きゃすたー・おぶ・じ・あるとりあ   作:ヤトラ

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 やっとこさ後編しました(汗)
 なんかさ、私的並行世界ブリテンの王道を考えて書きたかっただけなのに、ぜんぜん纏まらなかったんです……。まぁザックリとしかFate知識+アーサー王伝説を知ろうとしなかったから、こうなったんですが(汗)
 こんな雑なFate小説でも楽しんでもらえれば幸いです。

 余談ですが、前編のオマケにチラリと書いただけなのに、感想で凄い言われました。

 神祖様やべぇ。


せーはいもんどー・いん・ばーさーかー(こうへん)

「次は貴様の番か。……ファラオ・ニトクリスよ、貴様はそれで構わんか?」

 

 織田信長の問答は終わり、次は自分が問答をすると言い出した勇猛王モードレッドだが、イスカンダルは珍しく順序の確認をニトクリスに取る。

 ニトクリスは堂々と佇む紅いスーツ姿のモードレッドを難しい顔で見る。見るだけですぐには口に出さず、少し考えてからイスカンダルに答える。

 

「ファラオである私を出し抜くとは不敬ですが……私はまだ整理ができていません。先は譲るとしましょう」

 

 心の整理が出来ていないというのは本当だ。決してシリアスな信長に圧されたり怒鳴ったイスカンダルにビビったりして後れを取ったということはない。断じてない。

 頭の耳っぽいモノがピンとしているのを見ていた勇モー王だったが、気にしないで行こうと視線を戻し、盃の酒を呷る。イスカンダルから見ても良い飲みっぷりだった。

 

「俺の王道を語る前に、2人に伝えておく。これは俺の……俺と父上(キャストリア)の居た並行世界の祖国の話だ」

 

 勇猛王に酔う気配はなく、静かに語り出す。

 

 王として完璧であろうとした騎士王アーサー・ペンドラゴンが、痩せこけた親子を見たのを切欠に人を意識するようになった事。

 それが原因で精神的に弱くなった騎士王は円卓の騎士との亀裂やブリテンの崩壊に気づき、モードレッドに心の弱さを明かし、後継者として剣を託した後に王の立場から逃げ出した事。

 そうした事で、騎士王は魔術師として民を救い、モードレッドは騎士王の後継者として円卓の騎士を鉄拳制裁で正し、国は滅べど国を覚えし多くの人々が生き残った事。

 

「随分とメンタル激弱な騎士王もおったものじゃのぉ」

 

 並行世界のブリテンの経緯を聞いた後、くっちゃくっちゃとテリヤキを頬張りながらノッブが一言。寝転んでいるし完全にぐだぐだモードである。

 

「しかし無理もないかと……ブリテンは土地が枯れ果て蛮族という敵もいる為、かなり過酷な環境だったと聞きました。心が折れてしまっても無理からぬ事ですよ」

 

 ニトクリスはファラオとしては人寄りの感情と感性を抱いている為、ブリテンの過酷さを考えれば王が精神的に弱っていても仕方ないと言う。これがオジマンディアスなら一喝するだろうが、まぁ彼は英雄王並に偉大な王だから……この場に彼は居ないし、少しぐらいニトクリスとしての地が出てもいいだろう。

 

「まぁ、信長の言う事もニトクリスの言う事も否定はできない。どの世界のブリテンも厳しいには違いないが、切欠さえあれば、人は驚くほど変わっちまうものさ……並行世界(こっち)の父上は元から弱気だったみたいだが」

 

 再び杯に注いだ酒を飲み干した勇猛王モードレッドは苦笑いを浮かべる。どの世界のブリテンも厳しかったには違いないのでアルトリアの精神への負担は大きかったろうが、勇猛王の世界のアルトリアは特に弱気だったらしい。

 だからといって他のアルトリアより弱気なだけなら、義姉に造られしホムンクルスたる自分に打ち明け、王の座から逃げる事は無かったろう―――民を間近で見たことも含めて「変わった切欠」なのだ。

