だってなァ、娘の好きになった奴は認めてやりてーよ。悩んで…色々考えた…それで…抹殺しかねーなっていう結論に…」

 

 

「色々考えすぎだろ! マフィアかお前!」

 

 

「警察なんてほとんどマフィアみたいなモンだよ」

 

 

「長官がとんでもねーこと言ったよ」

 

 

「トシちゃん、私今日で真選組辞めるな。管理局に帰って捜査官としてマフィアを取り締まることにするわ」

 

 

「それになァ、娘の為なら仏にもマフィアにもなるのが父親ってもんよ」

 

 

「近藤さんよォ、この親バカになんとか言ってやってくれ」

 

 

「誰が近藤だ──殺し屋ゴリラ13(サーティーン)と呼べ」

 

 

土方は松平の暴走を止めてもらおうと近藤に声をかけるが、何故かその近藤もグラサンを装着し、スナイパーライフルを構えていた。

 

 

「何やってんのアンタ…13(サーティーン)ってなんだよ?」

 

 

「不吉の象徴、今年に入って13回女に振られた」

 

 

「それただの逆恨みや」

 

 

「オイとっつぁん、俺も手伝うぜ。栗子ちゃんは小さい頃から見知って、俺も妹のように思ってる。あんな男にやれん。俺は男のくせにチャラチャラ着飾った軟弱者が大嫌いなんだ。栗子ちゃんには俺みたいな質実剛健のような男が似合ってる気がする」

 

 

「いやアンタはどっちかと言うと尻毛剛毛(けつげごうもう)

 

 

「栗子ちゃんには俺みたいな豪放磊落(ごうほうらいらく)な男が似合ってる気がする」

 

 

「いやアンタはどっちかと言うと豪璃落(ゴリラ)

 

 

はやてがちょいちょいツッコミを入れるが、近藤は動じない。

 

 

「行くぞとっつぁん!」

 

 

「おっ…おい!!」

 

 

そのまま近藤と松平の2人は栗子と七兵衛を追って、遊園地の中へと駆けて行った。それを見送ったはやては、これはチャンスとばかりに笑顔を浮かべ、土方に言う。

 

 

「ほんならトシちゃん、あの2人のことは任せるから、私とヴィータは先帰ってるなぁ」

 

 

「ふざけんな八神! あのアホ共の暴走を俺1人で止めさせる気かよ!?」

 

 

「元々それがトシちゃんの役割みたいなもんやろ。ほらヴィータ、帰るよ~」

 

 

そう言って全てを土方に押し付けてヴィータと共に帰ろうとするはやて。しかし……

 

 

「ヴィータじゃねェ──殺し屋ロリータ13(サーティーン)だ」

 

 

そのヴィータも何故かグラサンをかけ、スナイパーライフルを手に持っていた。

 

 

「……何しとんのやヴィータまで。なんでアンタも13(サーティーン)?」

 

 

「不運の称号…今月に入って13回もアイス食べ過ぎてお腹壊した」

 

 

「それただの自業自得じゃねーか!!」

 

 

「この仕事終わったら松平のオヤジがバケツサイズのアイス買ってくれるっていうから」

 

 

「しかも反省してねーぞコイツ!!」

 

 

「ってわけでアタシも行ってきまーす」

 

 

「ヴィータァァ!! 待ちなさいコラァァァ!!」

 

 

そう言ってヴィータまで喜々として遊園地へと走って行ってしまう。そして身内が行ってしまったとなっては、はやてもこのまま帰るという選択肢を失ってしまった。

 

 

「アカン、こうなったら私らで止めにいかな……」

 

 

「オイ総悟、お前も行くぞ」

 

 

「誰が総悟でィ──俺は殺し屋ソウゴ13(サーティーン)

 

 

「おいィィィ!!」

 

 

「アンタもかいィィ!!」

 

 

「面白そうだから行ってきやーす」

 

 

沖田までもが好奇心に釣られて行ってしまい……結局、土方とはやての2人も殺し屋共を追いかけることになったのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

最初にやって来たのはメリーゴーランド。そこでは栗子と七兵衛が楽しそうに笑いながら白馬に乗っている。

そしてその後ろには、白馬に乗った殺し屋4人がスナイパーライフルを構えて乗っていた。

 

 

「野郎…やりやがるな、コレを選ぶたァ」

 

 

「馬が上下に動いて狙いが定まらねェ。なんか気持ち悪くなってきた」

 

 

「だらしねーぞゴリラ13。この程度の揺れで弱音を吐くんじゃ…ウエェェ」

 

 