 キャストリアの暗さを自らの目で見たイスカンダルは、あの暗さが本質でもあり経緯の結果でもあることを理解した故に、どことなく難しそうな顔だ。剛毅・豪快を征く王様イスカンダルには腑に落ちないらしい。

 

「ううむ……確かに大きな変化ではあるな。然らば勇猛王よ、国を捨て人を生かした騎士王の後継者よ……貴様の王道とは?」

 

 酒をグビリと飲んでから、イスカンダルは勇猛王に問い掛ける。勇猛王は暫し瞑想のように目を閉じ静まった後、杯の酒を飲み干して目を開く―――その視界の先は、誰の姿も映らぬ虚空。

 

「―――人だ」

 

 勇猛王の静かな答えに、信長とニトクリスは「何を言っているんだ」と言っているように首を傾げる。イスカンダルだけは、腕を組んだまま黙っている。

 

「王も人だ。騎士も人だ。民も人だ。そして国は人が集まる場所だ―――俺と父上(キャストリア)は、そんな当たり前の事ですら解っていなかった」

 

 空になった杯を憂いを帯びた目で見つめるモードレッド。そこへイスカンダルが割り込んで、黙ってモードレッドの杯に酒を注ぐ。モードレッドはイスカンダルに会釈してから、注がれた酒を一口だけ含んで喉に流す。

 

「俺と父上(キャストリア)は、1人では王として成り立てなかった。父上の後継者となった俺は、円卓の騎士を罰し、蛮族をぶっ飛ばす事しかできなかった。俺に出来なかった事を父上が陰でやってくれて、父上はホムンクルスとしての俺を生き永らえさせてくれた」

 

「つまり貴様の王道は、キャストリアあってこその王道だとでも?」

 

「その通りだ征服王。父上と俺は、王と騎士としてではなく、人同士として解り合えた。だから今の俺がいるし、今の父上がいる」

 

 勇猛王としてのモードレッドは、キャストリアが胸の内に秘めていた想いを明かし、それを共感できたからこそ王として近づけた。

 魔術師としてのアルトリアは、モードレッドと分かち合い解り合えたからこそ彼女に王の座を託し、ブリテンの未来を共に築こうと陰ながら応援してきた。

 1人背負うには重すぎた荷を2人で分かち合い、多くの人を救える未来を歩んできた。それこそ、祖国の救済を捨ててでも。その罪と罰ですら2人で分かち合った。

 

「征服王、信長、ニトクリス……俺()の王道はお前らのように、1人で背負いきれるような立派な物じゃねぇ……俺と父上は王ではあるが、同時に人でしかなかったからな」

 

 だからこそ自分の想いを……他の王と比べられるような王道ではないのだと、聖杯問答(このば)で伝えたかった。

 

 征服王は根っからの英雄資質故に、多くの臣下を引き入れ最果ての海を目指した。

 

 第六天魔王は最新技術を日ノ本に齎した天下人故に、日ノ本の明日を強引に切り開いた。

 

 エジプトの女王は現人神としての誇りを宿す身故に、今もなお偉大なるファラオを見習っている。

 

 3人の王には多くを背負う器があった。モードレッドとキャストリア(2人の王)にはそれが無かった―――自分達は、ちっぽけな人間(・・)だと気づいたから。

 救うべき民と変わらぬ人間だから、騎士王は「完璧な王」を目指す事が出来なくなった。例えホムンクルスだとしても、騎士王と想いを打ち明けたモードレッドは、同じ人間なのだと気付かされた。

 

 

―――だからこそ願った。人に救いを。少しでも多くの民を救える道を。

 

 

「俺達の王道は民を、騎士を、そして俺と父上を救う為の道―――全てを救いし理想郷(アヴァロン)への道だ。そう思っている」

 

 それは、逃げ続けたキャストリアと父への怒りで盲目だったモードレッドが唯一、お互いに抱き続けてきた夢。

 人を救い未来へ生かす理想郷。国を捨ててでも生き抜いて欲しいと願い続ける事。無理難題だと解っていても抱き続けてきた夢―――それが全てを救いし理想郷(アヴァロン)

 その夢を笑う事は許されない。その夢を諦める事は許さない。それが例え父上でも。それが例え自分でも。

 

「はっ、随分と壮大な夢じゃのぉ」

 

 鼻で笑う信長を殺意を込めた眼で睨むモードレッド。狂化の兆しか彼女の眼が赤く染まるが、信長は平然と笑いを漏らしている。

 しかし声は笑っているが目は笑っていない。笑いが止まると信長は「どっこいショウイチ」と起き上がって胡坐を掻く。

 

「全てを救いし理想郷、と書いてアヴァロンとな。それは聖杯への願いと直結しとるのか?」

 

 信長のモードレッドを見る視線は鋭い。品定めするような、そんな目つきだった。イスカンダルもニトクリスも、自然とモードレッドを見やる。

 聖杯は万能ではない。その理想郷を願おう物なら、過程をすっ飛ばしてどんなことが起こるか想像もつかない。

 

 そんな信長と視線を交わしていたモードレッドは、紅い眼を静かに閉じ……いつもの眼に戻して口を開く。

 

「まさか。理想郷は自分達で築いてこそ理想郷だ。しかも死ぬ間際に、その一歩を踏み出せたって自負できたからな。後悔なんてないさ」

 

「……では勇猛王、貴女の聖杯への願いは?」

 

「もう叶ったよ」

 

 疑問に思ったニトクリスの答えにモードレッドは笑って答えた。先程の真剣な眼差しが噓のように軽い。

 

「ほぉ? では貴様の聖杯の願いはなんだ?」

 

父上(キャストリア)に、キツ~い一発をお見舞いしてやることさ」

 

 イスカンダルに、ギュッと握りしめた拳を突き出す。その正拳突きの速さ足るや、風圧が生じたほどだ。

 拳から生じる風圧を顔面に感じ取ったイスカンダルは目を見開くが、直後には白い歯を剥き出しにして笑い出す。

 

「ぬはははは! 王道を築いた貢献者たる、己の父を殴ってやったというか!」

 

「俺に黙って逃げた罪だけは絶対に許せなかった、それだけだ」

 

 豪快に笑う征服王を横目に、両の拳をぶつけ合って怒りを露わにする勇猛王。拳同士の衝撃波でニトクリスちょっとビビる。

 

「確かに貴様ら2人は弱かったろうが、それで救える命があったのなら良し! 迷いのない良い目をしておるわ」

 

「感謝する征服王」

 

 そう言って、征服王と勇猛王は互いの拳をコツンとぶつけ合う。信長もニトクリスも置いてけぼりだが、自然と微笑みを浮かべていた。

 

「さて次に「待った征服王」……なんだなんだ勇猛王よ」

 

「そうですよ勇猛王! 次は私の番だというのに割り込まないでください! 不敬ですよ不敬!」

 

「ニトクリス……お前まだ悩んでるだろ?」

 

「うぐっ……」

 

 唐突に割り込んできたモードレッドの一言に、ニトクリスは気まずそうに後退る。彼女は未だに、己の王道をどのように誇らしく語るか悩んでいたのだ。

 どう言い返すか悩むニトクリスを他所に、モードレッドはイスカンダルの傍に―正確にはイスカンダルの脇に置かれた樽―に座り込む。

 

「なぁ征服王、俺達の居たブリテンではな……酒は偉大なんだよ」

 

「……ぬ?」

 

 バンと酒樽を叩くモードレッドを見たイスカンダルは、嫌な予感を感じたのか眉間に皺を寄せる。

 

「『酒は王を人に変える』って言葉が俺達のブリテンにはあってな、酒を飲めば皆平等になって気持ちを露わにできるんだよ。悩みも苦労も、みーんな吐き出しちまう。だから……」

 

 ニヤリと笑うモードレッドを見てイスカンダルは確信した。彼女が起こす行動を……そしてその予感は的中することを……!