「おめーも十分だらしねーよロリータ13」

 

 

「オイ、それよりいつになったらコレ、奴らに追いつけるんだ。距離が一向に縮まらねーぞ」

 

 

「縮まるわけあらへんやろ!! これメリーゴーランドやで!!」

 

 

「この土台ごと一緒に回ってんだよ! 永遠に回り続けてろバーカ!」

 

 

そんな殺し屋4人組に、白馬が引く馬車に隣同士で並んで座っている土方とはやてがツッコミを入れる。

 

 

「メリーとバント? なんだそれ? 遊園地なんて来たことねーからよくわかんねーよ。大人の遊園地は行ったことあるけどな」

 

 

「大人の遊園地? 近藤のオッサン、なんだそれ?」

 

 

「ヴィータちゃんは知らなくていいから」

 

 

「それより何で土方さんとはやて姐さんは並んで馬車に乗ってるんですかィ? シンデレラと王子様気取りですかィ? 俺からすりゃァ、シンデクレラと狸の魔女にしか見えねーでさァ」

 

 

「シンデクレラって何!? それただのお前の願望じゃねーか!!」

 

 

「狸の魔女ってなんや!? ぶっ飛ばしたろか魔法で!」

 

 

沖田の発言に対し、揃って怒鳴りながらツッコミを入れる土方とはやて。

 

 

「いいからよォ、早まった事すんじゃねーぞ。要はあの2人の仲引き裂けばいいんだろ? 他に方法はいくらでもあるだろ」

 

 

「何だよお前、仲間に入りてーのか? 殺し屋同盟に入りたいのか?」

 

 

「俺も八神もおめーらが血迷った事しねーか見張りにきたんだろーが!」

 

 

メリーゴーランドに続いてやって来たのは、回るコーヒーカップ。

 

 

「俺はあんたらみてーに外見だけであの男の人間性まで否定する気になれねーよ」

 

 

「せやせや。それにな、人間どんな相手と相性が合うかなんてわからへんモンや。銀ちゃんがいい例やで。人間性最悪やのにフェイトちゃんみたいな出来た子と相性抜群やねんから」

 

 

「それはたぶん人類にとって永遠の謎でさァ」

 

 

「いやいやあの男はどー見ても悪い男だろアレ! だって穴だらけだよ! 人間って元々穴だらけじゃん! そこに自ら穴を開ける意味がわからん!」

 

 

「そうだ! しかも元々穴が開いてる鼻にまで新しく穴作ってんだぜ! 何でわざわざ穴を増やす必要があるんだよ意味わかんねェ」

 

 

「お前らが言ってる意味もわかんねーよ」

 

 

「ああいう年頃の娘はねェ、ちょいと悪そうなカブキ者にコロッといっちまうもんでさァ。そいでちょいとヤケドして大人になってくんですよ」

 

 

「総悟君、アンタ年いくつ?」

 

 

「オイ、オジさんはこんなに悪そーな顔してるのにモテた(ためし)がねーんだけどどーしてくれんだ」

 

 

「アンタの場合はヤケドどころか全身80%が焼けただれそうだから」

 

 

「まァ、よくも悪くも愛だの恋だのは幻想ってことさ。あんたの娘はあの男にあらぬ幻想を抱いてるようだが、そいつが壊れりゃ夢から覚めるだろ。幸いここはうってつけだぜ」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

続いてやって来たのは、遊園地の定番中の定番とも言えるジェットコースター。

 

乗り気な栗子に対して、絶叫マシンが苦手な七兵衛は乗るのを渋り、栗子1人で乗って来いと言う。しかしそこに沖田が忍び寄り、背後から刀を突きつけて乗れと脅す。それによって顔を青くした七兵衛も栗子と共にジェットコースターに乗ることになった。

 

 

「よし、俺たちも行くぞ」

 

 

沖田の働きによって2人が揃ってジェットコースターに乗ることになったのを見届けた土方たちも、あとを追ってジェットコースターの列に並ぶ。しかし……

 

 

「あ、ごめんトシちゃん。私とヴィータはここで待ってるわ」

 

 

「あ? なんでだ?」

 

 

「いや…その……ヴィータが身長制限に引っ掛かってしもうてなぁ……」

 

 

「…………」

 

 

申し訳なさそうな顔をするはやての隣には、ブスッと不機嫌そうな顔をしたヴィータ。ここのジェットコースターの身長制限は135cm、ヴィータの身長は131cm……ギリギリアウトである。

 

 

「そ…そうか……わかった……」

 

 