 

―ごっごっごっごっごっごっ……!

 

「ぬあぁぁぁ余の酒がぁぁぁ!」

 

「いやお主の酒じゃねーし」

 

 絶叫するイスカンダル、冷静に突っ込む信長、目を丸くして唖然としているニトクリス。

 モードレッドは、イスカンダルが抱えなければ運べない程に大きな酒樽を持ち上げ、流れ出る酒を次々と飲み干していく!

 人間としてはありえない程の酒を飲んだ後、酒樽を轟音と共に床に置き、「ぶっはぁー!」と酒臭い息を盛大に吐き出す。その盛大さたるや竜の息吹の如く。

 

「そらお前も飲め飲め! 酔って素面になれ! 色々なもん吐き出せ吐き出せ!」

 

「んぶぉーっ!?」

 

 まだ酒樽に残っている酒を杯に注いですぐさま無理やり開いたニトクリスの口に流し込む勇猛王、いや横暴王!アルコール度数は割と高いぞ!

 

「ええい、余にも寄越さんか!」

 

「おー、飲め飲め! ニトクリスの為に飲め! そしてニトクリスの苦悩を聞いてやれ!」

 

「ふきぇいでふよ、ゆーもーおー! ふきぇーーーい! もっとよこしぇー!」

 

「なんじゃこのぐだぐだっぷり」

 

 残り少ない酒を逃してなるものかとイスカンダルもモードレッドとニトクリスの酒飲みに混ざろうと必死になる。ぐだぐだに定評のあるノッブですら、そんな3人の様子を見てぐだぐだであると認識してしまう程。

 

 

 

 

 後日、ニトクリスは暫くの間、アサシン仕様のメシェド様フードを被って過ごしたという。マスター兄妹ことぐだーずが聞いても「ナニモ キクナ」の一点張り。事情を知っているらしいオジマンディアスに聞くと「悪くない問答だった」と笑って答えたそうな。

 さらに酔っぱらって通常の三倍の横暴さを用いて厨房に殴り込み酒という酒を略奪しようとした勇猛王・征服王をジャンヌ・マルタ・四郎のルーラートリオによって取り押さえられ、2人の王に禁酒一週間の判決を下したとか。

 

 

 

 ちなみに此度の聖杯問答の勝者は、被害も無く立派に問答したノッブであったとさ―――藤丸立香

 

 

 

―終―




 勇猛王モードレッドとキャストリアは酒を飲ますとすんごいんです。

~おまけ1「もしアルトリアズが聞き耳を立てていたら」~

マシュ「た、大変です先輩! 廊下でアルトリアの皆さんが死んだ魚のような目をして並んでます!」

術アル「マシュさん、そっとしておいてあげてください……しかし立派になりましたねモードレッド……(ホロリ」

立香「……!」

立夏「うわわ、なんかビクンビクンしてる! これヤバい奴だよ絶対!」


~おまけ2「ごじつだん・しゅごうおう」~

せーふく王「しかしアレだな、貴様かなりの酒飲みだのぉ」

勇モー王「俺なんかより父上(キャストリア)の方がすげーぞ」

せーふく王「……聞き間違いと思ったが、本当なのか? あれほど飲んだ貴様以上にキャストリアは飲むと?」

勇モー王「すげーぞ(ブルブルブルブル」

せーふく王「ど、どうした勇猛王!? 顔を真っ青にして何を思い出しとるのだ!」

勇モー王「すげーぞ(ガタガタガタガタ」

せーふく王「誰か! 誰かおらぬか!? 具体的にはデバフを解除できる奴を呼んでくれ!」

 本編がぐだぐだになってもおまけはしっかりと書きたいというね(ぇ)
 次回はもう書きたくて書きたくて仕方ない、なんちゃってデットヒートサマーレース一発物。ゲームやってないのでチーム結成する話とマシン紹介のみの予定。

 次回、水着キャストリア(妄想)をお楽しみに!(自分でハードモードにしちゃう)

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