流石の土方も何も言えず、引きつった顔で了承するしかなかった。

そしてジェットコースターへと乗り込んでいく土方たちの背中を見送ると、はやては未だにブスッとしているヴィータに笑いかける。

 

 

「ほらヴィータ、いつまでもむくれてたらアカンよ?」

 

 

「……別にむくれてねーし。アタシは大人だからジェットコースター位乗れなくても平気だし。だいたいあんなもんに乗らなくても空飛べるし」

 

 

そう言いながらも顔は不満気で、ジェットコースターを恨めしそうに見ているヴィータに説得力はない。はやてはやれやれと息はつきながら、ヴィータに対して奥の手を使う。

 

 

「じゃあ、トシちゃんたちを待ってる間にソフトクリームでも食べにいこか?」

 

 

「マジで!?」

 

 

ソフトクリームと聞いた途端、アイス好きであるヴィータの顔がパッと明るさを取り戻す。そんな単純な彼女に、はやては苦笑しながらヴィータの手を引き、売店の方へと歩き出したのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

売店で買ったソフトクリームを食べながら土方たちを待つこと数分……ちょうどソフトクリームを食べ終わった頃に、土方たちが戻って来た──何故かぐったりした沖田を背負っており、近藤の姿が見えなかったが。

 

 

「おかえり~。総悟君どないしたん?」

 

 

「いや…ちょっと不慮の事故がな……」

 

 

「近藤のオッサンはどうしたんだよ?」

 

 

「…………聞くな」

 

 

呟くようにそう言った土方の顔には、何やら悲壮感が漂っていた。

 

 

ここで土方たちに何があったかはまた原作(べつ)の話。とりあえず、事の顛末を土方から聞いたはやては、先ほど食べたチョコレート味のソフトクリームを戻しそうになったという事だけ記しておく。

 

 

その後……一行は休憩も兼ねてベンチに座りながら2人を監視していた。

 

 

「なんてこった、まさかアレで引かねーなんて。我が娘ながら恐ろしい」

 

 

「いやホントに恐ろしいよ」

 

 

「お前このこと他人に言ったら殺すからな」

 

 

「とっつぁん、安心しな。アンタの娘は漏らしてなんかいねーよ。見ろ、野郎は着替えたってのにアンタの娘はそのままだ」

 

 

「ケツに挟めたまま歩いてんじゃねーのか?」

 

 

「んなワケねーだろ! オメー娘がかわいくないのか!?」

 

 

娘に対して失礼なことを言う松平に土方がツッコむ。そしてそんな土方の言わんとすることを代弁するように、はやてが口を開く。

 

 

「おっちゃん、栗子ちゃんは彼氏を傷つけへん為にあんなウソついたんやで」

 

 

「何?」

 

 

「はやてちゃん、それはアレか、栗子ちゃんは脱糞なんかじゃ全然引いてないと……君はトシから俺が脱糞した話を聞いてドン引きしていたのに、栗子ちゃんはそんな汚い部分も含めて奴を包み込んでいると…そーゆーことか?」

 

 

「近藤さん、俺も引いてやすぜ」

 

 

「アタシもだ。しばらく近寄んなよテメー」

 

 

はやての言葉を聞いて、大江戸遊園地のロゴが入ったTシャツ姿に着替えた近藤がそう言う。

 

 

「待ち合わせで1時間待ちぼうけをくらっても笑ってたことといい、こいつァ本気で……」

 

 

「とっつぁん! アレ見ろィ!!」

 

 

土方が言いかけたその時、それを遮って沖田が栗子たちの方を差しながら叫ぶ。見ると、栗子と七兵衛の2人は観覧車の方へと向かって歩き始めていた。

 

 

「ヤベー、観覧車に向かってますぜ。間違いねェ、チューするつもりだ」

 

 

「何!? そうなのか!?」

 

 

「観覧車っつったらチューでしょ、チューする為に作られたんですよあらァ」

 

 

「そういやァ、前テレビでやってた恋愛ドラマでカップルが観覧車でめっちゃチューしてたな」

 

 

「そうなの!? 知らなかった! 栗子ちゃんが危ない! こうしちゃいられねェ!! 四の五の考えるのは後だ!! 行くぞ!!」

 

 

そう言って近藤たち殺し屋4人は、2人のチューを阻止すべく血相を変えて走り出していった。ベンチに残ったのは土方とはやての2人。

 

 

「ハァァァ……なぁトシちゃん。栗子ちゃんはあの彼氏のこと…本気で好きなんやろなぁ」

 

 

「…………」

 

 

すると、はやてが重い溜息を吐き出しながらそう言う。土方は、タバコを咥えたまま答えない。

 

 

「本気で愛し合ってる2人を引き裂こうなんて…たとえ父親でも許されることやないと思うんよ」

 

 

「……クク、そうだな」

 

 

はやての言葉に同意し、土方は紫煙を吹きながら小さく笑う。そしてゆっくりと腰かけていたベンチから立ち上がる。

 

 

「なら俺たちで守りに行くか──愛ってやつを」

 

 

「……せやな!」

 

 

それに続いてはやても立ち上がり、2人は動き始めたのだった。

 

 

小さく芽吹いた愛を守るために……

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃……観覧車のゴンドラの1つ。その中では、栗子と七兵衛が向かい合って座っていた。

 

 

「しかし栗子、お前スゲーな。普通引くぜ、彼氏が脱糞したら。俺もう終わったと思ったもん」

 

 

「ウフフ、私はそれ位で七兵衛様を嫌いになったりしませんでございまする。それに七兵衛様だって、私が漏らしても引かなかったじゃありませんか」

 

 

「え~、だってお前それは……」

 

 

「それは? なんでござりまするか」

 

 

「それは…だから…お前のことが、あの…す…」

 

 

「す?」

 

 

「す……すっ……」

 

 

チャラい見た目に反して奥手なのか、頬を染めながら二の句を告げずにいる七兵衛。栗子も頬を赤くしながら、七兵衛の言葉の続きを静かに待った。

 

 

だがその時──2人のそんな雰囲気をぶち壊すように、1機の黒いヘリコプターがゴンドラの外に襲来した。

 

 

「きゃあああああ!」

 

 

「なっ…なんじゃありゃああ!!」

 

 

そしてそのヘリコプターの中には、グラサンをかけた4人の殺し屋の姿があった。

 

 

「「「「殺し屋侍13(サーティーン)──お命ちょうだいする」」」」

 

 

そう言ってゴンドラに乗る2人(というか七兵衛)に向かってスナイパーライフルを構える殺し屋4人。

 

 

「はァ!? 何ムチャクチャな事…」

 

 

「きゃああ! 誰か助けっ……!!」

 

 

助けを求めて叫ぼうとしたその時……栗子は気づいた。

 

 

隣のゴンドラの屋根の上に……2人の人影があることに。

 

 

「あれは…!」

 

 

「なっ!?」

 

 

それに気がついた近藤とヴィータが、大声のその人物の名を叫ぶ。

 

 

「トシィ!!」

「はやてェ!!」

 

 

「トシィ? はやてェ? 誰だそれは」

 

 

しかしその叫びを否定し、2人は名乗る。

 

 

「俺たちは愛の戦士──マヨラ13(サーティーン)と」

 

 

「タヌキ13(サーティーン)や」

 

 

グラサンを装着した土方とはやて……否、マヨラ13とタヌキ13はバズーカ砲を構える。

 

 

「人の恋路を邪魔するバカは……」

 

 

「馬に蹴られて……」

 

 

「「消え去れ」」

 

 

そう言い放つと同時に、2人はバズーカの砲撃を放つ。

 

 

「うおっ! プロペラが…!!」

 

 

「「「「あああああ!」」」」

 

 

そしてそれは見事にヘリコプターのプロペラに命中し、4人の殺し屋を乗せたヘリコプターは下の湖へと墜落していった。

 

 

「これで、恋の障害は排除されたで」

 

 

「2人いつまでも仲良くやりな。じゃあな」

 

 

仕事を終えた2人は、そう言い残してその場から去ろうと背を向ける。

 

 

1人の乙女として恋路を守ったはやては、満足そうに笑う。そして愛だの恋だのは幻想だと思っていた土方も、惚れたはれたも悪くないのかもしれないと思い始めていた。

 

 

「待ってくださいませ! マヨラ13様!」

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

「あのォもうこんな脱糞ヤローとは別れるでございますから、マヨラ13様もそのタヌキ女と別れて私と付き合ってもらえないでござりまするか!!」

 

 

 

 

 

それを聞いた途端、土方とはやて(ついでに七兵衛)はズッコケて湖の中へと落ちていったのであった。

 

 

 

 

 

結局……愛なんてモノは儚く、幻想のようなものなのかもしれない。




誤解のないように言っておきます。

土方×はやてではありません。今後も2人が絡む事は多いかもしれませんが、今のところ一切そういうことは考えていません。

そもそも作者は土ミツ派なので。運命(ストーリー)を捻じ曲げてでもミツバを生存させようかどうか、ガチの検討中です。

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